第25話 毒舌の小人
「あった!」
小人の家を見つけたとき、僕らは通常の500分の1くらいのサイズに縮んでいた。
心配していたように、虫が襲ってくることはなかった。というのも、
「マブダチの小人からもらった香水がある。これを振りかければ、虫は寄ってこない」
青鬼がくれた香水を身体にかけたからである。その香りは、レモンによく似ていた。
「小人さんって、私が想像していたよりも小さそうね。この家に住んでるんじゃあ、小鳥くらいの大きさしかないわ」
セイラがそう言ったので、
「どういうのを想像してたの?」
と訊いてみると、
「お姫様を納めた棺を、7人で運べるくらいの大きさ」
と答えたので、こっちの世界でも、僕が転生する前にいた世界と似たようなお伽噺が存在するのだなと思った。
「お前ら人間は、いつも勝手な想像をする」
と、ここでも鬼は、イチャモンをつけた。
「もし小人が可愛いとか、親切だとか考えてるとしたら、とんだ勘違いだ。お前らの先入観は決して当たることはない」
そう吐き捨てるように言うと、小人のログハウスをドンドン叩いた。
「開けろ、バカヤロー。マブダチだ!」
僕は目を覆いたくなった。これから泊めてもらおうというのに、鬼の態度は最悪としか言いようがなかった。
すると中から戸が開き、普通のおじさんが、500分の1くらいのサイズになった感じの小人が出てきた。
「何だ、クソ鬼か。人間臭いから誰かと思ったよ」
「よく見ろ。人間を連れて来たぞ」
小人のおじさんは、うさんくさそうに僕らを見、
「どうして人間といる? 喰わなかったのか?」
「ああ、ちょっと事情があってな」
「今から一緒に喰おうっていうのか? だったら遠慮するよ。人間は趣味じゃないからな」
「そうじゃない。泊めてやってほしいんだ」
「はあ? 人間を?」
おじさんが、僕を頭のてっぺんからつま先までジロジロ見た。
「あー臭い、あー臭い。ウンコのほうがマシだ」
僕は帰ろうと思った。ウンコより臭いと言われて、頭を下げて泊めてもらう気にはなれなかった。
「鬼さん、悪い。小人さんは人間が嫌いなようだから、坂の上に戻ることにするよ」
「小人が人間を嫌い? いつそんなことを言った?」
「いやいや、聞いてなかった? この方は、僕らよりウンコのほうがマシだと言ったんだよ」
「それがどうして、嫌いということになる?」
鬼に不思議そうな顔をされて、頭が混乱してきた。ウンコより臭いというのは、小人や鬼にとって、悪口ではないのか?
「えー、すみません、小人さん。僕たち人間は、ウンコよりも臭いですか?」
「臭いね」
「ウンコというのは、トイレに行ってお尻から出す、アレのことですよね?」
「ほかにウンコがあるのか?」
「いえ。あの匂いは、どう思います?」
「臭いに決まってるだろう。お前はバカか?」
「すみません。確認なんですが、そのウンコの匂いのほうが、僕らの匂いよりもマシなんですよね?」
「その通り」
「じゃあ僕らの匂いは、好きですか?」
「嫌いさ」
ハッキリと、小人は言った。
「それとも人間は、ウンコよりも臭い匂いが好きなのか?」
「ほら見ろ」
とこれは、鬼に向かって言った。
「小人さんは、僕らが嫌いだと断言した。嫌っているとわかってる方の家に泊まりたいとは、僕たち人間は思わない」
「変なことを言うな」
と、鬼は首を傾げて、
「小人はウンコの匂いやそれより臭い匂いを嫌いと言っただけで、人間が嫌いとは一言も言ってないぞ」
「同じことだよ。僕だったら、ウンコより臭い客が突然うちに来て、泊めたいとは絶対思わないもの」
「どうしてお前は、ウンコよりも臭い客を泊めてやらないんだ?」
「臭いからだよ! 眠れないだろ! じゃあ鬼さんならどうなんだよ?」
「俺はいつも、腸の中にウンコがある。お前らもそうだし、すべての動物がそうだ。だからウンコを特別嫌いなことはない」
僕の頭は、ますます混乱した。
「えーと、つまり、鬼さんにとっては、ウンコも手や足と同じような、身体の一部ってこと?」
「そりゃそうさ。ウンコを特別視する理由が何かあるか? 俺は人間を喰うとき、特別にウンコをよけたりしない。丸ごと全部喰う。動物だってみんなそうさ」
僕はラブちゃんをチラッと見た。そう言えば、犬はあんなに鼻がいいくせに、平気でウンコを食ったりする。ということは、ことさらウンコを差別するのは、人間だけの習慣なんだろうか?
「ウンコも含めて、人間の匂いだ。汗やら脂やら胃酸の匂いも混じれば、トータルではウンコよりも臭くなる。小人は匂いに敏感だから、そういう事実を指摘したまでのことだ」
「そうなの、小人さん?」
小人のおじさんに訊くと、
「そのとおり。ウンコ単体より、ウンコを含めたトータルの人間の匂いのほうが臭い」
「じゃあ僕ら人間のことも嫌い?」
「好きも嫌いもないさ」
と小人は、冷ややかに僕らを眺めて、
「人間は人間だ。俺たちを喰わないし、俺たちも人間を喰わない。少しばかり臭いが、それだけのことだ。嫌いになる理由も好きになる理由もない」
「そうなんだ」
あまりにドライな返答に、僕は失望した。
「僕たちは、僕たちそっくりの外見で、小さくて可愛い小人さんのことを、正直好ましく思っている。だからこの機会に、小人さんのことを良く知って、仲良くなりたいという気持ちなんだ」
「そりゃどう思おうと、そっちの勝手さ」
小人はあくまでもドライだった。
「花でも果物でも、勝手に好きになればいい。でも花や果物に好きになってもらいたいと思っても、それは人間側の勝手な願いに過ぎない」
「もちろん、花や果物ならそうさ。でも僕たちとあなたたちは、同じ言葉を話すし、違いといったら、サイズだけじゃないか。きっとわかり合えるし、良いところを知ったら好きになれると思うんだよ」
「思うのは自由さ。ま、立ち話も何だから入れよ。おーい、みんな。ウンコよりも臭い客が来たぞ!」
僕たちは最悪の紹介をされて、小人のログハウスに入った。




