第281話 クライマックス!!!!
「どうだい、人類は?」
オークの放った【スローモーション】により、時間がゆっくりと流れる中、カエルに化けた魔王は普通にしゃべった。
「お前も、俺と同じようにしゃべれるようにしてやろう。さあ、俺の質問に答えな」
「答えようにも」
口を開くと、まわりはほとんど動いてないのに、僕は通常の速さで話すことができた。
「質問の意味がわからない」
「つまりさ」
カエルは喉を鳴らして言う。
「こんな爆弾を開発して、同じ人間に対して使う人類のことを、どう思うかってこと」
僕はカエルを睨んだ。
「それはお前が、陰で操ったからだ」
「違う違う。俺は直接人間を操ったりしない。人間に、いろんな考えを吹き込んだりはするがね。その考えに従うかどうかは、そいつが決めることよ」
「そもそもどうして、悪い考えを人間に吹き込んだりするんだ?」
「面白いからさ」
カエルは即答した。
「お前も虫ケラを捕まえたら、一本ずつ脚を抜いて、もがき苦しむ様を見たり、水に溺れさせたりして、弱っていく様子を観察したりするだろ? どうしてそんなことをする? 面白いからだろ?」
僕は黙った。子どものころ、確かに残酷に虫を殺したことがあったからだ。
「虫よりも、ずっと人間は面白い。特に、お互いに憎んで殺し合いをするところがな」
カエルは笑った。
「虫同士の共食いは面白い。しかし、人間同士の殺し合いはもっと面白い。戦争は最高さ。俺はほとんど何もしちゃいない。ミサイルも、地雷も、毒ガスも、生物兵器も、考え出したのはすべて人間だ。面白いよな〜。俺がほんの少し欲望を刺激してやっただけで、核兵器まで造っちゃうんだから」
「もうやめろ!」
僕は声を荒らげた。
「これ以上人間のことに関わるな! お前の影響力さえなくなれば、人間は【幸福】になれるんだ!!」
「さあ、それはどうかな? いずれにせよ、俺は愉しみを途中でやめる気はない。人間の不幸を見るのは楽しいからなあ」
カエルの目が、ギラギラと光った。
「でもな、楽しんでるのは俺だけじゃないぜ。お前が幸せにしたいと思っている人間自身が、他人の不幸を楽しんでるのさ。例えば」
カエルが細い指を折って数えた。
「成功しているやつが失敗して転落すること。貧乏なやつがさらに貧乏になって追い詰められること。幸せそうな家庭が崩壊すること。不幸そうな家庭がもっと不幸になること。人間は、そういう他人を見て楽しみ、晴れ晴れとした気持ちになるんだ。戦争だけが残酷なんじゃない。他人の不幸という残酷ショーは、日々俺や人間たちを楽しませているのさ」
反論しようとして口を開きかけたが、言葉は出なかった。
魔王の言うことは、当たっている。
僕や仲間たちが命を捨てて救けようとしている人類には、確かにそういう一面がある。
他人の不幸、苦しみ、痛み。
それを喜んでしまう心。
ああ。
なんて残酷なんだろう。
でも、それが人間だ。
人間の一面の真実だ。
そして、そういう一面を持つ人類が、核兵器を造った。
どれだけ多くの人が、どれほど苦しんで死ぬのかを知りながら、である。
こんなことを喜ぶのは魔王だけ。
と、僕は思った。
だけど本当にそうか?
人間の中にも、愉しんでいるやつがいるんじゃないのか?
この究極の残酷ショーを。
僕は叫びそうになった。
ひどい。ひどすぎるじゃないか。
こんな世界のどこが【眼福】だ!!
他人の不幸を喜ぶ人類なんか救けてどうするんだ!!
と。
そう思った瞬間。
仲間の顔が目に飛び込んできた。
必死の形相で、ガルーダの背中にしがみついている、仲間たちのスローで動く顔ーー
セイラ。
ジャック。
オーガ。
ルイベ。
オーク。
彼らのいいところが、パーッと拡大されて視界いっぱいに広がった。
愛、友情、優しさ、親切、勇気、ユーモア、ぬくもり、根性、パワー、男気、女気……
それらはあまりにも美しく、あまりにも素晴らしくて、涙が湧き出て止まらないほどだった。
危ないところだった。
もう少しで、魔王に騙されるところだった。
そうだ。
人間はやっばり最高だ!!
それはもちろん、欠点はある。
残酷だったり、意地悪だったり、大量破壊兵器を造ったりする。
けど、人間にはそういうところがあるとわかっても、それでもなお、僕は人間を救いたかった。
人間の持つ欠点は、ちっぽけなものだ。
いいところと比べたら、霞んで見えなくなるくらいだ。
【眼福】が、改めてそれを教えてくれた。
仲間たちが、真実に気づかせてくれたのだ。
(人類は、【幸福】になるに値するーー)
そう。
これが答えだ!!!!
「おや?」
カエルが目を細くして、僕をねめつけた。
「お前、光ってるぞ」
みんながスローモーションの動きで、僕を見た。
僕も、自分の身体を見た。
なぜだか僕は、全身から白い光を放っていた。
「お前、SSSSSSSSランクになったな」
カエルの声には憎しみがこもっていた。
「フン。眼福マスターになりやがったか。つまらん。さっさと死ね!!!!」
その瞬間、周りの景色が上に飛んだ。
【スローモーション】が解けたのだ。
と同時に、大爆発が起きた。




