第231話 いざ地下迷宮へ!!
ここでまたまた、地球の話をすることを許していただきたい。
太平洋戦争における、硫黄島の戦いについてである。
ちなみこのトーキョー都の小笠原諸島に属する「硫黄島」は、かつては「いおうじま」と呼称されることが多かったが、現在の正式な呼び方は「いおうとう」となっている。
呼び名のとおり、硫黄だらけの島で、火山から噴出するガスで特有の匂いが立ち込めているそうである。
もちろん僕は行ったことがない。というか、現在硫黄島は島の全域が自衛隊の基地の敷地であり、民間人の居住者もなく、観光ツアーでも外観を眺めるだけの立ち入り禁止区域となっているのだ。
この小さな島で、ニッポン軍とアメリカ軍が大激戦を繰り広げることになった事情は、異世界でラオウ島が狙われた事情とほぼ同じである。
ここが米軍の航空基地となれば、トーキョーはB29による絨毯爆撃にさらされることになる。だからアメリカは是が非でも欲しく、ニッポンは何が何でも死守すべき島であった。
この南海の孤島での戦いほど、
「地獄の死闘」
という表現がしっくりくる戦いはない。
制空権、制海権を奪われたニッポン側は、援軍の見込めない状況で、約2万3千人の兵力で抗戦することになる。
対するアメリカ側は、約11万人の兵力で押し寄せた。
「ここは5日で奪える」
アメリカ側はそう自信を持っていた。
しかし実際には、ニッポン軍が玉砕するまで、ひと月以上もかかった。
アメリカ軍は、死傷者約2万9千人(うち戦死約7千人、戦傷約2万2千人)という大損害を出した。
これはアメリカ国民にとってもショッキングな数字であり、「イオージマ」に星条旗を掲揚した日は、のちにアメリカ海兵隊記念日に制定されたほどであった。
現在のニッポン人にとっては、クリント・イーストウッド監督の映画「硫黄島からの手紙」の印象が強いかもしれない。
渡辺謙が演じた栗林忠道中将は、もちろんニッポンでの人気も非常に高いが、アメリカ軍関係者からも抜群に高く評価されている。
「このサムライは、もっともアメリカを苦しめた手強い敵であった」
と、敵の将校らが口を揃えて証言しているのである。
これほどまでにアメリカ軍を苦しめたのは、栗林中将が「バンザイ突撃」などの無謀な方針を捨て、地下に深く掘って構築した陣地により、徹底した持久戦術をとったことが挙げられる。
地下に深く掘った陣地。
それは、難攻不落の一大要塞となった。
僕はふと、連想してしまう。
これは地下迷宮、いわゆる「ダンジョン」ではないかと。
アメリカ軍は、このダンジョン攻略にさんざん苦労した。
そんなふうに考えると、僕はついつい、馴染みのゲームの世界を思い出してしまうのだ……
* * *
僕たちは、ラオウ島に向かうことにした。
目的は、バヤシ中将を説得して、兵を全員撤退させること。
そのようにして、1人の死傷者も出さずにラオウ島をシン軍にくれてやり、いよいよナンが降伏するしかないように持っていく。
それが僕らの狙いだった。
「ではみなさん、どうかご無事で」
戦艦シロネコヤマトの司令官室で、僕たちはMCヤマー、クリボッチ長官、ヘラズグチ中将、シオ中将に別れを告げた。
「君たちも達者でな。平和になった新しい世で、ぜひまた会おう」
MCヤマーとガッチリ握手を交わした。
そして、僕、怪鳥グリアムに【変容】したセイラ、ジャック、オーガ、ルイベ、オークの6人で、召喚獣ガルーダに乗ってラオウ島を目指した。
やがてーー
「あれがそうよ」
セイラが小さな島を指差した。
「あれがラオウ島? へえ、何だか不気味だな」
それはちっぽけな火山島で、色は全体的に黒っぽく、噴火口からは白い煙が立ち昇っていた。
「今にも噴火しそうで怖いな。あんな火山しかない島をナンとシンは命を懸けて奪い合うのか。はあ……つくづく戦争って虚しいな」
僕たちは、ラオウ島に降り立った。
がーー
ぐるっと四方を見回しても、人の姿はまるでない。
「え? ホントにこれがそう? 誰もいないんだけど」
シン軍がまだ上陸していないのはわかる。敵の艦隊が迫ってくるのはこれからだ。圧倒的な兵力で、着実に近づいてはいるだろうけど。
しかしナン軍は、ここを敵に渡すまいと死守しているはずだ。それなのに、敵を迎え撃つはずの砲台もなければ、兵の姿もない。
「まさか、火山の噴火が迫っていて、みんなここを放棄して逃げ出したとか?」
そう呟いたときだった。
地面に何かがサッと隠れるのが見えた。
「いたぞ、人だ!」
ジャックが叫んだ。
「伏せろ、ジャック! 隠れた兵士が撃ってくるぞ!」
そう怒鳴って自分も伏せた。他のメンバーも、みな素早く身を低くする。
静寂。
何かが隠れたと思った地面のほうからは、物音一つしない。
意を決して、僕は匍匐前進でそっちに近寄った。
するとーー
「穴だ」
黒い岩石でできた地面に、円い穴が空いていた。
それを覗いても、暗くて何も見えなかった。
「ナン兵が掘った地下陣地だ、たぶん」
と言って、仲間を振り向いたとき、
「危ない!」
誰かが叫ぶのが聞こえた。
その瞬間、
僕は何者かに引っ張られ、穴の中へ転落した。




