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霊能師レイコ  作者: Peace
2/2

自殺志願の女子高生②

あらすじ


レイコは霊能師たちの会議に遅刻して参加する。一方、女子高生の調査を任された少年霊は…

「遅れて申し訳ございません!」


 レイコが勢いよく会議室の扉を開けると、霊能師たちが会議を始めていた。

 楕円形のテーブルに、向かい合って座っている。

 他の人から見れば怪しいカルト宗教の集会のようにも見えるが、至って真面目な会議である。

「いらっしゃい、レイコ」

 見た目完全「トイレの花子さん」にも、霊能師たちは動じる様子を見せない。なぜなら、それが普段のレイコの姿だから。どうやら一部では「トイレのレイコさん」との異名がついているらしい。

「話は聞いているわ。さあ、早く座って。私たちは今、皆さんの近況を聞いてるところよ」

「はい」

 レイコは示された椅子に座った。他の霊能師が自分の近況を報告する。彼によれば、最近、霊能師のふりをして悪徳商売をするエセ野郎どもがいるせいで本物である自分たちが信用を失い、社会的に孤立してしまっているそうだ。レイコは、駅で出会った女子高生の言葉を思い出す。そういえば彼女、エセ霊能師に騙されてた(かもしれない)んだっけ。

「次、レイコさん。お願いします」

「はい。私のところには、生きづらさを抱えた若い人が多く来ています。やりたいことがわからない、どう生きていけばいいかわからない、死にたい。そういう悩みを持った人が多いです。この前は、「死にたい」としかしゃべれず、無理矢理霊視しないと何が言いたいのかわからないような人が相談に来ました。私が相手と話すときに大切にしていることは、相手の気持ちを絶対に否定しないことです。「死にたい」と訴える相手に対して、「死ぬな」とは絶対に言いません。逆効果です。私の「死ぬな」という言葉がプレッシャーになり、相手は余計に死にたくなるように思うのです。それに、人間は「するな」と言われるほどしたくなる生き物でしょう? このような理由から、私は相手の気持ちを決して否定するわけにはいきません」

「レイコちゃん、若いのにしっかりしてるわ…」

「やっぱりレイコさんは若いから、同年代の子が相談しやすいんだと思うわ」

 マダム霊能師たちからレイコへ、絶賛の言葉が飛んでくる。

「そういえば、今日あなたが遅刻してきたのって、あなたが電車を待ってた駅で自殺未遂があったからでしょう? その話も詳しく聞かせてちょうだいな」

「はい。駅で待っていたら、隣に怪しい様子の女子高生がいて。手をかざしてみたら、ものすごい瘴気で手がしびれました」

「何かが取り憑いていたとかは?」

 悪霊や怨霊などが取り憑くことによって、人が負の感情にさいなまれたり自殺衝動に駆られたりすることがあるが、

「ひどい瘴気は感じられましたが、取り憑きは確認できませんでした」

 しかし、きちんと確認したわけではないため、これから取り憑きが判明する可能性がある、とも伝えた。

「なんで自殺を考えたのかしら」

「詳しいことは調査中ですが、彼女の言動から、彼女の周囲の環境が彼女の希死念慮に影響を与えた可能性があります」

「確か、変な人たちに騙されてるんだっけ」

「「かもしれません」ね」

「あ、そこはまだ確定してないのか」

「現在、使いの霊に調査をさせています」

「わかったわ。今わかっているのはとりあえずそれだけ?」

「それだけですね」

「どこの子なのかしらね」一人の霊能師が言った。

「レイコが担当している町って、有名な「本物」の超能力者がいるもんで、霊能力の存在も当たり前のように認知されているって聞いてるわ。よその子の可能性もあるけど」

「うーん。地元から離れたところで死にたいと考えてたらそのよその子っていう可能性もあるっちゃありますね。一旦電車で移動して、遠くの駅で降りてそこで次の電車を待って…っていう。家族から離れたところで死ねますし。でも、可能性としては家の近くの駅で、という方が大きい気がしています。しかし確定はしていないので、彼女が住んでいるところも調べないといけません」

「レイコの町の子だったらちょっと意外だけどね、その発言的に」

「有名でもやはり信じない人はいると思いますけどね。日常的なものではないので」

「確かにね。本物の超能力者ったら激レアもんよ」

「ちなみに、私その人と知り合いですよ? 結構仲良くさせてもらってます」

「えーいいなあ。それに、霊能力が広く信じられているところで霊能師できるなんてのも本当にうらやましい。私のところなんて、お化け本気で信じてる人なんてほとんどいないもの。新人にはぴったりの町だと思うわ」

「地元の町を褒めていただけて光栄です」

「では、そろそろ次の人に移りましょうか。レイコさん、ありがとうございました」

「はい」

 霊能師たちの会議は続いていく。


<その頃少年霊は>


 女子高生が駅を飛び出していきました。

 切符をそのまま駅に返したので、おそらく彼女は自殺するためだけに駅に来たのだと思われます。

 彼女はどこへ行くのでしょう。追ってみます。

 あ、心配しなくて大丈夫です。彼女は霊感を持っていないようなので、彼女に僕の姿は見えていません。でもこれ、やっぱり普通にストーカー行為なんだよなあ。相手に姿が見えないとなるとなおさら悪質だよなあ。かなり罪悪感すごいけど、彼女の命を守るために必要なことと割り切らないと!

 あ、僕ですか? 僕はただの、レイコさんの使いの霊ですよ。名前も一応ありますけど。

 僕は少年の姿をしています。霊は基本的に自分の姿を自由に変えられる(たぶん)ので、おじいちゃんおばあちゃんの霊が若かりし頃の姿になっていることもありますけど、僕は本当に若くして亡くなりました。交通事故です。車に乗ってて、ほかの車とぶつかって、一瞬意識が飛んで、気づいたら車の上に浮かんでました。この後、霊体というか意識が肉体に戻ることもあるそうですが、僕の体は病院に運ばれた時にはもう死んで意識が戻らない状態になっていたそうです。実は、生前、僕も生きる意味を見失ってた時期がありまして。ていうか、そういう時期に死んだんですね。だから、死んだらそのまま消えたい、てか消えるもんだと思ってたのに、気づいたら幽霊になってしまってて。消えるでもなく。天国に行くこともなく。異世界転生するでもなく。ただそこに、幽霊として存在してました。でも、幽霊になっても何もすることがない。とりあえず、天国には行きたいかな。でもどうやったら行けるのかわからない。そうだ、お寺か教会かに行けばわかるかもしれない。あるいは霊媒師か。

 で、そのあとなんやかんやで天国に行くことはできました。ここで僕は安らかに過ごすのかと思いました。でも、そんなある日、天国の偉い人から呼び出しがかかりまして。僕へのお仕事紹介の用件でした。そこで紹介されたお仕事というのが、レイコという(当時)見習い霊能師の使いの霊というもの。この世とあの世を行き来し、生者と死者がコミュニケーションをとるときの仲介役としての仕事でした。ようやく生きがい(?)を見つけられると思った僕は、その仕事を快く引き受けました。そして、現在に至ります。幽霊になってようやく自分の存在価値を見出すことができました。幽霊も悪くないですね。そのまま消えなくてよかったです。その点でも、レイコさんには感謝しています。

 話がそれてしまいました。女子高生の話に戻りますね。生きた誰かを追いかけるのは僕の本職ではないのですが、今日はたまたまオフで一日暇だったため、とりあえず今日だけはがんばってみます。

 女子高生の家に着いたようです。どうやらこの町の子みたいですね。この町の人は、幽霊や超能力など超常的なものを信じる傾向にあるようですが、駅での言動から見てこの子は信じていないようです。有名だからこそ信じられないというパターンでしょうか。

 お邪魔しまーす。いや冷静に考えて僕ひどいことしてますね、人の家に勝手に上がり込んで。生きてたら不法侵入で捕まってしまいます。良い子は絶対にマネしないでくださいね。良くない子も絶対にマネしないでくださいね。

 彼女の家を一回り見てみましたが、カルト宗教によくある(と思われる)神棚や祈りの場は見られませんでした。しかし、不審な壺やお札をいくつか見つけることができました。僕にはわかります。これらは偽物です。本物からは何とも言えない不思議なエネルギーが感じられるのですが、これらからは全く感じられません。ていうか、本物はかなりレアなものでこのような一般家庭にはそうそう置いてないものだと思われます。どうやら彼女の家は、怪しい霊感商法に引っかかっていたようです。おそらく、あの子は家族が怪しいものを買い続けるのを止めたくても止められなかったのでしょう。ならば、駅であのような言動をしたのも納得できます。とりあえず今晩まで様子を観察して、レイコさんに報告しましょう。



「あーーづがれだーーー」

 夜になり、帰宅したレイコはベッドに倒れ込んだ。

「いやー、まさか駅で自殺未遂に遭遇するとは思わなかったわ。そのあと会議でも報告して…あーもう寝ていい?」

 レイコは疲れ切った顔で独り言を言っている。

「そういえば、あの子はまだかしら?」

 少年霊はまだレイコのところに戻ってきていない。

「疲れたからもう寝たいんだけど。でも、あの子は今、丁寧に調査を行っている所かもしれないわね」

 レイコは眠気を紛らわそうと、ゲーム機を手に取った。オカルト好きな彼女の好きなゲームは、主にホラーゲームである。彼女曰く、どこから敵が飛び出すかわからないことのゾクゾク感がクセになるらしい。ゲーム画面には有名ゾンビゲームのタイトルが表示されている。「本当は心霊物のほうが好きなんだけどね」レイコが操作するキャラクターは迫りくるゾンビに銃を撃ち込んでいる。


「レイコさーん、ただいま戻りましたー」

 少年霊がレイコの元に帰ってきた。レイコはポーズメニューを表示させ、少年霊に返事をする。

「あら、お帰りなさい。遅かったわね。しっかり調査できた?」

「はい、調査対象が寝たので戻りました。ちょっと意外な結果がでましてですね…」

 浮遊している少年は調査でわかったことを報告する。

「えーっと、彼女はこの町に住んでて、霊感商法に引っかかっていた可能性が高い…ただカルト宗教の可能性は低い…という感じか」

「はい、おそらく。なんのエネルギーも感じられない壺を見るたびに、彼女は恨みの感情を出していました。『全く、こんなものを買ってもなにも起きないでしょう。こんなの、ただの壺の形をした金属よ。うちの家族はバカしかいないの?』とか、『この町の人はみんなバカ。何が本物の超能力者よ。そんなのいるわけないでしょう。この町の人は、揃って変な宗教か何かに洗脳されてるのかしら』とかつぶやいてました」

「なるほどね…科学で証明できないものはたとえ有名であっても信じないタイプね」

「ただ、なぜ死にたいと思ったのか、正直まだわからないところがあります。家庭などの周囲の環境に嫌気がさしたと言う事は容易に想像できますが、彼女の生活自体は充実しているように見えました」

「生活が充実しているように見えても、本人は辛い思いをしていることがあるわ。何のために生きてるのかわからない、とか。そういえば、生前のあなたもそうだったんじゃないの?」

「そうですね…確かに、幽霊になる前の僕もそのようなことで悩んでいました。割と環境には恵まれていたのですが、自分が何のために存在してるのか分からなくなってしまって…」

 少年霊の過去についての詳しい話はまた別の機会にしよう。

「とりあえず整理すると、彼女はこの町に住んでいる。彼女はオカルトを全く信じない。彼女の家には怪しい壺やお札が置かれている。彼女の生活は充実しているように見える。そして、今気になるのは、根本的になぜ彼女が死にたいと思ったのか、といった感じかしら」

「そうですね…怪しい人に騙されてたということ以外にも要素があるかもしれませんし」

「とりあえず調査を続行する必要がありそうだけど、あなた、明日の調査は厳しそうよね…」

「そうですね、僕がいつも仲良くしていただいている霊からメッセージをもらう予定が入ってますね」

「とすると、代わりの子にあなたが調査で得られた情報を伝える必要があるわね。ちょっと紙にまとめてみるわ」

 レイコは、今回の調査で得られたことのまとめをメモ用紙に書き出す。

 メモ用紙には、「駅で女子高生の自殺未遂があった、彼女はこの町に住んでいる、オカルトを信じず我々に嫌悪感を示した、家に怪しい壺やお札があったことから霊感商法に騙された疑いあり」と書かれていた。

「これを明日以降の調査担当に渡せば大丈夫ですかね」

「多分これで大体伝わると思うわ。よし、あなたはもう帰っていいわよ。今日はいろいろあってほんとに疲れただろうし、ゆっくり休みなさい」

「ありがとうございます、では失礼します」

 少年霊はどこかへ飛び去り、消えていった。

「よし、私も疲れたし、そろそろ寝ますか」

 レイコは、ゲームを片付け、布団に潜った。

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