第141話 弱国、奇襲ニ成功セリ!!
「どーもスイマセン。僕、アリスターといいます」
いちおう挨拶した。すると、
「俺はナグモだ。お前は冒険者だな?」
と、戦闘機パイロットも名前を教えてくれた。
「はい、ナグモさん。念のため訊きますけど、ナンの軍人さんですよね?」
「そうだ。お前も皇国の臣民か?」
「コーコクのシンミン……ま、たぶんそうっス」
「……頭悪そうだな」
「……照れるっス」
「褒めてない! しかし冒険者のくせに、何で我が雷機に乗ってきた? ドラゴン退治でもしてりゃいいのに」
「我が雷機……ああこれ、魚雷を積んでるんですね」
「そうだ。今から奇襲攻撃で、ダイヤモンド湾に碇泊している戦艦を大破するのだ!」
すこい鼻息だね。アドレナリン全開だ。
「そうスか。でも、後味悪くないスか?」
「何が?」
「戦艦に乗ってる人、死ぬじゃないですかぁ?」
「頭の悪い言い方はよせ! これは戦争だ。戦争とはそーゆーもんだ!」
「ねえ、引き返しましょうよ。今から殺す人にも、家族がいますよ」
「あったりまえだ! 俺だって家族くらいいるわい! 皇国の臣民が、どーして決意を鈍らせることを言う? 皇国の興廃はこの一戦にあるんだぞ!!」
どっかで聞いたようなセリフだなーと思った。街頭の選挙演説でかな?
「僕、戦争には反対です。ね、逃げましょ。相手も殺さず、自分も死なないのがいちばんっスよ」
「この非国民があっ!!」
ナグモさんは逆上した勢いでブーッと屁をした。
「あ、ゴメン。つい」
「全然いいです。ねえねえ、戦争やめましょうよー」
「しつっこいなあ……あのさあ、これで魚雷を落とさずに逃げたら、俺長官に殺されっから」
「長官って、ナンの艦隊の?」
「そう。かの有名なヤマ長官だ」
ヤマ長官。ちっとも知らない名前だが、きっと地球のニッポンにおける、山本五十六連合艦隊司令長官のような存在なのだろう。
「大丈夫スよ。敵に撃墜されそうになったって言えば」
「そんな理由で帰艦したら、誰も突撃しなくなるっつーの!」
軍人って頭が固いよねー。どうして人のアドバイスを素直に聞けないんだろう。
(セイラたちはどうしたかな。それぞれテレポーテーションした場所で、上手く軍人を説得してるだろうか?)
誰がどこにテレポーテーションしたかはわからない。しかしみんな、平和のための行動をとってくれているはずだと信じていた。
まー僕たちはアホだけど、人を殺すよりは殺さないほうがいいってことくらいは、さすがにわかってますからねっ(キリッ)!
「さあ、そろそろダイヤモンド湾が見えてきた。下降して魚雷を落とすぞ。しっかりつかまってろ!」
僕はナグモさんに抱きついた。周りを見ても、それしかつかまるものがなかったのだ。
「っつたく。こんな狭い操縦席に瞬間移動してくるなんて、冒険者ってのはアホなのか、パーなのか?」
「生きて帰艦して下さいよ。僕、彼女いるんで、ナグモさんと心中したくないんです」
「ハハハ。生きて帰れる可能性なんて、1パーセントもあるもんか。敵艦にギリギリまで近づくんだから」
「ダメです! できるだけ遠くから魚雷を落として下さい!!」
「アホ。湾内の水深はたったの12メートルだぜ? 高いところから落としたら、魚雷は海底に突き刺さっちまう。そうならずに戦艦の底に魚雷を浮上させるには、海面スレスレまで下降しないと。だろ?」
「……死ぬ気ですか? 何のために?」
「もちろん、グリアム陛下のためだ」
嘘ーっ???
「あの王様のため? 嘘でしょ? ねえ嘘って言って!」
「何でそこでキレる?」
「ずーっと魔王に牛耳られてきた王ですよ? 衛兵たちには陰でキングオブバカって呼ばれてるんですよ? そんな人のために死ぬなんて……僕ちょっと、悲しすぎます」
「泣くなよ。俺は陛下の赤子だ。陛下のために死ぬのは当たり前の話だ」
「グリアム王がナグモさんを産んだんじゃないでしょ? 命は尊いっスよ。王様を好きになってもいいですけど、それとこれとはキッチリ区別しなきゃ」
「陛下の御心を知らないとは哀れなやつだ。さっさとテレポーテーションで去れ。もう一刻の猶予もない」
「嫌です! ナグモさんが自殺する気なら、僕はこうします!!」
「あっ、バカ!!」
僕は操縦桿に飛びつき、グイと引っ張った。
とたんに戦闘機は機首を上げ、下降から上昇に転じた。
「鉄拳!!!」
ナグモさんは血相を変えて、軍人の固有技である【鉄拳】を繰り出した。
ガーンと頭が割れるような衝撃があり、目の前が真っ白になった。
ハッと意識を取り戻したとき、戦闘機は、海面に向かって突っ込むところだった。
「ああ、ここでナグモさんと心中か。せっかく異世界に転生して彼女もできたのに……無念」
「投下!!!」
戦闘機は海面スレスレで魚雷を落とし、鮮やかに機首を巡らせて上昇した。
「オエーッ!! 飛行機に酔った!!」
胃がひっくり返ってゲーするかも、と思った瞬間、眼下の海で水柱が立った。
ドーンというすさまじい轟音。
そしてーー
投下した魚雷が艦底を直撃した戦艦が、その巨体をゆっくりと傾けるのが見えた。
ナグモさんは見事に任務を果たし、生きて帰艦の途についたのだ!!!!




