第46話 時を超えた!
「見ろ、アリスター!」
ジャックが、セイラ姫の縛られていた椅子の後ろを指差した。
「たった今、壁に門が出現したぞ」
「何!?」
見ると、壁にちょうど大人が立ってくぐれるくらいの高さの門が出現していた。
「そうか。これが時の門だな。僕たちのミッションは、7つの時の門を開いて7つの紋章を入手することだ。まず1つ目の門を開けたぞ」
「どうする、くぐるか?」
「うん。あ、でもやっぱり、情報屋から何か情報を仕入れてからにしよう」
僕がそう言うと、
「買う?」
ひょっこりと、ドングリおじさん(ボッタクリ妖精)が現れた。
「おっと情報屋さん、さすが神出鬼没だね。さっきの情報のおかげで、何とかジャンボクラブを倒せたよ」
「見事だったね。あれでボーナスポイントが5000入ったよ」
「やった! で、ボスを攻略したら時の門が開いたんだけど、くぐったほうがいい? それとも武器屋さんに会って、武器や防具を揃えるのが先かな?」
「武器もいいが、ここをくぐって無事に還ってくるには、絶対に知らなくてはいけない情報がある」
「じゃあ教えて!」
「ぴったり5000ptだが、いいか?」
またか、と思った。絶対に買わなくてはいけない情報を売るとき、このボッタクリ妖精は、必ず所持金のギリギリを吹っかけてくるのだ。
「もう少し負けてよ。じゃなかったら、いつまで経っても武器を買えない」
「買うか買わないかのどっちかしかないよ。買わないんだったら消えるけど、どうする?」
「わかったよ! その情報を売ってくれ!」
「まいどあり〜」
僕は肩を震わせて、思いっきり情報屋を睨んだ。
しかし情報屋は、僕の怒り表現なぞどこ吹く風で、空中に文字を浮き上がらせた。
[しょうじき むら の いきもの は みんな しょうじき うそつき むら の いきもの は みんな うそつき それ いがいの いきもの は ときどき うそつき]
「正直村の生き物はみんな正直、嘘つき村の生き物はみんな嘘つき、それ以外の生き物は時々嘘つき、か。え? それだけ?」
「そうさ。ほんじゃ、無事に紋章をゲットして門から還って来いよ。またね!」
情報屋はかき消えた。せっかく手に入れたボーナスポイントと一緒に。
「くそお。こんな情報だけで先に進むのか。でももう、ここをくぐるしかないな。見たところ、この井戸から脱出できそうな穴もないし」
「そうよ。迷ってないで行きましょう」
セイラ姫がそう言って、時の門に近づいた。そのとたん、
「キャー!!」
門からニュッと巨大な触手が伸び、セイラに巻きついて中に引きずり込んだ。
「あっ! セイラがさらわれた!」
急いで門に飛びついて向こう側を覗いた。が、真っ黒な空間が広がっているばかりで、もはや触手もセイラも見えなかった。
「行くぞ、飛び込もう!」
僕はピヨちゃんを懐に入れ、ジャックはラブちゃんを抱き、青鬼はチビ鬼を背負い直して、時の門に飛び込んだ。
とーー
ギュイーンという音が響き、まばゆい光があたりを包んで何も見えなくなった。
(たぶん僕らは今、時を超えているのだ。時の門だけに。果たして辿り着くのは、未来か過去か?)
やがて光が弱くなり、ゆっくりと風景が見えるようになった。
「……これはきっと、過去だな」
僕らがいたのは、鬱蒼と木の繁るジャングルで、そのシダ植物の多さから、いかにも太古という感じを受けた。
「恐竜でも出そうだな。セイラをつかまえたのも、きっと恐竜並みにデカいモンスターだろう」
僕はセイラの無事を信じていた。さっきのジャンボクラブと一緒で、やつらはセイラを殺すことはせず、僕たちがボス戦に突入するのを待っているのに違いないと思った。
「どっちに進む、アリスター? セイラの手がかりは何もないが」
心配顔のジャックに、
「まずはキノコをゲットして、通常の大きさに戻ろう。僕たちはみんな半サイズだから」
と言って、木の幹を蹴って歩いた。するとニョキッとキノコが生えて、僕は無事に元の大きさに戻れた。
「時代は遡っても、そのシステムは変わらないんだな」
と言いながら、ジャックが木の幹を蹴ったときだった。
ズポッ。
蹴ったところが割れて、ジャックの足が木の中に入った。
「痛っ! この木、中が空洞だった」
僕は木のウロを覗いた。すると、
「いらっしゃい」
中に、松ぼっくりそっくりの顔をした、おじさん妖精がいた。
「あなたは?」
「僕は武器屋さ。何を買う?」
偶然武器屋に会えた。しかし僕らの所持しているのは、たったの200ptしかなかった。
「武器屋さん、200ptで買える物ってある?」
「皮の防具が50pt、木のヤリが100pt、チャンバラブレードが150pt、ピコピコ銃が200ptだよ」
「あ、情報屋さんが、ピコピコ銃とチャンバラブレードがお薦めだって言ってたな。よし、ピコピコ銃を1挺買おう」
「まいどあり〜」
これできれいに所持金は0となった。
僕はピコピコ銃を手にして、ちょっとホッとした。ジャックには【ファイヤボール】があり、青鬼には金棒があったが、僕には攻撃手段が何もなかったから。
その後、ジャックと鬼がキノコをゲットして元の大きさに戻ったとき、僕はなんとなく、木に向かってピコピコ銃を撃ってみた。
ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ……ダン!
連射していると、破裂音がして、木に穴が開いた。
「あ、また空洞の木だ」
近寄って中を覗くと、黒い箱があった。
「もしかして、隠しアイテムか?」
僕はちょっと興奮して、木のウロから箱を出した。
「何が出てくるかなー?」
ジャックと鬼が見守る中、そーっと箱を開くと、
「UGAAAAAAAAA!!!!」
まるで舌切りスズメのイジワルばあさんが開けたつづらみたいに、モンスターがうじゃうじゃ湧いて襲いかかってきた!




