生まれた時から課長
壮志郎がストレッチをしている間に、ソッティーがダンジョンの素案を完成させた。
天使である5番にも送信済み。
返信によると、「特に問題ないので、そのまま進めてください」とのこと。
「報告、連絡、相談が迅速なのは助かるよねぇ」
人間関係においても、重要な気がする。
レスポンスは極力早い方が、印象はいいだろう。
もちろん、内容が適当すぎて当てにならない、なんて場合はその限りではないが。
兵は拙速を尊ぶ、等という言葉もあるぐらいである。
「次は、ダンジョンを作るときに頑張ってもらうモンスター選びだっけ? 他のダンジョンではどんな感じなの?」
「ほかのダンジョンでは、ダンジョンコアを操作してダンジョンを作っていますので」
スマホ操作で簡単便利。
壮志郎のダンジョンでは、無理なことである。
なにしろ、壮志郎自身にダンジョンコアが操作ができない。
そして、先立つダンジョン力もない。
ないない尽くしである。
「ダンジョンコアでダンジョン作るのと、ダンジョン作り用のモンスター呼ぶの。どっちがダンジョン力かかるのかしらね」
「圧倒的にモンスター召喚の方が安上がりです。そういう意味ではマスターの能力は非常に有用ですね」
「すまないねぇ、おとっつぁんが不甲斐ないばっかりに」
「私の召喚コストにダンジョン力が必要だったわけですから。私からは何とも言いにくいのですが」
「あ、それもそうね。ごめんなさい」
壮志郎がスキルを盛りまくり、ダンジョン力の採算度外視をしなければ、ソッティーは生まれなかったのだ。
そういう意味では、意外とナイーブな話ではある。
「いえ、お気になさらず。製作していただいた以上、出来得る限りお仕えするのが自動人形の是ですので」
「なんかお侍みたいね。ていうか、おじさん今一わからないんだけど。モンスターの呼び出しって、どういう扱いなの? どっかに居るのを連れてきてるの? それとも新たに生み出してるの?」
「そのあたりは種族によって異なるようです。ケースバイケースというヤツでしょうか」
ケースバイケース。
時と場合によりにけり。
非常に便利、且つ、何事にも通じる言葉である。
「ただ、自動人形の場合は、新たに作られて呼び出される場合が多いようです。私も呼び出された瞬間に、初めて起動しました」
「ってことは、ホントにおじさんがママ?」
「それは明確に拒否したいところですが」
自動人形には、親を選ぶ権利があるのだ。
「ていうか、モンスター製作画面。って書いてなかったっけ。意外とファジーなこと多いよね。ダンジョンコアって」
「遊びがある方が色々と都合がよろしいでしょうから」
アバウトさというのは大事なのだ。
絶対になになにだ、などとしてしまうと、後々面倒なことも多い。
あいまいにしておいた方が都合がいい、なんてことは、世の中には一杯あるものであった。
「まあ、いいや。で、どんなのがいいだろう。ダンジョン作るのに呼び出すモンスター」
「こちらの指示を理解できるだけの知性と、仕事をするうえで相手のことをおもんばかることが可能な協調性。共通の言語を話せること。といった条件は、とりあえず必須かと思いますが」
当たり前のようだが、大切な条件である。
「ダンジョン魔法で作業をするのであれば、人型である必要もなかろうものかと」
「んー。すぐには思いつかないなぁ。っていうか、どんなモンスターがあるのか、おじさん確認できないしなぁ。画面見えないから」
頑張れば見えなくもない。
ただ、頑張るには様々なものを犠牲にする必要があった。
主に健康などである。
ダンジョンマスターなので回復はするらしいのだが、少なくともソッティーを作るときに目をやられたのは間違いない。
できるなら同じ思いはしたくなかった。
おっさんだって、楽ができるなら楽がしたいのだ。
「ソッティーのおすすめモンスターとかある?」
「手前味噌なようですが。自動人形などが一番楽ではなかろうかと」
「楽っていうと?」
「こちらで設定が可能ですし、食事も休息も必要ありませんので」
「ブラック企業の社長がスゴイ喜びそう」
確かに、下手に生き物を扱うより楽かもしれない。
なにより、ソッティーという先輩がいるというのもいいだろう。
同じ種族同士のほうが、色々とうまくやってくれそうな気もする。
「いくつか、確認してみます」
いうや否や、ソッティーはダンジョンコアを操作し始めた。
仕事が速いというのは、非常にありがたい。
操作すること数秒、ソッティーの手が止まった。
「どうやら、素体がロックされているようです」
「ん? どういうこと?」
「自動人形の素体。つまり、私と同じようなものが、選択不能になっています」
「なんで?」
「わかりません。ただ、ほかの自動人形は選択可能なようです」
ソッティーを作るときに選択したのは、衝撃実験用ダミー人形のような外見で、スキルなども何も設定されていない、まっさらなものだった。
だが、「自動人形」という種族はほかにもいくつか選択肢が用意されていたのだ。
そちらにはある程度のスキルや外見などが設定されており、言ってみれば「テンプレート」をはめ込んだようなものである。
「あれかなぁ。ソッティーでやらかしたから、5番さんが気を使ってくれたのかな」
「なんとも言えませんが。まあ、不便は特にありませんので」
テンプレから必要なものに近いのを選び、弄ればいいだけの話である。
外見未設定事故とかが防げて、かえって安全ともいえるかもしれない。
「いくつか候補は見つかりましたが。一つ、マスターが喜びそうなモンスターが居りました」
「へ? どんなん?」
「自動人形に限ってですが、モンスターを製作する能力を有したものです。通常モンスター、リポップモンスター、どちらも製作可能なようです」
「へぇー。便利そうねぇ」
「この際、ダンジョンマスターがダンジョン力を注ぐ必要がなく、このモンスターが自分で樽からダンジョン力を取り込むことが可能なのだそうです」
「詳しく」
まず、前提として。
基本的に、ダンジョン力の使用は、ダンジョンマスターにしかできないらしい。
ソッティーにダンジョン力を注ぎ込む作業を代行してもらおうと思っていた壮志郎は、この時点でやる気メーターがガクッと下がった。
おっさんの心というのは非常に繊細なのだ。
ただ、一部例外となるモンスターがいるらしい。
その一つが、「自動人形」の中でも「人形工房」と呼ばれるタイプのモンスターなのだという。
「人形工房は、自動人形を製作する能力を有するモンスターで、製作した自動人形を配下に従え行動します」
「女王アリとか見たいな?」
「血縁関係というわけではないので、完全にその通りだとは言えませんが。おおよそそのような理解で正しいかと」
通常、人形工房が作り出す自動人形はリポップモンスター相当であり、性能も相応なのだという。
なのだが、ダンジョン力を消費すれば、通常モンスターも製作可能。
その際人形工房は、ダンジョンマスターの許可の元、自分でダンジョン力を吸い上げて自動人形を製作するのだとか。
「え、完璧じゃない? まずさ、その人形工房を呼び出すの。スキル的には、ダンジョンの制作と維持管理に関する、責任者みたいな感じで」
「人形工房を、施設面の責任者とするわけですか」
「そう。将来的にはそういう管理能力があるモンスターももっと増やさなきゃいけないかもしれないけど。今予定しているところは、全部任せる感じで」
案外、悪い考えではないかもしれない。
人形工房には、作った人形を支配下に置く能力もあるようだ。
となれば、連携はかなり取りやすくなるだろう。
「理に適った方法ではあるかと」
「そうだよね。なら、その人形工房、先に呼び出しちゃおうよ」
然る後、相談して人形工房と一緒に、どんな部下を作るか相談をしたほうが、話が早い。
「わかりました」
「じゃあ、早速、デザインしちゃってもらおうかしら。あ、スキルとかはおじさんが指示したほうがいい?」
「すべて任されても困りますので」
早速、モンスター製作画面を立ち上げ、あれこれとスキルを弄繰り回すことにする。
ソッティーが有用そうなものをピックアップし、壮志郎が判断を下していく。
二度手間三度手間だが、壮志郎が画面を認識できないので、どうしようもない。
「自己再生と学習能力はマストだよね」
「破損があった場合、通常はパーツの交換になりますので。あると助かるのは間違いありません。学習能力も、大いに助けられます」
「実感籠ってるなぁ」
自身も自動人形であるソッティーにとっては、まさに実感なのだろう。
なんやかんやと言いつつ、スキルを設定していく。
「人形工房にも、高レベルのダンジョン魔法を習得させてね。戦闘能力はいらないから、そこは充実させたい」
「戦うのは部下に任せる形ですか」
「そうねぇ。まあ、っていうか施設課の課長やってもらう予定だから」
「課長、ですか」
「役割分担でさ。部署名があったほうが分かりやすいでしょ? 今後やっていくうえで」
役割分担と、それに伴う所属を明確にしておけば、指示もしやすい。
管理するのも楽になるだろう。
「私はどういう扱いになるんですか」
「んー。ダンジョンマスター補佐?」
「介護者の間違いでは」
「それだわ」
「冗談です。笑うなり叱るなりして頂けませんと、洒落にならないのですが」
ホントにそうなりそうで怖い。
壮志郎のスペック的に、本当にそうなりそうな気もしなくもないのだ。
そんなことをしているうちに、能力の設定が終わった。
「外見は、どうすれば」
「テンプレだとどんな感じなの?」
「人間の女性一人。それと、昆虫のような足が付いた大形の箱。といった外見です」
「え、身体が二つある感じなの?」
「二体で一つ、というデザインなようです。意識は共有してるようですが」
「へぇ。ワイヤレスなんだ」
「そう言われるとなんだか複雑な思いがありますが」
女性型の人形が本体。
箱型の部分は、人形を作り出すための装置、という形らしい。
ただ、機動力や戦闘力は、箱の方が高いのだとか。
「パソコンの本体と、万能外部出力機みたいな感じ?」
「全くその通りとは言えませんが、おおよそそのような理解で良いようです」
「へぇー。じゃあ、ソッティー。見た目がんばって弄ってあげてね」
ソッティーは額に手を当て、唸るような声を出した。
「少々お時間をいただけますか。その、なんと言いますか。彼女には私のような思いは味わわせたくありませんので」
「うん、そうしてあげて。ホントごめんね」
「いえ。すみません、訂正しておきますが。私自身は私の外見を、そう嫌っていません。むしろ、非常に楽なので気に入ってきている位です。ですが、その。なんと言いますか。人形工房は、女性型ですので」
一概には言えないところではあるのだが。
男性よりも女性の方が、自分の外見に気を使うタイプが多いといえるだろう。
まあ、本当に最近は一概にそうとばかりも言えないのだが。
「そういってもらえると、おじさんとしても幾らか気が楽だけども」
「名前の方はもう少しどうにかならなかったのかと思っていますが」
「うん、全然聞こえなかった。おじさんだから」
おじさんというのは、自分の都合に応じてある程度スペックが上下するのだ。
この能力は、歳を追うごとに顕著になっていく。
長く生きていくためには、必要不可欠なものなのだ。
壮志郎の持論の一つである。
「じゃあ、おじさんその間に、大部屋と小部屋の外見考えてるわ」
ただの丸い部屋にしても、いろいろと決めるところはある。
大部屋と小部屋を分ける扉の形なども、決めなければならない。
案外決めることはあるのだ。
お互いに作業を進めること、しばらく。
「完成しました。確認、は、出来ませんね」
「おじさんだからね」
誤解が無いように言っておくが、すべてのおじさんがスマホの画面が見えにくいわけではない。
中には視力のいいおじさんも存在するだろう。
残念ながら、壮志郎は目がやばい感じのおじさん、というだけなのである。
「性別は女の子なのよね?」
「自動人形には明確な性別がありませんので」
人形なので、そういったものは特にないのだ。
「元々の機能ゆえか、テンプレートの外見は女性よりです。ですので、少女の外見にしてみました」
「なんで?」
「体積的な問題です。あまり大きすぎるのも問題があろうかと。それと、色々試した結果、その方がダンジョン力が削減できましたので」
「そうなんだ。っていうか、ダンジョン力足りる?」
ソッティーを作って以降、ある程度溜まってきたとはいえ、ダンジョン力の残りは少ないはずである。
「ある程度溜まってきました。ご確認ください」
言われて、部屋の隅に追いやっていた樽を覗き込む。
ゲーミング的な感じで七色に変色しつつ輝きまくっている液体は、意外に多く溜まっているようだ。
「ホントだ。結構ある」
「これを使えば、十二分な量になるかと」
「使い切っちゃう感じ?」
「はい。性能は確保したいですから」
言ってみれば、幹部候補である。
性能はケチりたくない。
「最初期の工事作業は、私と彼女で行えばよろしいかと」
「まぁ、急がないしね。人員補充はダンジョン力が溜まってからでもいいのか。おけおけ。じゃあ、呼び出しちゃおう」
このぐらいであれば、5番の許可もいらないだろうという判断だ。
何でもかんでもお伺いを立てる必要もないといわれているし、問題は無いはずである。
「まって。これってさ、実行したらガラス瓶出てくるパターンのヤツ?」
「そうなります」
「それにダンジョン力入れるのって、おじさんの仕事だよね?」
「そうなります」
「一回睡眠挟んでもいい?」
「嫌な仕事はなるべく早くやってしまった方がよろしいかと」
目とかが限界なようならば、ここで押し通して寝てしまうところである。
だが、一応もう少しは行けそうな体調ではあった。
どうやら、ソッティーにそれを見破られたらしい。
「そうね。じゃあ、瓶出してもらおうかな」
こういう時、ぐずっても仕方ない。
結局時間の無駄になるだけで、仕事はしなければならなくなるのだ。
人間、諦めが肝心。
壮志郎の持論の一つである。
結局、作業は一日では終わらなかった。
瓶の半分ほどを入れ終わったところで、壮志郎の目と腰が限界を迎えたのだ。
仕方がないので、ソッティーの作った食事をとって、寝ることになった。
おっさんは大事に扱わないと、後々大変なことになるのである。
その間、ソッティーはあれこれと調べ物や、今後必要になるダンジョン力の概算などを行っていた。
休んでいていいと言われたのだが、自動人形には睡眠が必要ない。
じっと横たわっているよりは、何かしていた方がいいのだそうだ。
どこまでもブラック企業向きの種族である。
ソッティーが用意してくれてあったおにぎりと具だくさんの味噌汁で朝食を終え、早速ガラス瓶にヒシャクでダンジョン力を注ぐ仕事を再開。
作業をしながら、あれこれと雑談をする。
「ていうか、あの壁時計って何基準なの」
部屋の壁にかかっている、時計のことである。
「ダンジョンコアと同じ時間を示していますし。おそらくダンジョン出現地点のものではなかろうかと」
「へぇー。今のうちに体を慣らせて、有り難いね。海外出張とかすると、時差でえらい目に合うことあるし」
おじさんになると、時差に対応する能力が極端に落ちる。
もちろん、エビデンスはない。
壮志郎の持論の一つである。
「そういえば、呼び出す人形工房の名前って、なんにしたんだっけ?」
「寝る前にお知らせしたと思いますが」
モンスター制作画面で、名前を決めておく必要がある。
ガラス瓶を出す前に、ソッティーと壮志郎が話し合って人形工房の名前を決めたのだが。
壮志郎の頭からは完全にすっぽ抜けていた。
「横文字の名前ってどうしてもなかなか頭に入ってこなくって」
「ウィーテヴィーデです」
この世界の言葉か何かから引っ張ってきたらしい。
意味合い的には、どこかしらのお花の名前なのだとか。
「元々ひとつの単語ですが、分割もできる響きですし。少女型の方がウィーテ。箱型のほうがヴィーデ。といった具合でしょうか」
「へぇー、シャレオツだねぇー」
「シャレオツという言葉が洒落てはいませんが」
そんなことを言っている間にも、どんどんダンジョン力を注ぎ込んでいく。
片手間に、ソッティーが調べたり考えておいてくれた、ダンジョンの構造についての報告も受ける。
「大部屋と小部屋を区切る扉を、具体的にどんな形にするかが問題かと。下手なものを作ると、冒険者が挟まれる恐れもありますし」
「なんか警告音だしながら、ゆっくり扉閉めるかぁ。あ、中の様子見えるように、鉄格子的なのにする?」
「それもよろしいかと」
ただ閉じ込められるより、安心感があるかもしれない。
まあ、脱出できるとはいえ、閉じ込められているのは変わらないのだが。
「あ、一杯になった」
話しながらダンジョン力を注ぎ入れていたら、いつの間にか一杯になっていたらしい。
ガラス瓶が、強く発光する。
「ぎゃああああああああああああ!!!」
直視してたのだろう。
壮志郎が両目を押さえて転げまわった。
ソッティーはと言えば、特に問題なさそうに立っている。
対閃光装置とかを搭載しているのかもしれない。
光が収まると、ガラス瓶があったはずの場所には、少女の姿と、昆虫の節足の様なモノが付いた四角い箱があった。
少女は、閉じていた目をゆっくりと開くと、周囲を見回す。
転げまわっている壮志郎と、特に気にすることなく立っているソッティーを見比べ、困惑の表情を浮かべた。
「ええっと。そのぉ」
「お気になさらず。ウィーテヴィーデですね」
「は、はい! 人形工房、ウィーテヴィーデでございマスデス! お呼びにより、まかり越しましてございマスデス」
「私はダンジョンマスターの補佐をしている素体型自動人形。名は、ああ、ええ、ソッティー。と呼ばれています」
「はい、ソッティー様」
ウィーテヴィーデは、恭しく頭を下げた。
名前を呼ばれた当のソッティーは、どこか遠くを見つめている。
なにかしら思うところがあるのだろう。
「そこに転がっているのが、ダンジョンマスター。我々の主である、田沢・壮志郎様です。マスターとお呼びするのが良いでしょう」
「わかりました。でも、あの、マスターは、何をしているのでありマスデス?」
「やっぱい! これやっぱいやつだっ! ガン見してたからソッティーの時よりキツイ!! 不意打ちヤバいって!」
どうやら、かなりやられているらしい。
ソッティーはしばらく壮志郎を眺めた後、ウィーテヴィーデに顔を向けなおした。
「もう少しかかりますので、待っていてください」
おっさんというのは、回復に時間がかかる。
肉体的にも、精神的にもだ。
ゆえに、不用意におっさんを驚かせてはならない。
壮志郎の持論の一つである。




