第172話 地球のコトこっそり教えます
僕はまた、地球の戦争のことを思い出していた。
ニューギニア戦線、と呼ばれる一連の戦闘があった。
ニッポン軍と、マッカーサー大将の率いる連合国との戦いで、ニッポンが敗北した。
ちなみにこのニューギニア戦線を、ネットで検索したことがあるが、第2検索ワードは「地獄」だった。
とにかくこの熱帯の島は、自然環境が過酷なことで知られていて、ニッポン兵の死因の多くは、戦闘よりも感染症や餓死だったらしい。
中にはワニに食べられたという話もある。
またニッポン軍の撤退作戦において、4000メートル級の山越えをしているが、食糧も十分になく服はボロボロで、凍死や転落死が続出したという悲惨なエピソードもある。
あるいは泥の海のような河の中を、不眠不休で何十キロも歩いて渡る途中で、立ったまま死んでいった兵隊たちの話も残っている。
悲惨、また悲惨だ。
かつて太平洋戦争のシミュレーションゲームで遊んだとき、逃げるニッポン軍を先回りして、蛙飛び作戦(飛び石作戦とも言う)でマッカーサー将軍がピョンピョン現れるので、むっちゃ憎たらしかった思い出がある。
まあ、現実の戦争では、連合国も多大な犠牲を強いられたのだから、どっちも悲惨なことに変わりはないけど。
それはともかく、快進撃を続けてきたニッポン軍が、ミッドウェーの海戦で負け、ガダルカナル島からも撤退して、ニューギニアではいよいよ苦しい戦いに追い込まれていった訳である。
その中で、ニッポンに垂れ込めた暗雲を象徴するような出来事があった。
山本五十六連合艦隊司令長官の戦死である。
山本長官は、飛行機で前線視察に向かう途中で、アメリカ軍の戦闘機に撃ち落とされた。
墜落したのは、現在のパプアニューギニア領に属する、ブーゲンビル島のジャングルである。
この山本長官の戦死の事実は、約1か月も、ニッポン国民に知らされなかった。
山本長官は、国民から厚く信頼され、愛されていた。その死が伝えられると、ショックが大きすぎ、戦意の低下につながると大本営は判断したのだった。
事実、国民の受けたショックは大きかった。
山本五十六連合艦隊司令長官は、平民としては初めて国葬にされ、それはラジオで実況中継された。
そしてここから、ニッポンは坂を転がるように負け続けた。
真珠湾奇襲攻撃を発案した山本長官は、
「緒戦は勝つ。しかし長引けば負ける。だから勝っているうちに早期の講和を」
と考えていたようだが、現実はズルズルと長引いて負けてしまった。
その負けた要因の1つに、ニッポン軍の暗号電が、アメリカ側にすべて解読されていたことが挙げられる。
山本長官の搭乗機が撃墜されたのも、暗号の解読により、その行動の逐一がアメリカ側に筒抜けになっていたからであった。
そして山本長官の死がニッポンに与える影響も、アメリカは十分に研究し尽くしていた。
それに対してニッポンは、暗号が解読されていた事実を、ついに敗戦を迎えるまで知らずに(あるいは認めようとせずに)いた。
だから圧倒的な物量差だけでなく、情報戦においても、ニッポンはアメリカに大きく遅れをとっていたのだ。
さて、話を異世界に戻そう。
場所は「地獄の島」、パッパラーピロピロ島のジャングル。
僕たちは、ダレノガレノ島から撤退し、この島に「転進」してきた。
転進、つまりは負けです。
本格的な反攻作戦に転じたシン軍は、ダレノガレノ島でもパッパラーピロピロ島でも、惜しみなく兵力を投入してきている。
特に、ピリピン島奪還に燃えるマッサーカー司令長官は、蛙飛び作戦で、このパッパラーピロピロ島にピョーンと跳んできた。
この戦場を、シン軍はそれほど重要視しているのだ。
さらに、シンの戦闘機は、ヤマ長官の乗った飛行機をまんまと撃ち落とすことに成功した。
きっと、ナン軍の無線はすべて傍受され、その暗号はことごとく解読されているのだろう。そうとしか思えなかった。
(いよいよナンは負けるな。まあそれは、僕の作戦とも一致するんだけど)
が、シン軍にとって、1つ大きな誤算があった。
ヤマ長官は生きているのである。
搭乗機は墜落し、炎上した。
だから当然、ヤマ長官は死んだと考えているだろう。
ところがミットモネーの作戦のとき、ヤマ長官に【ゾンビーズ】をかけてゾンビにしてあったので、飛行機が爆発炎上したくらいでは死なないのである。
不死者ゾンビが死ぬのは、聖属性の技か、回復系の技をかけられたときだけだからだ。
そのヤマ長官の姿をジャングルで見たとき、
(どうしてこんなところに海軍大将が?)
と驚いたが、地球の戦争のことを思い出し、きっとあの山本五十六司令長官と同じように、前線の視察に向かうところだったのだろうと納得した。
そして僕は、大きな迷いに直面した。
その迷いを、ヤマ長官に伝え、どう考えるか意見を聞きたかった。
がーー
「お尻を掻いてるトコ見て!!」
「ピロピロピロピロピロピロ、ブーッ!! ブーッ!! ブーッ!! ブーッ!! ブーッ!!」
戦場でグリアム王と会った驚きに、我を忘れるほど感激したヤマ長官は、いつまでもピロピロ笛を吹いて何度も何度も屁をするのだった。




