第171話 地獄島で会いましょう
パッパラーピロピロ島に上陸したとたん、物凄いスコールに見舞われた。
「ヒャー、こんな雨は初めてだ。1時間1000ミリとかじゃね?」
僕はグリアム王をお守りするという名目で、その濡れた身体をギュッと抱き締めた。
「ダメよ、アリスター。【変容】がバレちゃう」
「大丈夫さ。誰も疑ってないよ。セイラの演技は完璧だから♡」
「もうやめて! アホの真似は死ぬほど恥ずかしいんだから!」
すると王に無礼を働いたとでも思ったのか、兵が次々と刀を抜いた。
「待て、落ち着け! そんなことより、早くジャングルに身を隠そう」
と言いながら、逃げるようにしてジャングルに駆け込んだ。
しかしーー
パッパラーピロピロ島のジャングルは、ハッキリ言って、
《この世の地獄》
だった。
土はドロドロのグチャグチャ。木の根はゴツゴツのボコボコ。葉っぱはギザギザのトゲトゲ。そして何だか知らないけど、むちゃくちゃ臭い!!
こんなところに1時間もいたら、ありとあらゆる病気に罹って昇天しそうだった。
さらに10歩も歩くと、
ゴルフボールくらいある蚊が現れた!!!
「ギャー!! こんなのに血を吸われたら死ぬ! ジャック、燃やしてくれ!」
「ファイヤボール!!」
オーバーキル! 蚊をやっつけた!!
「って、蚊1匹にファイヤボールを出してたら、体力がもたんぞ」
などとジャックがボヤいているあいだにも、やっぱりボールくらいの大きさのヒルやら蟻やらシラミやらがバンバン襲ってきた。
「ワー! ワー! マジで気持ちわりー! もう帰らせてくれ! オエーッ!!」
僕は虫が吐くほど嫌いなのだ。
「ファイヤボール!」
「ライトニング!」
「ダークショット!」
ジャックやルイベやオーガが技で虫退治をしてくれて、何とか僕は前に進むことができた。
「あー、早くナン軍の陣地に着きたい。どっちに行ったらいいんだろう?」
するとガマグチ少将が、
「たぶん西に、60キロくらい行けば」
60キロ! 死んでまうわ!
ま、ゾンビだから死なないけど、むしろ殺してくれって感じ。そのくらいヤバい戦場だ。
「先に上陸したナン兵たちも、急いでゾンビにしてあげないと。この劣悪な環境だと、戦闘しなくてもじきに死ぬぞ」
僕は改めて、戦争を憎んだ。
国を守りたいという純粋な気持ちを持った兵士たちを、こんな地獄の島に送り込むなんて、情けなさすぎる。
国が何をしてくれた? え? 王様は、魔王にいいように牛耳られて、操られてるだけじゃないか。
その王を陛下陛下と持ち上げて、戦争に利用している軍の上層部や大臣たち。
むっちゃ腹立つんじゃ!!!
と、天に向かって拳を振り上げたとき、
「……ん?」
上空で、空中戦が行われているのが見えた。
シン軍自慢の戦闘機、B31スペシャルが4機飛んでいる。
それが攻撃しているのはーー
「あっ! ナン軍のイーグルゼロだ!」
イーグルゼロは、ジャングルに向かって急降下中だった。
B31スペシャルがそれを追い、機銃掃射する。
イーグルゼロは急速大旋回! 間一髪で攻撃を躱した!!
と思ったが、
「やられた!」
イーグルゼロが火を噴いて、たちまちコントロールを失って墜落するのが見えた。
鬱蒼としたジャングルに突っ込むイーグルゼロ。
直後に激しい爆発音がし、黒煙が噴き上がった。
ああ、ついに……
ナン軍に、犠牲者が出てしまった。
パイロットはきっと即死だろう。
クソッ!
ここまでの努力が、水の泡になった!!
敵も殺さず味方も死なさない。そんなことは、最初っから無理だったんだ。
虚しい。
悲しい。
やり切れない。
戦争になんか、関わるんじゃなかった。
ドロドロの地面に膝をついて、僕は涙を拭った。
するとグリアム王に【変容】したセイラが、
「飛行機が落ちたところに行ってみよう。まだ間に合うかもしれない」
「……間に合う? 何が?」
「ヒーリングよ。もしパイロットがパラシュートで脱出して死んでなかったら、助けられるわ」
そうか。パラシュートがあった!
ひょっとしたら、まだ命を救える可能性がある。
僕は立ち上がり、その可能性を信じて、ジャングルを前進した。
木の根につまずき、虫を追い払い、植物のトゲに傷つきながらも、懸命に黒煙のほうを目指した。
やがて前方から、人がやってくるのが見えた。
その人物は僕を見るなり。
「アリスター二等兵!」
と叫んだ。
僕は目を見開いた。
「ヤマ長官!?」
信じられなかった。
イーグルゼロに乗っていたのは、あの海軍大将のヤマ長官だったのだ!
そして長官の後ろから、パイロットのナグモさんも現れた。
「いったいどうして……」
僕が驚きに絶句していると、
「陛下!!!」
僕以上に、グリアム王を見たヤマ長官が仰天した。
「ななななななななななななななななな」
なんで? の一言さえ、最後まで言えない様子だった。
「ヤマよ」
とグリアム王は言うと、おもむろにブリッジをして股間を掻いた。
「股間を生で掻くのはサイコー!!」
「へ、陛下あ!!!」
感極まったヤマ長官は、ナグモさんと並んで豹のポーズをし、号泣しながら股間を掻きむしった。




