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第110話 キマイラ

「こっちだ。魔物の匂いが強い」


 人狼のあとを、恐る恐るついていく。


 すると、


「出た!」


 ジャックが指差した。


 ウロボロスの次に地の裂け目から出現した魔物は、頭がライオンで、胴体がヤギ、尻尾が蛇の化け物だった。


「キマイラね。火炎攻撃が得意なはずよ」


 セイラが緊迫した声で言った。


 そのとたん、キマイラが吼えた。


 GOWWW!!


 恐ろしさに身がすくんだ。


(ライオンの咆哮には、動物を本能的に恐怖させる力がある)


 人狼はどうするだろう?


 そう思っている自分を発見して、少し恥ずかしくなった。


(自分も冒険者の端くれのくせに、すっかり人狼を頼りにしている。まるで俺もセイラもジャックも、無力な少年少女に戻ったみたいだ)


 人狼だけが、逞しい真の男であるように見えた。


 あれほど人間を虐殺して来た、忌避すべき獣人なのに……


 キマイラが、口から火を噴いた。


「アルティメットバリア!」


 人狼がとっさに防御技を出し、俺たちをガードしてくれた。


 火炎がバリアに弾き飛ばされる中を、人狼が疾走する。


 右手を前に出して。


 と、その拳が、キマイラの左目にずぶりと突き刺さった。


 OGAAAAAA!


 キマイラが首を振った。


 しかし人狼の拳は抜けない。


 それはますます深く、キマイラの眼窩に潜り込んでいく。


 キマイラの左の眼球は、おそらく潰れた。


 だがキマイラの闘志に、いささかの衰えもなかった。


 GARUUUUU!


 首を振りながら、後ろ足で立ち上がった。


 右腕をキマイラの眼窩深くに差し込んでいる人狼は、宙に浮いた。


 GA!!


 キマイラは口を開け、人狼の頭を噛み砕こうとした。


 人狼が左手を上げてそれを防ごうとする。


 するとキマイラは、人狼の左腕を噛んだ。


「チッ」


 人狼の顔が歪む。


「セイラ、回復技を!」


「ヒーリング!」


 果たして、ヒーリングの効果があったかどうか。


 人狼の左腕をくわえたキマイラは、狂ったように首を振り、人狼の背中を何度も何度も地面に叩きつけた。


 人狼の左腕と背中から、血が流れる。


「ヒーリング! ヒーリング!」


 キマイラの攻撃は止まらない。いくらセイラがヒーリングをかけても、またすぐに出血した。


「オーガ、何か技を出せないか?」


 オーガはもどかしそうに、地面を蹴りつけた。


「キマイラだけに技をかけるのは無理だ。一緒に人狼も傷つけちまう」


 俺たちは、手をこまねいているしかなかった。


 ところがーー


「ねえ、アリスター」


 ルイベが言った。


「人狼の顔を見て。笑ってるわ」


「え?」


 それは本当だった。


 よく見ると、牙をむいたその顔は、笑っているのだった。


(人狼のやつ、この血まみれのバトルを楽しんでいる)


 まるで、戦うことが楽しくて楽しくて仕方がないように見えた。


(何て因果な生き物なんだ。この獣人は……)


 人狼は、笑いながら、キマイラの眼窩から右腕を抜いた。


 その手にあったものを、俺たちの足元に放る。


 それは、1、2度弾んで止まった。


 キマイラの左目。


 血まみれのそれには、ちぎれた視神経の束さえついていた。


 人狼は、まだ楽しそうにクスクス笑っている。


 キマイラはいよいよ猛り狂って、人狼の左腕を喰いちぎろうとする。


 人狼は、そのキマイラの首に、下から自分の両脚を絡めた。


 さらに、自分の足首を右手で握り、渾身の力でキマイラの首を絞めた。


 キマイラの空洞になった眼窩から、血が噴き出る。


 それが、人狼の身体を真っ赤に染めた。


 キマイラが窒息するのが先か、人狼の左腕が喰いちぎられるのが先か。


 やがてーー


 キマイラが、前のめりにどうと倒れた。


 尻尾の蛇が、ピクピクと痙攣している。


 失神。


 いわゆる「落ちた」というやつだ。


 人狼が、キマイラの巨体の下から這い出した。


 左腕の傷を舐める。


 するとすぐに血は止まった。


「面白かったな」


 人狼はそう言うと、キマイラの眼窩に手を突っ込んで、何かを引きずり出した。


 たぶんそれは、脳髄の一部だった。


 キマイラの尻尾の痙攣が止まった。


 俺はドキドキしていた。


(何て残酷な……)


 しかし一方で、邪悪な魔物を次々と倒す人狼に、俺はどうしようもなく惹かれ始めていた。


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