楽しみがあるからこそ、人生は楽しい
その日、壮志郎は思い出した。
最近ずっと強力なモンスターを呼び出していなかったので忘れていた、その作業の恐ろしさを。
「でっかいガラス瓶だなぁ。このぐらいのやつって久しぶりじゃない?」
壮志郎は半笑いで、目の前のガラス瓶を掌で叩いた。
件の魔女を呼び出すためのものである。
アーペインを呼び出した時と同じぐらいはあるだろうか。
「最近あんまり大きな瓶見てなかったから忘れてたわ。そうか、これがあったのかぁ」
忘れていたわけではない。
多くのおっさんには、都合の悪いことを意図的に意識の外に追い出すことができるという、特殊能力があるのだ。
忘れるのではなく、そっと記憶の引き出しにしまう。
そうすることで、辛く悲しい出来事の後でも笑っていられる。
壮志郎の持論の一つだ。
「はぁ。しょうがないかぁ。とりあえず入れ始めるかぁ」
もっと愚痴りたいところだが、色々と予定も詰まっている。
壮志郎は柄杓を手に取ると、観念したような顔でため息をついた。
そこで、ふとアーペインのほうに顔を向ける。
「アーさん達のごはんどうしようか」
「へ? どうしようかって、どういう意味っすか?」
「おじさん疲れ果てたら、ごはん作れなくなるかもだし」
細かい作業の連続であるダンジョン力の注ぎ入れ作業は、おっさんの体力をごっそりと奪う。
ごはんを作る体力も失われてしまうのだ。
これにいち早く反応を示したのは、ウィーテヴィーデだった。
アーペインに筆舌に尽くしがたい表情を向けている。
「あー。いや。自前作るっすから、大丈夫っすよ。三食分ぐらいならどうにでもするっす」
「ほんと? じゃあ、そうしてもらおうかな。ついでにウィーテヴィーデちゃんの分もお願いできる?」
「了解っす」
ウィーテヴィーデは両こぶしを天に突き上げた。
満面の笑みで喜びを表現している。
ちなみに、ウィーテヴィーデは壮志郎の視線が自分に向いていないときにだけ、リアクションをとっていた。
アーペインをにらんだのも、壮志郎が見ていないときだ。
そうしないと、ソッティーに「マスターに催促をするな」と叱られてしまうのである。
「じゃあ、今日の報告会はこんなところでお開きってことで」
壮志郎の言葉で、ウィーテヴィーデとアーペインは、事務所から出ていった。
それぞれに仕事があるからだ。
ソッティーは事務所に残り、ダンジョンコアを弄っている。
壮志郎も、作業に取り掛かろうか、と思ったところで、はたと気が付いた。
「あれ? アーさん、三食って言った? 丸一日以上かかると思われてる?」
「正しい判断ではないかと」
「おじさんだってもういい加減なれたよ。今回はもっと早くできそうな気がするのに」
結局、作業には丸一日かかった。
おっさんとは、一度や二度どころか、三度四度やったぐらいじゃ作業に慣れない生き物なのである。
壮志郎の持論の一つだ。
「くそがぁ!!!」
召喚された瞬間、魔女は力の限りそう叫んだ。
自分が「召喚」された理由は、すでに頭に入っていた。
ダンジョンを作り、世界に資源をいきわたらせる。
地球ってのはろくでもないところだと思っていたが、上には上がいるものらしい。
まあ、それでも住めば都という。
こっちの連中にしたら、地球世界のほうが地獄なのかもしれないが。
それにしても。
「チクショウがぁ! まさか転生邪魔されるとはなぁ! でも考えてみたらそりゃそうか。神様からしてみたらクソ邪魔で仕方ないもんね」
秩序を乱そうとしていたのだから、捕まるのも当然だ。
向こうからしたら、文字通り握りつぶしてしまいたくなるほどうっとおしかっただろう。
存在が消されなかっただけ御の字である。
「まあ、いいや。ええっと、うわ、マジか。こっわっ!」
ソッティーを見た瞬間、魔女は体をビクつかせて顔をひきつらせた。
ビジュアルもなかなかのインパクトだが、抱えている力が半端ではない。
化け物、それも飛び切りのやつで、自然災害とかに例えられる種類の危険物だ。
場所が場所なら、祟り神とかに分類されるだろう。
「多少見た目が個性的であるのは認めます。私のせいではありませんが。一応、理性的に会話が可能なつもりですので」
「あ、いや、失礼しました。えーっと、あなたがダンジョンマスター? ってことです?」
「いえ。私は補佐をしているものです。マスターは、そこで転がっています」
「あー!! 目がぁー! ちょっ! マジ、これやばいヤツだから! おじさんは網膜も脆くなってるからぁ! 医学的にどうなのかは知らないけどおじさんの心情的にはとても脆くなってるからぁ!」
叫びながら目を抑えているのは、言わずもがな壮志郎である。
魔女は壮志郎に何とも言えない視線を送った後、ソッティーに向き直った。
ソッティーは静かにうなずく。
「異世界、か。どうやらとんでもないところに来ちまったみてぇだぜ」
「異世界は関係ないと思いますが」
しょっぱなからソッティーとおっさんによってかなりの衝撃を受けたはずだが、割と平気そうな魔女であった。
魔女は、マルシュオーラという名前だという。
「日本時代は丸山って名乗ってたよね」
「へぇー。日本にもいたんですか」
「転生してまで長く生きようと思った理由の発端が、日本が本場だったもんだからね」
マルシュオーラは、すでにある程度の知識を与えられているようだった。
説明を省くため、天使である5番が、記憶を受け付けておいてくれたのだろう。
ダンジョンやこの世界に関する説明が不要だということで、壮志郎は少なからずほっとしていた。
あまりに状況が特殊なので、うまく説明する自信がなかったのだ。
「いや、アメリカとかでもよかったんだけど、やっぱり私が最初に魅了されたのを作ったのが日本だったからかなぁ。日本製のやつが好きだったのよ。ほかの国のやつも結構やってたけど」
そのうえで、マルシュオーラはダンジョンで働くことを了承してくれた。
反抗の意思も全くない様子である。
まあ、内心はどうかわからないが。
少なくとも、指示に従ってくれるつもりではあるようだ。
ソッティーを指さし「こんなやべぇのがいるのに逆らうやつおらんでしょ」といっていたし、まぁ、問題ないだろう。
「長く生きようと思った理由、ですか」
「そう。私も元々は人間だった口なんだけど。人間って何かしら楽しみがないと、長く生きていく気力みたいなものが維持できないのよ。私もご多分に漏れず、ラノベとかアニメとかの定番な感じに生きるのに疲れて、死のうかなって思ってたわけ」
「そんなフランクな感じで」
「でも、ある出会いが私に衝撃を与えたわけ。いやぁ、ロマンティックな出会いだったわぁ」
「何と出会ったんです?」
「ゲーム。宇宙人が隊列をなして左右に揺れながら迫ってくるやつね」
あれとどうやってロマンティックに出会ったのだろう。
壮志郎はソッティーと顔を見合わせる。
ウィーテヴィーデとアーペインは、「なんか異世界のものなんだろう」と思っているようで、聞き手に回っているようだ。
「迫りくる侵略者を、ピュンピュン! ピュンピュン! って倒していくのよ。衝撃だったわぁ。それからは過去に出たゲームも色々やったけど、なかなかあれを超える感動には巡り合えなかったよね」
マルシュオーラは恋する乙女のような表情で、上を見上げている。
ちなみに、マルシュオーラは白髪赤目で、肌も異常なほどに白い。
髪は腰を超えて長く、人形めいて整った顔立ちであることから、陶器製の人形のようにも見える。
だが、言ってることと行動がかなりガサツな感じであるため、本来なら醸し出されるであろう神秘的な雰囲気などはみじんもない。
「かなりの古参ゲーマーなわけですか」
「まあ、世界最古のビデオゲームからやってた。ってわけじゃないけどね。それもビデオゲームから入ってるから、ボドゲ勢から見ればにわかよ、にわか」
世界最古のゲームはボードゲームで、紀元前3500年から3100年ごろに生まれたといわれている。
それから比べたら確かに、いわゆるビデオゲームの歴史は浅いといえるかもしれない。
「にわかの概念が崩れる。いや、まぁ。感覚はそれぞれなんでしょうけども」
「だから、なんだけどさ。働くのは働くんだけど、一つ条件を飲んでほしいわけ」
「大体わかりますよ。衣食住に福利厚生。それとは別に、ゲームの支給。ですね?」
「話が早くて助かるぅ!」
「でも、あんまし多くは支給できませんよ? 仕事もしてもらわないといけませんから」
「んんんんん! まあ、それは仕方ないね。出来高払いってことで」
悔しそうな表情だが、納得はした様子だ。
マルシュオーラは、放っておけば無限にゲームをやり続けるタイプだろう、と壮志郎は見ている。
「じゃあ、せめて最初はハクスラでタイトルがスペイン語で悪魔なやつの3を」
「そんなもん渡したらこもって出てこないでしょう、貴女」
どうやら当たりだったらしい。
ともかく、これでマルシュオーラは正式にダンジョンの従業員になることとなった。
「じゃあ、せっかくですし、歓迎会と行きますか。何か料理作りますよ」
ウィーテヴィーデが喜びで立ち上がろうとするが、ソッティーに睨まれて瞬時に静かになる。
食い気の強い自動人形というのも、珍しいのではないだろうか。
少なくとも、このダンジョンにいる自動人形で食事をするのは、ウィーテヴィーデだけである。
「えー、ダンジョンマスターさん、料理するんです?」
「まあ、趣味程度には。あ、せっかくの歓迎会ですし、ボドゲでもやります? あと酒も。ソッティー、ボドゲって取り寄せられるのかしら?」
「すぐに用意します」
「いいねぇー。アーさんとウィーテヴィーデちゃんも一緒にやろうよ。人数多いほうがボドゲって楽しいし」
そんなわけで、マルシュオーラの歓迎ボドゲ会が開かれることとなった。
ボードゲーム。
通称ボドゲには、様々なタイプがある。
今回やることになったのは、大人数で長時間をかけて遊ぶものであった。
プレイヤーは国王となり、自分の国を大きくしていく。
既定の手番を終えて、一番国が大きくなった者が勝ち、というものだ。
国同士ということもあり、武力による戦争、あるいは金銭による締め付けなど、様々なやり方でお互いの足を引っ張りあったりできるのも特徴である。
「ぬああああああああ!!! 接待プレイしろよ! 接待プレイをしろよ! 今日って私の歓迎会でしょ!? アーさんの国盤石すぎません!?」
「マルさん一発逆転狙いすぎなんすよ! っていうか俺、昔国王やってたからこういうの得意なんすよね」
「あああ! アーさんの過去とか聞かないようにしてたのにぃ! まあ、いいや。聞かなかったことにしよう」
「結構何回も聞いていますよ。ウィーテヴィーデ、貴女の手番です」
「えーと、マルさんの土地を奪うのでございマスデス」
「まぁっ! おかしいおかしいおかしい! 絶対アーさんからとったほうがいいでしょ、あんだけあるんだから!」
「防衛がきつくてウィーテヴィーデの土地からは手が出せないのでございマスデス。手近なところからむしるのでございマスデス」
ちなみにゲームの決着は。
一位が圧倒的大差でアーペイン。
二位がウィーテヴィーデ。
三位が壮志郎。
四位がソッティー。
五位が、マルシュオーラであった。
みんなで申し合わせて、マルシュオーラを袋叩きにした、とかではない。
単純にマルシュオーラが弱かっただけである。
とにかく悪手悪手を選んだ上に、一か八かの賭けに出まくって、自分の首を絞めていくのだ。
「ちくしょうっ! ちくしょうっ!! なんでこんなことにっ!」
「マルさんってあれっすよね。博打で身を持ち崩すタイプっすよね」
「ゲームとか好きだけど、うまくはないのでございマスデスね」
「そんなことないっ! ちょっと競艇とか競馬で持ち金全部すったり、生き残り系ゲームで真っ先にやられるだけっ!」
ダメじゃん、と思った壮志郎だったが、口には出さなかった。
そのぐらいの慈悲は、おっさんにもあったのである。
「絵にかいたようなダメ人間でなかろうかと」
「へぼっふっ!!」
「ちょっ、おじさんも遠慮して言わなかったのに」
「いいっ! もういいっ! 次絶対勝つから! めっちゃみんなぶちのめすから! っていうかこのホットサンドうまっ! え、長ネギ?」
「そうそう。長ネギとチーズとマヨネーズの」
「おいしいでございマスデス!」
ボドゲをやりながら、ということで、用意した料理はサンドイッチやピザといった、手で気軽につまめるものばかりであった。
アーペインのリクエストで、漬物などもそろっている。
壮志郎の食事になれた今のアーペインは、どちらかというと和食派になっていた。
酒も、日本酒を好むようになっている。
「ていうか、マスターの世界ってモンスターとかいねぇーんじゃなかったんすか? マルさんってそっち系のことしてたんすよね?」
「表向きはね。実際は妖怪やら妖精やらモンスターやら、結構いたのよ。私はそういう連中がはしゃいで一般社会に迷惑かけないように管理してたわけ。政府からの請負仕事だったけどね」
「うわぁ。異世界に来て初めて知る世界の裏側だわぁ」
「こっちのピザもうまいなぁ。どうやって焼いたのこれ」
「ピザ窯があるのよ。ウィーテヴィーデちゃんに作ってもらったやつ。案外色々使い出があってさ」
ウィーテヴィーデの建設能力は、そういったところにも発揮されていた。
火力もダンジョンの不思議機能で調整可能。
あるいは、地球のものより便利かもしれない。
「よーし、うまいもの食って酒補充して、次は負けねぇーぞーう」
結局、マルシュオーラはボコボコになったものの、親睦は深まった。
マルシュオーラは、人事課長ということになった。
二日酔いなどもなくけろっと起きてきたので、さっそく仕事を始めることになる。
「とりあえず当面は、今あるダンジョンで様子見。って感じでいいんじゃないかと思うけど。予定していたポップアップモンスターを配置して様子見つつ。ってのがいいんじゃないかなぁ、と」
「あー、やっぱそうなりますかねぇ」
「ぶっちゃけ、逃げ出せるようにしてるなら、自分達で調整するだろうし。最初は放置でいいんじゃないかなぁ」
「じゃあ、その方向で。マルさんの本格勤務は、お客さんが来てからですね」
とりあえず、ウィーテヴィーデやアーペインの仕事を手伝いながら、ダンジョンやこの世界の様子を覚えていってもらう。
その間に、ダンジョンコアを使ってどんなモンスターがいるかの確認作業を進めていく。
こちらはソッティーと合同作業だ。
ほかの課長職と同じように、やはりマルシュオーラも仕事ができるタイプらしい。
特に問題なく、職場になじんでいった。
ちなみに、彼女の寝床は事務所の出入り口があるドアから、すぐ近くのところに作られた。
休み中も人事課長に睨まれていたら、ほかの従業員がやりにくかろう、という配慮からである。
あれやこれやと作業を進めるうちに、時間はどんどん過ぎていく。
そして、ついに。
「村に行ってる部下から連絡が来たっす。ギルドと教会、来たみたいっすよ」
ついに、ダンジョンお披露目となる日がやってきた。
教会兵が先触れでやってきていたとはいえ、村人達は訪問客の多さに面食らっていた。
それも当然だろう。
やってきたのは、ギルド職員、教会関係者、護衛の教会直属兵に、ダンジョン調査のために選ばれた冒険者。
さらに、国の役人と兵士に、武器や建築などの職人。
もちろん、すべて一人や二人といった数ではない。
全体で四十人以上という、大所帯である。
これだけの大人数になると、村には収まりきらない。
どうしたものかと困惑する村人達に対応したのは、今回の調査の代表であるという、老司祭であった。
「はっはっは! 先にお伝えしておきはしましたが、実際にこの人数を見れば困惑もしましょうな。とりあえず、寝床などの心配はいりませんぞ。野営地を作る土地を貸していただければ、天幕などは用意してありますのでな」
「はぁ、そうでしたか」
老司祭の人当たりのよさそうな笑顔と言葉に、村長はひとまず安心した。
だが、すぐに次の心配が頭をよぎる。
それを察したように、老司祭はすぐに付け加えた。
「ああ、もちろん、食事などのご心配も無用です。自前で用意しておりますからな」
この村に限ったことではなく、この世界全体のことなのだが。
どんなに立派な畑を作ったとしても、食料というのはそうやすやすと確保できるものではない。
魔石などで魔力を、その他のダンジョン由来の栄養などを補ってやらない限り、大きな実りというのは期待できないのだ。
だからこそ、こんな小さな村では、突然やってきたこれだけの人数を養える貯えがあるはずもない。
無理をすれば出せなくはないだろうが、そんなことをすればすぐに村が干上がってしまう。
「極力ご迷惑はかけぬようにしますが、何かあればすぐに私に言ってくだされ。こういった言い方は、この土地で生きてきた貴方方にとっては不敬かもしれませんが。今後、この土地は重要な場所になります」
それはそうだろう。
ダンジョンが現れたのだ。
そのことの意味は、田舎暮らしの村長にもわかる。
「いえ、わかります。ダンジョンが生まれたというのは、それだけ大きなことだと聞いておりますので」
「その通り。いや、まさにその通り。良くも悪くも、この土地は大きく変わることになります。ですが、この村に暮らすのが貴方方であることは変わらない。その権利は、我々教会とギルドが保証させて頂きます」
場合によっては、村を追い出されるかもしれない。
そんなことも考えていた村長だったが、どうやらそういったことはない様だ。
とはいえ、多くの人間が集まれば、いさかいなども起こるだろう。
村長は、いや、村人達はみな、これから先のことに漠然とした不安を感じていた。
村に来た調査団は、壮志郎達の予測より数が多かった。
「いや、四十人近くってなると、かなり多いっすよ。そんだけ重要視してるってことじゃねぇっすかね」
「そうなの? 場所的な理由かしら」
この場所は、桑島・九郎衛門のダンジョン“水琴窟”と、パルタパル・ロス・セシリアスの“メルタール・リンド大森林”の間にあった。
ダンジョンができればここが豊かな土地になることは間違いないので、この二つの経済圏をつなぐ架け橋になることになる。
「ほかのダンジョンマスター方も言ってたそうっすけど、それがでけぇんでしょうね。俺が人間側にいたとしても、同じ判断だったと思うっすよ。素早く正確に、かつ慎重に調査せよ。って」
「ていうか、思ったよりも教会の人達って地元民の人達にやさしいのね」
「地域に元々住んでいた人間を蔑ろにすると、ダンジョンがへそを曲げる、らしいんすよ。教会の迷信だと思ってたんすけど、今となってはマジだな、ってわかるっすよねぇ」
こういう時、高い立場にいたものが身内にいるというのは、すこぶる便利だ。
それが優秀な人物であれば、なおさらである。
「でもさぁ、その割には人数少なくね? いや、地球基準で考えるのはあれかもだけど」
マルシュオーラの疑問に、アーペインは「ああ」とうなずく。
「直接来る以外にも、いくらかは村近くの街で待機してると思うっすよ。めっちゃ大勢で押しかけるってのも、アレっすからね」
「あー。なるほど。気を使ってるんだ。働くって大変だなぁ、どこも」
「マルさんって地球時代、働いてたりしたんです?」
「妖怪とか魔物とかの住処を管理する仕事ね。お国と大企業とかからお金もらってたかな。雇われ魔女とか様にならないよねぇ。でも給料よかったんだよなぁ」
そういえば、マルシュオーラの死因を聞いていないことを、壮志郎は思い出した。
いや、聞いたかもしれないが、全く思い出せない。
特に聞かなければならない情報ではないし、今はどうでもいいだろう。
「あれ? そういえばソッティー、ウィーテヴィーデちゃんは?」
「ダンジョンの最終チェックをするといって、向こうに行っています。呼び戻しますか?」
「いいのいいの。何してるのかなぁ、って思っただけだから」
「しっかしあれっすね。張り切ってたっすね、ウィーテヴィーデちゃん」
「そういやぁ、絶対教会のやつらをあっといわせてやるって言ってたよね」
マルシュオーラの言う通り、ウィーテヴィーデは歓迎会の時にそんなことを言っていた。
普段あまり積極的にしゃべらないタイプなのだが、これに関してはかなり熱心になっている様子だ。
「俺、ぶっちゃけウィーテヴィーデちゃんって食うこと以外に興味ねぇんだと思ってたんすけど」
「うん、おじさんもそう思ってた」
「あ、やっぱそういう感じの子だったんだ。ボドゲやってる時もめっちゃ食ってるな、って思ったけど」
「きつく言っておきます」
「いやいやいや。いいのよ、元気で。楽しみがあるのはいいことだし。なんか、若い子が元気に食べてるの見るとうれしくなるのよね」
だから、若い子を見つけるととりあえずいろいろ食わせてしまう。
おっさんというのは、若い子がモリモリ食べている姿を見るだけで、なぜか自分まで食った気になって元気になれる生き物である。
壮志郎の持論の一つだ。




