第129話 僕のキャラがブレてるのは魔王のせいです!!!!
「いやいや、余計なプレッシャーを与えてスマン。まずはゆっくりと、我が国の見物でもしてくれたまえ」
グリアム王は鷹揚に言って、イシシと笑った。
(しっかし、どうして王の立場にいるくせに、あいつはあんなにキモい笑い方しかできないんだ?)
と、いきなり衛兵が近づいてきて、僕の喉元に槍の切っ先を突きつけた。
「な、何ですか、急に?」
「お前今、無礼なことを考えただろう?」
「……考えてませんけど」
「嘘をつけ! あの笑いを見れば、誰だってキモいと思うはずだ!」
「…………」
「正直に白状しろ! キモすぎて、おえつが止まらなくなったとな!!」
「あいつを引っ捕らえろ!」
僕の目の前で、その衛兵は両脇を抱えられて連れ去られた。
たぶん、即死刑執行だろう。
だってあの兵士、嗚咽のことをオエッてなることと間違えてんだもん。嗚咽はむせび泣くことだよ!
グリアム王は、エヘンと咳払いした。
「さて、きみのパートナーが、めでたく今月の美少女レースに優勝した。ということで、いつもなら、ここでサプライズプレゼントを渡すところだが」
グリアム王は、もったいぶって言った。
「きみは弟の寄越した客人でもある。だから、今回は特別に欲しいものを聞こう。何がいい?」
難しい質問をしてきた。
僕は小声でセイラに訊いた。
「どうする?」
「無難に、武器とか防具でもお願いしたら?」
「欲しい武具があるの?」
「特にないけど……」
「じゃあ僕が決めてもいい?」
「え? アリスター、欲しい武具があるの? 平和主義者なのに?」
「早くしろ! 陛下をお待たせするな!」
1人の衛兵が、詰め寄ってきた。
「我が国は貧乏で有名なんだ。高いものなんか頼んだら、ドケチの陛下はブチキレるぞ!」
「引っ捕らえろ!」
またも王の命令で、衛兵が消えた。
「値段は気にするな。さあ何がいい?」
「ではお願い申し上げます」
僕はグレアム王の前で片膝をつき、頭を下げて願い出た。
「賞品として、ぜひ、この国を牛耳っているという魔王に会わせて下さい」
「何をっ!!」
衛兵たちとレフェリーのジョーが、血相を変えて叫んだ。
「陛下! この無礼者にどうか死刑の命令を!!」
王の間に緊張がみなぎる。
が、グリアム王は、下がっていろと衛兵たちを制し、
「なんで魔王なんかに会いたいの?」
興味津々といった様子で尋ねてきた。
僕は少しだけ頭を上げて答えた。
「はい。陛下はさきほど、この世界が【幸福】になるところを見たいと申されました」
「うん、言った言った」
「そのためには、魔王がいては困ります。普通、そうですよね?」
「魔王と【幸福】は両立しないか?」
「って思うんですよね。魔王が悪かったら」
「まー、善人じゃないよねー」
「僕、【眼福】で魔王を視てみたいんです。もし魔王に、いいところが針の先ほどでもあれば、僕は見落としません」
「あ、そう」
「で、もしそうだったら、両立できる可能性があります。でも正真正銘の悪だったら、そいつが存在する限り、僕は眼福マスターになれず、世界も【幸福】にはなれないと思うんです」
「なるほど。それで、もし魔王がむっちゃ悪かったら?」
「対決する運命になるでしょう。吸血鬼もそうでした。そして、吸血鬼には勝ちました」
グリアム王は、玉座に寄りかかって脚を組んだ。
「吸血鬼は確かにビッグネームだけど、魔人の1人じゃん? 魔王とは較べものにならなくない?」
「そうですかねえ。吸血鬼も最強と呼ばれてましたけど」
「魔王はスケールが違うよ。だって、ナンの国民をみんなアホにしてるんだぜ? 影響力が半端ないっしょ。きみも我が国の街に着いたら、アホにキャラ変しただろ?」
「いいえ」
「いや、したって。自分で気づいてないだけだよ。まったく無意識にアホになってるんだよ」
「うーん……」
「きみ、空気は無意識に吸うでしょ。どう?」
「それはまあ」
「魔王の影響力ってそうなんだよ。要するに空気でさ、知らず知らずに呼吸して、影響されちゃってる訳」
「つまり、この国で空気を吸うと、アホになるってことですか?」
「そーゆーこと」
「何で魔王は、そんなことをするんです?」
「そりゃー人間を堕落させたいんじゃない? それが楽しいんじゃないの、きっと」
「じゃあやっぱり、【幸福】との両立は難しいですね」
「だけど我が国民は、案外幸せそうだよ」
「それはアホだからでしょ?」
「そうなんだけど、もうそれが普通になってるから。国民全部がアホなんだから」
「根が深そうですね」
「でも魔王の影響って、我が国だけじゃないぜ。ほかの国も、ジワジワとアホ化されてっから」
「マジすか?」
「マジマジ。最近魔王、本気出してるし」
「ヤバいっすね」
「別に。世界がアホになれば逆に平和じゃん?」
「いやー、それじゃ魔王の思う壺っしょ。やっぱ対決かなーこりゃ」
僕がそう洩らすと、
「1回会ってみる?」
グリアム王が言ったので、目が点になった。
そんな知り合いの女の子を紹介するみたいに、気軽に魔王に会わせてくれるんスか!?




