本社が太いからこそ享受できる便利さもある
寝て起きてすっきりしたところで、壮志郎はふと大切なことに気が付いた。
「ずっとご飯食べてないのに、ぶっ倒れないね、おじさん。まだ若いから体力あるのかしら」
「種族としてのダンジョンマスターは、基本的に食事を必要としませんので」
なんなら、酸素も必要ではないらしい。
日本のブラック企業とかが喜びそうな話である。
「本来的な意味では、睡眠も必要ないはずなんですが。マスターはよくお休みになられますね」
「眠らなくてもいいのと、寝ないのって違うじゃない? おじさん寝るの好きだからさ」
できればずっと眠っていたいぐらいだ。
永眠はまだまだ先に願いたいところではある。
「食事の件ですが。一応、一定の実績を上げましたので、冷蔵庫に食材がポップするようになりました」
「冷蔵庫に食材がポップ。とは」
聞きなれない単語である。
「冷蔵庫に食材が湧きます。まあ、使うと勝手に補充される、と思って頂ければ」
「マジで? 凄すぎない?」
早速、冷蔵庫を確認することにする。
野菜室にはいくつかの野菜。
チルド室に肉類が少々。
缶ビールが二本に、ペットボトルのジュース。
冷蔵庫の隣に置いてある米櫃には、米も入っている。
「結構豪勢だね」
「使い切った後、二日から三日ほどで補充されるようです。ただ、きちんと扉を閉めておかないとリポップしないようですが」
「まあ、冷蔵庫開けっ放しってわけにいかないしね」
せっかく食材があるので、食事をとることにした。
壮志郎はソッティーも誘ったのだが、種族的に食事はいらないらしい。
空気中から魔力などを取り込んで生きている、のだそうだ。
自動人形というのは、かなりエネルギー効率がいい生き物なのだろう。
早速、食事を作ることにする。
ダンジョンのこともあるので、手早く済ませるためパン食にすることに。
食パン二つに、レタス数枚、牛肉と卵を用意。
フライパンでパンの両面を焼き、目玉焼きを作る。
牛肉を醤油と砂糖で甘辛く炒めておく。
パンの上にレタス、肉、目玉焼きの順に載せ、パンで挟めば、即席牛丼サンドの完成だ。
「美味しいんですか?」
「作ってるのが自分だからまぁまぁだけど、料理上手の人が作ったら美味しいんでない?」
まぁまぁ美味しいのだが、ものすごくおいしい!
というほどではない。
これは調理方法というより、腕前によるところが大きいだろう。
「で、次はなんだっけ?」
「ダンジョン制作について、です」
「ダンジョンかぁ。なんか無意識に、穴を掘って作るイメージなんだけど。考えてみたら、この世界的に言うとそういうのばっかりでもないんだろうね」
桑島のダンジョンには湖があり、パルタパルのダンジョンは森であるらしい。
形に捕らわれる必要はないのだろう。
「うちはどんな形にしようかしら。あ、でも作り方先に聞いた方がいい?」
「先に形を決めてしまった方が、覚えることが少なくて済むのでは」
「なるほど」
すっかり物覚えが悪くなってきているおっさん的には、非常に助かる話である。
「おじさん的には、やっぱり洞窟がいいかなって思ってて。採掘されるのが塩と魔石だし。なんか、そういうのって地下から採掘されるイメージあるのよね」
「確かに、そういった印象はありますが」
「この世界だと岩塩とかないんだろうけどね。地層とかもないだろうし」
神様の設計で、四千年前にできたばかりの世界である。
地殻変動とかも、さほどしていないと思われた。
というか、資源の配分を忘れるような神様が創った世界である。
もしかしたら、マントルとかも存在していないかもしれない。
「洞窟型は、穴を掘ればいいだけですから。比較的簡単かと」
「大丈夫? 崩落事故とか」
「ダンジョンコアやダンジョン魔法を使ってのダンジョン制作では、そういった心配はないようです。いろいろ配慮してくださっているのでしょうね」
神様的な何かで何とかしてくれるらしい。
向こうも、むやみやたらと事故を起こされても困るのだろう。
「じゃあ、洞窟型のダンジョン作る。ってていで、一応説明してくださいな」
一応、というのは、聞いてみてダメそうなら別の線も考える、という意味である。
こだわりなどがあるわけでもなし、面倒臭そうならほかの方法にしてもいい。
「説明といっても、マスターが覚えることはほとんどないかと」
「そうなの?」
「ダンジョンコアのアプリ的なものを操作して作りますので。私が操作を代行することになりますから」
画面がちっちゃすぎて、おじさんでは操作できないのだ。
「ダンジョン作るとなると、表示しなくちゃいけないことも増えそうだしね。余計細かくなるか」
「ですので、どんなダンジョンにするのか、一定の指示をいただく。私がそれを機能を使い最大限実現する。という形になるかと」
「おじさん指示するだけでいいってこと? すんごく偉そうな感じしない?」
「まあ、このダンジョンの最高責任者ですから。偉いは偉いと思います。支店長的な偉さですが」
あくまで神様や天使様から依頼されて、ダンジョンを作る立場である。
「切なさにじみ出ちゃう。けど、おじさんにはそのぐらいがちょうどいいのかなぁ」
「規模が大きくなってくれば、仕事を分担させるのも仕事になってくるでしょうし。問題ないのでは」
管理するものが大きくなれば、とても一人では賄いきれなくなるのだろう。
そのための通常モンスターである。
「あとは、ダンジョン魔法での制作ですが。マスターの魔法では、出来合いの場所をダンジョン指定することしかできませんね」
ダンジョン指定というのは、「ダンジョンに隣接している一定の土地を、ダンジョンとして取り込む」といったものらしい。
ただ、指定できるのはある程度自分達で事前に手入れした場所でなければいけないのだとか。
「建物を建てたり、こちらの通常モンスターで周辺を制圧しておく必要があったり。そういったことのようです」
「たいへんなのねぇ。ってことは、現状でできる事って、スコップで穴掘って、ダンジョン指定することだけ?」
ダンジョン力がないので、今いる人員でできる事しかできないのだ。
「私が穴を制作する魔法も使えますので。そのあたりは問題ないかと。といっても、私の魔力分しか掘れませんので、一日で広げられる面積は限られますが」
「そうか。ソッティーに頼めばいいのね。いよいよおんぶにだっこだなぁ」
「マスターにやって頂くことは、ほかにいくらでも出てくると思いますので」
ソッティーがそういうのであれば、そうなのだろう。
「でも、ソッティーだけじゃ手が足りなくない?」
「今はダンジョン力がないので、手を増やそうとしても、どうにも」
「先立つものが無いと困るのって、どこの世界でも同じなのね」
世知辛いのは、どこの世界でも同じらしい。
「ってことは、おじさんが覚える必要があることってなくない?」
「まあ、そうなりますね」
「もの悲しさあふれる」
「上に立つ人間に必要なのは、現場での能力だけではありませんので」
指示を出す側に必要な能力と、現場で必要な能力というのは、必ずしも同じではないのだ。
別に、壮志郎にダンジョンを直接作る力が無かろうと、管理さえしっかりできていれば問題ないのである。
「でさ。実際、洞窟型のダンジョンを掘るとしてよ。どのぐらいの面積掘れるものなの? ソッティーが一人だけで」
「天井の高さが3mほどだとして。100m×100mといったところでしょうか」
「一日でそれだけ掘れれば、上等かぁ」
横幅2mの通路であれば、5000mは作れる計算である。
「剥き出しの土だけになりますので。硬い壁面に変化させたりしますと、その分魔力を消費しますから」
「剥き出しの土だけだと、あかんの?」
「簡単に掘られたりしますので。スコップなどで」
「ダンジョンって破壊されないものなのでは」
ゲームやライトノベル、マンガなんかだと、そういう設定のものもある。
もちろん、破壊されるパターンのものもあるが。
「そういう設定にもできるようですが、相応のダンジョン力が求められるようです」
「世知辛さハンパない」
「ただ、破壊されたとしても徐々に自己修復はするようです。ダンジョン自体に復元能力があるようですね。ただ、ある程度以上破壊されると、それも役に立たないようですが」
「ダメなんじゃないのソレ」
「ダンジョンに潜る方も、むやみに破壊はしませんので。大切な稼ぎ場所ですから」
言われてみれば、その通りではある。
人間にとってダンジョンは、大切な資源採掘場だ。
むやみに破壊しようとするのは、よほどの反社会的な奴だけだろう。
「じゃあ、ある程度だけ丈夫にしておけばOKなわけね」
「設置するモンスターによって状況はまちまちだと思いますが。そうなります」
ともあれ、壮志郎はダンジョンの大まかに設計の方向性を設定すればいいらしい。
非常に助かる話ではある。
「とりあえず、どんなダンジョンを作るか決めちゃおっか。手が足りない云々の問題は、そのあとで考えるってことで」
「それがよろしいかと」
「んー、とにかく、ある程度の試練を乗り越えたら、塩か魔石が貰える。みたいな形になればいいのよね」
その「試練」を何にするかが問題である。
難しすぎても、簡単すぎてもいけない。
「一番わかりやすいのは、やっぱりリポップモンスターか」
モンスターを倒したら、それに応じて塩が出てくる。
そのあたりが一番わかりやすいだろう。
「私もそう思います。とっつきやすいですし」
「地下洞窟でモンスターと戦って、倒すと塩が手に入る。わかりやすくていいやね。塩って貴重品だし」
今では考えられないかもしれないが、大昔は地球でも塩は大変な貴重品だった。
兵士の給料として支払われていたころもあったぐらいである。
戦うための理由としては、十分な品と思われた。
「生きるって大変だなぁ」
「恐ろしく他人ごとのような言い草ですね」
「いやいや、そんなことないよ。そういえば、洞窟の中ってくらいよね。照明用意できないの?」
「明かりは人間に用意させてもよさそうな気はしますが」
「そうなんだけど。こっちで用意したほうが親切だし、人が沢山きそうじゃない?」
可能であれば、その程度のユーザーフレンドリーさは見せていきたい。
その方がダンジョンもにぎわいそうである。
「確かに、そういった面はあると思います」
「それに、洞窟の中で火を焚かれるのって怖いじゃない」
この世界の文化レベルがどの程度かわからないが、明かりは火に頼っていそうな気がする。
閉鎖空間で火を使うのは、できれば避けて頂きたい。
「下手に酸欠で死なれては、元も子もありませんからね。換気の方法もあとで考えておきます。さて、明かりですか」
ソッティーは難しい顔で、ダンジョンコアを操作し始めた。
「何かありそう?」
「いえ、おおよその情報は記憶しているのですが、それがあっているのか確認しているだけですので」
「なにそれ。どういう記憶力してるの」
「マスターがダンジョン関連の知識に関するスキルを私に取得させておりますので」
そういえばそんなものも設定していた気がする。
人間歳をとると、最近のことはすぐに忘れてしまう。
代わりに、昔のことは行きつけだった店の店主が飼っていた猫の名前まで思いだせる。
壮志郎の持論の一つだ。
「ありました。火を使うモノ、街灯型など様々ありますが。どのような明かりが良いでしょう」
「火を使わないやつがいいけど。なんかこう、LED的なのないの?」
「そういったものは資源として持っていかれるかと」
確かに、そういうのが自宅に在ったら便利だな、と思うだろう。
持って帰られてしまったら、せっかく設置した苦労が水の泡である。
「ええー。なんかこう、都合がよさそうなのないの? 酸欠とかの心配がなく、持って帰られないやつ」
「あるにはありますが」
そんな都合がいいものがあるとは思っていなかったので、壮志郎は目を丸くした。
世の中、言ってみるものである。
「発光苔という種の苔で、ダンジョンにしか生息できないご都合生物です。まあ、身もふたもないことを言ってしまえば、神様がダンジョン用に作った照明生物といったところです」
「なにそれ。光るコケってこと? 光量は?」
「ある程度、ダンジョンマスター側で設定できるようです。蛍光灯程度から、うっすらした明かり程度まで。かなり幅広く対応しているようですね」
「えー。明かりの色合いとかは?」
「電球色、昼白色、昼光色があるようです。コレ、蛍光灯そのままですね」
「わかりやすくてステキ。さてと。じゃあ、どんなダンジョンがいいか考えてみるかぁ。なんか、紙とペン的なものってある? 無いか」
「あります。マスターがお休みの間に、ポップしました」
「マジで!? なんかいろいろ充実してるなぁ。食べ物から何から」
「ダンジョンマスターを効率的に働かせるためではないでしょうか。貧すれば鈍するといいますし」
ある程度充実した生活をさせたほうが、作業効率がいいということなのだろう。
「全員が全員そうとは限らなくない? って、まぁ。おじさんの適性を見て、5番さんがそういう設定にしたんだろうね」
相手は天使様である。
壮志郎の性格は把握されているのだろう。
ある程度満ち足りた生活をしていると、向上心を失って現状維持だけに走ろうとするタイプもいる。
食べ物などが供給されるこの生活水準に満足して、働かなくなる手合いもいるだろう。
だが、壮志郎はそういう種類の人間ではない。
上から働けと言われれば、「はい」といって大人しく働くタイプなのだ。
あれやこれやと試行錯誤しつつ、ダンジョンの形を考えていく。
複雑な迷宮型はやめよう、ということになった。
管理が面倒だからだ。
別に攻略されたら死ぬ、という種類のダンジョンではないのである。
適切な試練と、それに相対するまでの利便性は別に考えてもいいはずだ。
「まず、出入り口があって、そこから下っていくと、大部屋がある」
通路や部屋の天井には、発光苔を設置しておく。
明るいので、足元も安心だ。
もちろん、トラップなども設置しない。
天井も高めに取っておく。
「ちなみに大部屋って、柱無しで作れるの?」
「まぁ、広さにもよりますが。体育館の半分ぐらいの面積でしたら、特に問題ないかと」
かなりの広さでも行けるらしい。
その大部屋から、十本の分かれ道が伸びる。
道の先には小部屋があり、そこにモンスターを配置。
これを倒すと、塩がドロップする。
「とりあえず、そんな感じで行ってみようか」
「いささか単純すぎるきらいはありますが、最初のうちは問題ないかと」
「ダンジョンって後々拡張利きそうだもんね」
むしろ、段々と成長していくのが基本の形らしい。
最初はある程度単純に。
然る後、需要や周辺との兼ね合いを見ながら大きくしていくのだそうだ。
「とりあえず方向性を決めたところで。5番さんに連絡しようか」
「もうですか? モンスターなど、細かいところを決めて、企画書などを作ってからでもよいのでは」
「ほら。コンセプトからだめだし喰らったらアレじゃない」
そもそもの基盤となる案が駄目となると、手直しを加えるどころでは話は済まなくなる。
先にその路線でいけるのかいけないのか確かめてしまった方が、楽なのは間違いない。
「先にOK貰っとけば、後からだめって言いにくくなるだろうしね」
「常識の通用しないクライアントですと、やっぱりなしで、などと言い出すこともあるようですが」
「その辺はまぁ、相手は天使様なわけだし。心配いらんでしょう」
とりあえず、連絡を取ることにする。
ソッティーにダンジョンコアを操作してもらい、5番へ通話をかけた。
ほとんど待つこともなく、5番と通話が繋がる。
「お世話になっておりますー」「いえいえこちらこそ」的な定型文挨拶を済ませ、早速本題に入ることにした。
ざっくりしたところだけしか決まっていないが、と断ったうえで、ダンジョンの構想を説明する。
「中央にたまり場を作って、そこから戦闘用の小部屋へ行く流れですね。なるほど。今までに何度かあったタイプではありますね。うん、いいと思いますよ」
「やっぱり前例ありましたか。わかりやすいですしね」
「以前にいくつか。今は、階層が多いダンジョンにある形が多いですね。ソレだけで成り立ってるダンジョンはありません。ですので、うん、いいんじゃないですかね」
「有難うございます。では、これで詰めていくことにします。企画書とか作ってお送りしたほうがいいですか?」
「あ、必要ありませんよ。特に問題がある構造でもないですし。実際に作業するソッティーさんがうまく取り計らってくれるでしょうから」
「わかりました。では、定期的にメール的なもので進行状況等ご報告差し上げる形で」
「そうですね、そうしてもらった方がこちらの目も入りますし、田沢さんも安心ですかね。では、まぁ、三日か四日毎位で、完成までの間という感じで一つ」
あれこれと話し合い、作業は勝手に進めてもいい。
ということになった。
そんなに細かく指示を出すほど、複雑な造りではないからだろう。
5番の口ぶりからするに、ソッティーの持つスキルが、それだけ有用だということなのかもしれない。
あれこれと相談をし、いくつかのことを決めて、通信は無事終わった。
「相変わらずこちらの状況を掴んでいる様子でしたね。相談する意味はあるのでしょうか」
報告しなくてもよさそうな気は、しないでもない。
それでもきちんと確認は必要だと、壮志郎は思っている。
「報告、連絡、相談する意思があるっていうのを示すだけでも、意味があるでしょ」
「確かに、そうかもしれません」
「んで、次はどうするんだっけ?」
「どうやってダンジョンを制作するかの方法を決める。でしょうか。手の確保方法を考えたほうがいいかと」
ソッティー一人でも掘れなくはないのだが、時間がかかりすぎてしまう。
「ダンジョン制作のためのモンスターを選ぶ感じかぁ」
「同時に、ダンジョンの詳細を決める必要もあるかと思われます。選んだモンスターによって、どのようなダンジョンが作れるかもある程度決まってきますので。これは同時に考えたほうがよろしいかと」
「なるほどねぇ。でも、あれだ。その前にやっておきたいことがあるのよね」
「何か、重要なことでも?」
「さっき半端にパン食べたら、余計お腹すいちゃってさ。ずっと食べてなかったし。お米が食べたいのよ」
見た目は全く変わらなかったが、ソッティーにじっとりとした視線を向けられている気がする。
が、壮志郎はあえてそれを無視した。
歳をとると、人間というのは段々と図太くなってくる。
壮志郎の持論の一つであった。
とりあえず、書き溜め分はすべて吐き出しました
これからはぼちぼち更新していく形になります
がんばって書ければいいなぁ、と思っております




