お祝い事とかで何するか困ったら、すき焼きにしとけば間違いない
ダンジョンの外枠が完成したので、早速壮志郎が見学しに行くことになった。
スーツの上に作業着&ヘルメット。
コレで缶コーヒーを追加し、公園などに配置すれば、完璧な「仕事に疲れたおっさん」が完成する。
「なんか、転移? ワープ? どっちでもいいけど。終わった後、若干ふらつくのよね。船酔いとか車酔いみたいな感じで」
「そういったこともあるかもしれません」
ダンジョンの入り口はまだ閉じたままになっているが、とりあえず出入り口の方から見学していくことにする。
順路通りというヤツだ。
「この階段が、地上につながる予定です。地上部分は東屋のような形にし、周辺の木々はある程度伐採する予定です」
「整地とかもするの?」
「大きく手は入れない予定ですが、木の根や岩の撤去などは行う予定です」
「その方が周りにいろいろ作れるだろうし。いいんじゃない」
人里から結構離れているようなので、キャンプを張ったりするものもいるだろう。
そういう時、平地があるのは有難がられるはずだ。
「まあ、地上部分はまた追々かしらね。じゃあ、とりあえず見学していこうっか」
「ご案内します。といっても、さほど長くかかるものでもありませんが」
なにしろ、作りが単純なのだ。
出入口から続く階段を降りると、細い廊下へと続く。
横幅は人が三人並んで歩ける程度で、天井まではかなり高さがある。
廊下を抜けると、円形の広い部屋へ出た。
ダンジョンの中心となる、大部屋だ。
「はぁー。広いのねぇ」
「ダンジョンには大人数が来ることが予想されますので。これでも手狭な方かと」
「そういえばそうか。塩が手に入る場所になるわけだしね」
大部屋には、ウィーテヴィーデがいた。
恭しくお辞儀するその後ろには、なんかゴッツいロボっぽいのが並んでいる。
ウィーテヴィーデが作った、自動人形。
施設課の従業員達である。
「ようこそお越しくださいました、どうぞごゆっくりご見学いただければと思いマスデス」
「あー、どうもどうも。しっかり見させてもらいますよ。っていうか、なんかこう、すっごいゴツいのね、皆」
壮志郎が施設課の従業員を生で見るのは、これが初めてだった。
彼らはダンジョンに常駐しており、「事務所」へ行ったことが無い。
一応、完成後にダンジョンコアを通して挨拶だけしたのだが、外見とかは正直よくわからなかったのだ。
理由はもちろん、壮志郎の老眼ゆえである。
「彼らは万が一の場合に備え、ある程度の戦闘も可能です。ゴリリンをねじ伏せることができる程度のものですが」
「ある程度、とは。ええ。それってすごく強いんじゃないの? ソッティーと比べたらどのぐらいなのかしら?」
「あの、マスター。ソッティー様には、他全員でかかっても瞬コロされてしまいマスデス」
「マジで?」
ウィーテヴィーデは何か青い顔をしているし、施設課の従業員は皆高速で首を縦に動かしている。
どうやらソッティーはかなり強いらしい。
「へぇー。頼もしくっていいねぇ。あ、っていうか、なんかこの部屋思ったより明るいのね」
壁や地面の色合いが、思ったよりも白っぽい。
そのせいか、明かりと相まってかなり明るい印象になっているようだった。
「乾燥させたせいもあるのでしょうが、思ったよりも土が明るい色合いでしたので」
「助かったねぇ。で、あの扉が、小部屋の方につながってるヤツなの?」
「そうです。ウィーテヴィーデ。ご案内差し上げなさい」
「はいっ! どうぞ、こちらでございマスデス!」
いわゆるスイングアップドアが、十個ほど並んでいる。
全て開いていて、中には一本道が続いている。
円形の部屋の壁面に扉が並んでいるので、中央辺りに立つと、どの扉も奥まで見渡すことができた。
「どれも、奥の扉はしまってるのね」
「空いているドアの中に入ると、開きマスデス」
試しに、一つに入ってみることにする。
ウィーテヴィーデだけが付いてきて、ほかの面々は大部屋へ残った。
中に入ると、大部屋側の扉が閉まっていく。
閉まり切ると、奥の扉が開いた。
扉がせり上がっていく様子は、中々迫力がある。
「ここが、戦闘用の小部屋でございマスデス。リポップを設定して、扉と連動させる予定でございマスデス」
モンスターを倒すか、入ってきた扉に逃げ込めば、小部屋側の扉が閉まる。
閉まり切ると、大部屋側の扉が開く。
「小部屋の大きさは、全部同じぐらい?」
「念のため、五段階程度に大きさを分けてありマスデス。ただ、まだ中に入れるモンスターが決まっていませんので、調整は決定後にも可能にしてございマスデス」
「ああ、まぁまぁ。なるべく変更はしたくないけど、その辺は臨機応変にだね」
ダンジョン魔法で改装は可能なので、自由はかなり利く。
「中で戦っても大丈夫そうな感じ?」
「問題ないと思いマスデス。何度かこの中で、ソッティー様と手合わせをいたしましたが、問題は無かったのでございマスデス」
どうやら、制作作業の最中、そういったこともしていたらしい。
ウィーテヴィーデが青い顔になって小刻みに震えているが、多分壮志郎の気のせいだろう。
最近何もしてなくても、手とかが震えがちなのだ。
「ってことは、これで特に問題なしかしらね」
あとは、リポップモンスターを設定してから、もう一度調整すればいいだろう。
一先ずの大枠は、これで完成である。
「じゃあ、戻って次の準備と行きますか」
短い見学時間であったが、これで十分だった。
そもそも、アレが悪いコレがどうのというつもりは毛頭ない。
本当にただ見るだけのつもりだったのである。
こういったことについて、壮志郎は完全な素人だ。
曲がりなりにも「スキル」というアドバンテージを持つソッティーやウィーテヴィーデが手掛けているものに、ケチが付けられるはずもない。
「一段落着いたわけだし、せっかくだから今日はすき焼きにしようかなぁ」
「すき焼きというのは、美味しいのでございマスデス?」
「おじさんは好きかなぁ。世間一般ではご馳走の類だし」
「それは、楽しみでございマスデス!」
やることは色々とあるが、とりあえず今はすき焼きである。
何かの記念日には、とりあえずすき焼き。
焼き肉やしゃぶしゃぶもいいが、すき焼きは日本の味という感じがする。
醤油と砂糖というあまじょっぱい味は、日本人が好むものだとか。
そこに諸外国ではあまり食べない生卵とくれば、まさに日本的。
日本のご馳走の筆頭といっても過言ではないだろうと、壮志郎は思っていた。
それに、なんといってもすき焼きは「鍋」である。
同じ鍋を囲み、同じ釜で炊いた飯を食う。
そうすると「仲間」「身内」という感じがして、実にいい。
打ち解けるためには、まず鍋。
壮志郎の持論の一つだ。
事務所に戻って、すき焼きをつつく。
どうやらウィーテヴィーデはこれを気に入ってくれたようで、かなりの勢いで食べてくれていた。
作った側の壮志郎としては、ほっと一安心である。
食事を終え、一休みしたところで、仕事の話へ。
「調査課の課長を呼び出したいわけなんだけど。なんぞ意見とかある?」
「まずは、どのような能力が必要かというのが重要かと」
ソッティーの指摘通り、まずはどんな能力が必要かを考えるのが重要だろう。
今までもあれこれとアイディアは出してきているので、ここでまとめることにする。
「隠密能力。見つからないのは重要だわね。あと、それに近いけど、人里に紛れる系の能力」
今すぐではないが、将来的には人里も調査する予定だ。
こっそり覗き見るのもいいが、内部に紛れ込める手段もあったほうがいい。
情報を操作したい時などに、役立つはずだ。
「戦って、強いのは絶対条件だと思いマスデス」
危険な場所に赴くことも多かろうから、重要である。
「ある程度世情などを察する能力も必要かと」
「その場の空気に溶け込む能力とかね。機転が利くようじゃないと、情報なんて集められないだろうし」
「透明化能力でございマスデスか?」
「ん? いや、あー、空気ってソッチじゃなくて、雰囲気的な意味合いの」
「なるほどでございマスデス!」
「あってもいいと思うけどね、透明化能力。なんか、要するにスパイ的な人が必要な感じなわけだよね。コレ」
実際のスパイというより、マンガとかアニメとかに出てくる「スーパースパイ」という感じだろう。
壮志郎のイメージとしては、バーンでノーティスしちゃった感じのスパイとか、0二つに7な感じのスパイとか、そんな感じのヤツだ。
「なんかそういうのって、スキルっていうより本人の機転みたいなところあるよね」
「わかりマスデス。そういう性格、みたいなのも必要だと思いマスデス」
「モンスターを呼び出すときって、そういうのどうなの?」
「一応スキルや初期設定に影響を受けるようですが。難しいところではないかと」
特にそんなことを設定していないはずのウィーテヴィーデが食いしん坊になったりしているので、ソッティーとしてもそのあたりはあいまいだった。
他ならばともかく、課長格となると、人格的にもふさわしい人員が欲しいところである。
事前面接とかができないので、この辺りは悩みどころだ。
「いや、まぁ、ぶっちゃけこういうのは経験豊富な人にやってもらうのがいいと思うんだけどね、おじさん的には。でも、通常モンスターの呼び出しって、どうしても生まれたての子なわけでしょ?」
「でも、ソッティー様の様な例もありマスデス」
「それもそうか」
ソッティーを例に出されると、その手の不安はなくなる気はする。
ただ、それを言っているウィーテヴィーデを見るに、「熟練した感覚」的な感じは期待できない気がした。
「んー、でも。いや、悩ましいなぁ」
「なんでウィーテヴィーデを見て唸るのでございマスデス?」
「丁度良さそうなものを見つけました」
どうやら、ダンジョンコアを弄って色々調べていたらしい。
ソッティーは壮志郎の方にダンジョンコアの画面を向けようとして、思いとどまった。
どうせ見えないからである。
「死んだモノの魂と記憶を、通常モンスターにセットして呼び出す。ということが可能なようです」
「なにそれ怖い。どういうことよ」
死んだ人間の魂や記憶の再利用というのは、案外便利な方法らしい。
なにしろ、ダンジョンの中核であるダンジョンマスターでも使われているほどである。
「ダンジョンマスターの方式を、モンスターにも適応する。なるほど。そう言われるとあんまり不自然でもない。のか? よくわかんないけど」
「全くまっさらなモンスターを呼び出すよりは、ある程度経験値的なものは安心できるのでは。ただ、やはり元の感性があるが故の弊害がない、とは言えないと思われますが」
「そのあたりは、まぁ、うまくやってくれるんじゃないかしら? 神様天使様的にも」
壮志郎的には、正直そのあたりは疑わなくてもいい気がしている。
神様的損得を考えるのであれば、そのあたりの人選は間違いないだろう。
「確かに。むしろ、良い人材を選んでいただけるでしょうか」
「まあ、とりあえず調べてみてよ」
「わかりました。通常の手順と、魂の再利用。そのほかの手段も含めて、検討してみます」
「よろしく。じゃあ、おじさんはすき焼きの準備をしようかしらね。ウィーテヴィーデちゃんは、その間どうする?」
「とりあえずダンジョンはもう触らなくてもいいでございマスデスので、ご許可をいただければ、事務所周りを整備しようと思いマスデス」
「事務所周りっていうと?」
「ダンジョンマスター専用空間でございマスデス。これから従業員が増えるとなると、剥き出しの土のままより、多少整備したほうが行動しやすいでございマスデスので」
たしかに、それもそうだ。
人員を増やすなら、人員を増やすなりの準備も必要である。
「そうだよねぇ。調査課の人達用の社宅、社宅? いいや、とにかく住むところも用意しなくちゃいけないわけだし。おじさんそこまで気が付かなかったわ」
「そういったことに気を配るのも、施設課の仕事だと思っておりマスデス」
「えらいなぁ、きちんと仕事してて」
最近の若者というのは、実に感心である。
ウィーテヴィーデなんて、生後一か月も経っていないはずだというのに。
「よし、おじさんも頑張ってすき焼き作ろっと」
「楽しみにしていマスデス!」
すき焼きはがんばらなくてもいいのでは。
という言葉を、ソッティーはぐっと飲みこんだ。
壮志郎とウィーテヴィーデのモチベーションになっているのなら、それが何よりなのである。
たっぷりとすき焼きを食べ、締めの雑炊も心行くまで楽しむ。
ゆったりとお風呂に浸かって、ぐっすりと睡眠をとり、気持ちのいい目覚めを迎える。
朝食のトーストとコーヒーを頂いたところで、仕事の話をすることとなった。
「で、何の話するんだっけ?」
「調査課の課長をどうするか、という話です」
「そうそうそう! はいはい! そうだったそうだった! ねっ! うん、調査課のね! ソッティーに調べておいてもらうって話だったのよね!」
「通常の手段と、魂の再利用。双方の利点と欠点をある程度調べておきました。ただ、実際にやってみなければわからない部分が多いのは、お許しください」
情報と事実は、違う場合があるのだ。
また、時と場合により、同じ「事実」であっても捉えられ方は違う。
「そりゃそうでしょうとも。まあ、とりあえずプレゼン的なことお願い出来る?」
「一応、両者の違いをある程度紙にまとめておきました。こちらをどうぞ」
「あ、ありがとー。え、手書き? めっちゃ活字っぽいけど手書きじゃない、これ」
「時間がありましたので」
壮志郎が寝ている間に、手書きしたらしい。
プリンターなどがあればよかったのだろうが、残念ながらそういった装置はなかったようだ。
実例なども織り交ぜ、実に分かりやすくまとめてある。
字は大きめなので、壮志郎もにっこり。
「まず通常モンスターですが、ほとんどのスキルなどを自由に設定ができます。ただ、やはり経験面で難があるようです」
「何事にも初めてはつきものだけど、生まれたてってのが問題よねぇ」
人間観察やら諜報調査などというのは、人間のそれまでの経験がものをいう。
らしいと、壮志郎は思っている。
映画や小説などの受け売りだ。
「対して魂の再利用は、経験値的には申し分ない人物が揃えられているようです。また、すでにある程度のダンジョンに関する事情なども知識として与えられているそうで、そういったことに関するこちらからの説明は不要なようです」
「あら便利。事情とか説明するの大変だもんね」
「勿論、事情を呑み込んでおりますので、ダンジョンマスターへの忠誠も間違いなく誓っているのだそうです。そもそも、ダンジョンマスターに反感なり害意なりを持っているものは、リストに載らないのだとか」
「そりゃそうよね。神様サイドとしてもそういうのに暴れられても困るだろうし」
言うこと聞かない従業員は、そもそもハネられるのだ。
神様や天使様としても、そういったものを用意する利点がない。
というより、明らかな悪手といっていいだろう。
そういったものがあっても何の利点もなく、それを事前に防げるのに、あえてそういう不穏分子を見逃す理由はない。
疑い出せば限はないが、この件に関しては信頼してもよさそうである。
「ただ、忠誠といっても度合いは人それぞれです。完全な裏切りや明らかな謀反はありませんが、サボってお茶を飲んでた、ぐらいのことはあるようです」
「営業に出てるはずのリーマン的な感じの」
「そのあたりで考えるのが妥当でしょうか」
愛社精神もピンキリということである。
「忠誠心が高いものは、徳川家康に仕える本多忠勝もかくやといったものなのだとか」
「何それスゴイ。太閤のお誘いも断るレベル」
「低いものに関しては、定年間際で窓際に追いやられたサラリーマン程度だとか」
「あー、なんだろう。逆らいもしないし辞めもしないけど、ただそれだけ的な感じがひしひしと伝わってくる。覚えがあるなぁ」
悲哀と哀愁漂う先輩達の背中を、壮志郎はいくつも見送ってきたのだ。
明日は我が身という恐怖に震えながら。
おっさんになるというのは、常に恐怖にさらされ続けることである。
迫りくる年月による定年や加齢に怯えながら、気が付かぬふりをして過ごすことだ。
本当は残り時間が刻一刻と減っていっていることを自覚しながら。
おっさんとは、常に何かに追われ続けるものである。
それに焦りを覚えて必死でもがくか、ただ受け入れ悠然と、漫然と時を過ごすのかは、そのおっさん次第。
壮志郎の持論の一つである。
「まぁ、いいや。どっちがいいんだろうなぁ。ここはやっぱりおじさんが判断したほうがいいんだよね」
「このダンジョンのトップは、マスターですので」
「向いてないんだよなぁ、そういうの。学生時代から小学校の班長にすらなったことないのに」
小学生も「学生」と表現するらしい。
まあ、小学生も学生と言えば学生ではあるのだが、大体の場合は「児童」と表現されるので覚えておくと便利だ。
「ほかにも、欠点がいくつか。魂の再利用の場合、呼び出し時に取得させられるスキルに限りがあります。そのものが元々持っていた特性と、マスター特性によるものしか取得させられません」
「マスター特性って、おじさんのダンジョン魔法みたいなやつ?」
「その認識で正しいかと。また、外見の変更もできません」
「意外と制約が多いなぁ。まぁ、それを差っ引いても大きいのよねぇ。経験があるって」
なんやかんや言われるが、経験者というのはやはり強い。
映画とかでも、元CIAとかの方が強いのだ。
「しばらくお悩みになるのもよろしいかと」
「いや、いいや。どうせ悩んだって一緒でしょ。よくわかんないものはよくわかんないんだし。魂の再利用っていうのやってみようよ」
ということで、調査課の課長は魂の再利用方式で呼び出すこととなった。
が、ここからが一苦労である。
「うそ、プロフィールとか出てないの? その人の略歴とか」
「そういったものはないようです。大まかに得意なことなどが表示されてるだけのようですね。それと、なんというか、属性的なものが書いてあります」
「なにそれ。元同人の昔の偉人をキャラ化してるソシャゲみたいな感じじゃない」
「それは私がずっと言わずに我慢していたことなのですが」
「まあ、ウィーテヴィーデちゃんは言ってもわかんないしね」
ウィーテヴィーデには、スキル「製作者記憶コピー」を取得させていないのだ。
「そうなってくるとアレだね。運の要素が強いね、これ」
「元々のスキルや大雑把な傾向などは書いてありますので」
「ウィーテヴィーデちゃんは、こういう感じがいいとかってアイディアある?」
「課長ですから、部下を指揮する能力があったほうがいいと思いマスデス」
「真っ当なご意見だなぁー。でもそれ重要よねぇ」
あれこれと意見を出し合いながら、良さそうな魂を絞り込んでいく。
現在ストックされている魂は、既にソッティーがおおよそチェックしてくれていた。
再利用されるほどの魂というのは少ないらしく、総計でも100行くか行かないかだったらしい。
「偉人て少ないのねぇ。まあ、そんな多くないから偉人なのか」
偉人だらけでも大変なことになるだろう。
格言本とかが辞書サイズになるかもしれない。
「その分、絞り込みやすくはあります」
「それは有難いわよね。どうせ誰選んでも偉人なわけだし」
「この辺りでしょうか。少々お待ちください、紙に書き写します」
「ありがとうー。って、メッチャ早くない? 機械みたいな速度で書き出してない?」
「自動人形ですので」
よくわからないが、自動人形というのはそういうモノらしい。
書き出してもらった特徴を確認するが、特に問題はなさそうである。
「じゃあ、これにいくつかスキルをつけ足して、早速呼び出しましょうかしらね」
ダンジョン魔法とか言語系とか、諸々合った方が便利なスキルはある。
ちょこちょこと付け足し、早速呼び出すこととなった。
ソッティーがダンジョンコアを操作し、実行を指示する。
「なん、だと」
その日、壮志郎は思い出した。
モンスターを呼び出すには、ガラス瓶に柄杓でダンジョン力を注がねばらなかったことを。
「このガラス瓶、デカくない?」
「ウィーテヴィーデと同じぐらいでしょうか」
「でっかいでございマスデス」
「こんなにダンジョン力残ってる? あ、結構残ってるのね」
「ダンジョン制作には、ダンジョン魔法を使っていますでございマスデスので」
「あとは、ウィーテヴィーデの部下を作るのに使った程度ですので。連中はさして高度な能力を持っているわけではないので、さほどダンジョン力も必要ありませんし」
「能力強化は行っておりマスデス、並程度のモンスターでございマスデスので。高が知れているのでございマスデス」
案外、並のモンスターというのは低価格らしい。
「自動人形は特に様々な制限がある分、省ダンジョン力モンスターに分類されますので。私やウィーテヴィーデほどダンジョン力が必要になるケースは、稀かと」
「そんなもんなの?」
「かなり強化をつぎ込んでいる、ということです。ウィーテヴィーデは人形工房としては破格の能力を持っています。スキルの相乗効果とでもいえばいいのでしょうか」
衝撃の事実である。
ウィーテヴィーデ自身も知らなかったのか、驚いた顔をしていた。
「ともかく、ダンジョン力を注ぐ作業を始めてください」
「ソッティーかウィーテヴィーデちゃん、代わってもらえないんだっけ?」
「そもそも、あの柄杓はダンジョンマスター以外手に取ることができません。また、あの柄杓以外でダンジョン力を掬い上げることができるのは、ウィーテヴィーデのような特殊な例だけです」
衝撃の事実である。
ソッティーが柄杓を持とうとするが、手がすり抜けている。
ウィーテヴィーデも同じだ。
「うっそ。逆にウィーテヴィーデちゃんどうやってダンジョン力吸い上げてるの」
「ヴィーデから出るリアクタービームで吸い上げるでございマスデス」
「ウッソSFじゃない。それで代わってもらえないの?」
「残念ながら、内部工房で自動人形を作るとき以外は、ビームが出ないのでございマスデス」
「マスター、諦めて早く作業を始めたほうが楽になれるものかと」
「そうねぇ。世の中って理不尽だわぁ」
生きるとは、理不尽を知ること。
長く生きれば生きるほど、多くの理不尽にさらされていく。
そういったものを乗り越えることで、人は成長もすれば折れてしまいもする。
理不尽こそが人生であり、人生とは理不尽なもの。
壮志郎の持論の一つだ。




