案外、実際に動くよりもその前の方が大変だったりすることって多い
壮志郎と同郷、といっても戦国時代と江戸時代の間位の頃に転移してきたダンジョンマスター、桑島・九郎衛門。
この桑島のダンジョンは、湖の中心に孤島があり、そこから地下へと降りていくというデザインであった。
名を“水琴窟”。
湖の中にうずまるダンジョンの形状から、桑島本人が付けた名前である。
ちなみにこの名前は、人間側も認識しているらしい。
ダンジョン内で上手いことやって、冒険者ギルドに伝えたのだそうだ。
そんなダンジョン“水琴窟”に、一人の人間と、十体のモンスターが転送された。
アーペインと、調査課の従業員五体、施設課の従業員五体である。
やってきた目的は、出張研修。
ダンジョン“水琴窟”での、戦闘訓練のためであった。
「ホントに一瞬なんすねぇ」
感心したようにつぶやき、アーペインは周囲を見回した。
壁、屋根、床共に木造。
アーペインの知識にはないのだが、一見すると日本建築のように見える。
部屋はかなり広く、十一体がある程度距離を空けて立っていても、全く問題がないほどだった。
「すげぇ、マジで木と紙でできてる」
「はっはっは! 物珍しく見えるでしょうな! 私が元居た世界でも、異国の人間から見ると珍しい建築様式だそうです!」
アーペインのつぶやきに、笑いと共に声が返ってくる。
部屋の隅にいた、桑島の声だ。
存在に気が付いていなかったわけではない。
距離が離れているから、聞こえないと思っていたのだ。
実際、ぼそぼそと極小さくつぶやいただけだったのだが、どうやら桑島は地獄耳と言われるようなタイプらしい。
「すんません、いやもう、驚いたもんすから。何しろ転送されるのも初めてなら、こういった建物を見るのも初めてで」
「異世界の意趣ですからな。当然でしょうとも。だが、かの平定王を驚かせたというのは、中々に痛快ですな!」
今回研修に参加するメンバーの情報は、事前に桑島のところに送られていた。
アーペインの生前のことなども含め、持ちうるほとんどすべてを送ったといっていい。
他人のダンジョンに物騒な連中を送るのだ。
情報ぐらいは渡しておかなければならないというのは、ある種当然だろう。
まあ、そういった情報を渡したところで、同じダンジョンマスターの仲間である。
これといって有利不利が発生するわけでも、何か困ることが有るわけでもない。
精々が、お互いの認識を共有できて便利だな、程度だ。
「俺が生まれる前からダンジョンマスターをされてた方にそう言われると、こそばゆいっすね」
「はっはっは! 今や私も古参に分類されるらしいですからな! アーペイン殿の噂は当時から聞いておりましたよ!」
「お恥ずかしい限りっすけども。あ、すみません、遅れました。田沢・壮志郎のダンジョンから来ました、アーペインと申します。一応、俺がこちらの代表という形になりますので。よろしくお願いします」
「我がダンジョン“水琴窟”へようこそ。私がダンジョンマスターの桑島・九郎衛門です。よい研修をして頂けるよう、サポートさせて頂きましょう」
桑島が差し出した手を、アーペインはしっかりと握った。
アーペイン達に用意された研修場所は、非公開の研究や実験のために用意されたフィールドであった。
ダンジョン“水琴窟”内での地形、トラップ、モンスターなどのテストに使っている場所である。
今回はそこを最大限使い、アーペイン達の訓練をしてくれるのだという。
壮志郎にとってかなり都合がいい展開だが、もちろん桑島にとっても利点があった。
試作品のテストは通常、自前で行わなければならない。
いきなりダンジョン内にいる冒険者で試す、というわけにはいかないからだ。
何しろこの世界におけるダンジョンの役割は、「適度な試練」と、それに伴った「適度な報酬」を渡すことである。
そのバランスを取るというのは、簡単なことではない。
何度も従業員などを入れて試すことになるのだが、毎回自分のところで人員を用意して試すわけだが。
用意する側のトップも同じなら、試す側のトップも同じ、という状況が続くことになる。
もちろん偏りが無いように細心の注意を払うのだが、それでも「クセ」のようなものが出てしまうのだ。
人間側からすれば、それがそのダンジョンの「傾向」や「特徴」になるのだが、ダンジョンを管理運営している立場からすると、これはあまりよろしいとは言えなかった。
ほかのダンジョンとある程度「差別化」されているのはいいのだが、あまりにも「違いすぎる」というのはよろしくない。
この世界におけるダンジョンというのは、「同じ大企業傘下のフランチャイズ店」のようなものなのである。
特徴があるのはいいが、違いすぎてはダメなのだ。
この辺りのさじ加減の難しさに、中堅以上のダンジョンマスターは常に頭を抱えている。
それを解決する手段の一つが、地形、トラップ、モンスターなどを外注するか。
あるいは、それを試すものを他所のダンジョンから借り受ける、というものなのである。
今回のアーペインはまさにそれだった。
試作フィールドでの研修というのは、壮志郎にとっても、桑島にとっても、得が有るものなのだ。
「なんかさ。やればやるほど世知辛いよねぇ、ダンジョンマスターって。もっとこう、孤高で独裁的な感じなイメージあるじゃない? マンガやショウセツだと」
「それは漫画や小説ですので」
「いいよねぇ、マンガやショウセツ。おじさん、未だに竜を破ってやって斬するやつの呪文とか覚えてるもん」
現在、アーペインは研修二日目。
毎日の定期報告をソッティーから読み上げてもらった壮志郎は、あれこれとどうでもいい話を織り交ぜつつ、仕事の話をしている最中であった。
真面目な仕事の話と、クソどうでもいい話が混在する会話の仕方をする。
老化により前頭葉の抑制が効きづらくなってきているおっさん類によく見られる会話パターンの一つだ。
おっさんになると、会話の仕方にすら年齢がにじみ出てくるものである。
壮志郎の持論の一つだ。
「まあ、研修うまくいってるみたいで良かったね。新しい戦術とか魔法とかも覚えたって話だし」
「アーペイン殿は元々国王にまでなった方ですから。基本的なスペックがかなり高いことも影響しているのではなかろうかと」
「へー、アーさんって生前は国王様だったんだぁーって、ぬぁあああん! なんでサラッと教えるのよ! 今まで必死にそういうの聞かないようにしてきたのにぃ!」
壮志郎はアーペインの出自について、全力で目をそらし続けてきていた。
何となく高貴でえらい人だったんだろうな、というのはわかっていたのだが、全力で目を背けてきていたのだ。
すごい人なんだろうな、という程度だったら、流すことができる。
だが、実際にどのぐらいすごい人なのか知ってしまうと、委縮してしまう。
おっさんの心というのはとても繊細で傷つきやすいのだ。
「まぁ、いいや。聞かなかったことにしよう」
長い年月を経て傷つきなれたおっさんは、その傷を無視できるようになる。
もちろん痛いは痛いのだが、見なかったことにして気が付かないふりができるようになるのだ。
繊細であっても、図太くならなければ生きて行けない。
世間の荒波にもまれることで、青年はおっさんに変化していく。
おっさんとは、皆それぞれに悲しみを背負って生きてきた存在なのだ。
「そんなに簡単に聞かなかったことにできるんですか」
「大丈夫。おじさん忘れっぽいから」
ソッティーは、なるほどと頷いた。
壮志郎の忘れっぽさは、もはや認知症を疑うレベルである。
「あれ、なんでだろう。すごく泣きたくなってきた。まぁ、いいや。しかし、そっか。知識のアップデートもしてるのね、アーさん」
「そのようです。どんな国があるのか、どんな暮らし方をしているものが多いのか、都会と地方の格差、勢力図、等々。細かなところを修正しているようです」
「冒険者に化けるのに必要な知識。ってことね。四泊五日だったよね? それでどうにかなるものなの?」
「どうにかするかと。アーペイン殿は優秀ですので」
「すごいよねぇ。おじさんにはとてもマネできないわ。そういえば、ウィーテヴィーデちゃんは相変わらず地図とにらめっこ?」
「はい。まだ気が早いのですが、準備はしておいたほうが良いのは間違いありませんので」
ここの所ウィーテヴィーデは、第二階層の地形について頭を悩ませているらしい。
中身の植生などについては、ダンジョンマスター「パルタパル・ロス・セシリアス」に頼んでいるので、考える必要はなかった。
だが、箱モノに関しては施設課の課長であるウィーテヴィーデが手掛ける必要がある。
何しろ地形を丸ごと掘削することになるので、相当な手間と労力と時間がかかることは想像に易い。
準備は早いうちからやっておいたほうがいいのは、間違いなかった。
「そういえばふと思ったんだけどさぁ。モンスターを管理する課を作ってもいいのかもね」
実際にダンジョンが稼働した場合、現場のリポップモンスターの管理なども必要になってくる。
壮志郎やソッティーが直接行ってもいいのだが、専門の従業員を置くのも悪くない。
「確かに、それも有用かと。ただ、一つ」
「なにかアイディアあるのん?」
「マスターの記憶、あるいは近い価値観を持つ人材である方が都合がよろしいかと。ダンジョンのモンスターというのは、箱、つまり、ダンジョンの施設と同様重要なものです。マスターの意思を的確に反映するには、価値観が近くなければならないと考えます」
「あぁ。まぁ。そうだねぇ。でも、それって話し合いとかですり合わせ出来ない?」
「異世界出身であるマスターは、この世界の常識と異なる価値観を持っているものと思われます。マスターの記憶を一部引き継いだ私もそうですが」
「そういえばそうだねぇ」
「あるいは、全く新しく生み出されたウィーテヴィーデのようなモノであれば、マスターの主義趣向を一から吸収しますので、全く問題ないものと考えます。ですが、アーペイン殿の様にこちらの偉人などの魂を利用される場合は、少々問題になる恐れがあるのではないかと」
ダンジョンマスターは、あくまで壮志郎である。
たとえどんなに従業員が優秀だとしても、どんなダンジョンにするか決めるのは、壮志郎でなければならない。
そこに配置されるモンスターも、壮志郎の意思に沿うものでなければならなかった。
となれば、それを専門に管理するものの長は、壮志郎の意思をよく理解しているものでなければならない。
「ていうか、ウィーテヴィーデちゃん作る時そんなこと言われたっけ」
「あの時はそういった話をする前に、どんなモンスターが良いかと尋ねられましたので」
そういえばそうだった気もするし、そうじゃなかった気もする。
おっさんの記憶というのはわたあめよりもふわっふわなのだ。
「でも、言われてみるとそうねぇ。おじさん的にもその方が楽だと思うわ。ってことは、ソッティーとウィーテヴィーデちゃんみたいに、自動人形の人を呼び出した方がいいのかな?」
「それも選択肢の一つではあるかと」
「ほかの選択肢もある、ってことね。んー、ソッティー、何か候補が無いか考えてみてくれない? あんまり偏るのもアレかと思うしさ」
ダンジョンマスター補佐であるソッティーに、施設課課長ウィーテヴィーデ。
現在のところ、重要ポストの二つに自動人形が収まっている。
そのまま全部自動人形で固めると言う手もあるだろうが、壮志郎は出来ればばらけさせたいと思っていた。
ある程度の多様性があったほうが、何か予想外の事態になった時など、対処がしやすいかもしれないと考えているからだ。
「わかりました。調べて準備しておきます」
「よろしくぅー。さて、おじさんはゼリーでも作ってようかしら」
「少々ウィーテヴィーデを甘やかしすぎなのではないかと」
「いやぁ、なんか元気よく食べてくれると嬉しくってさ」
自分が若いころに比べてあまり食べられなくなっている分、若い子が豪快に食べているのを見るとなんかうれしくなっちゃう。
おっさんによく見られる生態の一つである。
「アーさんがいないから、作るの二人分でしょ? 三人分作るのに慣れちゃったから、一人分少ないとちょっと寂しいし」
「マスターはダンジョンマスターであって、主夫ではないのですが」
「よそだとわかんないけど、うちだと似たようなもんじゃない?」
ダンジョンが本格稼働していないこともあるが、壮志郎のダンジョンはかなり分業化されている。
それぞれに専門の責任者もいるので、正直なところ壮志郎がやらなければならない仕事というのはほとんどない。
空いた時間は、ほとんど家事などに費やしていた。
「いやぁ、今までずっと家なんて寝に帰ってるだけだったから、家事なんて最低限しかやってなかったけどさ。こうしてやってみると楽しいよね」
「私にはよくわかりませんが」
「アーさんとかウィーテヴィーデちゃんがいるからかなぁ。やるにしても張り合いがあるっていうかさ。やりがいがあるよね」
いろいろと言いたいことがあるソッティーだったが、ぐっと飲みこんだ。
個々人の楽しみに口を出すのも、野暮だと思ったからである。
それに、特にすることもなくだらだらとされているよりはましだというのもあった。
ごろごろしてるおっさんよりも、家事をしているおっさんの方が邪魔にならないのだ。
「新しい人入れるときには、ウィーテヴィーデちゃんとアーさんにも相談したほうがいいよね」
「確かに、アーペイン殿の意見は貴重かと」
「帰ってきた次の日はお休みとってもらって。その翌日ぐらい。だからー、帰ってきた翌々日? に、会議する形で。ウィーテヴィーデちゃんにも伝えておいて」
「わかりました。それまでに準備しておきます」
「よろしくね。さて、おじさんもこれから頑張ろうかな」
「なにか難しいことでしょうか?」
ソッティーの目から見て、壮志郎は幾分か真剣な表情をしていた。
真面目な働く男の顔、とでもいえばいいのだろうか。
それなりに年齢を重ねているが故か、そういう顔がある程度様になっている。
「うん。小豆系のゼリーに挑戦しようと思って。ウィーテヴィーデちゃんが、流石に小豆はゼリーに合わないって言っててさ。じゃあ、美味い小豆系ゼリーを食べさせてあげようってことになって」
「どこぞの芸術家の息子の新聞記者みたいなことを」
おっさんとは、時に他人からはどうでもいいと思われるようなことに情熱を注げてしまう人種のことである。
壮志郎の持論の一つだ。
ゆで小豆のゼリーに、小豆ミルクゼリー等々。
様々な種類の小豆ゼリーの活躍により、ウィーテヴィーデは自身の間違いを認めた。
のは、どうでもよく。
アーペインと従業員十体は、無事に研修から戻ってきた。
なかなか有意義な体験ができたようで、アーペインはうれし気だ。
調査課の面々にとっても充実したものだったらしく、新しいスキルや技能、ランクアップなどもしたらしい。
ぶっちゃけ、壮志郎は行く前がどんなだったのかほとんど覚えてなかったので、変化はよくわからなかった。
だが、そこはおじさん特有の社交力で、めちゃくちゃ褒め称える事で、事なきを得ている。
おっさんになると、なんかよくわからんけどおめでたいらしいから、とりあえずおめでとうと言っておかないといけない、なんて場面に良く遭遇するようになるのだ。
アーペインからざっくりとした報告をもらい、明日はしっかりと体を休めるようにと伝える。
特に疲れていない、ということだったが、休むのも仕事のうちだ。
しっかりと休んでもらった次の日に、まずはアーペインからの報告を受けることに。
「まあ、そんな感じで有意義だったっすよ。まさか“転寝の誘い手”がいると思わなかったっすけど」
アーペインよりも古い時代に活躍した、高名な魔法の使い手らしい。
どうやら桑島のダンジョンにも、昔の偉人が何人か勤めているそうだ。
「へぇー。おじさんの世界で言うと、本田忠勝とか諸葛亮孔明とかが勤めてる感じなのかしらね」
「そんな感じなんじゃねぇっすかね? いや、歴史上の人と会えるとか、テンション上がるっすよ」
「そうよねぇー。すごいなぁー。まあ、いいや、とりあえず今後のことについてなんだけど。まず最初に片付けちゃいたいことが有ってさ」
壮志郎、ソッティー、ウィーテヴィーデ、アーペイン。
集まっているのは、事務所の一室である。
皆の前には、お茶とゆで小豆ゼリーが置かれていた。
壮志郎は、ざっくりとモンスター専門の課を置き、そこに新しい従業員を入れること。
その課長を呼び出す予定なのだが、人選はまだ決まっておらず、これから相談をしたい旨を伝えた。
「候補はもう決まってるんすか?」
「一応、おじさんとソッティーで相談して、ある程度候補を絞った感じかなぁ」
一応ウィーテヴィーデにも話したのだが、自分と連携がとれるようであれば、だれでもいいとのことだった。
連携に関しては、ダンジョンの箱ものを担当するウィーテヴィーデからすれば当然の要望だろう。
誰でもいいというのは、別に投げやりに出た言葉ではない。
ウィーテヴィーデは、壮志郎やソッティー、アーペイン、自分の部下達以外とは、ほとんど接触経験がなかった。
だから、どんな人がいいかと聞かれても、想像がつかない、というのが正直なところなのだ。
ソッティーがまとめた書類が配られ、それぞれが目を通す。
「随分いろいろ居るんすねぇ」
「種類が多いのでございマスデス」
ソッティーが集めた資料には、二十ほど候補が上がっている。
それぞれに利点や欠点も書き込まれていて、しっかりしたものに仕上がっていた。
「ある程度知識、経験がある人がいいんすかねぇ」
「ダンジョンでモンスターを管理していた経験がある人でございマスデス?」
「いねぇっすよね、そんな経験ある人。っつーことは、知識方面っすかね。って、え? いや、居た」
「なにがでございマスデス?」
「モンスターを管理してた経験がある人っすよ」
アーペインが指さした資料を、ウィーテヴィーデと壮志郎が覗き込む。
そこに書かれていたのは、たしかにモンスターを管理していた「経験」を持つ人物であった。
「天使の五番様に相談したところ、そういった人物を紹介されました」
「人物? 人物ってことは、人なの? エルフとかドワーフとか獣人とかリザードマンとかそういう?」
「いえ、人。いわゆるヒューマンです。より詳しく分類すると、魔女の類。というのでしょうか」
その人物の経歴は、少々ややこしいものになっている。
元々は、地球出身の魔女なのだという。
剣と魔法ではなく、銃弾と科学と暴力と法が物を言う世界である。
この魔女はかなりの使い手だったようで、ある魔術を完成させた。
死後、記憶と魔力を引き継いだまま蘇る、というようなものだ。
術式は完成し、死後無事に発動した、のだが。
彼女にとって大きな誤算があった。
魔法による不自然な復活を、望まないものが居たのだ。
神様である。
その土地を治める神が、彼女の復活を阻害し、魂を束縛したのだ。
だが、放っておけばいつかは束縛が緩み、復活してしまう。
それを嫌った神様は、その魂を異世界の神に譲り渡したのだとか。
「で、それを引き取ったのがこの世界の神様で、その魔女がこの資料に乗ってる、と」
「なんかすごい話なのでございマスデス」
「神話の世界の話だよねぇ」
「大体、平成二十年ごろの話だそうです」
「すんごい最近だったわ」
若者に言わせると平成二十年は結構前だろう。
だが、壮志郎ぐらいのおじさんに言わせると「ごく最近」のことになるのだ。
「でも、マスターの世界ってモンスターいなかったんすよね? モンスターを管理した経験ありって書いてあるじゃねぇっすか」
「生まれ変わる魔法を作るような人物でしたので。自分で召使代わりのモンスターを作っていたそうです」
「ていうかおじさん、元居た世界に本物の魔法使いが居たっていうのがまだ飲み込めてないんだけど」
「所詮、一般人が触れることができる情報なんぞというのは高が知れている。ということでは」
様々なことを知っていると思っていても、実はそんなものは世界を構成する極々一部に過ぎないのだろう。
「大丈夫なんすか? この人。大人しくダンジョン作りに協力してくれるんすかねぇ?」
「私も聊か疑問でしたが。言ってしまえば、五番様のご紹介ですので」
天使様が直々にご紹介あそばされた人材である。
疑うというのは不敬だ、ということだろう。
「まあ、少々性格に難はある。ということでしたが」
「ダメじゃねぇっすか」
「でもぉー、そこまでアレじゃないんじゃない? ほら、天使様のご紹介なわけだし」
「縁故採用待ったなしなのでございマスデス」
一応天使様にもご意見を賜れ、と指示をしたのは、壮志郎である。
こういう種族がいいよ、という意見が貰えると思ったのだが、まさか特定個人を推されるとは思わなかった。
「んー。でも、プロフィール見る限りそう悪くはねぇーんすよね。この魔女の人」
「行動力は有り余っているでございマスデス」
「これさぁ。面接とかできるのかなぁ?」
直接話すことが出来れば、人となりはわかるだろう。
だが。
「相手の状況が状況ですので、会っておいてやっぱりなしで。というのは少々言いにくいものかと」
「それもそっかぁ。ご活躍をお祈りしますっていうのもなぁ」
「恨まれたりしそうなのでございマスデス」
「ていうか、この人雇った後、ダンジョンの中で暴れたりしないかなぁ?」
反逆とかされるとすごく困るのだ。
まあ、5番が紹介している以上、そういったことは気にしなくてもいいのかもしれないが。
「ほら、おじさんってひ弱だからさ。こんな奴に従えるかーって」
壮志郎が魔女の立場なら、まず間違いなく張り倒すと思う。
ダンジョンマスターを倒して外に出てしまえば、自由になれる。
と考えるだろう。
が、アーペインとウィーテヴィーデの意見は違うようだ。
「ソッティーさん見たら逆らう気は起きねぇーんじゃねっすかね」
「平気な顔してるマスターの方がおかしいのでございマスデス」
どうもソッティーは、わかる人にはわかるレベルでヤバいアレらしい。
少なくともソッティーが居れば、襲ってくることは無い、という。
「ソッティーってそんなにヤバいんだぁ。こわいわぁ」
「私のことはどうでもいいのですが。どうしますか」
「んーんんー。そーねぇーぇー」
資料にあるモノを、片っ端から全員で見ていくことに。
あれこれと意見を出し合ったのだが、結局、件の魔女を呼び出すこととなった。
なんだかんだ言って、魔女の能力は高く、有用な人材であろうことは間違いなかったのだ。
もちろん、5番からの勧め、という点も、多分に影響していた。
どんな場所に行っても、人と人が関わっている以上、縁やコネというのは重要なのである。
壮志郎の持論の一つだ。




