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辺境の地に追放された元隠キャ〜ハズレスキル【眼福】で覚醒したら精霊にも吸血鬼にも魔王にも狙われたけど美少女戦士たちとSSSSSSSSランクの幸福を極めました!!!!〜  作者: 夢間欧
第13章 SSSSSSSSSSSSS〜異世界恋愛したい!異世界恋愛したい!異世界恋愛したい!だって戦記は柄じゃないからね〜
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第178話 山に、巨人が

 夜が更けてきた。


風強かぜつよー、ガチ寒ー!」


 2万人の兵たちが、ガタガタと震えた。


 そこでジャックとオーガの夫婦が忙しく移動し、【ファイヤ】で焚き火をしてやったり、【料理】で腹を満たしてやったりした。


 にしても、オーガの【料理】は鮮やかだ。


 この何もなさそうな山の中から、珍しいクワガタや蝶を捕まえてきて、絶品料理に仕上げてしまうのである。


「えっ!? 蝶々って、こんなに旨かったの?」


 目を丸くする若い兵隊たちを見て、オーガはオホホと笑った。


「待っててね。今ヒクイドリを捕獲してくるから。あいつのモモ肉を食べたら、1日で6千メートルくらい登っちゃうわよ」


 戦いに疲れた兵士たちは、温かい料理を食うと、グズグズ鼻を鳴らした。


 内地に残してきた家庭の温かさを思い出して、感傷的になったのかもしれない。


「さあ、一杯どう?」


 オークが【盗む】で調達した酒を、ルイベが坐って注いでやった。


「あ、い、い、いただきます」


「お酒は初めて?」


「い、いえ」


「どうしたの? 緊張してる?」


「い、いえ、その、姐さんの手」


「手?」


「手を置いてる場所が、モモからずれているであります」


 まるで少年のように顔を赤くした兵士を見て、みなどっと笑った。


「ではみなさん、1曲聴いて下さい!」


 と、ボンバーヘッドを振り回して唄ったのは、もちろんMCヤマーである。



 すると陛下のありがたい託宣

 負けるが勝ちの作戦

 何より国民の命が優先

 余は処刑オッケーと率先

 ダー(号泣)



「何だあの兵卒、やけに芸達者だな」


 と感心したアタチ中将は、その正体がヤマ長官であることを知らない。長官は戦死したと思い込んでいるのである。


 翌日は、日の出とともに出発した。


 道は険しさを増していく。


 風も冷たさを増した。


「シャイニング!!」


 ルイベが光球を出現させた。するとそれが発する熱によって、兵たちは汗を掻きはじめた。


「アチチ、アチチ、どうしたんだろうか?」


「光球のせいだろうか?」


「熱があるんだろうか?」


 何だかよくわからないが、兵たちの会話はラテンっぽく聴こえた。


 それにしても、兵士たちの健脚ぶりはどうであろう。


 休むことなく道なき道を登り、翌日には、1人の脱落者もなく高度6千メートルの地点に到達してしまった。


 いや。これは健脚などではない。


 他の戦場で、歯を食いしばって戦い抜いている同志のことを想い、


(退却を選んで申し訳ない。待ってろ。1秒でも早くこの山を越えて、貴様らの助太刀に参上するからな!)


 後ろめたい気持ちになって、自らの肉体を虐め抜くような登り方をしているのである。


 戦争は嫌いでも、軍人のこういう姿に接すると、好きにならずにはいられなかった。


 そう。ちょうど1人のアイドルが嫌いでも、それが属するアイドルグループは嫌いにならないように。


 それだけに、逆説的ではあるが、


(この世の中から戦争がなくなって、彼らが戦わなくてもいい日が早く来てほしい)


 という願いが込み上げてくるのだった。


 そしてその翌日ーー


 僕らを含む先頭集団が、最後の難関である北壁に辿り着いた。


「これを越えれば、退却は九分九厘成功だ」


 アタチ中将が言ったとき、おそらく兵士の誰もが、


(そもそもこの壁を越えるのが、九分九厘不可能……)


 と思ったはずである。事実、そう考えるのが常識だった。


 ルイベのシャイニングのおかげで、身体は凍りつかずに済んでいる。だがボルダリングみたいな垂直の崖を、道具もないのに、いったいどうやって登攀すればいいのか?


「セイラ、何かいいアイデアはある?」


 グリアム王に【変容】しているセイラにそっと訊くと、


「そうね。私が巨人に【変容】して、みんなを摘んで向こう側に運んだら簡単だけど」


「ダメだよ。それだと軍人のプライドを傷つけちゃう。誰かに助けてもらって逃げたとなったら、突撃して死んだほうがマシだったって思う人たちだから」


「まあ実際、私もグリアム王から別のものに【変容】できないしね。うーん、難しいな」


 僕とセイラは、ともに腕組みをして考え込んだ。


 と、そのとき、変なイメージが湧いてきた。


 巨人が、この北壁をまたぎ越えるイメージだ。


「できる、かな?」


 僕は自分のアイデアが、我ながら気に入った。


「巨人だったら、ひとまたぎだよね。うん。ぜひそのシーンを見てみたい」


「アリスター、どうしたの? 独り言?」


「セイラの言葉で、おかしなことを思いついちゃった」


「何?」


「2万人の兵隊で、1人の巨人を造るの。そいつが山頂をまたいだら、あっという間にこの垂直の壁を越えられるでしょ?」


「2万人で巨人を造る? 頭は平気?」

 

「平気、平気、大量破壊兵器。なんちゃって」


 セイラが僕を、怖いものを見るような目つきで見た。


「まあ言ってみれば、究極の組体操だよ。2万人がくっついてさ。それだったら、誰が助けるでもなく、自分たちで山越えをしたことになるしね」


「ちょっと待ってよ! そんな数で組体操なんてしたら、下の人は潰れてどんどん死んでいくじゃない!」


「死なないんだよ、潰れても。ゾンビだから」


「あ」


 ということで、僕のアイデアを試しにやってみることになった。


 案の定、下になったゾンビ兵は潰れた。


 しかしそれは生ける屍である。その屍に足をかけて、次から次へと兵が上に登っていった。


 壁の下から上まで繋がった2万の兵の姿は、あたかも1体の巨人のようだった。


「すげえビジュアルだな。これぞリアル巨人兵だ」


 上の兵が登ると、その下で潰れていた兵が復活し、壁にしがみついた。


 軍人にとって、一糸乱れぬ団体行動はお手の物である。


 巨人の「右手」が登ると、「左足」が登り、次に「左手」、「右足」と続いた。


 そしてついに、1体の巨人は北壁を越えた。


 僕は不思議な感動に包まれていた。


 この光景こそまさに、ファンタジーの極致ですよおおお!!!!


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