第130話 会ったら魔王はヤバかった!!!!
「でもね」
と、グリアム王は補足して言った。
「魔王の本当の姿って、余も見たことないから」
「あ、そうなんスか?」
「うん。いつも何かに化けるんだよね。でないと、人間とコンタクトできないんだって」
「なるへそ」
僕がすぐに理解できたのは、精霊とコミュニケーションをとった経験があるからだ。
精霊は必ず、小人やキツネの姿になって現れた。魔王も要は、あんな感じで人間と会話するってことだろう。
「でも陛下は、魔王を呼べるんですね?」
「つーか、この会話も聞いてっから、たぶん」
「マジで?」
僕は王の間をキョロキョロした。
「出てこい、魔王! なんちゃって」
ついふざけたくなってふざけると、
「さっきからいるわい!!!」
グリアム王の王冠のてっぺんに、ピョーンとカエルが出現した。
「呼ばれてジャジャーン、魔王ですっ!! てなこと言っとりますけど」
…………
これが、魔王?
怖くねー。
っていうか、ある意味怖いか?
クスリでもやってんのかよ、と疑わせるイッちゃってる感じで、魔王カエルはしゃべった。
「吸血鬼との戦いは観てたヨン♪ いやー面白かったっスね〜。オオカミ男の心臓に穴を開けたシーンが最高」
「お前が魔王かっ!」
僕はいちおう、緊迫感を出したほうがいいかと思って、カエルをビシッと指差して言った。
「いや、カエルです」
と、カエルは澄ました顔で言ったあと、
「嘘嘘。実は魔王でぃす」
と、ぺちんと自分の頭を叩いた。
(……笑いのツボが絶望的に僕と違う)
僕は、魔王との距離感を測りかねた。
するとカエルは急に眉毛をキリリッとし、
「ところで吸血鬼とオオカミ男だがな、あいつらを戦いたい気分にさせたのは俺だぜ。なぜかって? ブハハハハハハ、グハハハハハハ!!! そりゃーモロチン、いや、もちろん、派手な殺し合いを観たかったからだぜ!!!」
訊いてもないことをズンズンしゃべり、自分の言ったことに笑う。
ウザッ!!
「おたくらのパーティーがその戦いに巻き込まれたのも、俺の計算済みだった。ただ、おたくらが勝つ予定じゃなかったがね。なのにそうなったのは、精霊のトンマが余計なことをしたからだ。まあ、誰が勝とうと、俺は殺し合いを観れればそれでいいがね」
クワックワックワッとカエルは笑った。
「ところで、おめでとう、勇者アリスター君! あの戦いでSSSSSランクに成長したって? 10万年に1人だって? スゴ〜い! でも1つだけ言わせてくれる? 俺、1億年生きてっから。10万年なんて、俺にとっちゃ一瞬なんだよねー、残念!!」
腹立つわー。ホント嫌いなタイプ。
(しかし魔王は1億歳か。じゃあ、ものスゲージジイじゃん)
と、そう思ったとき、地獄谷で出会ったしわくちゃのBBAを思い出した。
あれはキツネが化けた老婆だった。今ではその正体が、精霊だということを知っている。
あのときBBAは、自分の年齢が1億歳だと言った。
つまり魔王と精霊は、同じころに誕生したのだ。
そういえばBBAは、自分が人類を産んだとも言っていた。
そのときは、とんでもないホラだと思ってムカついたけど、精霊が究極の善だとわかってみると、逆に気分がいい。
人類は「善なるもの」の子孫。ってことは、やっぱり人間って根は「善」なんだよ。だったら【幸福】になってもいいよね?
その一方で、魔王という「悪」も太古から存在している。
たぶん吸血鬼は、その子孫の代表だ。
僕は、どれだけ魔王は悪いのかを知るために、カエルを【眼福】で視てみた。
…………
どうも、黒すぎてよくわからない。
きっと、あまりにも邪悪すぎて、人間の理解の範囲を超えちゃってるんだろう。
つまりは究極の悪。精霊の対極の存在が魔王だ。
(こいつが滅びてくれなければ、世界は真の【幸福】にはなれない)
それを悟った。
(でも戦って勝つことができるか?)
どうも無理そうな気がする。だけど、
(僕らには精霊がついている。きっと最後は「善」が「悪」に勝つ!!)
という希望も感じた。
「何考えてんだ、勇者クン。俺と戦っちゃう気? こわーい!」
魔王カエルは僕の心を読んでそう言うと、ムンクの叫びと同じ顔をした。
「まー無駄だからやめときなさい。それよりさ、これから世界じゅうを悪夢のズンドコ、じゃなかった、ドン底に突き落としてやろうと思ってるから、楽しみに待っててね。精霊なんかにゃ負けねーよ。じゃーねー!!」
カエルは不気味な宣言を残して消えた。
魔王のやつ……
この世をアホに変えるだけじゃなく、いったい何を企んでるんだ?




