第137話 追い詰められた王
「あーあ陛下」
と僕は言った。
「ついに魔王に、骨の髄までアホにされましたね」
「何で?」
「戦争なんて、アホの極みですよ」
「そう?」
「そりゃそースよ。いいことなんか、ひとっつもないですよ」
「そうかなあ……」
グリアム王は、腕組みをして考え込んだ。
「あんだけ考えたんだがなあ……」
「それ!」
僕はビシッと王を指差した。
「考えるから間違えるんです。考えないで、答えを出して下さい」
「考えないで、どうやって答えを出すの?」
「陛下は戦争をしたいですか?」
「いや、したくはないよ」
「はい、答えが出ました。したくないのなら、しないのがいちばん!」
「しかしいくら余がしたくなくても、世界情勢が」
「そんなものは無視しなさい。世界は魔王の影響下にあるでしょ? その世界の情勢に踊らされたら、魔王の思う壺ですよ。だって魔王は、人間同士が殺し合うところを見たいんですから」
「それ、各国の王に教えてきてくんない? 無理?」
「僕じゃなくて、陛下がやるべきです。魔王に牛耳られてきたナン国の王が言えば、説得力がありますよ」
「でもさあ、ミラ国もヒノ国もシン国も、みんなナンを狙ってんだもの。その王の余が何を言っても、それこそ『今さら遅い』じゃない?」
解説しよう。
この世界は、4つの国に分かれている。
寒ーい北がナン国。資源も金もない。転生前の世界でいうと、ちょうど世界大戦の前のニッポンみたいな感じ。
南がシン国。僕が転生して、グレアム隊長やセイラたちと出会ったのもそこ。転生前の世界でいうと、アメリカみたいな感じ。
東がミラ国。ここがちょっと不気味。謎が多いっていうか、何でも世界中をペンキで赤く塗ることを狙ってるとか。意味不でしょ? 転生前の世界でいうと、ロシアかなあ?
西がヒノ国。ここは軍国主義のイメージ。アイラブ戦争って感じで怖い。この国の王のチョビひげも、どうもビジュアル的に怖いんだよね。転生前の世界でいうと、世界大戦のときのドイツだね。
「ねえ、陛下」
僕はグリアム王に訊いた。
「ナン国は戦争はしません、中立国家ですって宣言したらどうですか?」
「フム。しかし相手のあることだ。ウチはそんなの知らない国家ですって攻められたら、意味なくない?」
「そしたら降参しちゃいなさい。降参しても最悪奴隷になるだけで、フツーは殺されません。でも抵抗したら国民全滅ですよ。だってナンはむちゃくちゃ弱いんですから」
「何を!!」
衛兵たちが色めき立った。そこで僕はすかさず、
「じゃあ陛下。兵隊の長に訊いてみたらどうです? 戦争して勝ち目があるかって」
「そうだな。おい、デズモン」
「ハイッ!」
1人の兵が前に出て、王に敬礼した。
「お前はどう思う? 戦争した場合」
「ハイッ! 緒戦は勝ってみせます!」
「あとは?」
「ハイッ! 資源が少ないので、戦いが長引くと不利です。ですから緒戦に勝った勢いで、有利な講和条約を結びます!」
「それしかないか?」
「ハイッ! それしかありません!」
「じゃあ奇襲しよう。先制攻撃で、緒戦をとるのだ」
「ダメダメダメダメ!!!!」
僕は全力で止めた。
「そんな、最初だけ勝ったって、資源のない国がどれだけもちます? 相手もそれを知ってるんだから、持久戦をとりますよ。そうなった場合、ナンに打つ手がありますか?」
「……ない?」
「100パーセントありません。どうかしっかりと、現実を見て下さい」
「アリスターくん」
「はい?」
「そりゃあ余だって戦争はしたくないし、軍が本当に勝つ自信はないことくらい知っている。しかしだね」
グリアム王は金の王笏で、四方八方を指した。
「どの国も、自分たちの手に世界を入れようと狙ってる。そして我が国が、その中で断トツに弱い。だからといって、我々が黙って負けていい理由があるかね? 奴隷になる? 冗談じゃない。王たる余が、自分の国民を他国に売り渡すことができるかっ!! それだったら、もう大暴れに暴れて、一発逆転に賭けるしかない。それが現実なんだ!!!」
グリアム王の目は真っ赤に充血していた。
その目を見ることは、とても悲しかった。
「陛下」
僕は静かに言った。
「もう、外交でどうにかする道は残されていないんですか?」
「極めて難しい」
グリアム王は腕組みをした。
「他国はもうナンを植民地にしようと決めているんだ。こっちを対等と見てない相手と、まともな外交なんてできないよ」
ますますもって、転生前の世界とそっくりになってきた。
アメリカがニッポンに突き付けた、最後通牒とも呼ぶべきハル・ノート。あれによって、ニッポンは外交による平和解決を諦め、そして泥沼の太平洋戦争に……
うーむ、これはイカン。
僕は転生前の知識を活かして、何としても、こっちの世界のナン国を亡国から救わなければ!!!




