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若者の成長は基本的に応援したい

 ダンジョンマスター側からすると、中に入る冒険者は地元民の方が有難かった。

 地元民であれば、ダンジョンの近くでお金を使う。

 そうするとダンジョン周辺の経済が潤い、賑やかになっていく。

 当然住民も増え、その中からは冒険者を志す者も出てくる。

 この世界におけるダンジョンとは、神様が人間のために用意した資源採掘現場だ。

 管理運営を任されているダンジョンマスターとしては、冒険者は増えてくれた方がうれしいわけである。

 とはいえ、世の中というのは、放っておくだけではなかなかうまくいかないものだ。

 思惑通りの展開を望むなら、多少なりと労力を割く必要がある。


「つまり、そのー、なんだっけ。名前」


「ヒューイ少年です」


「ヒューイくん! そのヒューイくんに頑張ってもらいたいわけなんだけど。えっ、っていうか、基本的なことでアレなんだけど。そういう干渉ってOKなの?」


 ダンジョンマスターは、人間へ過度に干渉することを禁じられている。

 文明の発展に影響を与えないためだ。

 ただ、例外もある。


「こういった、いわゆる客寄せを作ることは時々あるのだそうで、5番様からも最初は必要だろうとお言葉を頂いています。気を付ければ問題はないということかと」


 相変わらず、ソッティーの仕事にはそつがない。


「じゃあ、問題ないかぁ」


 というわけで、安心してあれやこれやアイディアを出すことになった。

 もっとも、実際にアイディアを出すのは、もっぱらアーペインだ。

 壮志郎もソッティーもウィーテヴィーデも、この分野に関しては門外漢である。


「まあ、シンプルに冒険者として接触して、師匠に収まる。ってところじゃないっすかね」


「それって上手く行くの? 怪しまれない?」


「納得できる理由を作ってやりゃいいんすよ。その冒険者は荷物運びを探してて、その代わり技術を教えるわけっす」


「なーるほど。おじさん細かいところわかんないけどさ、それっていけそうな設定なの?」


「大丈夫だと思うんすけど、どうっすかねぇ。感覚がまだアップデート出来てねぇかもしれねぇーっすけど。どうっすかね、ソッティーさん」


「いえ、私はその手のことは詳しくありませんので。ただ、相手と接触する以上、5番様の許可は必要かと思いますので。その時確認してみるというのは手かと」


「それだ」


「天使様に聞くなら間違いないかぁ」


 他に取り立てて良さそうな意見も出なかったので、それで行くことになった。

 ちなみに、ウィーテヴィーデが。


「沢山の自動人形を用意したデカい箱に叩き込んでしばらく放っておけば、そのうち強くなると思いマスデス!」


 という意見を出したが、却下された。

 そんな蟲毒みたいなことをしてどうするのか、とか、死んでしまうわ、とか、流石に人間に対する過干渉になるだろう、といった意見が出たからだ。

 ソッティーと同じく、ウィーテヴィーデも、人間の扱いは基本的に雑なようである。




 ソッティーがあれこれと根回ししてくれている間、壮志郎は家事に精を出していた。

 雑巾がけをしたり、布団を干したり、洗濯をしたり。

 これらの家事が意外と厄介で、何しろダンジョンの事務所には日が差さない。

 地下と思しきなんかよくわからない空間にあるので、太陽どころか空もないのだ。

 だが、どういう理屈なのか、洗濯ものなどを吊るして干しておくと、すっきりと乾燥する。

 部屋乾きの嫌な臭いとも無縁だ。

 これは別に洗剤が優れているわけではなく、事務所内などを満たしている光が原因らしい。

 一体どういう理屈でそうなっているのか、ソッティーからざっくりと説明をされた壮志郎だった、が。

 かなりはしょった説明だったにもかかわらず、ほぼ頭から抜け落ちてしまっていた。

 おっさんとは、親切丁寧に説明されても、そもそも記憶力がアレすぎて覚えていられない場合が多い。

 壮志郎の持論の一つだ。


「とにかく、太陽の光的なものを出す色々なものを設置できる。と思って頂ければおおよそ間違ってはいないものかと」


 なんかとにかくそんな感じらしい。

 寝る時などはきちんと消灯もできるらしいと聞いて驚いたのだが、そういえば壮志郎はずっとそれを使っていたのだ。

 今までずっと、完全に無意識に使っていたのである。

 当たり前に使ってるけど、言われてみればすごい技術、みたいな感じなのだろうか。

 まあ、とりあえず便利で困ることはない。

 一応ではあるが、現在の壮志郎は指示を出す「トップ」の立場である。

 ケースバイケースだろうが、そういう立場に居るものが細かな技術の内容などを知っている必要はない。

 的確な指示を出すこと、失敗や成功の責任を取ること。

 この二つさえしっかりとしていればいいのである。

 有能な部下なら有能なりに、無能な部下なら無能なりに指示を出し、その責任を取りさえすればそれで十分。

 他のことは全て余計なことであり、何もしていないように見えるぐらいがちょうどいい。

 壮志郎の持論の一つである。


 なんやかんやと壮志郎が生活スペースの充実を図っている間に、ウィーテヴィーデもあれこれと仕事をこなしていた。

 ダンジョンの従業員用の住居や生活スペースを作ったり、訓練施設を準備してみたり。

 あれこれと充実を図っていた。

 一応確認の書類などは上がってくるのだが、壮志郎はほとんどチェックせずに許可している。

 プライベートが充実しているほうが、仕事は捗るものだ。

 元々こき使われる側だった壮志郎としては、従業員には是非楽しく仕事がしてほしかった。

 なので、ウィーテヴィーデには好きなように、必要だと思ったものは作って構わない、と伝えている。

 割と自由にやってくれているようで、ソッティーによると。


「東京ドームと同じぐらいの面積は、既に掘り抜いているものかと」


 とのことだった。

 はじめ聞いたときはかなり驚いた壮志郎だったが、すぐに「まぁ、そんなもんかぁ」と思い直す。

 何しろ、外に出ようと思ったらダンジョンに行くしかないという環境である。

 そのぐらいのオープンスペースがないと、気詰まりになるだろう。

 ちなみに、壮志郎自身は広い場所に出たい、などといった欲求は皆無だった。

 基本的にインドア派だし、運動なども得意ではない。

 一応体力維持のための運動などはしているのだが、生命維持のための行為であった。

 何しろ体のあちこちにガタが来ている。

 下手に運動でもしようものなら、アキレス腱とかをバッツンバッツン切ってしまう恐れがあるし、転んで骨折なんてこともあるかもしれない。

 おっさんというのは、儚く脆い存在である。

 壮志郎の持論の一つだ。

 まあ、放任していたことを後で後悔するかもしれないが、その時はその時である。

 福利厚生が充実するのは、素晴らしいことなのだ。




 桑島と連絡を取る算段が付き、ダンジョンコアを通して顔を合わせることとなった。

 最近はリモート会議も普及してきていたので、壮志郎でも割となじみ深い。

 壮志郎は、実は最新技術に親和性の高いおっさんなのである。

 まあ、相変わらずダンジョンコアの画面はほとんど見えないのだが。


「あ、お世話になっておりますー、先日はどうも色々お世話になりまして―」


「いやいや、なにもなにも。準備の方は順調ですか?」


「はい、おかげさまで。何とか最初に開放するエリアの準備も整いまして。近くの村へちょっと出かけてもらって、無事発見もしてもらいました」


「早いですな! 私は最初の階層を作るのに、一年かかりましたよ。まあ、場所が場所だったので、準備に手間取ってしまったのですが。いや、お恥ずかしい」


「そんなそんな! あー、そうですか、一年。逆に私があまりにも早すぎましたかね?」


「私の場合が特殊だったのだと思いますよ。何しろ、湖のど真ん中でしたからな」


 そんな話をしつつ、事務連絡や報告などを済ませ、早速今回の壮志郎的な本題に入ることにする。


「実は、村に行った折に人別を手に入れまして」


「それはまた、早いですな。どうやって手に入れました?」


 ざっくりと、人別を手に入れた経緯を説明する。

 桑島はとても感心した様子で、何度もうなずきながら話を聞いていた。


「まあ、そんなわけで。ダンジョンの場所を教える対価ということで、人別を頂いたわけです」


「うまい方法を思いつかれましたな。人別を求める流れ者というのは、けっして珍しくない。不自然な話ではないし、村側としては負い目があるから、その流れ者についても話したがらないでしょう。おそらく、教会側には村の人間が見つけたと報告するでしょうな」


「ええ、そうするつもりだと話し合っているようです」


 村には、シャドーピープルやガスクラウドといった、アーペインの部下が張り付いていた。

 常に情報を上げてくれているので、現在の様子などもしっかり把握することができている。

 無論、壮志郎がすべてを把握しているわけではない。

 一応報告は受けているのだが、かなりの確率で数時間後には忘却していた。

 とてつもなく重要なものならともかく、代り映えのしない定時報告というのは、記憶力の低下したおっさんの脳には荷が重すぎるのだ。


「実に無駄のないやり口だ。いや、感服しました」


「いやぁー。そういって頂けると嬉しいんですが。たまたまそうなっただけでして、はい。あははは」


 たまたま思いついた手が、型にハマっただけ。

 というのが、壮志郎の感覚であった。

 実際、いくつもの方策を考え、その中から最も優れた方法を選りすぐった、といったわけではない。

 パッと思いついたアイディアで、結局それしか思いつかなかったから試みた方法なのである。


「運否天賦、等という言葉もありますからな。運も実力のうちというのであれば、まさにでしょう」


「いやぁー、あははは。そういって頂くと、何とも面はゆいですが」


 どうも、桑島は壮志郎に対する評価が高いらしい。

 壮志郎としては限りなく低いぐらいの方が気が楽なのだが、「低めに評価してくれ」ともいうのも気が引ける。

 若い頃ならいけたのだろうが、歳はとりたくない。

 最悪とってもいいのだが、身体は健康なままにしておいてほしいところだ。


「それで、そのー。この人別、このまま私が持っていてもあまり意味がないと思いまして」


「あまり近くの土地では、すぐに調べが入ってしまう恐れがありますからな」


「おっしゃる通りです。まあ、その辺のことは私なんかより桑島さんの方がお詳しいと思うんですが。で、ですね。私にとっては使えない人別でも、よそでなら欲しがる方もいらっしゃるだろう。と思いまして」


「それで、私に声をかけたということですか。なるほど。ちなみに、パルタパルさんには?」


「いえ、まだです。やはり一番最初に話を持ち掛けるのは、桑島さんがよろしいかと思いまして」


「はっはっは! 同郷で、一番の古株だから立ててくださったのですかな?」


 あまりにも察しがいい。

 そして、それをサラッと言ってくるあたりが更に恐ろしかった。


「ふむ。そういった便利な品は私もぜひ欲しいところ、ではありますが。ここは、パルタパルさんに持ちかけたほうがいい。と、私が勧め、仲介すべき場面でしょうな」


 流石というかなんというか。

 壮志郎の考えていたことは、おおよそ看破されているようだ。

 まあ、こういったことは「新人ダンジョンマスターあるある」なのかもしれない。

 あるいは、桑島が優秀なのか、といったところか。

 おそらくどちらもなのだろう。

 肉体年齢的にも実年齢的にもまごうことなきおっさんである壮志郎だが、相手は数百年ダンジョンマスターをやってきたような傑物なのである。


「いやぁー、あっはっはっは。大体お察しの通りです。お恥ずかしい」


「なに、実に日本人的な発想ではありませんか。存外、そういったところは今も昔も変わりませんな」


「戦国の方がおっしゃると、重みが違いますね」


「はっはっは! いや、それにですな。実際、現状のパルタパルさんには、その手のものが必要なのですよ。事情があるのです」


「事情、ですか? どんなものかお聞きしても?」


「ええ。実はですな」


 パルタパルのダンジョンに、天使からある依頼が来た。

 スタンピード、あるいは魔物暴走、または単に「暴走」と呼ばれるような現象を起こしてほしい、というのだ。


「まぁ、おおよそ見当はつくと思いますが。これは、ダンジョンからモンスターがあふれ出す現象、でしてな。様々な理由で我々ダンジョンマスターが起こす、一種の行事のようなモノなのですよ」


 モンスター討伐を促進させる。

 新しい階層が出来た合図。

 町の危機感をあおり、ダンジョン攻略人口を増やす。

 等々。

 目的は本当に多岐にわたるらしい。

 まあ、人間を害するものが突然大量に襲ってくるわけだから、その影響は計り知れないだろう。

 使い方によってさまざまな効果があるというのは、納得できるところである。


「本来、これはダンジョンマスターにかなりの裁量が任されておるものなのですが。今回は天使様からかなりごり押しがあったようでしてな」


「それって、5番さん以外の天使様ってことですかね?」


「その通り。田沢さんのダンジョンは位置の問題でそうでもないのですが、隣接するダンジョンが多いダンジョン、というのもありましてな」


「パルタパルさんのところが、その隣接するダンジョンが多いダンジョン、ってことですか」


「そういうことですな。そういうダンジョンは、他のダンジョンを監督する天使とかかわることも多くなるのです」


 直属の上司以外にも、隣接しているダンジョンマスターの上司。

 つまり天使とも、顔を合わせる機会が多いということだろう。


「パルタパルさんも、5番さんが直接の担当なのですがな。そこに、別の天使様が割り込んで指示を出したわけです」


「それは。そんなことあるんですねぇ」


「いや、本来はありえないことなのですがな。今回は急を要することだったようで、特例でそういうことになったそうです」


 壮志郎がなんとも言えない気持ちになったのを、桑島はくみ取ってくれたらしい。

 聞く前に、疑問に答えてくれた。

 特例ということなら、多少は安心できるだろうか。

 いきなり5番さんの頭を飛び越えて命令が降りてくるとなると、戦々恐々としていなければならない。

 指示を出してくる先がいくつもあるというのは、それだけで恐ろしく厄介なことなのだ。


「それだけ大変な何かがあった、ということですか」


「実はそのあたりの事情が、よく分からんのですよ。私のダンジョンが位置的に隣接していないということもあって、情報が降りてこんのです。気にはなるのですが、関係ないと言われればそれまででして」


「私の方には、かなり関係がありそうですねぇ。お隣なわけですし。いやぁ、でも厄介そうな話ですし、何かあったら相談させて頂いてよろしいですかね?」


「ええ。いつでも」


 どうやら事情が気になるらしい桑島に、壮志郎は「なにかわかったら、相談にかこつけて情報を流しますよ」と伝えたわけだ。

 回りくどいようだが、こういったことは建前も大事なのである。


 この後、あれこれと世間話や打ち合わせなどをして、桑島との通話は終わった。

 通話が切れた瞬間、壮志郎はぐったりとした顔で、その場に突っ伏す。

 頭のいい人との会話というのは、ものすごく疲れる。

 もちろん相手は、こちらに会話のレベルを合わせてくれているわけだが。

 それにしても頭を使いながらしゃべるというのは、大変な労力を要するのだ。

 特に壮志郎は、普段あまり頭を使わず、経験からくる条件反射で生きていた。

 年の功と言えば聞こえはいいが、要するに一種の脳死プレイ状態なのだ。


「お疲れ様でした。収穫はあったようで、何よりです」


「そうだっけ。ダメだ、脳が動いてないから全然反省会が出来ないわ。甘いもの作っといてよかった」


 どうせ脳の栄養が足りなくなると思っていたので、事前に補給物資を用意しておいたのだ。

 おっさんの手作りプリンである。

 可愛い容器などないので、器代わりにはお茶碗を使っていた。

 せめて湯呑にすればよかったと思ったのは、完成した後だった。


「悪いんだけど、用意してもらえるかしら? おじさんもう疲れちゃって」


「すぐに。コーヒーもお入れしましょうか?」


「気が利くねぇー。お願いー」


 壮志郎がそういうのと同時に、事務所の扉が静かに開いた。

 入ってきたのは、ウィーテヴィーデである。

 神妙な顔で、ちゃぶ台の前に座った。

 そして、何を言うでもなく、ものすごい目力で壮志郎を見つめてくる。

 その目からくる圧はすさまじく、物理衝撃を伴いそうなほどであった。


「あの、ウィーテヴィーデちゃんもプリンたべ」


「いただきマスデス!」


「すごい食い気味。おじさん最後まで言えなかったわ。じゃあ、ソッティー。プリン人数分出してくれるかしら。あ、ソッティーも食べる?」


「いえ。私はものを食べる趣味はありませんので。遠慮させて頂きます。では、すぐに用意いたします。少々お待ちください」


 同じ自動人形でも、ソッティーとウィーテヴィーデはずいぶんと違うらしい。

 考えてみれば、ビジュアルからして全く別物だ。

 ウィーテヴィーデは、人間の少女と足の付いた箱という、二体一対のデザイン。

 ソッティーは、黒曜石で作られたマネキンか衝撃実験人形といった外見である。

 これだけ見た目が変われば、当然好みも変わってくるのだろう。


「ところでマスター。プリンってどんな食べ物なのでございマスデス?」


「あ、そうね。そういえば出したことなかったっけか。まあ、食べてみてのお楽しみかなぁ」


「わかりましたでございマスデス!」


 わくわくとした様子のウィーテヴィーデを見て、壮志郎は僅かに元気を取り戻した。

 おっさんというのは、元気な若者を見ているだけで、元気をもらったり。

 あるいは逆に元気を奪われたりする、一種の変温動物のような特性を持った生き物なのである。

 壮志郎の持論の一つだ。




 人別については、パルタパルのところに話を持ち掛けることになった。

 既に話し合いの段取りもついており、明日にはダンジョンコアを通して通話をする予定である。

 それまでにいくつか、決めておくことが有った。


「とりあえず、パルタパルさんのところを支援するんだけども。そのへんは、あのー。ダンジョンマスター権限ということで。皆にも迷惑かけるかもしれないんだけど、一つよろしくお願いします」


 ソッティー、ウィーテヴィーデ、アーペインの前で、壮志郎は軽く頭を下げた。

 お願いというよりも、決定事項なので確認してください、といったようなニュアンスだ。


「いやねぇ。ダンジョンマスターってさ、ライバル関係とか競争関係とかにないわけよ。運命共同体っていうか。特に、パルタパルさんのところはお隣でしょう? やっぱりここはほら、助けないわけにもいかないのよ」


 真隣で不祥事が有れば、こちらにも被害が出る。

 連鎖的に共倒れなどになりかねない。

 困っているときはお互い様、等という言葉があるが、まさにそれだ。

 もっとも、ダンジョンマスターにとってはかなり意味合いが重くなってくる。


「我々はダンジョンマスターにより呼び出されたものであり、その意思に従うものです。ご命令いただければ、粛々とそれに従わせて頂きますので、確認などは不要のものかと」


 そういってから、ソッティーはウィーテヴィーデとアーペインの方へ顔を向けた。

 どちらも、すぐに大きくうなずいて見せる。

 ソッティーの言うことに、異存ないということだろう。

 そこで、アーペインが「しかし、マスター」と口を開いた。


「支援って言っても、うちはまだ開いてもいねぇダンジョンっすよ? 何をどうするんです?」


「それなのよ。色々考えたんだけどさ、やっぱりダンジョン力を融通するのがいいかなって」


 パルタパルのダンジョンは、かなり特殊なものらしい。

 かなり強固な生態系が形成されており、それが循環することで勝手に減ったモンスターが増えていくような仕組みになっているのだとか。


「パルタパルさん固有の特性っていうのは、モンスターをデザインできるってものらしいのよ」


 スキルや外見を少々弄る程度ではなく、自分で全く新しいモンスターをデザインし、ダンジョン力を消費して生み出すことができる。

 それが、パルタパルの固有の特性だという。

 パルタパルはそれを使い、ダンジョン“メルタール・リンド大森林”を作り上げた。

 他に類を見ない、どころか、完全に新しい生態系を作り上げたわけである。

 放っておくだけで生態系が回り、生き物が勝手に補充されていく。

 時折調整するだけで成り立つ、一個の世界。

 当然、そんなものを作り上げるというのは、並大抵の才能でも労力でもない。

 パルタパル・ロス・セシリアスというエルフ族の男性は、「循環」や「調和」というものに、異常なほどの執着を持っているのだという。


「それで、そんな感じのダンジョンを作ったらしいのよ」


「恐ろしいな。アレが一人の人間、いや、エルフか。が、デザインしたものだったとは」


「え、アーさん、パルタパルさんのダンジョン知ってるの?」


「話だけっすけどね。俺がゴブリンで王様だった頃には、もうあったんすよ」


 やはり王様ともなると、入ってくる情報の種類も精度も違ってくるらしい。

 さて、そんなパルタパルのダンジョンだが、一つ欠点があるのだという。

 ダンジョン力が、中々溜まらないのだそうだ。


「ダンジョン力がどういう条件で湧いてくるのか、ダンジョンマスターには非公開だからさ。理由はよくわからないらしいんだけど。よそに比べて、かなり少ないらしいのよ」


 とはいえ、パルタパルのダンジョン経営のスタイル的に、問題はなかった。

 僅かな数のモンスターしか召喚できずとも、繁殖させたりして、増やしてしまえばいいのである。

 しかし。

 スタンピードをするとなると、そうもいかない。


「なんか、新規にスタンピード用に設定したモンスターでもない限り、外を襲うのは難しいんだってさ」


「ダンジョン内のモンスターは、それ用にデザインされていない、ということなのでございマスデス?」


「そういうことみたいね。だから、新しいモンスターをダンジョン力で作りたい。でも、ダンジョン力はカツカツ。無い袖は振れない状態みたいよ」


「ダンジョン力っすか。なんか、金みたいなもんなんすね」


 アーペインの言う通りだろう。

 ダンジョンマスターにとって、ダンジョン力というのは「運転資金」だ。

 金がないのは首がないのと同じ。

 何かをしようとするスタートラインにすら立てない。


「金が無くても工夫すればどうにかなるっつーのは、工夫するだけの金があるときのセリフっすからね」


「実感こもってるねぇ」


「実は俺、こうなる前って王様やってたんすよ」


「知ってるけど」


「まぁ、しこたま苦労した訳っすよ。金の有る無しには。基本的に無かったから余計っすけど」


 実感もこもろうというものである。


「とはいえさぁ。ただ、ダンジョン力あげます。ってだけじゃだめだと思うのよ」


 施しというのは、相手のプライドを圧し折る場合もある。

 もちろん抵抗のないタイプもいるだろうが、壮志郎が見る限りパルタパルは自尊心の強い部類と思われた。

 プライド、自尊心が強いというのは、悪いことだと思われがちではある。

 だが、必ずしもそうではない。

 誇りがあればこそ、艱難辛苦を耐え忍び、悪逆非道なふるまいを思いとどまる、などということもある。

 パルタパルの場合は、おそらく高いプライドがあったればこそ、精緻巧妙なダンジョンを作り上げることができたのだ。

 ゆえに、それを傷つけることは、絶対にしてはならない。


「何か建前がいると思うのよね。それっぽいやつ」


「どのようなものお考えなので?」


「それを今から考えるんじゃないのよ。皆で」


 三人寄れば何とやら。

 頭数が四つもあるのだから、それなりのアイディアが出るだろう。

 と、壮志郎は思っているらしい。


「いや、一応腹案はあるのよ? おじさん必死になって考えたんだから。でもさ、他にもっといいアイディアある人が居るかもしれないでしょ?」


「まあ、こういうとこはマスターの美点でもあると思うんすけどね」


「すべてお一人で進める自信がない。というのもあるのではないかと」


「私はそういうのは苦手でございマスデス。ダンジョンを作るのが専門でございマスデスので」


 アーペインさんは居てくれて助かったな。

 ソッティーっていつも辛らつだよね。

 ウィーテヴィーデちゃんは頭脳労働放棄気味じゃない?

 そんなことを思いつつも、壮志郎は特に何も言うことはなかった。

 なるほどと納得できる部分が、それぞれにあったからである。

 壮志郎は、比較的自分のことを客観的に見ることができるタイプであった。

 特に自分を大きく見せることもしないし、卑下することもない。

 別に卑下せずにありのままを見ても、割と生活するだけでいっぱいいっぱいなスペックなのである。

 正しく自分のことを見つめ続けていなければ、割と生きていくのも難しいのだ。

 おっさんになったら、自分の身の丈を正しく理解することも必要である。

 壮志郎の持論の一つだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 壮志郎の持論 [一言] 今後の展開が楽しみ過ぎるのでいろいろ予想して待ってます!!!!!!!!!
[一言] 「金が無くても工夫すればどうにかなるっつーのは、工夫するだけの金があるときのセリフっすからね」 DIYも金かかる、自給自足が精一杯(泣)
[一言] プリンを食したウィーテヴィーデちゃんの反応が気になります。
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