第144話 アニメは世界を救う!!
僕は艦橋の操舵室に入り、双眼鏡を前方に向けた。
「む?」
水平線に戦艦らしきものが見え、艦砲から赤い炎を吐いていた。
「空に向かって撃ってるぞ。たぶんナンの戦闘機とやり合ってるんだな」
「よーし、急ぐわよー!」
戦艦に【変容】した美少女セイラが、拡声器を使って叫んだ。
「全速前進、ヨーソロー!!」
うーん、これまた萌えますなあ!
プリンセス・オブ・セイラは、巨体に似合わぬスピードでかっとばした。
「うわー、速ええー! ターボエンジン付きかあ?」
するとミラの駆逐艦と会敵した。
「撃てえ! じゃなかった撃つなあ! 平和的解決をするんだあ!!」
「了解、キャプテン、アイアイサー!!」
プリンセス・オブ・セイラはスピードをゆるめ、主砲を敵艦に向けた。
「網タイツ砲、発射!!」
ダーンと50口径の主砲から飛び出しのは、超巨大な網タイツだった。
それは投網のように広がると、駆逐艦を見事に捕獲した。
「うーん、さすがセイラ。相手を傷つけずに、戦闘不能にしたね」
「女の子らしい武器でしょ? 実は戦艦って、網タイツに弱いんだ。エヘッ♡」
みんなも意外だったでしょー?
ミラ艦隊の駆逐艦は4隻で、すべて網タイツで絡めとった。
「キャプテン、あとは戦艦プリンス・オブ・ミラと、巡洋艦バルスとの対決を残すのみ。これを制すれば、ミラの一大要塞、ガポール軍港の守備はガタガタになる。ナン軍に一気にチャンスが出てくるのよ」
「お、おう」
「プリンス・オブ・ミラのキャプテンは、かの有名なヘリップス提督。でもその名前に気圧されないで。あなたが勝てば、アリスター提督の名前が歴史に刻まれるのよ!」
「って、そもそも僕はへリップス提督なんて知らないし。セイラ、軍事に詳しすぎるよー」
なんてことをくっちゃべってるうちに、巡洋艦バルスが近づいてきた。
「……ん?」
僕は目を瞠った。
爆音が轟いたと思うと、バルスの艦首と艦尾から、同時に炎が噴きあがったのだ。
巡洋艦バルスは、ゆっくりと左に傾いていく。
「すげえ……」
僕は放心し、空を仰いだ。
ナンの荒鷲飛行隊が、大空を背景に舞っていた。
世界に冠たるミラの艦隊。
それに、弱小国家のナン軍の戦闘機が襲いかかって、今まさに二番艦を撃沈しようとしているのだ!
実はナンって強かった?
いやいや、そんなことはない。
たぶん荒鷲飛行隊は、命を捨ててバルスに挑んでいったのだろう。
その捨て身の闘魂が、力に勝るミラの海軍を上回ったのだ!!
「すごいなー。弱くても、勝っちゃうことがあるんだ」
僕は感動していた。しかし、僕の立場からすれば喜んではいられない。平和のために、バルス号の乗員たちを救わなければ!
「セイラ、救援活動だ!!」
「アイアイサー!」
アイアイサーって、愛愛さーって変換すると萌えるよね? んなことないか。
「救助ボート、発射!!」
副砲からゴムボートがボンボン発射され、バルス号の近くに着水した。
「みなさん、急いで乗り移って下さい」
操舵室で、僕はマイクに向かって話した。
「僕たちは敵ではありません。味方でもないですが、強いて言えば平和の味方です。どうぞみなさん、自分の命を救う行動をとって下さい」
そこで言葉を切って待った。が、バルス号には何の動きもない。艦は着実に沈んでいっているというのに。
「ほら、急いで。みなさんにも家族がいるでしょ? 国が勝とうが負けようが、家族を泣かしちゃ意味なくないですか? 生きて帰ってあげて下さいよ」
やはり動きはない。みんな、あの鉄の塊と心中する気か? 僕は焦った。
「ほらほら、死にますよ? 死んだら楽しいことあります? 女の子と遊べます? 遊べないでしょ? 好きな子の顔を思い出して。ほら、会いたくなったでしょ? 話したくなったでしょ?」
もうひと押しだ、と思った。軍人たちがプライドを捨てて投降するには、あともうひと押し!
「ねえ、みさなん。マンガって知ってます? 好きな子の顔をマンガに描いたことないですか? もし世の中が平和になって、科学的技術を戦争じゃなくて遊びに使ったら、動くマンガができるんですよ。観てみたくありません? 超可愛い女の子が、動いてしゃべって敵をやっつけたりするんですよ? 愉しくないですか? だから戦争なんてやめて、早くそういう世の中にしましょうよ〜」
そのときだった。
バルス号から、続々と軍人たちがボートに飛び降りたのだ!!
やった……
僕の目から、ひとすじの涙が流れた。
(アニメの力を信じて、良かった……)
すると、続けて信じられないことが起こった。
主艦、プリンス・オブ・ミラのマストに、白旗が翻ったのだ!!!
(ヘ、ヘリップス提督!!)
僕は思わず、見えない敵のキャプテンに向かって敬礼をした。
(あなたもまた、アニメのためにブライドを捨てて下さったのですね!)
奇跡は起きた。
このアレー沖の海戦は、全世界の予想に反して、ナン軍の完全勝利に終わったのだ!!!!




