第165話 グラミー賞級の復活!!
「まずは、飢えているナン兵を救おう」
ガルーダを低空飛行させながらそう言うと、
「危ない!」
セイラが叫んだ。
見ると、シンの戦闘機が東の空から迫ってきた。
機関銃が火を噴く!!
「マズい。僕たちはゾンビ化しているから死なないけど、ガルーダに当たったら傷つく。天に帰してあげよう」
「みんな、私に乗り移って!」
セイラが大鷲に【変容】した。僕らはそれに乗り、召喚獣を帰してやった。
セイラ鷲は戦闘機の攻撃を巧みによけ、ダレノガレノ島のジャングルに舞い降りた。
そのジャングルに、容赦なくバンバン爆弾が落とされる。
「ヒャー! ここの戦場は凄まじいな。ガポールやピリピン島の比じゃないぞ!」
「いよいよシン国が本気を出してきたんだ。弾はいくらでもあるから、きっと湯水のように使うだろう」
「ナンの兵隊さん、死んでないかしら……」
僕とジャックとセイラが口々に不安を洩らすと、
「早くこの島にいる人たちをゾンビ化させるわよ。そうすれば、物理攻撃なんて屁でもないんだから」
オーガがそう言って、ずんずん歩きだした。
そのとたん、爆弾がオーガを直撃した。
「オーガ!!!!」
僕らは爆風に吹き飛ばされながら、オーガの名を叫んだ。
地面に円い穴が空き、オーガは煙になって蒸発したように見えた。
バラバラの肉片と化して……
が、そのとき、
「チャーラー、チャーラーラー♫」
妙なふしをつけて唄いながら、オークが変テコなダンスを踊り始めた。
「デデンデンデンデデン、デデンデンデンデデン、デデンデンデンデデン、デデンデンデンデデン♩」
「オークのやつ……目の前でオーガがバラバラになって、頭がおかしくなっちゃった」
僕は目頭を押さえた。オークは発狂した。そうとしか思えないほど、その歌とダンスは異様だった。
「あ、ポー!! あ、ヒーヒー! ポーポー!」
みんなも泣いた。オークは右に左にステップを踏んで、両手をガォーという形にしたり、ときおり電気に打たれたように手足をビクビク痙攣させたりした。
「あ、ポーポー! ヒーヒー! あ、ヒーヒー、ポーポー!!」
そのとき、不思議なことが起こった。
バラバラになったオーガの肉片が動き出し、やがて1つにまとまって、オークと一緒に踊り始めたのだ!
「あラッチャッチャラ、ポーポー! ヒーヒー! ポー!!」
「オーガ!!!!」
僕たちはオーガに走り寄って、その逞しい身体を上から下まで叩いた。
「良かった、良かった! 無事なんだな?」
「もちろんそうよ」
オーガはちょっぴり恥ずかしそうに笑った。
「だってアタシはゾンビ、すなわち不死者だもの。普通に殺されたって死にやしないわ」
「だけど木っ端微塵になったからなー。もう復活は無理かと思ったよ」
「アンタたちも爆弾に当たってみるといいわ。いい経験になるわよ」
いやー僕たちはと、みんなでブルブル首を振った。鬼だからまだいいけど、人間の僕らがああなったら絵的にグロすぎる。
「だけど」
僕はオークを見て訊いた。
「さっきの歌と踊りがないと、復活できないの?」
するとオークは、
「そんな訳ないだろ。ミットモネーの海戦で死んだとき、アリスターはオイラの踊りで復活したか?」
「いや……じゃあ今回は、なんで唄って踊った?」
「そりゃもちろん、演出さ。ムードが出たろ?」
意味なかったのかよ!
と、その瞬間、オークに爆弾が落ちた。
「またかー! オーク、復活しろ!」
木っ端微塵になったオークは返事をしなかった。
「仕方ないなあ……演出するか」
僕は気が進まなかったが、オークが復活しやすいように、ヒーヒーポーポー踊った。
すると、
「コラッ、何をしてる!」
ジャングルの奥から出てきた2人組のナン軍の兵士に、両腕をガチッとつかまれた。
「どうした? 恐怖で気が違ったか? それとも幻覚を視る毒キノコでも食ったか?」
「いや。これはどう見ても、この島の伝染病に脳を冒されたのだ」
「そうか。野戦病院はおろか、ここには医薬品もない。かくなる上は、皇軍の体面を守るために特別に自決を許す」
さあさあ割腹をどうぞと小刀を握らせてくるので、
「自殺させないで下さい! 病気じゃないですから!」
と怒鳴ったとき、バラバラのオークが1つに固まって復活した。
「ギャー!!」
いかに訓練された兵士でも、さすがにこの光景はグロすぎたのか、2人揃って尻もちをついた。
「ス、ス、スリラーだ!」
「ポー!!」
よせばいいのに、オークがガォーの振り付けで脅かした。
「えー、驚かせてすみません。我々は冒険者で、少々技が使えます。そこで戦場で死なないために、不死者になる技を自分たちにかけたのです」
「……技?」
「はい。【ゾンビーズ】といいます。みなさんにもかけたら、銃や爆弾でやられても死ななくなります」
「い、今みたいに、復活するのか?」
「そうです。ただし聖属性や回復系の技、もしくはアイテムを使われたら、逆に死んでしまいますけど。敵のシン軍に、そういうのを使える冒険者はいないですか?」
「そんなのは、聞いたこともない」
「良かった。じゃあかけたほうがいいです。あ、でも、もしゾンビになるのは皇軍の体面を穢すとお考えでしたらーー」
「今すぐやってくれ。いつ爆弾が降ってくるかわからん」
そこでオーガが【ゾンビーズ】をかけた。
次の瞬間、オーガとオークが揃って被爆した。
「チャラッチャチャ、ヒーヒー! ポーポー! あ、ポー!!」
復活したオーガとオークが見事に息の合ったダンスをすると、2人の兵士は何とも言えない複雑な表情を浮かべた。




