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第114話 サキュバス其の三

 サキュバス1号と2号の姉は、ロングの黒髪に、黒のサングラス、ベージュのビキニという恰好だった。


「舐めんなよ、狼」


 持ってきた得物は、右肩に担いだ釘付きの角材だけではなかった。


 左手には、長さ1メートルほどの鉄パイプと、刃の鈍く光る鎖鎌が握られていたのだ。


 さらに、3号のむっちりとした太腿には、拳銃を収めたレッグホルスターが固定されていた。


「3対1か。ようやく俺も楽しめそうだ」


 人狼に、ベージュのビキニを舐めるように見られても、サキュバス3号は顔のすじ一つ動かさなかった。


「寝言は地獄で言いなさい!」


 角材が振り降ろされた。


 人狼が左手で頭をガードした。


 すると、釘の頭が肉を抉ったのか、人狼の左腕からパッと血が散った。


 血だけではない。


 黒い塊も、腕から散った。


 人狼の剛毛がついた肉片だった。


「痛えな」


 人狼は言った。


「同じことを、お前の澄ました顔にやってみようか?」


 サキュバス3号はそれに答えず、角材をめちゃくちゃに振り回した。


 人狼の手や肩や頭が、ザクザクと切れた。


「よし、もう終わりだ」


 そう言うと、人狼は顔の横に来た角材を、指2本でキャッチした。


 人狼が指を捻ると、角材は折れた。


 茫然としたサキュバス3号は、猛ダッシュしてきた人狼に呆気なく抱きすくめられた。


 サングラスをむしり取られる。


 あらわになったサキュバス3号の目は、まるで少女のように、キラキラと輝いていた。


「やめなさい! サングラスを返して!」


「魔物のくせに、恋する乙女みたいな目をしてるな」


「放せ! ケダモノ!」


「そう。俺はケダモノさ。人間の女にも、狼のメスにも嫌われている」


「嘘つき。さんざん女を泣かせてきたんでしょう?」


「いや。俺はずっと一人だ」


「嘘おっしゃい。一人でなんか、生きていけるはずはないわ。女なしでどうやって過ごすの?」


「女なんて、利己的なだけだ」


「あら? それは、いい女を知らないだけじゃない?」


「いい女も悪い女も同じだ。女は女だ」


「違うわ。知らないだけなのよ」


 人狼とサキュバス3号の距離が、近すぎるように感じた。


(どうも危険な気がする。あれはサキュバスの罠じゃないか?)


 そう思ったとき、


「お姉ちゃんを放せ!」


 サキュバス1号が、紫の髪を振り乱して、鎌と繋がった鎖分銅を放った。


 鎖分銅は、人狼の右腕にくるくると巻きついた。


 1号が、えいやと鎖を引っ張る。


 人狼は退屈そうに、腕を伸ばして引っ張らせておいた。


 すると3号が、人狼の左腕に抱きついた。


 胸のふくらみが、わざとらしく密着している。


 人狼は、それもされるがままにしていた。


 そこへ、


「食らえ!」


 ピンクのビキニの2号が、鉄パイプを握って駆けてきた。


 人狼は、相変わらず退屈そうにそれを見ていた。


 おそらく、鉄パイプで殴られても、パイプのほうが飴のようにグニャリと曲がるだけ。


 そう考えて、余裕綽々でいるのだろう。


 だがーー


「死ねえええ!!」


 2号は鉄パイプを真っ直ぐに突き出した。


 殴るのではなく、突く攻撃だった。


 そのとき気づいた。


 パイプの先は、斜めに切り落とされていた。


 そのため、先端は鋭く尖っていたのだ。


 人狼はそれが見えなかったのか、まだ余裕で突っ立っていた。


「危ない! よけろ!」


 叫んだが遅かった。


 鉄パイプの先が、人狼の左胸に刺さった。


 グサッという、不気味な音が響いた。


 人狼の目が、大きく見開かれる。


 鉄パイプの刺さった場所は、ちょうど人狼の心臓の位置だった。


「まさか!?」


 俺は激しく動揺した。


 人狼が、立ったまま死んだように見えたのだ。


 いや。


 人狼は死なない。


 死ぬはずがない。


 人狼が死ぬのは、銀の弾丸で心臓を撃ち抜かれたときだけ。だから、まだ生きているはずだ。


「でかした!」


 サキュバス3号は、邪悪な笑みを浮かべると、太腿のレッグホルスターから拳銃を抜いた。


「銀の弾は、ちゃんと用意してあったのよ。寂しく1人で死になさい、人狼さん」


 そう言うと、固まったように動かない人狼の口にキスをした。


「残念ね。いい女を知らずに死ぬなんて」


 クスクスと笑い、拳銃の銃口を、鉄パイプの先にぴったりと合わせる。


 鉄パイプの中は空洞だ。あのまま銃を発射すれば、弾はあやまたずに人狼の心臓を貫く。


 人狼を唯一殺せるアイテムである、銀の弾丸が。


「セイラ、ジャック、オーガ! 何かできないか。人狼が死ぬぞ!」


 言っても仕方ないことを、俺は叫んでいた。


 もはやサキュバス3号の指が引き鉄を引くのを、止めるすべはない。


 目の前にいる3体の魔物は、俺たちよりも遙かに強い。


 人狼がやられれば、その時点で俺たちの運命は尽きる。


 待つものは死。


 サキュバス3号の指が動いた。


 谷底に響く轟音。


 後ろに弾き飛ばされて、仰向けに倒れる人狼。


 人狼はゴホッと血を吐き、白目をむいて、完全に動かなくなった。


「人狼!」


 俺たちは駆け寄った。


「人狼! 人狼!」


 身体を揺すぶって呼びかける。


 返事はなかった。


 すると後ろから笑い声が聞こえ、俺は肩越しに振り返った。


 サキュバス3姉妹は、満足そうに互いの身体を叩き合うと、いつまでも笑いながら地の裂け目へと消えていった。


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