第154話 シムラ中将、後ろ!!
キューティーペア大活躍!
捕虜たちは口笛andスキップで捕虜収容所へ!!
「さて。ピリピンは攻略した。またまた死傷者ゼロだ。戦争でこれは世界記録じゃない?」
僕がちょっぴり自慢して言うと、
「浮かれてる場合か!」
とホンマカイナ中将に怒鳴られた。
「ピリピン攻略は、石油確保の最低条件だ。ここまで勝つことは軍では織り込み済みだったのだ!」
よく言うよー。ついさっきまで、ウェーンって泣いてたくせに。
「じゃあ僕らはどうしましょう。石油確保を手伝いますか?」
「当たり前だ! 今すぐジャバ島へ飛べ!!」
人使い荒っ!
ムカついた僕は、中将が後ろを向いた隙にケツを蹴り上げた。
「あっ! 何をする。軍法会議にかけるぞ!」
「クソッタレってんだ! アホが偉そうに威張ってんじゃねーよ、バーカ!!」
僕は生まれて初めて権威に盾突くと、セイラが喚んでくれたガルーダにひょいと飛び乗った。
「軍人なんて、平和になったら要らなくなるぞ。今のうちに何の商売をするか考えときな!」
グングン小さくなる眼下のピリピン島に向かって、捨てゼリフを残した。
「珍しいね、アリスターが汚い言葉を使うなんて」
キューティーペアのセイラが、僕の顔を覗き込んで言った。
「戦争のせいだよ。早く平和になってほしい」
「そうね。みんなもそう願ってる」
「あーあ。みんなにもスキル【眼福】があればなあ。そうしたら、あんなに緑豊かな島を、コンクリートの要塞になんか絶対しないのに」
「そうね」
「この世界にはいいものが溢れてる。それを毀すだけでも戦争は悪だ。ましてや違う人種の人を殺そうとするなんてさ。ナン人もシン人も、いいところばっかりじゃないか」
「そうね」
「僕が死んだらみんな仲良くしてくれるんなら、喜んで死んでやるけど」
「僕が死んだら?」
セイラが眉をひそめた。
「どうしてそういう発想になるの? 意味わかんない」
「別に、意味はないけど」
「死にたくなった? 戦争が嫌で」
「違うよ。ただ何となく言っただけ」
「じゃあ2度と言わないで」
セイラが怒って顔を背けた。
(変なこと言っちゃったな)
僕は反省した。
(だけど、最終的に僕が眼福マスターになるには、みんなのために命を捨てる必要がどうしてもある気がする。よくわからないけど、世界を【幸福】にするには、そのくらいしないと釣り合わない気がするんだよなー)
まあ、これ以上考えてもしょうがない。アホは何も考えないのがいちばん!
と、前方に、ナンの荒鷲飛行隊が見えた。
「あ、さっそくジャバ島上陸作戦が始まったな。よし、掩護するか。ガルム!!」
喚んでしばらくしてから、召喚獣ガルムは大海を犬掻きでやってきた。
「わりぃ、わりぃ、犬なのに海に喚んじゃって」
しかし根が「いいやつ」である冥界の番犬は、敵の船団めがけて波を蹴立てて泳いでいった。
遠くから見ても、シン海軍の軍艦が慌てだしたのがわかった。
「よしよし。荒鷲飛行隊に一発も撃たずに、大陸の港のほうに戻っていったぞ。そりゃそーだよなー。僕だって、鎖でつながれてない犬が迫ってきたら逃げるもの」
ガルムの活躍で、無事ナン軍はジャワ島に上陸した!!
「よし、僕らも島に降りてみよう」
ガルーダでジャバ島に着陸すると、すでに白旗が立っていた。
「シン軍、諦め早っ!」
でもそれはそうかもしれない。軍艦が尻尾を巻いて逃げ出して、敵の軍が全員無傷で上陸してきたら、抵抗するだけ無駄だと思うだろう。
「し、し、し、白旗ってか、白旗ってか?」
ナン軍から1人の男が進み出て、えらく大げさに驚いた。
誰あろう、その人こそ名将との誉れ高い、ジャバ方面軍司令官のシムラ中将だった。
「白旗って白いだねー、白いやーねー」
「……何だ、きみは?」
と、シン軍から1人の男が前に出て、不審げに訊いた。
これは敵の司令官、スッテンテン中将であった。
「な、何だチミは、何だチミはってか?」
と、相手方の無礼に、シムラ中将は極めて当然のリアクションをした。
「怒っちゃやーよ、怒っちゃやーよ!!」
「……怒ってないけど」
と、敵は敗軍の将のくせに、醜い言い訳をした。
「あんだ、バカヤロー」
ほら見ろ。怒られた。
「だいじょぶだぁ〜」
が、優しいシムラ中将は、すぐにフォローする。
「スッテンテン閣下」
僕は敵の司令官に言ってやった。
「こんなことを言ったら悪いですけど、シムラ中将に勝てる人はいません。もう格が違います。謝って下さい」
「え……謝るの?」
「当たり前でしょう。降伏するんでしょ? それともシムラ中将とやります? 勝負にならないと思いますけど」
スッテンテン中将は、シムラ中将を見た。
「だっふんだ! アイーン! だから変なおじさん」
「ごめんなさい!!!」
何かを感じとったのか、スッテンテン中将は即座に地べたに土下座をした。
やっぱり……
シムラ中将の偉大さは、人種も国境も超えた!!!!




