第3話 陽キャとのバトル
陽キャのどこが悪いか。
それは、
・ただうるさいだけなのに、それを「面白い」と勘違いしているところ(陰キャのボソッと言う一言のほうが、そいつらの100倍面白い)。
・ただ流行をマネしているだけなのに、それを「カッコいい」と勘違いしているところ(流行に振り回されず我が道を行く陰キャのほうが、ずっと男らしい)。
・節操のない異性とくっついてるだけなのに、それを「モテる」と勘違いしているところ(陰キャはどれほど熱く恋心をたぎらせていても、決して無節操に告白したりしない)!
まだまだあるが、この辺でやめておく。要するに、陽キャは中身がカラッポのくせに、威張って陰キャを見下している。イジメてもいいと思っている。そんなやつらがのさばる世界を、僕はどうしても正しいとは思えなかった。
とは言え……
「なあ、どっかのパーティーに入りたいんだろ? 俺とここで逢ったのは縁じゃん。俺いちおう、光属性のSランクだぜ。魔物とかアンデッドなんて楽勝だから。俺と旅すれば心強いっしょ? なんならステータス見せようか?」
陽キャ野郎は自信たっぶりにグイグイ迫る。自慢というのはみっともない行為なのに、それを恥ずかしいと感じる心がない。初対面の女子にいきなりステータスを見せるだなんて、羞恥心を人一倍備えている陰キャにしてみれば、下着を見せるにも等しいハレンチ行為だった。
「もう一度言うよ。光のSランク」
ああ、恥ずかしい。世の中には、光の上位にくる聖属性だってあるし、SSランクだってある。もし自慢している相手がそうだったらどうする? それに、属性やランクがいかに上位でも、問題はその能力をどう使うかだ。
例えば、世界一の力持ちがいたとする。その人が、おばあさんの荷物を親切に運んであげればいいが、おばあさんを腕力でぶっとばして金を奪ったらどうか。それでも世界一だと自慢できるか?
逆に、僕みたいに非力でも、その気持ちがあればおばあさんを助けられる。つまり、問題はハートなのだ。
「へえー、Sランクなんだ。どうする、サラ。彼と旅する?」
下駄顔の女子が、いかにもついていきたそうな目つきをした。残念なことではあるが、女子というものはたいてい、男のハートを見抜けない。そいつはおばあさんを助けないけど、僕は助けますよと、声を大にして言ってやりたかった。
すると銀髪美少女のサラは、
「光なら間に合ってるからいいわ。私たちのグループには、聖属性が3人もいるから」
と、サラッと髪をかき上げて言った。おお、やっぱり彼女は性格がいい。薄っぺらい陽キャ野郎の軽薄なナンパに引っかからなかった!
僕は込み上げる笑いを抑えられなかった。ほれ見たことか。聖属性が3人もいたじゃないか。だから自慢をすれば、恥をかくのだよ、陽キャくん。
「あ? 何テメー、笑ってんだよ」
失意の陽キャが、目ざとく僕に気づいた。その視線は、女子に向けていたときとは全然違い、性格の悪さを露呈して陰険な光を放っていた。
(あれは、イジメる相手を見つけたときの目だ。かつてあの目に、何度繊細なハートを傷つけられたことか。どうして同じ人間なのに、理由もなく他人を見下して、痛めつけようとするのだろう)
陽キャ野郎が近づいてくる。バトルを吹っかけられる予感。が、もちろんそれに乗る訳にはいかない。なんてったって、僕にバトルの能力はないのだ。さて、いかにこの状況を【回避】するか。ああ、前の世界でそうだったように、理不尽にも結局は謝るしかないのか……
僕は近づいてくる相手をじっと見た。謝る言葉は出てこない。女子の前で、どうしてもこんなやつに謝りたくないという気持ちが勝り、【回避】のきっかけを失ってしまった。
「ダセー顔しやがって」
ツンツン頭を振って、陽キャが言った。
「テメーみたいなダセーのが、俺を笑うなんて許せねーんだよ。バトルやんのか?」
「よしなさいよ、やるなら外でやって」
下駄顔女子が言った。いや、それはイカン。外に出たら、野次馬に見られるだけで誰も助けちゃくれない。酒場の中でなら、用心棒が出てきてすぐに止めてくれるはずだ。
「よし、外に出ろ」
陽キャが腕をつかんで引っ張った。僕は腰を落として、懸命に引きずられまいとした。用心棒よ、早くこの状況に気づいてくれ!
「世話焼かせんじゃねーよ。こいつを食らえ」
陽キャが僕をつかんだまま、手をお腹に当ててきた。思わず「あちっ!」と言うくらい、その手は熱かった。
次の瞬間だった。
「うわあああああああああ!!!!」
僕は床にひっくり返り、バタバタと転げ回った。熱い! お腹の中を、火の玉が駆け巡っているようだ!
「フレアだよ」
冷酷な声が降ってくる。
「フレアをちっちゃく丸めて、テメーの腹にねじ込んでやった。超小型の核爆弾みたいなもんだ。Sランクともなれば、こんな芸当も朝メシ前なのさ」
陽キャの声は遠くから聴こえてくるようだった。
あまりの激痛に、意識が消えかかった。
ああ、このまま内臓が溶けて、ギルド酒場で短い生涯を終えるのだろうか……
と思ったとき。
「大丈夫?」
柔らかな手で、お腹をさすられていた。
「不意打ちでバトルをするなんてひどい人ね。でもヒーリングを使ったからもう大丈夫。私は聖属性のSSランクだから、フレアなんて楽勝。すぐに消えるからね」
目の前に優しく微笑むサラさんの顔があった。僕は思わず、声にならない声で「眼福、眼福」と呟いた。