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第22話 アーマゲドンかインフェルノか

「私は12歳のとき、千年に1人しか現れないと言われる、SSSランクになった」


 しわがれ声で、セイラが告白する。


「そのために、エリート学校に入れられることになった。全国から優秀な生徒が集められる、全寮制の学校。親元から引き離された私は、孤独になった。みんなに羨ましがられたけど、私はちっとも嬉しくなかった。私は親に捨てられたと感じた」


 そう言えば、宿屋に泊まったとき、


『ランクが高いからって、強いわけじゃないよ。孤独には100戦100敗。1度も勝ったことがないんだ』


 と言っていたが、それは全寮制の学校で感じた孤独らしかった。


「その学校でも私は、常にトップの成績だった。【変容】のスキルに勝てる生徒は誰もいなかった。私はそこでも妬まれて、ますます孤独になった。みんなが私から距離を置いた」


 セイラの目は、どこか遠くを見ていた。


「私は幸せじゃなかった。エリートになんかなりたくなかった。みんなとワイワイ遊びたかった。でもそれは許されなかった。私は死にたくなった。孤独がたまらなく嫌だった。だから15歳で学校を脱走し、四角い顔の女の子に【変容】して、街でうろつくようになった」


 膝を抱えたセイラが、僕をちらりと見た。


「そこで出会ったのがサラたちのグループ。彼女たちと遊ぶのは楽しかった。でも夜になると、やっぱり孤独に襲われた。街は一見華やかだけど、とても孤独な場所なの。私は早く、冒険者のグループに入って、仲間たちと旅をしたいと思うようになった」


 そこから先は、僕も知っている。


「だけど私は、人間不信でもあった。学校では冷たくされたり、イジワルされたりした。生徒だけじゃなく、先生たちからもね。だから慎重になった。冷たそうな人がいるグループには入りたくなかった。そんなとき、ギルド酒場でアリスターを見て、ピンときた。この人なら大丈夫。私のランクとかじゃなく、心をちゃんと見てくれるってね」


 それはつい昨日のことなんだなと、不思議な感じがした。あれからずいぶん経った気がする。


「やっと私のことをわかってくれる人に出会えた。私はこれで満足。だから死なせて。これ以上生きて、辛い思いや悲しい思いをするより、今の良い状態のままでポッと死にたいの」


「そうだね」


 僕は激しく共感した。


「長く生きれば、いつか必ず、どっちかが先に死ぬ。今一緒に死ねば、そういう悲しい経験をしなくて済むもんね」


「死ぬ方法はどうしよう? あんまり苦しくないのがいいけど」


「苦しくない死に方か。ジャック、知ってる?」


「俺も死んだことがないから知らんが」


 ジャックは神妙な顔つきで、


「モンスターにバトルを吹っかけて、わざと負けるのはどうだ?」


「それは良くない」


 僕は即座に否定した。


「モンスターだって、それじゃ後味が悪いと思う。あ、わざと死んだ。俺、そこまでやる気じゃなかったのにって」


「じゃあ首を吊るか。せっかく木がいっぱいあるんだから」


「……苦しくない?」


「多少は苦しいだろうが、背に腹は変えられん。死ぬためには、そのくらい我慢しろ」


「いや。僕は死にたいけど、わざわざ苦しいことはしたくないんだ」


「即死がいいのか?」


「即死! それいいね!」


「よし。誰か即死系の技を使えるやつ、挙手しろ」


「はい!」


「はい、セイラ」


「私、聖属性の、アーマゲドンができます」


「アーマゲドンだって?」


 僕は驚きにのけ反った。


「悪を一瞬で滅ぼす、究極のタブー技じゃないか!」


「そう、一瞬でね。だから苦しまなくて済むよ」


「大丈夫かな……僕らが悪じゃなかったら、逆に死なないけど」


「悪でしょ。自殺しようとしてるんだもの」


「だけど、森にいるほかの悪も、一緒に滅びちゃわないかなあ」


「さっきの鬼さんとか?」


「うん。下手すると、巻き添えにする惧れがある。やめよう。何の罪もない悪いやつを、僕らと一緒に死なせるわけにはいかない」


 こうして、聖属性の究極の大技アーマゲドンは却下された。


「ジャックは何か使える?」


「俺か?」


 ジャックは少しためらったが、


「火属性のインフェルノが、俺にできる最大の技だな」


 と、とんでもないことを言った。


「バカ! 冗談じゃない。インフェルノで焼き尽くされるのは、地獄の苦しみだって言うじゃないか」


「バカとは何だ、バカとは。言葉に気をつけろ!」


「うるさい! 今から一緒に死ぬのに、いちいち言葉を気にしてられるか!」


「ケンカはやめて!」


 セイラが僕らのあいだに割って入った。


「とにかく、インフェルノはやめましょう。山火事になったら困るから、ね?」


 ジャックはむっつりと黙り込んだ。するとピヨちゃんがグルグル飛び回り、


「バカ、バカ、ジャック、バカ、バカ」


 とキレイな声で鳴いた。


「ほら、見ろ。お前が悪い言葉を使うから真似した」


「そうですか? バカだからバカって言ってるんじゃないですか?」


「何だと!」


「あー、アホらし」


 ラブちゃんが、これ見よがしにでっかいあくびをした。


「パーティー仲間のケンカは、犬も食わんで。それよりも、あの約束はどうなったんや。飼い主のハジメを復活させるいうんは」


「あ、忘れてた。【復活】を使える冒険者を探すんだった」


「死にたきゃ死んでもええけど、約束だけは守ってくれんと」


「どうする、ジャック。死ぬのはあとにするか?」


「俺はどっちでもいい。ていうか、別に急がなくても、人間いつかは死ぬからな。セイラはどうする?」


「2人が死なないなら死なない。私、独りぼっちが嫌だから」


 結局僕らは、また旅を続けることにした。


 しばらく歩くうち、


「?」


 僕は不思議な気持ちになった。


「あれえ? さっき僕、死のうとしてなかったっけ?」


「そう言えば」


 セイラも不思議そうに言った。


「何か一瞬、そんなこと考えちゃった。嫌ね。仲間がいるのに、死のうと思うなんて」


「生き物は生きようとする。それが自然だ。不自然は良くない」


 ジャックが自分に言い聞かせるように言って、うんうんと頷いた。

 

 するとそのとき、木陰から不意に鬼が現れた。


「まいった、人間」


 鬼は神妙な顔つきをしていた。


「俺の技が効かないとは、すさまじい生命力だ。お前らには完敗だ。人間に負けた鬼は、鬼の世界に戻れない。だからお前らの家来にしてくれ」


 僕たちは困惑したが、鬼の世界に戻れなくなった鬼が自殺しても困るので、パーティー仲間の一員に加えることにした。


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