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第19話 鬼の長所を当てろ

 僕は硬直した。


 開いたドアの外に、青い鬼が立っていたのだ。


「ああ」


 鬼は部屋に入ってきてドアを閉めると、テーブルを眺めて悲しげに言った。


「誰か料理を食べたな。睡眠薬入りの料理を」


 それからベッドを見て、やはり悲しげに言った。


「男と女と、犬と鳥が寝ている。俺の今夜の食い物は、たったの2人と2匹か」


 青鬼はジャックの枕元に立つと、持っていた金棒を振り上げた。


「待って下さい!」


 ようやく僕は声を出すことができた。


「その人は僕の友だちなんです! 殺さないで下さい」


「おお、そうか」


 青鬼は僕をちらりと見ると、セイラの枕元に移動した。


「ダメです、ダメです! その子も友だちです!」


「そうか」


 青鬼は、今度はラブちゃんの真上に金棒を振りかざした。


「その犬も大事なペットです! 殺さないで!」


 青鬼は、分厚い唇をねじ曲げた。


「お前の友だちとペットは、俺の料理を勝手に食べた。しかも食べた鳥肉は、元々俺の友だちで、ペットだったのだ。だから殺そうと思う」


「すみません。許して下さい」


「では俺の料理を返せ。そっくり同じものを」


「すみません。それはできません」


「できない? 勝手に食べて、返せないと言うのか?」


「ごめんなさい。許して下さい。この通りです」


 僕は床に頭をつけて謝った。こうするしかなかった。鬼を相手にバトルしても勝ち目はない。誠心誠意謝る以外、何の方法も思いつかなかった。


 青鬼が金棒で、床をドンとついた。


「お前は今、俺とバトルしても勝ち目はない。だから謝るしかないと考えたな?」


 僕はゾッとした。この鬼は、人の心が読めるのだ!


「おい、人間。どうして心を読まれると、ゾッとするのだ。そんなに読まれたくないことを、考えているのか?」


「……すみません」


「どうして謝る。謝らなきゃいけないことを、考えていたのか?」


「…………」


「お前は今、自分と仲間たちが助かることを考えている。しかしもし、俺が弱かったら、バトルで倒そうとするだろう。勝手に料理を食べておいて、その持ち主に見つかったら倒そうとするなんて、ずいぶん悪いやつだな、おい」


「…………」


「そのくせ、鬼は悪いと決めつけている。悪いのはどっちだ。え? 人間と鬼と、どっちのほうが、より多くの動物や虫や人間を殺したと思うんだ?」


「……わかりません」


「バカめ。お前の心はわかっているのだ。お前らは、わかっているとわからないと言い、わからないとわかったフリをする。だからお前ら人間は、鬼よりもずっと天邪鬼なのだ」


 この鬼に言い返すことは不可能だった。なぜなら、


「なぜなら、俺の言うことが正しいとわかっているからだ。だから言い返せないのだ。さあ、遊びはここまでだ。そろそろ俺の食事にする」


「待って下さい! 食べるのだけはやめて下さい!」


「フン。悪い鬼は、隙があったら退治しようと思ってるくせに、自分が食べられるのは嫌だと言う。人間は、どこまでもずうずうしくできている。おい、人間。お前の【眼福】を、自分に使ってみたらどうだ?」


 僕は飛び上がるほど驚いた。


「今さら驚くことか。【読心術】を使える俺が、相手のスキルくらい読めないでどうする。ほら、【眼福】を自分に使ってみろよ」


 僕は言われるままにした。が、恐怖のほうが勝ってしまい、うまく【眼福】が発動されなかった。


「いや、そうじゃない。お前には、隠された良い面などないのだ。だから【眼福】を使っても、何にも視えないのだ」


「そんな……」


 僕は、自分に使うフリをして、こっそりと青鬼に【眼福】を使ってみた。


 が、鬼は完璧に【ガード】していて、内面をいっさい見せなかった。


「どうした、人間。俺の隠された良い面とやらは視えないか?」


「…………」


「よし、こうしよう。俺の良い面を当てるのだ。もし正解したら、お前たちの命は見逃してやる。しかし正解できなかったら、皆殺しにする」


 鬼が血に飢えた目をして、地底から響くような声で嗤った。


「さあ言え! 俺の長所は何だ?」


 僕の全身は痺れていた。何も視えないのに、当てられる訳がない。頭は真っ白で、何も浮かばなかった。


「言わないのか。ではこの女から殺す」


 スヤスヤ寝ているセイラの上に、金棒を振り上げた。


「ま、待って下さい」


 カラカラに乾いた唇を開いて言った。


「あなたの良い面を言います。だから殺さないで」


「言ってみろ」


「あなたはとても正直で、本当のことを言います」


「ハズレだ。俺はとても天邪鬼で、嘘ばかりつく」


 金棒を、さらに高く振りかざした。


「待って! まだあります!」


「言え!」


「とってもニヒルで、クールです」


「クールじゃない。俺の心はキンキンに冷えてるのだ」


「待って待って。声が渋くてダンディです!」


「俺の声ほど嫌らしいものはない」


「あなたは強いです! 力持ち!」


「俺は力を必ず悪いことに使う」


「あなたは人間に、何が悪いかを教えてくれます!」


「そして悪を奨励している」


「あ、あなたは、あなたは、あなたは……」


「どうした? もう出ないか?」


「あ、あなたは、生きてるだけで素晴らしい! どんな鬼も、この世界に存在しているということは、この世の役に立っているのです!」


「何だそれは? ちょっとひどいな。殺そ」


 ブンと音を立てて、金棒が振り下ろされた。


 そのとき、セイラが寝返りを打った。


 金棒は、さっきまでセイラが寝ていた場所を打ち、ベッドを粉々に砕いた。


 セイラがパチッと目を開けた。


「あ、鬼さん」


 床に落ちたセイラが、青鬼を見上げて言った。


「ごちそうさま。美味しかったわ。鬼さんって、とっても料理が上手なのね」


 その瞬間、鬼がカッと目を見開き、地団駄を踏んで悔しがった。


「当てたな、人間! 俺の長所を! 恥ずかしくて顔から火が出る!」


 青鬼は顔を真っ赤に変容させると、ドアをぶち破って森の奥へと消えていった。


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