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第250話 伯爵令嬢のギャップ

 ジェイムズ・タイラー伯爵は唇を曲げて嗤った。


「アホめ。あんなホラ話を俺が信じたと思ったか? お前の情報はちゃんと入っている。俺の兵隊から報告があったのだ。さあ、入れ!」


 伯爵が鋭い声で呼ぶと、昨日やっつけたゴロツキ5人組が部屋に入ってきた。


 ゴロツキどもは、顔や手に火傷を負っていて、僕をギラギラと睨んできた。


「昨夜は彼らがお世話になったらしいな。だがここは海じゃない。同じ作戦は通用しないぞ。お前たち、このアリスターとかいう陰キャを始末したいか?」


 僕の名前は、とっくに調べられていた。しかも陰キャであることまで……たぶん伯爵の雇った探偵が、僕のパーティーと接触して巧みに聞き出したのだろう。


「やらせて下さい!」


 水属性の技の使い手が、伯爵に懇願した。すると火属性の使い手が、


「俺にもやらせて下さい!」


 すると風属性の使い手が、


「俺にもやらせろ!」


 すると地属性の使い手が、


「俺もやりてー!」


 最後に雷属性の使い手が、


「じゃあ俺も!」


 やりたいやらせろの大合唱。僕も人気者になったものだ。ああ、相手が女性だったら夢のようだったのに……


「無駄な抵抗をしなければ、生きたまま牢屋につないでやろう。が、もしおとなしくしなかったら、命の保証はできない。彼らがこんなにりたがっているのでね」


 伯爵は、話し方がもったいぶっている。


 僕はゲップをした。


「おっと失礼。バトルはお腹いっぱいなもんでね。もし暴れたくて仕方ないんなら、あっちの森にでも行って、モンスターを探してきたらどうです? そしたら少しは世の中のためになりますよ」


「きさま……」


 火属性の使い手が近づいてきた。やっぱこの手の男は着火点が低いね。火属性だけに。


「ここは伯爵様の城だ。品位を保ってもらおう。その下品な口を閉じて地下牢に行きやがれ、このクソ野郎!!」


 いっそ気持ちいいくらいの矛盾だ!


「待ってくれ。行かないとは言ってないだろう? 誰か案内してくれないと行き方がわからないじゃないか」


 5人組は顔を見合わせた。


「いいのか? 暗くてジメジメしてるぞ?」


「天井が低くて窮屈だぞ?」


「毛布一枚だけで寒いぞ?」


「窓がないからトイレをすると臭いぞ?」


「メシは1日1回だぞ?」


 みんな、意外と親切である。僕に火傷をさせられたクセに、こっちの身を案じてくれているようだ。


「こんな美しいお嬢様の前で、乱暴なバトルをするくらいだったら、喜んで囚人になります。リサお嬢様も、むくつけき男どもが組んずほぐれつするところなんざ、そのダイヤのような瞳で見たくはないでしょう?」


 リサ・タイラーが、人差し指の爪を噛んで僕をウルウルと見た。きっと男慣れしていないと睨んだとおりだ。ちょっと美しいと言われたくらいで、もうその表情は僕の味方になっている。


「お父様。このお方を牢につなぐことはないではありませんか。いったいどんな罪を犯したというの?」


「罪か」


 伯爵の視線の冷たさは、相変わらず氷山級だった。


「こいつは、レオの婚約者を奪いに来たのだ」


「まあ」


 リサ・タイラーが、口を丸く開けた。


「アイリン王女様を? どうして?」


「よせ! いい加減、王女様と呼ぶのはやめろ!」


 ジェイムズ・タイラー伯爵は、苛立ちを隠さなかった。


「ナハナハはナンの一部で、ナンにはグリアム陛下しか王はおられない。普通、征服された国の王族は殲滅されるところを、陛下のお情けで命だけは奪られなかったのだ。だからあの娘は王女どころか、貴族ですらない。家を失った平民なのだ。それを忘れるな」


「お父様、どうしてそこにそんなに拘るの? そもそも平民の娘だったら、長男の嫁に迎えるのはおかしいじゃない」


「黙れ! 子どもは縁組みに口を出すな」


「まあ、子どもですって?」


 リサは怒りのあまり、ガッと脚を広げて踏ん張った格好になった。


「もうー、怒っタイラー! 許さないっタイラー! リサ・ターイラー!!」


 プンプン顔と胸の谷間が、なかなかダイナマイト級のギャップである。


 ゴロツキ5人組の顔は溶けていた。このお嬢様に完全に萌えているのだ。


「わかった、わかった。子どもというのは取り消す。とにかく俺を信用しろ。これは素晴らしい縁組みになる」


「でもお父様、私ぶっちゃけますけど、アイリン様はレオのことなど眼中にありませんよ」


「それはまだネンネだからだ。男に興味がないんだろう。一緒にしちまえば、そのうちレオを好きになるさ」


 伯爵のやつめ。王家の秘宝が欲しいばっかりに、アイリンの幸せを踏みにじろうとしている。


 そうはさせるもんか。アイリンは必ず助ける!


「さあ早く、地下牢に行きましょうよ。その前に僕を縛りますか? 抵抗はしませんから、さあさあ」


 僕は両手を揃えて前に出した。しかし伯爵はピストルの銃口を振り、


「縛らなくても、おかしな動きをしたらズドンとやるからいい。そのドアから出ろ」


 僕は言われるまま、ドアから出た。


 おかしな動きをするつもりはない。


 囚われの身になることが、アイリン救出作戦の第一歩だったからだ。


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