第162話 ついに秘密を知られた……
それにしても、ガダルカナル島の戦いは悲しい。
ニッポン、特に陸軍は、アメリカを舐めていた。
「まだまだアメリカは反撃してこない。ガダルカナルは楽勝でとれる」
そんな空気だったらしい。
しかしアメリカは、ニッポンの何倍もの兵力で攻めてきた。
とにかく物量差が圧倒的なのである。
しかもですよ?
飛行場を建設するときに、アメリカは、ブルドーザーであっという間に造る。
だがニッポンは、ツルハシとシャベルでエンヤコラサとやるのである。
むちゃくちゃな差じゃないスか?
勝てっこないです。
だけど陸軍は意地になって、敗戦濃厚なこの島にどんどん援軍を送り込んだ。
送れば送るほど、犠牲者は増えるばかり。何とも切ない、ひたすら兵力を消耗するだけの戦いが続く……
どうしてもっと早く、撤退の決定を下さなかったのか?
現場は悲惨ですよ。
食糧が届かないから、兵士はガリガリに痩せる。
マラリアに感染してバタバタと倒れる。
死ぬとわかっている無謀な「突撃!」を繰り返す。
悲しいです。
いったい司令官や参謀たちは、何を考えていたのか?
やっぱり緒戦の連戦連勝で、ニッポンは負けないんだと調子に乗って、頭に血が昇っていたんでしょーね。
ミッドウェーの海戦もそうだったけど、冷静な判断ができていない。そしてここからニッポンはどんどん負けていく……
「ゾンビ作戦のおかげで、ミットモネーの海戦は勝った。だけどナン軍には、これで調子に乗ってほしくないなー」
僕はそれが、心配になってきた。
「ヤマ長官の話だと、食糧を補給する船が狙い撃ちされてるみたい。ということは、島に残された兵は飢えてるよね? 腹が減っては戦ができぬって、昔っからよく言うじゃん」
「ーーそんなことわざあった?」
いけね。これはニッポンの言葉だった。
「いや、セイラ、僕の言いたいのは、作戦を命令している上層部が、現場の実情をよくわかってないってこと。食糧の補給がなけりゃ戦えないのは、子どもでもわかる常識だよ。でも現場は、できませんなんて言えないだろ?」
「そうね。作戦中止の命令が下されないかぎり、兵は戦い続けるしかない」
「だから上層部は、常に冷静に戦況を判断しないといけないんだ。ダレノガレノなんてちっぽけな島にこだわってないで、飢えた兵を一刻も早く撤退させないと」
「私たちでやる?」
「そうしたい。だけど上層部は、きっと勝つ気でいるだろ? それなのに勝手に兵を撤退させたら、敵対行為と勘違いされて、下手したら僕たち全員死刑」
「どうして? 事情を説明しても?」
「その事情を理解できる人がいたら、そもそもこんな無謀な戦争はやってないよ。あー、どうしよう。僕はこの戦争に、どこまで介入したらいいんだ」
ガルーダの翼の上で、僕は頭を抱えた。
「アリスター、何を心配してるの?」
セイラが寄り添ってくれた。
「1人で悩んでないで、私に話して」
ああ。
女の子がそばにいてくれるって、なんて素晴らしいんだ。
あったかくって、柔らかくって、胸がふくらんでいる存在が近くにいると、それだけで、僕は無双にも最強にもなれる気がしてくる!
そんなセイラを、僕は一生笑顔にしたい!!
「ありがとう、セイラ。実は僕、ずっと悩んでたんだ」
「何を?」
「僕たち、これまでナン軍を勝たせてきたでしょ?」
「ダイヤモンド湾の奇襲攻撃から、ミットモネー諸島の海戦までね」
「うん。アレー海戦もガポールもピリピンもジャバもそう。僕たちの介入で、ナンはここまで無傷で連勝を重ねた」
「文字どおり無傷よね。なんてったって、敵も殺さず、味方も死なせてないんだから」
「それはすごく大きな意味があったと思う。でも戦争って、いつかは終わらないといけない。じゃあ果たして僕らがナン軍を勝たせ続けたら、どうなるんだろうって思うんだよ」
「アリスターは、どうなると思うの?」
「わからない。だけどものすごく心配なんだ。ナンはヒノ国と同盟を結んでるでしょ? そのナンに、もしシンとミラの連合軍が降伏したら、ヒノのチョビひげのニトラー総統が全世界を支配するんじゃないかと思うんだ。それはきっと、恐ろしい結果になる」
「ニトラー総統は、軍国主義者だもんね」
「それだけじゃない。差別主義者でもある。ひょっとすると、ミラ人を根絶しろなんて言い出すかもしれない」
「大量虐殺が起きる可能性があるのね」
「それを考えると、自分のやってることが、正しいのかどうか疑問になってくる。真の平和のためには、このあたりで、ナン軍を負けさせないといけないのかなあって……」
僕は再び、頭を抱えた。
「すでに僕たちは、ナンの陸軍を調子に乗らせちゃった。だからダレノガレノでも、きっと無理な作戦をするだろう。ああやっぱり、ミットモネー海戦あたりでは、少し負けさせておくべきだったか……」
するとセイラが、不思議そうな声を出した。
「アリスターの考え方、冒険者っぽくないね」
「……そう?」
「冒険者は、いつでも目の前の戦いに勝つことに全力をあげる。そうでないと、前に進めないから。負けたほうがいいっていう視点は、すごく珍しいと思うな」
セイラは首を傾げた。
そして、僕の心臓が止まりそうな一言を放った。
「もしかしてアリスター、転生者?」




