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辺境の地に追放された元隠キャ〜ハズレスキル【眼福】で覚醒したら精霊にも吸血鬼にも魔王にも狙われたけど美少女戦士たちとSSSSSSSSランクの幸福を極めました!!!!〜  作者: 夢間欧
第8章 SSSSSSSS〜どうして弱い僕を人狼と吸血鬼の極悪ツートップが狙ってくるのかわからないけどとにかくこの章もシリアスでいくね〜
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第101話 引き裂かれる心

 しばし、放心した。


(やってやった……)


 これでいいのだ、と自分に言い聞かせた。


 こいつらはクズだった。生きる価値などなかったのだ。


 吸血鬼様に比べたら、こいつらの命など虫ケラに等しい。


 だから死んでいい。


 セイラ、ジャック、ルイベ、オーガ、オーク、5人の遊牧民の死体を見降ろして、俺は哀れなものだなと思った。


 と同時に、ある光景を思い出していた。


『アリスターを助けるために吸血鬼と戦う人は手を挙げて!』


 とセイラが言い、こいつらが手を挙げたシーンを。


(そう。吸血鬼様を敵に回した時点で、こいつらの死は確定したのだ。虫ケラの分際で、俺を助けるために吸血鬼様と戦うなどと。俺を助けるため……)


 気がつくと、俺は泣いていた。


 ひどく悲しかった。


 自分の感情がよくわからない。


 たぶん、かつてこいつらと仲間だったときの記憶が、胸の奥にでも残っていたのだろう。


 それが俺を引き裂こうとしている。


 クソッ。


 たまんねえや。


 何が俺を助けるだ。


 そんな甘い考えだから、俺に殺されたじゃないか。


 もっと楽しめたかもしれないのに、こんなところで人生を終わらせちまって。


 お前らバカだよ。


 俺だって虫ケラなのに。


 その虫ケラのために死んだんだぜ?


 それでよかったのかよ、なあ?


 悲しすぎるじゃねえか。


 嗚呼……


 と、俺の目からこぼれた涙が、足元に落ちたときだった。


 テントの中が、急に明るくなった。


 眩しいくらいに。


 俺は目を細めた。


 よく見ると、細い光の筋が、死体のそれぞれに当たっている。


(何だ? 死体からビームが出た? いや、違う。テントの外から光が射して、1人1人の死体を照らしているのだ。いったいこれはどういう現象だ?)


 唖然として見ていると、光の筋に引っ張られるようにして、死体たちが立ち上がった。


 死体たちは目を開けた。


 セイラの死体が口を開いた。


「良かった」


 生きている人間のように、セイラが言った。


 いやーー生きている。


 セイラの自然な微笑は、まさに生きている人間のそれだった。


「アリスター、泣いてるね」


 セイラの声に、涙が止まらなくなった。


「私が生き返って嬉しい? また会えて嬉しい?」


 俺は自分の感情がわからないまま、気がつくと、何度も首を縦に振っていた。


「大丈夫。私たち、例え死んでも、また何度でも生き返ってあなたを助けるからね。だってみんなでそう誓ったんだもん」


「そうだ、アリスター」


 と、生き返ったジャックが言った。


「お前の涙、ちゃんと見たぞ。まだお前の心は死んじゃいない。吸血鬼さえ倒せば、必ずお前は元のアリスターに戻る。そうしたら、また冒険しようぜ」


「お前の即死技、見事だったな」


 とオーガが、快活に笑って言った。


「完璧にやられたよ。俺たちの完敗だ。しかしオークが救ってくれた。お前が【ジ・エンド】を出した瞬間、オークが何と叫んだかわかったか?」


 俺は首を振った。思い出そうとしても、気持ちが乱れて思考が働かなかった。


「スーパーフェニックス」


 オークが顎を上げて、自慢そうに言った。


「おいらはまだ未熟で、思ったとおりに技を出せない。でも自分や仲間がピンチになると、特殊技がランダムで発動するんだ。前回は【コンフュージョン】が出て、ポイズンテール改を混乱させただろ? 今回はたまたま【スーパーフェニックス】が出て、みんなを復活させたのさ」


「オークはたまたまって言うけど」


 と、ルイベが嬉しそうな顔で言った。


「私たちの願いが、天に届いたんだと思う。だからきっと天は、私たちに吸血鬼を倒しなさいって言ってるのよ」


 セイラ、ジャック、ルイベ、オーガ、オーク、5人の遊牧民。


 みんな笑顔が輝いていた。


 俺に殺されかけたというのに……


 みんな俺を、温かく見ている。


 一瞬、吸血鬼様より、こっちのほうが強いんじゃないかと思った。


 仲間を信じ、仲間のために命を捨てられる人間たちのほうが……


 俺は悲鳴をあげた。


 心が2つに裂けそうになった。


 ダメだ。やっぱりできない。


 逆スパイになって、俺を引き立てて下さった吸血鬼様を裏切るなんて。


 あと1秒でもここにいたら、こっちの陣営につきそうになってしまう。


「あ、待って!」


 セイラの制止を振り切って、テントを飛び出した。


 走る。


 ムン平原の西にある、ニタイの森に向かって。


 俺を先導するように、コウモリが飛んでいた。それを追って、矢のように走った。


 地下墓地カタコンベの入口に着くと、足をもつらせて暗い階段を駆け降りた。


 吸血鬼様は、棺桶に坐って待っていた。


 俺はハッとした。


 吸血鬼様の目が、ひどく冷たい。


 俺を見る目の奥には、温かい愛情のかけらもなかった。


「ご苦労だった」


 吸血鬼様は淡々と言った。


「あいつらの作戦とやらは、全部聞かせてもらった」


 吸血鬼様の声を聞きながら、俺は思った。


(そうだ。このお方は、俺だけじゃなく、誰も愛したことがないのだ。そうやって、おそらく何千年も、独りぼっちで生きてこられたのだろう)


「あの作戦はいい。人狼を倒すチャンスだ」


 吸血鬼様は、セイラとはまるっきり違う、偽りの微笑を浮かべて俺の頭を撫でた。


「俺は騙されたフリをするから、人狼をここに連れてこい。棺桶の中から、あいつに銀の弾丸を撃ち込んでやる。フフ、楽しみになってきたぞ」


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