第274話 重大発表
僕の思いついた「いいこと」。それは、
「陛下、ぜひ影武者になって下さい!」
ということだ。
「なんで?」
グリアム王はポカンとした。
「余は本物だぞ。本物が、どうやって影武者になるの?」
「ですから、前に影武者と間違われたときのように、普通にしていて下さい。なんなら、地下壕にでもこもっていて下されば」
「意味がわからん。それでどうなるのだ?」
「恐れながら申し上げますが、閣下はアホであらせられます」
「それはさっき聞いた」
「戦争をやめるのは、始めることの何十倍も難しいとよく言われます。残念ながら、残念な陛下のオツムでは、国内外に終戦を認めさせるのは無理です」
「わー。ハッキリ言ったなー」
「しかし今は、一刻も早く終戦しなければなりません。我が国は、無条件降伏を求めるポッチャリ宣言を、『シカト』したと思われています。となると、次にシン国がとる行動は、禁断の新型爆弾を使用することです。このとてつもない破壊力を有する爆弾を落とされたら、王宮を含めた首都は焼失、死者はおそらく10万人を超えるでしょう」
「何とかせよ、アリスター」
グリアム王の額から、汗が流れた。
「お前に任せた。何でもいいから何とかしてくれ!」
「全部任せてくれますね?」
「頼む。余は爆弾が嫌いなのだ」
「わかりました。ではたった今からセイラが、陛下になります」
セイラが「えっ」と叫んだ。
「こんな重大な局面で私が? 無理無理」
「大丈夫。何をするかは、すべて僕が指示するから」
「……私、何をするの?」
「最高戦争指導会議のメンバーを集めて、ポッチャリ宣言を受諾せよと命令するんだ」
「えー? だけどまだ、シンミラ連合国からの回答待ちでしょ? 陛下を戦犯として処刑しないと約束するかって」
「回答を待っていたら遅い。戦争は今も継続中なんだ。グズグズしていたら新型爆弾を落とされる。陛下が死ぬか死なないか、それがハッキリしていない時点で、『余はどうなっても構わない。世界人類のために戦争を終わらせることを熱望する!!』と、全世界に向けて発信するんだ。残された方法はそれしかない」
「あのー、しもしも、じゃなかった、もしもし?」
グリアム王が、額の汗を拭って言った。
「戦争が終わったら、余はどうなるの? 死刑?」
「可能性はあります」
ごまかさずに、僕は答えた。
「これは賭けです。陛下が、ご自分の命はどうでもいいと言えば、シンやミラも『そこまで言うんなら、命まではとらないよ』と、態度を軟化させるかもしれません」
「いや、甘いな。シンはともかく、ミラは血も涙もない国家だぞ」
「でも一か八か賭けてみるしかありません。決断して下さい、陛下!!!」
「……わ、わかった」
グリアム王は、覚悟を決めたように頷いた。
「首都が燃えてしまったら、どうしようもない。耐えがたいことではあるが、降伏しよう」
「あ、あ、あ」
僕の胸に、万感の思いが込み上げた。
「あざーす!!!!!!!!!!」
無私の決断をなされた陛下に、ただただ頭を垂れるばかりだった。
「やはり陛下は、素晴らしいアホです。まさにワンダフルAHO! ベリーベリースチューピッドメーン!!」
「……褒めてる?」
「これが褒めずにいられましょうか! もし利口な王なら、自分が生き残ることを考えるでしょう。しかし陛下はアホ。バカ。マヌケです。だからこそ、愚直で尊い決断ができたのです」
「ま、正直、今でも迷っているが」
「いーんです。アホなんだから、もう考えないで下さい。バカは休んでたほうがマシです。そこに坐って、息だけ吸ったり吐いたりしていて下さい」
「……ヒドくね?」
「どうか気になさらず。陛下は死ぬ覚悟だけしてくれたら結構です。あとは僕らで上手くやりますから」
「任せていいんだな? できれば、余が死ななくてもいいようにしてくれよ」
「大丈夫です。陛下はきっと、死ぬまで生き続けることでしょう。それだけは僕が約束します!!」
「頼んだぞ!!!!」
僕はホッとした。なぜなら、グリアム王を死ぬまで生き続けさせることは、全然難しくなかったから。
ということで、
「重大発表がある。王宮にて御前会議を開くので、直ちに最高戦争指導会議のメンバーを招集せよ」
との詔勅をグリアム王に出させた。
「じゃあ、余と衛兵は地下壕にもぐる。あとはヨロピク」
そして玉座には、グリアム王に【変容】したセイラがついた。
「私が何を言うかは、全部アリスターが教えてね」
任せなさい!!!!




