第203話 徹底討論5 褒めれば未来が変わる!
「座布団ゼロ枚落語家さんを褒めるのが難しければ、その前に肩慣らしとして、しゃべくり7人の例の人を褒めて下さい」
「あー、はいはい。あの、1人だけ実力の落ちるやつね」
「言葉に気をつけて! それは閣下の感想で、事実じゃないですよ!」
「てことは、みんな面白いと思ってんの? んな訳ないっしょ」
「面白くなかったら、テレビになんて出てません。しかもM-1チャンピオンですよ」
「まーね。漫才は良かったよ。でもフリートークが」
「どうして悪いことばっかり言うんです? 何か彼に恨みでもあるんですか?」
「別にないけど、テレビ観て面白くなかったら、あいつ面白くねーなーって言いたいじゃん」
「その考え方を改めて下さい。面白くないはずがないんです。ファンだってたくさんいるんですよ。人のマイナス面じゃなくて、プラス面を見ていきましょうよ。そしたら世の中のほとんどが、【眼福】になりますよ」
「あいつの貧相な顔も眼福に? ないない」
「いや、なかなか面白い顔してますよ。よーく思い出して下さい」
「あんな実力不足な顔、憶えてないよ」
「ほら、結構ほうれい線が深くて、やけに歯が目立つ感じで、額もまあまあ広くて」
「無理。憶える気がないし」
「ちょっと! 閣下は顔も憶えてないのに、彼が面白いかどうかどうしてわかるんですか?」
「だって、しゃべってることが面白くないもん。何て言うか、気の利いたことを言うイメージがない」
「イメージ? じゃあ彼のしゃべりが面白いか面白くないか、きちんと分析したことはないんですね?」
「いちいち分析する人いる?」
「間とか表情をよく見て下さい。実に味があります」
「味か。古典芸能みたいだな」
「あっ、今いいこと言いましたね! さあ、それで褒めて下さい!」
「どういうこと? さっぱりわからんけど」
「しゃべくり7人の彼、どう思いますか?」
「全然面白くない」
「違います。さっき褒めたでしょう? さあ」
「さあって……えっとじゃあ、彼がフリートークをすると、古典芸能みたいな味があります」
「つまり?」
「つまり……他のメンバーにはない、微妙な空気が味わえます」
「もうひと声」
「えーと、えーと、正直言って、彼の発言を、他のメンバーの面白トーク以上に、待ち望んでいる自分がいます」
「やった! できた!!」
僕は気がついたら、ヘラズグチ中将を抱き締めていた。
「やればできるじゃないですか! 最高の褒め言葉でしたよ!」
ヘラズグチ中将は頭を掻いた。
「ワシも自分で驚いている。どうやらワシ、あの7人で、彼がいちばん気になってしまっているようだ」
「それはもう立派なファンですよ。それを認めて、これからは素直に褒めていきましょ」
「うむ。古典芸能と思えば、確かに悪くない」
「さあ、ではいよいよ真打ちの登場です。座布団ゼロ枚落語家さんを褒めて!」
「…………」
「どうしました? 彼にもあるでしょ、味」
「いや。ないな」
「またまた。彼の大喜利回答を、ホントはいちばん楽しみにしてたんじゃない?」
「なぜ彼がレギュラーなのか、疑問しかなかった」
「いけませんね閣下。彼がどれほど努力していたか、わかりませんでしたか?」
「頑張りゃいいんだったら、学芸会の小学生だって頑張ってる」
「ほーら。ちゃんと褒めるところがあったじゃないですか」
「は? 頑張ったのを褒めるの?」
「いけませんか?」
「だってプロなのに……実力を褒めるべきでしょ?」
「それがこの世を息苦しくしてるんです。実力しか、評価の尺度はないんですか?」
「それが競争社会ってモンじゃないの?」
「勝った者しか褒めないんなら、金メダル以下は価値がないですか? 2位じゃダメなんですか?」
「事業仕分けチックに圧かけてくるなー。2位ならもちろん褒めるけど、フツー100位以下のザコは褒めないでしょ?」
「ものすごく頑張ってても?」
「だったらなおさら、才能ないから辞めたほうがいいと言うよ」
「勝者しか評価できないとは、実に寂しいですね。閣下のその姿勢こそ、面白くないですよ」
「どういう意味?」
「負けても頑張る人間の姿ほど、励まされるものはないんです。そういうものが見えない人は、とても損をしてると思いますよ」
「そうかな? でもワシは、基本強いやつが好きだし」
「じゃあ戦争に負けたニッポンは、弱いから興味ないですか? 面白くないですか?」
「コラ! 落語家と一緒にするな!」
「キモティくない閣下は、もう男を辞めろと言われたらどうです?」
「わかった、わかった! もうやめてくれ! あいつの頑張りを褒めりゃいいんだな?」
「お願いします!」
「えー、あの方を観ていると、とても励まされます」
「どんなふうに?」
「1回キモティくないって言われたくらいで、萎えてる場合じゃないなって。毎回毎回視聴者に座布団ゼロ枚にされても、頑張ってるんだから」
「そうそう。さらに?」
「さらに……えーと、負けるとわかっている戦場に出て行くなんて、ホント、彼こそ軍人の鑑です」
「やった! できました!!」
僕は再びヘラズグチ中将を抱き締めた。
「そうなんです。見方を変えれば、他の大喜利メンバーの誰よりも、彼の姿は励みになるんです。どうかこれからも、彼のように頑張っている人を叩くのではなく、温かく応援してあげて下さい。そのほうが、絶対に【幸福】です」
「そうだな。彼をニッポン兵に喩えたら、最新兵器に向かって、軍刀で突撃する姿とダブって見えてきた。彼をあざ笑うことは、ひょっとすると、そうやって玉砕した兵士をバカにするのと同じことかもしれない」
「まったくそのとおりです。戦場に立ったことのない人に、兵士を笑う資格はありません。大喜利も同じなんですよ」
「アリスター二等兵。ワシはわかった。これからは心を入れ替える。座布団ゼロ枚の彼を、応援することにしたよ!」
「閣下!」
僕の胸は熱くなった。
あれほど頑固だった中将が、意見を変えてくれた。
ほんの小さな1歩だけど、未来が変わる気がした。
よーし、やるぞ。
僕もヘラズグチ中将と一緒に、あの落語家さんを応援します!!!!




