第255話 大脱出!!
このとき当然レオ・タイラーは、
「出て行け」
と言うものと思った。「ヒミコさん」のした忠告は、召使いとして明らかに出過ぎだったから。
しかし、
「それは俺の一存では決められない」
レオは案外冷静だった。
「ヒミコは、父の大のお気に入りだからな。もちろん俺も、気に入っている」
お坊ちゃまの視線が、ヒミコさんのボンキュッボンを舐め回した。
「こんな上玉をよその城で働かせたくない。父も俺も、心からそう思っているよ」
ゲスいな、このエロ貴族め!
ヒミコさんは、頭を下げ続けた。
「ごめんなさい。もう無理です。伯爵様は奥様がいらっしゃるのに、私を変な目で見るし。お坊ちゃまも、婚約者がありながら……」
「変な目とは何だね? ヒミコこそ、わざわざ胸や尻を強調した服を着ているじゃないか」
「嘘です。わざと小さいサイズのメイド服を支給したではありませんか」
「当然だろう? それもご奉公のうちだ」
レオ・タイラーの手が、すばやくヒミコさんの尻に伸びた。
ヒミコさんは身をよじって逃げた。
とーー
「……何だ?」
メイド服のスカートから、何かがドサッと落ちた。
ヒミコさんが拾おうとしたが、レオ・タイラーの手のほうが一瞬速かった。
「枕だ。ヒミコ、おまえのヒップには、こんな詰め物がしてあったのか?」
ヒミコさんは黙っていた。
するとレオは、ヒミコさんの胸を鷲づかみにした。
「やめて下さい! 変態!」
「これも詰め物だ。本物じゃない」
レオが手を離すと、ヒミコさんの胸はあっちとこっちを向いていた。
たちまち召使いの女たちが騒いだ。
「おかしいわ。さっき私がこの手で触ったときは、確かに本物だったわよ!」
「そうよ。私は一緒にお風呂に入ったときに見せてもらったけど、ヒミコのダイナマイトボディは、決して詰め物なんかじゃないわ!」
「じゃあこれは……」
レオ・タイラーが目を細めた。
「偽物のヒミコか。いったいおまえは誰だ!!」
僕は観念した。変装がバレてしまった。
「わかったぞ。アイリンだろ? ヒミコと結託して、この城から脱出を図ったな!」
レオの端正な顔は歪んでいた。
「どうしてそう自由ばかり求めるのだ。俺はきみを守りたい。そう思って行動しているのに……この気持ち、わかってくれないのか?」
「女々しいわね」
ヒミコさんが、高らかに笑った。
「情けない男だなー。さっきの忠告は本当だぜ。あんたみたいなニセモノの男には、ホンモノの王女様の心というお宝は、一生手に入りっこないってな」
その声は!!
「きさま……男だったのか!」
「ノホホホホ」
ヒミコさんが、顔の前で手をパッパとやった。
すると、ラウール4世の猿顔が現れた!
僕はラウール4世に近づいて、小声で訊いた。
「これはどうして……」
「ヒミコの作戦は穴だらけだ。13歳のお嬢ちゃんにゃあ、芝居は無理だっつーの。俺は心配になって地下牢を抜け出して、アイリンちゃんの部屋に忍び込み、俺が代わりにヒミコに変装することにしたのさ」
「アイリンとヒミコさんは?」
「すぐ近くに隠れてる。ここは俺に任せて、あんたはお姫様を連れて門から出ろ」
「でも……ラウールさんたちが狙っていたお宝は?」
「お姫様を救うほうが大事だろ? さあ、急げ!」
僕はラウール4世に押されて、走り出した。
レオ・タイラーが、僕に向かって乗馬鞭を振った。
が、
「イテー!!」
通路の奥からボクシング・グローブが伸びてきて、レオの顎にクリーンヒットした!
「こっちよ!」
ヒミコさんが手招きした。そのすぐ後ろに、アイリンがいた。
赤みがかった茶色い髪。
太い眉。
褐色の肌。
そして、真っ直ぐな目。
「アイリン!」
「ニーニー!」
走り寄ると、アイリンは僕を真っ直ぐに見たまま、
「やっぱり、ニーニー、来てくれました」
「やっぱり?」
そう言われると、照れ臭かった。
「僕がきみを助けにくると、信じてたんだね?」
「はい」
アイリンの引き締まった唇が微笑む。
「ニーニー、私を買ってくれました。だから、必ず取り戻しに来ると、私にはわかってました」
「だーかーらー、買ってないんだって!」
「ほら、言い争ってる場合じゃないでしょ。出口を突破するわよ」
ヒミコさんに言われて、通路を走った。
正面に扉。体当たりするようにして開く。
そこは大ホールだった。
あともう1つ扉を開ければ、そこは外だ。
しかし、
「逃がすか!!」
例のゴロツキ5人組が、大ホールに飛び込んできた。
それともう1人。
黒いスーツを着た不気味な男。あれは確か、アイリンを馬車に押し込んだやつだ。
「アクアシューティング!」
水属性の使い手が技を放ってきた。アクアシューティングとは、要するに水鉄砲だ。
僕はアイリンの手を引いて床に伏せ、水攻撃をよけた。
すると、
「あらら〜、お城でバトルだなんて、趣味の悪いこと」
ラウール4世が大ホールに駆けつけてくれた。
「これでも食らいな!」
ラウール4世は、どこかに隠してあったのか、大砲のようなものを引っ張っていた。
それに火をつけると、
ヒュ〜〜〜〜〜〜、ドカーーーーーーン!!!!
打ち上げ花火だ!!!
「うわー!!」
花火は天井に当たって爆発し、大輪の花を咲かせながら、シャンデリアを落下させた。
「この隙に逃げよう」
アイリンに言って、入口に向かって駆けた。
あともう少しで城から出られる!
が、その瞬間ーー
「待ちな、小僧」
後ろから襟首をつかまれて、ひょいと持ち上げられた。
驚いて振り向く。僕をつかみ上げたのは、身長が5メートルもある巨人だった。
「苦しくないように、即死させてやろう」
そいつは、アイリンを馬車に押し込んだ男ーースキル【巨人化】を使える冒険者くずれだった!!




