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ネーミングセンスの方が来いという強い想い

 寝て起きたら、夢でした。

 なんてことがあれば壮志郎としては一番うれしかったのだが、そうもいかなかったようである。

 死んだと思ったら、ダンジョンマスターなるものにされていました。

 突拍子もないことではあるが、事実というのは時に奇抜なものであるらしい。


「生きてればいろんなことがある、か。いや、一回死んだけどね」


 長く生きていると、少々のことでは動じなくなるのだ。

 とりあえずベッドから降り、扉を開けて部屋の中へと戻る。

 ベッドが土剥き出しの空間にあるというのは、早々にどうにかしたほうがいいかもしれない。

 今はさほど問題ないが、寒い季節になったら風邪をひく恐れもある。

 おっさんというのは、気候の変化に弱い生物なのだ。


「ていうか、季節関係あるのかな? ここって。地下っぽいし。えっ、換気とかどうなってるのこれ? んー、まぁ、いいか。どうにかなってるんでしょ」


 換気が出来ていないなら、きっと息苦しくなって気が付くだろう。

 きっと何かしらうまいことできているに違いない。

 もし何か問題がありそうなら、それはその時考えればいいのである。

 部屋に入ると、真っ先に目に飛び込んできたのは、件のガラス瓶だった。

 しかし、デカい。

 冷静になってよく見てみると、樽とどっこいぐらいの大きさがある。


「え? これ、樽に入ってる分のダンジョン力で足りるの? ギリギリっぽくない?」


 問題は、他にもあった。


「ヒシャクちっちゃっ!」


 大体、大きめのコップ一杯分ぐらいだろうか。

 壮志郎の目測では、ギリギリ目いっぱいで500ml程度は入るかな、といったところだ。


「そして注ぎ口ちっちゃっ!」


 半径は、ヒシャクの半分ぐらいだろうか。

 結構大きそうに感じるかもしれないが、ガラス瓶を一杯にするには何十回と注ぐ必要がある。

 疲れから途中で手が震えだしたりする恐れを考えると、もっとデカい方がいい。

 せめて、ヒシャクの三倍は直径が欲しいところだ。


「あの、せめて灯油とかスポスポするヤツないの? あれ。なんていうの、アイツ。ポンプ?」


 あれば便利だろうし、何なら買いに行きたいところではある。

 が、残念ながら手元にあるのはヒシャクだけだ。

 壮志郎はしばらくうなったあと、がっくりと項垂れてため息を吐いた。

 いくら考えても、詮無いことである。

 モンスター召喚のキャンセルはできないようだし、やるしかないのだ。

 放っておく、というても考えたが、残念ながらスマホ、改めダンジョンコアが操作を受け付けなくなってしまっている。

 どうやら、モンスターを召喚するまでは何をやっても無駄なようなのだ。

 まあ、壮志郎が気が付いていないだけで、なにか方法があるのかもしれないのだが。


「やるしかないかぁ。うわぁ。なんかダンジョン力ってすげぇ色してるな」


 樽の中を見ると、蛍光ピンクの液体に満たされている。

 思わず、壮志郎はそれを二度見してしまった。

 壮志郎の記憶が正しければ、ダンジョン力は発光する緑色の液体だったはず。

 しばらく見ていると、突然ダンジョン力の色が変化した。

 なにやら、赤ワインのような発光する液体になっている。

 じっと見ていたはずなのに、変化の瞬間は全く分からなかった。


「まぁ、そもそもダンジョン力っていうのが何かよくわからないしね。もともとそういうものなんでしょ」


 歳を取ってくると、少々のことでは動じなくなってくる

 壮志郎の持論の一つだ。

 とにかく、ダンジョン力を注ぎ始めることにした。

 恐ろしく地味な作業である。


「あ、これ分かった。すんげぇ時間かかるヤツだ」


 壮志郎の予測通り、作業には恐ろしく時間がかかった。

 正確にどのぐらいかかったかは、正直時計が無かったのでよくわからない。

 途中腹が減ったので、何か食べようと思ったのだ、が。

 冷蔵庫は空っぽであり、食料はまったくない。

 蛇口を捻ったら水が出てきたのは、せめてもの救いだった。

 若いころ貧乏していた時代は、よく水をがぶ飲みしてしのいだものである。


 水をがぶ飲みしつつ、時折休憩を挟みながら、ダンジョン力を注いでいく。

 ぶっ続けでやると目がかすみ、手が震えてくるのだ。

 疲れのせいである。

 歳をとってくると、連続して作業を続けられないのだ。

 若いころはぶっ続けで仕事をした、どころか、徹夜仕事も苦にならなかったものなのだが。

 寄る年波というのは恐ろしいものである。


「あー。あー、もうすぐかなぁ? これ。え、どのぐらいでいっぱい判定なの?」


 そんなこんなで。

 ようやく、ガラス瓶がダンジョン力で満ちてきた。

 途中で、5、6回ダンジョン力の色が変わったのだが、もう気にしないことにする。

 樽の中を見てみると、もうほとんど中身が尽き掛けであった。

 ただ、少し休憩を入れると、なんとなく量が増えているような気がする。

 もしかしたら、ダンジョン力は少しずつ湧いてくるものなのかもしれない。

 しっかりと読み込めば、そのあたりの説明もダンジョンコアに書かれているのだろうか。

 まあ、今は操作ができないし、目がやられるので、確認はできないのだが。


「いやー、これでやっと終わりかな?」


 とりあえず、細くなっている瓶の首部分まで、ダンジョン力を注ぎ込んだ。

 慎重にヒシャクを離すと、ガラス瓶に変化が起こった。

 ガラス瓶全体が、ダンジョン力ごと空気に溶け込むように消え始めたのだ。

 壮志郎はその様子を、呆然と眺めているしかない。

 完全に消えてしまうと、今度は突然強い発光が起こった。

 まるで写真のフラッシュのようで、相当の光量がある。


「ああああああ!! 目がっ! めがぁああああ!!」


 ヒシャクを放り出し、両目を抑える壮志郎。

 まともに光を見てしまったので、かなり目が痛い。


「やっべっ、これ地味につらい。もぉー、いってよぉー。こういうのおじさんになると、反射神経が鈍ってて避けられなくなってくるんだからぁー」


「大丈夫ですか」


「ああ、うん、まぁ、目が痛いだけで、もう見えて来たし。だいじょっ」


 言いながら声をかけられた方を振り向き、壮志郎はびくりと身体を跳ね上げ硬直した。

 この場所にいるのは、壮志郎一人だったはず。

 にもかかわらず、誰かが声をかけてきたのだ。

 驚きもしようというものである。

 恐る恐る、壮志郎はそちらに視線を向けた。

 そこに立っていたのは、真っ黒なガラスで形作られた、等身大の人型。

 いわゆるダミー人形のような外見で、手足や指などははっきりと作られているのに、顔はのっべりとしていて、目鼻口といったパーツが一つもない。

 真っ黒なガラス、黒曜石といったような光沢のある素材で形作られているらしい体は、艶やかで意外なほどに美しかった。

 意外に体が細いためか、あるいは顔が無いためか、性別はよくわからない。


「え!? な、え?」


「驚いていらっしゃる様子ですが、とりあえず落ち着いてください」


「いや、そんなこと言われても。咄嗟の状況に反応できなくなるのよ。おっさんになると」


「そういうものかもしれませんが」


「え、で、あのー。呼び出したモンスターってこと。で、いいの?」


「はい。種族は自動人形。貴方が設定し、呼び出したモンスターです」


「おー、すげぇー」


 何やら得体のしれない感動がある。

 感心した様子で自動人形を見ていた壮志郎だったが、そういえばまだ名乗ってもいないことを思い出す。


「自己紹介しないといけないんだ。おじさんはね、田沢 壮志郎といいます。どうぞよろしくね」


「よろしくお願いいたします。私の名前、なのですが。その前に、一つよろしいでしょうか」


「はい? ああ、はいはい。どうぞ」


「今後作られるであろう同輩の為にも言うのですが。せめて、なんと言いますか。名前と外見だけは設定して召喚していただければ」


「あ、はい。すみませんでした」


 そういえば、壮志郎は名前と外見の入力を、寝ぼけてすっ飛ばしていたのだ。

 これは文句を言われても、いざ仕方ないところだろう。




 とりあえず、毛布の上に座って話すことになった。

 本来なら座布団とか毛布とか、あるいはイスなどがあればいいのだが。

 部屋の中にはそういったものが一切ないのだ。


「でさ。あのー、デフォルトのさ。設定のままだと、名前って素体、ってなってたわけじゃないですか」


「その通りです。すみません、先にお伝えするのですが。私に敬語は、いえ、敬語というか丁寧語でお話しになっていらっしゃいますが、不要です」


「ええー。でもそういうのほら、日本人的にどうも」


「お気持ちはわかります。ただ、今後部下となるモンスターを召喚していきますと、上下関係を示すという意味でもそういったことが必要になってくるかと」


「あー、あーねぇー。なるほどねぇー。そういうのも気にしなくちゃいけないんだ。大変だねダンジョンマスターって」


 壮志郎は感心した様子で、しきりに頷いている。

 ダンジョンマスターというのは、一国一城の主のようなモノなのかもしれない。

 日本国の法律が届かない場所であるわけだし、なんかそういう規律的なものは必要なのだろう。

 壮志郎も、古のオタクと呼ばれる人種である。

 なんかそんなようなことがあるのは、マンガとか小説とかゲームとかで散々見てきているのだ。


「その関係で、一応私の方からはダンジョンマスター、あるいはマスターとお呼びすることにさせて頂きたいのですが」


「あ、はいはい。じゃあ、そんな感じでお願いします」


「有難うございます。一応、それでいい、などといって頂きたいところなのですが。マスターの場合は何と言いますか。敬語でも丁寧語でもない印象がありますね」


「おっさん語ってやつじゃない?」


 丁寧な言葉なような気はしなくもないけど、妙に馴れ馴れしくて敬語な感じがしない。

 ある程度の年齢に到達したおっさんのみが扱うことができる、特殊な言語である。

 壮志郎はその、熟練の使い手といっていい。


「しかしさ、アレだよね。名前の件つながりでなんだけどさ。一応、君の名前ってあれじゃん。素体、って入力されちゃってるわけじゃない?」


「はい。一応、真名と言いますか本名と言いますか。それは、素体、ということで決定しています」


「それってさ。人間的なニュアンスでいうと、どんな感じの名前になるの?」


「そうですね。名無しの権兵衛とか。ジョン・ドゥと言った所でしょうか」


「ホントごめんなさい」


 壮志郎は思わず、頭を下げた。

 丁度向かい合って座っていたので、土下座の姿勢である。

 きちんと謝ることができるかできないかで、大人の価値というのは存外変わってくるものだ。

 悪いと思ったときにきちんと頭を下げられることは、けして恥ではない。

 むしろきちんと詫びることができる事こそが、誇りと尊厳を持ったおっさんの正しい姿である。

 壮志郎の持論の一つだ。


「てことは、素体って呼ぶのはさすがにアレか。不味いですわね。ほら、それこそ人が増えてくるとさ。人っていうか、モンスター?」


「まあ、確かにそうかもしれません。混乱を招く恐れもありますので」


「ニックネーム的なの付けようか。普段はそれで呼ぶ的な」


「良い案であると思います」


 早速、壮志郎は名前を考え始めた。


「んー。素体が本名なのよね。そ、そ。そたい、んー。そっ、そっ、ソッティー! ソッティーで行こう!」


 残念ながら、壮志郎のネーミングセンスはお亡くなりになっているようだった。

 自動人形はと言えば、表情は全く読めず、言葉も発していないのだが、なんとなく嫌そうな雰囲気を漂わせているように見える。


「その、他に候補は」


「むり。おじさんにそういう発想力ない」


 誤解を招きそうな発言だが、発想力がないのは「おじさん」という団体ではなく、あくまで壮志郎個人である。

 自動人形は言葉もなく硬直したまま、何か葛藤している様子であった。


「じゃあ、ほら。自分でこんな名前がいいとか。そういうのダメなの?」


「自動人形という種族は、あくまで人の手によって創造された種族です。名前は与えられるものであり、自分で付けるものではありません」


「種族的な不文律的なやつなのね」


「最近の若い自動人形は気にしないものも増えているようですが。私はどうも古いタイプのようでして」


「自動人形にもそういうのあるんだ」


「おそらく、マスターのスキルを一部コピーさせていただいていることが原因かと」


 言われて、壮志郎はそんなのもあった、と思い出し手を叩いた。

 そういえば、設定をしているときにそんなスキルを乗せていたのだ。

 会話をするときに共通認識がある方がいいと思い、「製作者記憶コピー」なるスキルを取得させていたのである。

 スキルの説明によれば、同じ話題や基準を共有することで、コミュニケーションがとりやすくなるのだという。

 恐らく、言い回しや会話がスムーズに行えているのも、それのおかげなのだろう。


「そうかぁ。ってことは、あれか。ソッティーも東京スカイツリーとか知ってるのか」


「完成して、意外と経っていますね」


「うそ。アレ出来たのいつだっけ?」


「2012年です」


「マジで!? え、いや、まじか。その位か。ん? なんでおじさんが忘れてたのにソッティー覚えてるの?」


「人間の場合は記憶の引き出しにラグやムラがありますが、自動人形にはそういったものはありません。また、おそらく実際に記憶をそのままコピーしているのではなく、それ相当の情報を何らかの方法で移植しているものと思います。そもそも、人間と自動人形では記憶形式に差異がありますので、全く同じものは使えませんから」


「同じようなものだけど、似て非なるものってことか。まあ、でも共通認識があるのは間違いなく便利よね。会話もスムーズになるし」


「所でマスター。既にお使いになっているようですが、私のニックネーム的なものは、ソッティーで決まりなのでしょうか」


「うん。呼びやすいし。いいと思うんだけど、どうかしら?」


「……了解しました」


 めちゃめちゃ不服そうだけど、とりあえず気が付かなかったことにした。

 どうせ他のがいいといわれても、もっと酷いのしか思いつかないだろう。

 歳をとると、こういう時に見て見ぬふりをするのがうまくなるものだ。

 壮志郎の持論の一つである。




 とりあえず、壮志郎は自動人形「素体」ニックネームソッティーに、製作意図を説明しようとしたのだが。

 スキルとして取得させていた「製作者記憶コピー」のおかげで、そういったものはほぼ省くことができた。


「確かにマスターは初老といった年齢ですが、そこまで目が悪いのは今までの酷使によるものかと。早めに老眼鏡をお作りになった方がよろしかったのでは」


「そうなんだけどねぇー。延び延びになっちゃってさ。あ、で、早速これ、スマホ。じゃない、ダンジョンコアだっけ? 預かってくれる?」


「お預かりします。ちなみに、ダンジョンコアというのは便宜上そういう名称になっているだけであり、ダンジョンの中枢といった意味合いはありません。これは言ってみれば、一種の入力機器です」


 こういった知識も、取得させたスキルによるものだろう。

 ダンジョンコアの画面で読むのではなく、口頭で教えてもらえることの、なんと便利なことだろう。

 壮志郎は、一種の感動を味わっていた。


「へぇ。じゃあ、ダンジョンの本体ってどこにあるの」


「マスターご自身のお体です」


「マジで。こっわい」


「マスターのお体は、元の生身のものとは異なるものになっています。ダンジョンマスターになるにあたり再構成され、不老のダンジョンマスターという種族、というより、機能として生まれ変わったものとご理解いただければと」


 どうやら、壮志郎は人間ではなくなっているのらしい。

 ダンジョンマスターという、ダンジョンそのものであり、機能の一部になったのだとか。


「俺がダンジョンで、ダンジョンが俺でってことか。すごいなぁ。でもさぁ。このダンジョンコア? も、おじさんの一部ってことになるんでしょ? ならこう、もっと融通利かせてくれてもさぁ。文字の拡大できるとか」


「マスターご本体の視力も融通が利きませんので」


 それを言われてしまったら、返す言葉もない。

 とりあえず、ソッティーにダンジョンコアを操作してもらい、次に読まなければならない内容などを、説明してもらうことにする。

 ソッティーはスキルのおかげで壮志郎の性格などを把握しているので、かなりわかりやすく噛み砕いて教えてくれた。

 ついでに、上手く読み取れていなかった場所についても、指摘してくれる。


「なぜダンジョンが必要なのかについてのガイダンスを読み飛ばしていらっしゃるものと思いますが」


「うん、あったのは知ってるけど目が限界だったから読み飛ばしたの。あとで教えてもらえばいいやと思って」


「ご無理をして曲解をされるよりは賢明だったかと」


 早速、ダンジョンについての説明をしてもらうことになった。


「大前提として、この世界は四千年ほど前に神様が設計し、突然完成した世界です」


 何十億年という時間をかけた訳ではなく、ある時点で完成した惑星に、完成した生物を配置したのだ、という。

 初めは特に気にもしていなかったのだが、神様はある時異変に気が付いた。

 思うように文明が発展していかないのだそうだ。

 何故だろうと思い調べてみたところ、原因はすぐにわかった。


「星を作るとき、マントルに土をかぶせて水をかけただけで満足してしまったそうで。いわゆる資源の分配をするのを忘れていたのだそうです」


 文明を作らせようというなら、致命的なミスといってよかった。

 土をほっかぶせただけの地面はいわゆる埋め立て地のようなモノであり、いくら掘っても金属資源などは採掘不可能。

 歴史もないので化石資源などもない。

 地殻変動なども特に起きていないので、宝石などもなかった。

 もちろん、昔海だった土地、等というのもないので、岩塩なども皆無だ。

 他にも、挙げればきりがないほどに問題山積だったのである。

 土地の栄養こそぎりぎりで何とかなっているらしく、作物や草木などは育っていたのは救いであった。


「むちゃくちゃだなぁ」


「何分、神様も世界を作るの初めてだったそうですので」


 兎に角、資源を分配しなければならない。

 とはいえ、既に完成した世界である。

 ほじくり返して、資源を埋めて戻す、なんてことをすれば、少々影響が出てしまう。

 具体的には、震度8ぐらいの地震が起きるとか、高さ30mの津波が起こるとか、超巨大ハリケーンが発生するとか。

 それはいかにもよろしくないし、何より面白くない。

 何か面白くて、それでいて問題を解決する方法はないものか。


「それで思いついたのが、ダンジョンによる資源分配でした」


 まず、ダンジョンを作らせる。

 そこで、例えばモンスターを倒したり、内部鉱山で採掘したり、宝箱を開けたり。

 とにかく「何かしらリスク」を支払うことで、「資源という利益」を得ることができる。

 そんな風にすれば、より面白く、世界に資源を分配できるんではないか。

 ついでに、ダンジョンを攻略することで、創意工夫を促し、文明も発展するに違いない。


「実際、ここ二千年ほどはそれで上手く行っているのだそうで、順調に文明は発展しているようです」


「へぇ。どのぐらいの文化レベルなの?」


「一概にどのぐらい、とは言えません。この世界には魔法がありますので、地球とは文明の発展の仕方が異なりますので」


 手から火の玉が飛び出したりするらしい。

 そうなってくると、確かに地球と同じ、というわけにはいかないだろう。


「一概には言えませんが、おおよそゲームやマンガなどの中世ヨーロッパ風魔法世界。といったものと思って頂ければ。所々では、かなり技術力は高いようですが」


「ドラゴニア・クエスト風なの? ファイナリティ・ファンタジア風なの?」


「後者でしょうか。魔法と駆動機械を合成したような技術もあるようですので」


「マジか。すごいなぁ」


 とにかく、これですべきことはおおよそ理解することができた。


「要するに、適度なリスクが伴う、適度な利益が得られる、資源鉱山を作ればいい。と」


「そういうことです。ついでに言うなら、神様が見ていて面白い。というのが付くでしょうか」


 より面白く、というところからダンジョンを作らせることを思いつくタイプの神様である。

 ダンジョン自体も、より面白い方が良いのだろう。


「まぁ、親会社の意向は大事だわね。おじさんは下請け会社の社長、みたいな感じかしら」


「言い得て妙かもしれません」


「ヒラのリーマンが、死んで神様の下請け会社社長に大抜擢かぁ。大出世だぁねぇ」


 世の中、何が起きるかわからない。

 しみじみそう思いながら、壮志郎は妙に感心した様子で何度もうなずいた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] まさかの主人公おじさんは良いとして転生特典なんかで目はどうにかならんかねぇ
[良い点] 極めて有能で、なおかつひどい配下の作成が自然に行えたこと。 外見がデフォルト、これ、おそらく主人公の感覚ではあまり好ましいことではなさそうだと思います。 非人間的な扱い以外のなにものでも…
[一言] 「へぇ。じゃあ、ダンジョンの本体ってどこにあるの」 「マスターご自身のお体です」 これじゃ 「おっさん、異世界でダンジョンを作ることになる」じゃなくて 「おっさん、異世界でダンジョンになる…
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