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プレオープンは割と大事

 調査隊はかなり手際よく作業をしているようだったが、正直なところ、壮志郎には何をしているのかよくわからなかった。

 何か専門的な機器を使い、計測作業をしているらしい。

 というのは、なんとなくわかる。

 だが、それが何にどうつながるのかは、全くわからなかった。


「アーさん、あの人達何してるかわかる?」


「いや、わかんねぇっす。なんか作業してるなってのはわかるんすけどね」


 専門的な仕事というのは、素人が見てもわからないものである。

 だからと言って、放っておくわけにもいかない。

 自分のダンジョンを調べられているわけだから、何をされているかわからなくとも、見張りは必要なのだ。

 まあ、従業員がいくらでもいるので、別に壮志郎がやらなければならないわけでは無いのだが。


「なんかあれよね。大きい家具とか電気製品の設置してもらってるのを、ぼーっと眺めてる感じよね」


「あー、何となくニュアンスはわかるっすわ」


 お茶をすすりながら頷いているのは、アーペインだ。

 今、モニタ室にいるのは、シフトで入っている従業員達に、壮志郎、アーペインである。

 調査団が初めてダンジョンに入ったのが、昨日のこと。

 ずっと全員で見ている必要もあるまい、ということで、ソッティー、ウィーテヴィーデ、マルシュオーラといったほかの面々は、それぞれの仕事に戻っている。

 アーペインは調査課なので、今はここに詰めているのだ。


「調査課の従業員さん達、見つかったりしてない?」


「うちの連中は隠密性高いのばっかりなんで、大丈夫みたいっすね。ヤバそうなのには近づくな、って言い含めてありますし、心配いらねぇっすよ」


「やっぱりいるの? 感知しそうな人」


「まあ、わかんねぇっすけど。気が付かれてからじゃ遅いっすからね」


 そんなことを話しながら、ぼうっとモニタを眺める。

 ちなみに、壮志郎とアーペインはお茶を飲んでいた。

 お茶請けは、壮志郎が漬けた漬物である。

 地域によって違うらしいのだが、壮志郎の出身地域では、日本茶のお茶請けに漬物を食べるのは、割とポピュラーだった。

 従業員の方には、お茶は用意していない。

 モニタ室の従業員は自動人形ばかりで、基本的にものを食べないからだ。

 ガンガン食事をするウィーテヴィーデは、例外的な存在なのである。


「マスター、アーペイン様。どうやら、小部屋の調査を始めるようです」


 モニタ係のアラクネ型自動人形からの報告に、壮志郎は慌ててお茶を置く。

 丁度口に入れようとしていたところだったので、少々咽た。

 おっさんは喉とかも弱くなってきているものなのだ。


「ソッティーとウィーテヴィーデちゃん、あとマルさんも呼んでもらえる? なるはやでってことで」


「わかりました」


 アラクネ型自動人形の声は、流暢で非常に聞き取りやすい。

 ビジュアルがホラー系の殺戮マシーン系統なのでかなり違和感があるのだが、かなり礼儀正しく、人間味がある。

 上司であるウィーテヴィーデに気を使い、さらに上である壮志郎にはかなりの遠慮があるように見受けられた。

 下っ端社会人生活が長い壮志郎には、そういった機微を察する能力があるのだ。

 非常に珍しいことだが、これはおっさん全体ではなく、壮志郎独自の特性であった。

 一括りにおっさんといっても、実は多種多様なおっさんがいるのだ。

 おっさんとは、意外にも多様性に富んだ存在なのである。

 壮志郎の持論の一つだ。




 教会とギルドにとって、いや、この世界に住まう全ての人種にとって、ダンジョンというのは唯一無二の存在であった。

 神から与えられた試練の場であり、それを乗り越えることで資源を得ることが出来る場所。

 奇妙なことに「機嫌」のようなものがあり、それを損ねると恐ろしいしっぺ返しを受けることになる。

 だからこそ、初めて発見されたダンジョンの調査は、慎重に、念入りに、且つ、迅速に行われた。

 ダンジョンは「正しい使い方」をしなければ、機嫌を悪くしてしまう。

 だが、調査に時間をかけすぎても、へそを曲げてしまうものであった。

 何度も失敗と成功を繰り返し、長い時間と経験を経て人種が得た、経験則である。


「大きな部屋に、小部屋へ続く廊下。小部屋にはモンスターが居て、それを倒すと資源を得られる。そういうタイプのダンジョンだ、ということですか」


「断定はできません。が、外見的、構造的特徴を見るに、そういう可能性はかなり高いと思われます」


 ダンジョン内の大きな部屋は、ひとまずモンスターなどが居ないらしいと判断されている。

 調査隊の各部門責任者達はそこに集まり、立ちながら話し合いをしていた。


「判断するのがいささか早すぎる気がしますが」


「ダンジョンというのは、試練の場です。そして、そこ特有の法則というか。ルールのようなものがある」


 いぶかし気な質問に対して、ダンジョンを研究している学者、「先生」と呼ばれていた人物が口を開いた。

 彼は今回の調査隊で、研究者の代表という立場になっている。


「もちろん例外もありますが、ダンジョンは押しなべて親切なつくりをしていることがほとんどです。慎重に観察し考察すれば、ダンジョン側の意図のようなものを察しとることが出来るのです」


「そういうものなのですか」


「ルルシルル大闘技場はご存じですな? ここはそれと似たような外見的傾向が見受けられます」


 ルルシルル大闘技場。

 ここからはかなり遠い位置にあるダンジョンであり、各部門責任者の大半が「名前とどんなところかなのか程度」の知識しかない。


「いくつもの闘技場が連なっていて、そこにモンスターが現れる。それを一定の条件で倒すことで、資源を得ることが出来る。それが、ルルシルル大闘技場です。そして、この条件というのは、実は闘技場ごとに絵記号で示されているのです」


「絵記号? ですか?」


「出現するモンスターの種類と数。入ってよい人数と、使ってよい武器の種類。魔法を使ってよいか悪いか、などなど。闘技場へ続く入り口に描かれているのです。それを守らないと、モンスターが現れなかったり、資源が得られなかったりする」


 先生は「あれを見てください」と、指をさした。

 そこには、小部屋に続いていると思われる細道への入り口がある。

 危険だと判断して、まだ誰も足を踏み入れてはいない。


「なるほど、穴、というより出入口か? その横に、絵記号がありますね。モンスター一体。人種一人。弓に重なるバツ印」


「素直に見るならば、中にはモンスターが一体いる。入っていいのは一人だけ。飛び道具は使ってはならない。ってことですか」


「ほかの出入り口と思しき穴の近くにある絵記号と思しきものと照らし合わせて考えても、そう判断するのが妥当でしょうな」


 あまりに素直に読み取りすぎているのでは。

 と思われるかもしれないが、この世界における「ダンジョンの立場」を考えれば、先生の見方は正しいと言える。

 少なくともこの世界においてダンジョンというのは、「人を罠にかけて殺すための装置」ではない。

 神が用意させた、「試練」を与え、その対価として「報酬」を与えるための場所なのだ。

 地球日本に住むものが考える、いわゆる「ダンジョン」とは、少々異なるものと言える。


「では、小部屋の調査をするには、絵記号の指示通りにやる必要がある。ということですかな?」


「そう判断します。まずは、先ほどのモンスター一体、人種一人の場所からが、妥当だと判断しています」


「問題は、絵記号の指示をたがえた場合の罰が如何なるものか。という点ですか」


「試しに逆らってみたら、しばらくダンジョンから資源が出なくなりました。では、全く笑えませんからな」


「部屋ごとに罰が異なる、という恐れは?」


「ありえないとは言えませんな。こればかりは試してみるしかありません。気は進みませんが」


「とにかく、まずは絵記号から読み取れる指示に、従ってみることですな」


「そう思われます。もっとも、絵記号を正しく読み取れているか、わかりませんがね。それを確かめてみる意味でも、まずはやってみるしかないものかと」


 方針が決まったら、あとは動くのみ。

 各部門責任者達は、あわただしく動き始めた。




 お茶請けの漬物を、ウィーテヴィーデは心底幸せそうに頬張っている。


「おいしい?」


「ごはんが欲しくなるでございマスデス!」


「あら、よかった。おかず用にもするつもりだったから、最高の誉め言葉だね」


「マスターっていつもあんな感じなん?」


 緊張感のなさそうな壮志郎とウィーテヴィーデを見て、マルシュオーラは何とも言えない表情を浮かべた。

 聞かれたソッティーはチラリと壮志郎達の方へ顔を向け、うなずく。


「おおよそあのような感じかと」


「所帯じみてるなぁ。っていうか、ほら。お客さん入ってくよ」


「あ、ほんとだ。なんか迫力あるなぁ」


 いかにも歴戦の冒険者、といった風情の人物が、小部屋に入っていく。

 手にしているのは、片手に括り付けられた盾。

 それと、柄が長い直刀のようなものだ。


「狭い場所で戦うことを想定しての武器なんすかね。あれなら突く、薙ぐ、切る、色々出来そうっすし」


「武器の選択は個々人のセンスやスタンスにも関わります。彼はアレが使いやすいのでしょう」


「ちなみに、おじさんよくわからないから聞きたいんだけどさ。皆の目から見て、あの人って強そうかとかってわかるものなの?」


「一概には何とも言えねぇっすけど。体捌きとかはいいんじゃないっすかね? 体の筋肉の付き方とかもなかなかっすし」


「魔力の質もよさそうだよね。多分、そっち系統も行けるタイプだと思うよ」


 アーペインとマルシュオーラの評に、壮志郎は感心したような声を上げた。

 どうやら、かなり強い部類の人物らしい。


「で、ここに出てくるモンスターってなんだっけ?」


「ゴブリン型の自動人形です。戦闘能力はさして高くありません」


「どのぐらいのものなの?」


「装備は盾と剣。危険度は、そうですね」


「特にチートはないけど異世界に来て魔法を少し使えるようになった高校生主人公が、ギルドでの訓練を思い出しながら辛勝するぐらい」


 あまりにもアレなマルシュオーラの表現だったが、幸いなことに壮志郎にとってはわかりやすいものだった。


「じゃあ、あの冒険者さんには物足りないのかしら」


 冒険者が細い道に入ると、大部屋側の戸が閉まり始めた。

 上からシャッターが下りていくような形で、警戒音なども鳴っている。

 冒険者や外にいる調査隊の隊員達は、落ち着いた様子でそれを見守っていた。


「動揺してないねぇ」


「予想していたのかと」


 大部屋側の戸が閉まると、今度は小部屋側の戸が上がり始める。

 冒険者はソレを確認すると、武器を構え、ゆっくりとした足取りで小部屋の方へと移動していく。

 小部屋の三分の一ほどの位置には、光の幕のような魔法の障壁が張ってある。

 その向こう側には、木と金属で作られたゴブリンのようなものが居た。

 ゴブリン型自動人形だ。


「あ、この世界のゴブリンもあんなビジュアルなの?」


「はい。日本のゲームや漫画などで見かけるイメージと大体同じようです。ちなみにこのやり取りは何度もしています」


 壮志郎の記憶はふわっふわしているのだ。

 冒険者が小部屋の中に入ると、光のベールが消えた。

 ゴブリン型自動人形が、剣で盾を叩く。


「威嚇してるのかしら?」


「この部屋は、このダンジョンで一番初心者向けの部屋でございマスデス。これから攻撃するよ、という合図も必要でございマスデス」


「チュートリアル的なやつなのかぁ」


 戦いが始まった。

 と、言っても、かなり一方的なものだ。

 ゴブリン型自動人形が攻撃を仕掛け、それを冒険者がいなす。

 ほとんど動きもしておらず、壮志郎の目には突っ立っているだけの冒険者の盾や剣を、ゴブリン型自動人形がひたすら攻撃しているように見えた。


「おじさんの目にも、すごいな、っていうのはわかるんだけどさ。どのぐらいすごいのかはよくわかんないわ」


「俺とどっこいってところじゃねぇっすかねぇ」


 アーペインと同じぐらいということは、相当に強い、ということなのだろう。

 ただ、アーペインの本領は、直接の戦闘ではない。

 調査や隠密性など、そちら方面にこそあるのだ。

 そんなことを言っているうちに、ゴブリン型自動人形の首が撥ねられた。

 がっくりと力を失って倒れると、その体はすぐに消滅する。

 そして、小さなかけらが残った。

 薄紫色のガラス片のようなものである。


「あー、魔石かぁ」


「え? ちょ、マスター、覚えてたんすか!?」


「うん。初めて見たときインパクトあったから」


 魔石の見た目は、実に様々だった。

 色合いも、紫のほかに赤や緑といったものもある。

 共通しているのは、ガラス片のような質感だ、というところだ。

 シーグラスを思い浮かべれば、おおよそ近い形になるだろう。

 冒険者は親指の先ほどのそれを拾い上げ、驚いたように目を見開いている。


「あれってどのぐらいの価値があるものなの?」


「昼飯が食べられる程度でしょうか」


「あー、うん。そんな感じっすね」


「お昼ご飯は大切でございマスデス」


「千円弱ぐらいってことか。んー、どうだろう。時間当たりだとアレだけど、命がけの仕事って考えると、妥当、なのかな?」


 首を傾げるマルシュオーラの言葉に、壮志郎は悩むように唸る。


「ドロップする魔石の量は調整できマスデス。外との兼ね合いを見ながら、変動させマスデス」


「どのぐらい変動させればいいかを調べてくるのは、俺の仕事ってことっすね」


 壮志郎もそのあたりのことは気になっていたのだが、さっさと周りが解決してくれていく。

 部下が優秀だと、上というのは余計なことなどしなくても仕事が回るものなのだ。

 いざというときの決断と、どうしようもなくなった時の責任が取れるなら、上というのはだれでもよい。

 よい組織というのは、優秀で健全な「部下」によって成り立つものであって、上が褒め称えられて持て囃されるような所というのは、「組織」として機能不全に陥っている。

 本来そんな状態が良いわけはなく、少しでも早く上は「お飾り」になることを目指すべきだ。

 上が無能と言われていながらも、健全に動いている組織こそ、もっとも理想的な姿である。

 壮志郎の持論の一つだ。

 まあ、この場合がそれに当てはまるかどうかは、壮志郎自身全く思っていないのだが。


「あ、冒険者さん、小部屋から出るみたいよ?」


 冒険者は魔石を拾い、小部屋から大部屋の方へと移動する。

 その動きに合わせ、小部屋側の扉が閉まる。

 通路を進んでいくと、大部屋側の扉が開く。

 冒険者の体が完全に通路から出ると、大部屋側の扉も閉まる。

 扉の中央には、いつの間にか砂時計のような光の絵が登場していた。


「電光掲示板みたいな感じ?」


「あの砂時計が落ち切ると、次のモンスターが準備できた合図になりマスデス。すると、大部屋側の扉が開いて、入れるようになるでございマスデス」


 砂時計というのは、この世界にも存在する。

 そんなものを表示に使っていいのか、という気もするが、絵記号で弓などを使っているのだから、今更だろう。


「ちなみに、小部屋の前の指示を破ったペナルティってあるのん?」


「モンスターを倒しても、魔石がドロップしない。大部屋へ続く扉がしばらく開かない。次のモンスターがしばらくリポップしない。という感じにしていマスデス」


 マルシュオーラに聞かれ、ウィーテヴィーデは指を折って確認しながら答えた。

 ダンジョンの役割は、資源鉱山だ。

 とれるはずの資源が取れなくなる、というのは、相当大きなペナルティと言えるだろう。


「期間とかはどんなかんじなのん?」


「部屋から出られないのは一時間ぐらいで、リポップは丸一日停止、という形にしていマスデス。そのあたりの調整も、今後必要だと思うでございマスデス」


「もう、あちこちで試し始めてるみたいだし。絵記号の指示を守らないバージョンのお試しもするだろうから、その時のリアクション見てだろうねぇ」


 壮志郎が言う通り、既に調査隊はいくつもの小部屋を使って様々なテストを始めているようだった。

 冒険者は何人もいるらしい。


「これって、いつまで試すつもりなのかしら?」


「ひとまず、夕方まではテストするつもりのようです。そういった相談をしていましたので」


「じゃあ、ウィーテヴィーデちゃん。時間とかダンジョンの調整の確認、よろしく。おじさんに確認しないで、あれこれ試していいから。報告は、まとめて夜にでも」


「わかりましたでございマスデス」


 ウィーテヴィーデは頭を下げると、さっそく部下達と相談し始めた。

 ダンジョン内では、調査隊が動き続けている。

 少しも見逃すわけにはいかないし、確認記録しなければならないデータはいくらでもあった。


「アーさんの方も、有益そうな情報を拾う作業、よろしくお願いしますね」


「わかりました、手を尽くすっす」


「あと、ちょっとおじさん的に一人気になる人が居てね。その娘にマーク付けてほしいのよ」


「どの子っすかね?」


「あーっと、いたいた。この子なんだけど」


 壮志郎が指さしたのは、メルディスだった。


「もうアーさんなら気にしてるかもしれないんだけどさ。この中で明らかに何か専門職っぽいのがないのって、この娘だけなのよね。ずっとメモとりながらあちこち歩き回ってるでしょ? それでいて、誰に指示出すわけでもないし、お付きの人がいるわけでもないし」


「そうっすねぇ。見学してるみたいな感じっすけど」


「まさにそれだと思うのよ。こんなところでそんなことしてる立場の娘ってなるとさ。村にギルドを作ることになるじゃない? その時の従業員予定の子なんじゃないか、って思うのよ」


 何か明確な推理や論理的思考によって、そう導き出したのではない。

 こういうことをしてるってことは、なんとなくそうなんじゃないかなぁー。

 程度のものであり、いわゆる「勘」であった。

 おっさんの勘、というやつである。

 かなりダメっぽい雰囲気が漂う字面だし、なんとなく外れそうな気配が拭えないのだが。

 今回はアーペインも同意見だったらしい。


「言われてみれば、確かにっすねぇ。雑用係かなんかなのかとおもってたんすけど。そうなってくると、気を付けてみといたほうがいいっすね」


 一番近い場所にある冒険者ギルドの関係者だとすれば、このダンジョンにとって重要なお客ということになる。

 特にアーペインは、冒険者としてギルドに潜り込む予定なのだ。

 接触回数も当然増えるだろうから、情報は多いに越したことはない。


「色々含めて、調べとくっすわ」


「よろしくねぇ。それから、マルさん。戦闘の様子を観察してもらって、リポップモンスターのこと把握しておいてください。分からないことがあれば、ソッティーとかに聞いてもらって」


「了解でーす」


「必要なものがあったら、それもソッティーと相談してもらって。人手がいるようなら、従業員の追加も準備しますのでね。その辺のことも考えておいてください」


「わっかりましたん。取り急ぎ必要なものはないんで、私の方もとりあえず夜に報告って感じでも?」


「じゃあ、そんな感じで」


 初見がアレだったからそんな印象はなかったが、マルシュオーラも優秀な人材なのだ。

 そうでなければ、ここにはいないだろう。


「ソッティー、皆からの要望で、ダンジョンコアが必要なようなら使ってあげて」


「そのように」


「そしたら、おじさんも作業始めようかなぁ」


「手伝いは必要ですか?」


「ああ、大丈夫大丈夫。今日、おでんにしようと思ってたからさ。早めに煮込み始めたほうが味が染みると思って」


 部下が優秀だと、おっさんは特にすることがなくなるので、家事に凝るようになる。

 壮志郎の持論の一つだ。




 調査隊は非常に優秀で、非常に行儀が良いお客さんだった。

 順調に調べを進め、こちらの決定的に不利になるようなこともしない。

 驚くほど効率よく調査を進め、三日ほどでダンジョンの「仕様」をほぼ完璧に把握してのけた。

 さらに数日をかけて、ダンジョンでの「採掘量」の確認などがされていく。

 その手際の良さと丁寧さに、壮志郎は呆気にとられた。


「はぁー。当たり前なんだけどさぁ。優秀な人達っていうのは、優秀なんだねぇ」


「洒落や冗談じゃなく、国の進退もかかってくる案件っすからね。ダンジョンって」


 元国王であるアーペインが言うと、説得力が違う。

 ちなみに、壮志郎は聞くたびに忘れているので、アーペインが元王様だというのは知らないという設定になっている。

 壮志郎自身がそう言っているので、そうなのだろう。


「確認作業も終わったようで、そろそろ大々的に新ダンジョンの告知をするようです」


「思ったんだけどさぁ。なんで冒険者の人達なんて使うのかしら? なんていうか、お国の兵隊さんだけでダンジョン探索すればいいんじゃないの?」


「んー、そうっすねぇー」


 壮志郎の質問に、アーペインは考えるように唸る。

 何と説明すればいいか、迷っているようだ。

 そこに、ソッティーが助け舟を出した。


「人材を育成するには手間も金もかかります。それらを潤沢に浪費して人員をそろえる贅沢というのは、どこの世界でも簡単なものではありませんので」


「そう。そういうことっすね。マスターの元居たところではできたのかもしれねぇーっすけど、ダンジョンでの探索には相当な人数いねぇと物資が集まらねぇっすから」


「そうかぁ。資源採掘鉱山、だもんねぇ。人手が必要なのかぁ。なるほどなぁ」


 たしかに、物事の分かった優秀でやる気のある人間をそろえてダンジョンに潜らせられるなら、それが一番効率はいいだろう。

 だが、そんなことが出来る「人的資源」がこの世界にはないのだ。

 となると、玉石混交の冒険者達を使い、とにかく数で押した方が確実に量を確保できる。


「苦肉の策なのかしらねぇ」


「苦肉の策っつぅか、単純に理想論っつうか。あの調査隊みたいな連中は稀有も稀有っすよ」


 壮志郎が視線を向けると、ソッティーは大きくうなずいて見せた。


「そっかぁ。おじさんの感覚の方がアレなのかぁ。コスト云々の問題もあるけど、ここだとそこまでの贅沢自体用意できないのもあるのかしらねぇ」


 壮志郎はぶつぶつと呟きながら、自分の価値観の修正を始めた。

 こういった作業には、割と慣れている。

 何しろおっさんの常識や価値観というのは、とかく古くなりがちだからだ。

 世の中の流れというのは、とんでもなく速い。

 若いうちならば、すぐに情報をアップデートできるだろう。

 だが、年を取ってくるとそれに時間がかかるようになってくる。

 結果的に、最新の情報だと思っているものを取り込むころには、既に少し古くなっている、といったことが起こってしまう。

 そうしているうちに情報を追うのにも疲れ、アップデートを怠るようになる。

 こうなるともはや、おっさんとも言えない。

 老害やらなんやらと呼ばれるようになってしまう。

 将来的にはそう呼ばれて邪険にされるのもいいだろうが、壮志郎はいまはまだ「おっさん」で居たかった。

 人は気が付くとおっさんになってしまうが、おっさんでい続けるのには若干の努力が必要になる。

 壮志郎の持論の一つだ。


「まあ、そんな感じだから、アーさんが潜り込む算段もできるわけだしねぇ」


 アーペインを冒険者として、村に送り込む。

 そのための算段も、付きつつあった。

 方々に相談して整えた算段は、次のようなものである。


 まず、アーペインをダンジョン“メルタール・リンド大森林”に送る。

 ここでダンジョンマスター、パルタパル・ロス・セシリアスの手助けを借りて、冒険者としてギルドに登録。

 壮志郎のダンジョン発見の知らせを待って、「新ダンジョンに期待をかける冒険者」として村に入る。


 迂遠なようだが、そのぐらいのことはしておいた方がいいという判断だった。


「発見初期のダンジョンに入れる人間っすからねぇ。玉石混交にしても、それなりにえり好みしたいわけっすよ、ギルド側も」


 というのが、アーペインの談である。

 その気持ちもわからなくない。

 アーペインの偽装身分も、そういった手間を挟んだ方が剝がれにくくなるだろう。


「パルタパルさんのところのダンジョンも、だいぶ落ち着いたって言ってたしねぇ」


 壮志郎達が調査団の対応をしている間に、あちらの問題もあらかた目途がついたらしい。

 スタンピード云々、という一件だ。


「よかったよねぇ。いや、いろんな意味でさ。周りが落ち着いてくれなきゃ、こっちも大変でしょ?」


「落ち着いているといってもよいのでしょうか。スタンピードが起きているわけですし」


「ああ。そうか。不謹慎かしら?」


「我々の立場上、かなりシビアなところかと」


「うん、まぁ、じゃぁ、ノーコメントってことにしとこうかしらね」


 さらに数日後、探索隊は無事に引き上げていった。

 無事に調査を終え、ダンジョンの査定を終了したのだ。

 かなり高評価だったらしく、ウィーテヴィーデは大変にご機嫌である。

 それを確認して、アーペインもすぐに“メルタール・リンド大森林”へと転送することとなった。

 近くのギルドで登録を済ませ、冒険者として活動。

 新しいダンジョンのうわさが出始め次第、こちらに向かう予定になっている。

 一カ月程度はかかるだろう、というのが、壮志郎達の予想だ。

 長いようではあるが、仕事の期間としては案外短いものである。

 その間に、やらなければならないことが山積していた。

 ウィーテヴィーデはダンジョンの箱部分の調整。

 マルシュオーラはリポップモンスターのバランスを取ること。

 ソッティーはそれらの監督と、他ダンジョン間との連携の確認。

 壮志郎はそれら全体の指揮を執りつつ、家事をこなさなければならない。

 一人、マルシュオーラが増えたことで、食事の準備は割と大変になってきていた。

 そろそろ新しい調理器具を用意した方がいいのだろうか。

 ついでに、キッチンももう少し使いやすくしたい。

 いろいろと料理のレパートリーも増えてきたから、食器にも凝りたくなってきている。

 ダンジョンとは全く関係ないところで、壮志郎の悩みは尽きなかった。

次回から、ダンジョンが本格稼働します

近くの村がにぎやかになり、アーペインが忍び込んでいきます

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― 新着の感想 ―
[一言] 楽しみ
[一言] なんだかんだ言ってもわりと上手く回ってるなぁ  忘れっぽいとことか、微妙に社畜体質なとことか含めてダンマス向いてますね これも五番さんの慧眼?
[一言] 後書き部分なんですが、「知覚」の村ってどんな村ですか?とツッコミを入れてみる。
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