第195話 怪物との対決へ
東條英機。
大物ですね。
僕なんかに、語ることはできません。
なんか、もう、ね。
東條英機が何をやったとか、どういう人だったとか、ネットを調べればいくらでも出てきます。
それこそウィキペディアで調べれば、評価という見出しの項目があって、批判的な評価と好意的な評価をお腹いっぱい読むことができます。
正直僕は、ゲップが出ました。
1人の人物にいい面と悪い面があるのは、当然と言えば当然。
しかしこれだけ情報量が多いと、途中から思考が停止してきます。
いったい悪いやつだったの? そうじゃなかったの?
まあ、子孫の方もいることですし、軽々しく「悪」のレッテルを貼ることはできません。事実のみを述べるとしたら、彼が非常に多くの死に対して責任のある立場にあったことは、間違いありません。
それでも、戦争に勝っていたら英雄と評価されたでしょうね。皮肉ですけど。
とにかく僕は、東條英機に対して、あーだこーだ言うつもりはありません。
2流の軍人だろうが、切れ者だろうが、好戦的だろうが、開戦反対者だろうが、どうでもいい。
僕が異世界に転生してきてからも、気になって気になって仕方がないのは、そーゆーことじゃない。
僕がこっちに転生する前、と言っても割と最近だけど、どうも地球全体が、「好戦的」になってる気がしてどうしようもなかった。
トランプ大統領の就任が象徴的でした。
もし世の中が、「戦争ダメ、ゼッタイ」の空気だったら、当選はあり得なかったでしょう。実際にトランプ氏が好戦的かどうかは別にして、あれほど攻撃的な発言を連発してたんですから。
そして、中国では毛沢東の、ロシアではスターリンの人気が再燃していたとか。
むむむむ……
毛沢東の評価。これは正直なところ、東條英機の100倍難しい。
何というか、振り幅がデカすぎて、いい人とも悪い人とも、それこそレッテルを貼ることは不可能。
が。
それにしてもですよ?
大躍進政策と文化大革命について、今の僕たちは、知ることができる。
前者の失敗では4千万人が餓死したとされ、後者では、いろんな推定値があるけれど、一説では2千万人が犠牲になったと言われている。
この大量死の責任が、毛沢東にあることは間違いない。
もちろん、彼にいい面があったのは確かだろう。でもそれにしたって、この事実がありながら人気再燃とは……
さらにスターリンですよ。
彼のやった大粛清。
これで殺された被害者も、一説では、やはり2千万人に達すると言われている。
陰惨で、暗くて、救いようのない一大黒歴史。
彼にどんなにいい面があったとしても、これはアウトでしょう。
そのスターリンの人気が再燃?
はあ? 何で?
第二次世界大戦を勝利に導いた英雄だから?
何だか、怖くなっちゃいますよね。
さすがにニッポンでは、東條英機の人気が再燃、ということはなかった。
だけど、
「戦後の自虐史観、いい加減にやめませんか?」
という主張が強くなっているなー、という印象はあった。
「ニッポンは素晴らしい。ニッポン兵は勇敢だった。韓国併合によって韓国は発展した。南京大虐殺の中国発表はデタラメだ」
という声は、以前より確実に多く聞かれるようになっていた。
その声に、ある程度の真実は含まれていると思う。
しかし、「こんなことを言ったら韓国人や中国人は怒るかな?」という配慮や遠慮より、
「いやいや、こっちが真実でしょ?」
と主張したい気分のほうが、より強くなっていたように感じるのである。
もちろん、韓国や中国の政治姿勢が、そうしたニッポン人の反撥を招いた側面はある。
はあ……(ため息)。
戦争は繰り返してはいけない、と言いながら、どうしてあんなにケンカ腰になることが多いのだろう?
どうして大量虐殺者を今さら持ち上げたりするのだろう?
不気味な世の中の空気です。
ひょっとして、地球にも魔王みたいなやつがいて、本気出して世界中に影響を与えてるのかもしれません。
それはともかく。
僕はこの異世界で、戦争を終結に導かなくてはいけない。
好戦的な世の中の空気を、変えなければならないのだ。
「いよいよ陸軍大将のグレートトージョーに、会わないといけないかな」
グレートトージョーは内地にいる。
彼をその地位から除かないかぎり、陸軍が敗戦に同意することはあり得ない。
だから僕は、
「行こう、内地へ!!」
召喚獣ガルーダを喚び、その翼に乗った。




