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目が覚めると、知らない土天井

 目を覚ました男の目に飛び込んできたのは、全く見慣れない天井であった。

 一言でいうと、洞窟。

 あるいは、掘りたてのトンネルといったところだろうか。

 剥き出しの土がそのままになっており、中々野趣あふれる感じである。


「え? なんで?」


 男は寝ぼけたような声でそういうと、目をこすりながら体を起こした。

 周りを見回してみると、目に入るのは土壁、土床。

 土だらけである。

 というか、見たところ本当に土をくりぬいただけ、といった感じであり、天井や壁床というのも少々おこがましい様な有様だ。

 一体ここは、どこなのか。

 男は何とか思い出そうと、未だに靄がかかった様な頭を振り、記憶を手繰る。


 まず、名前と年齢。

 田沢・壮志郎、四十八歳。

 職業はサラリーマンで、結婚はしていない。

 最後の記憶は、出勤途中での出来事。

 いつもの道を歩いていたら、近くの崖が突然崩れて来た。

 これは逃げられないな、とすべてを諦めたところで、記憶が途切れている。

 恐らく、押しつぶされたのだろう。


「うそ、ってことはここってあの崩れてきた土の中なの?」


 自分で言っておいてなんだが、そんな訳はない。

 壮志郎は頭を掻きながら、体と自分が寝ている場所を確かめる。

 特に怪我の類などはなさそうで、体調にも異常ない。

 妙なのは、着ているものだろうか。

 病院着とでもいえばいいのか、無地布のズボンとシャツらしきものを着ている。

 着色料などを嫌うタイプの自然派な人が好みそうな素材で、少なくとも壮志郎の持ち物ではない。

 寝ていたのは、折り畳みベッドらしきものの上であった。

 やたらとシンプルな素材でできており、鉄パイプと布だけで作られている。

 恐らく、綿などは入っていないだろう。

 タンカに足を付けたような代物、とでもいえばいいのだろうか。

 単純な造りだが、意外と寝心地もいい。


「これ、どこで売ってるんだろう。いや、待て待て。そんなことよりも、よ」


 ココがどこなのか、ということである。

 見回してみるが、あるのは壁と床と天井のみ。

 よくよく見てみれば、いわゆるドーム状になっていることが分かる。

 出入り口等が一切ない、土でできた巨大カマクラの中、といった感じだろうか。


「ていうか、明かりがないのに何で明るいんだ、ここ」


 光源になりそうなものが何もないのに、妙に明るい。

 どうやら、天井全体が淡く発光しているようだ。

 光る土なのか、あるいは土っぽいフェイクライトなのか。

 ぼけっと天井を見上げていると、突然「ピロン」というような電子音が聞こえてくる。

 一体どこから聞こえてきただろうか、と探そうとして、壮志郎はようやく自分が何かを握り締めていることに気が付いた。


「スマホだ。持ってないのに」


 壮志郎は、未だにガラケーを使っていた。

 もちろんスマホ自体は見たことがあるが、使ったことは一度もない。

 画面を見てみると、何か文章が表示されているのが分かる。


「えーと、なになに? 操作はタブレットPCと同じ感じかな? 文字の拡大とかは? あ、できないのかこれ。不便だわぁ」


 スマホは触ったことが無かったのだが、幸いなことにタブレットPCは仕事で使っていた。

 四苦八苦しながらも、なんとか文章を読んでいく。

 ただ、操作の方は何とかなるのだが、別の問題が出てきた。


「ダメだこれ。目がすっごいかすむ」


 加齢による目のかすみである。

 大きい画面ならまだいいのだが、スマホサイズの文字表示だと、壮志郎の目にはきついものがあった。

 残念ながら拡大などの操作ができないらしいのも痛い。


「んー、なんだこれ、なんて書いてあるの。ちっちゃいのよ、字が。この歳になってくるとさ、見えなくなってくるのさ」


 目を酷使し、多大な疲労を蓄積させながらも、何とか読み切ることができた。

 よくできたビジネス文章、といった感じの文面であり、非常にわかりやすく書いてある。

 ただ、その内容はいささか突飛なものであった。


 文章をそのまま信じるのであれば、やはり、壮志郎は死んだらしい。

 そして、死後魂が異世界の神様の手に渡った。

 異世界の神様は自分の世界で役立てるために、新しい器を作り、そこに魂を入れたのだそうだ。

 では、壮志郎になにをさせようというのか。

 この世界には「ダンジョン」と呼ばれるものがあり、それを制作運営管理する、「ダンジョンマスター」なる仕事をさせたいらしい。


「一頃は流行ってたね、そんなの」


 壮志郎は、ゲームやマンガなどを嗜む、いわゆる「古のオタク」であった。

 なので、ダンジョンマスターというのがどういうものなのか、おおよそ見当はつく。

 少し前は、ウェブ小説などで「ダンジョンマスターに転生」などというのも流行っていたものである。


「最近でもそういう小説あるのかしらね。まあ、いいや」


 それよりも、今は我が身のことだ。

 まさか自分が、こんな物語の主人公のような境遇になるとは思わなかった。

 とはいえ、なってしまったものは仕方ない。

 壮志郎は流れに身を任せ、長いものには巻かれるタイプであった。

 こうなってしまったものは仕方ない。

 言われたとおりに「ダンジョンマスター」なるものをやるしかないだろう。

 まあ、言われたというか、書かれていた、という感じなのだが。


「えーと、なになに? ダンジョンマスターになることをご了承いただけますと、次のステップに進みます。と。なに、次のステップって」


 壮志郎が首をかしげていると、背中側から「ガチャ」という金属音が聞こえてくる。

 振り向いてみると、それまでなかったはずのドアがあった。

 剥き出しの土壁に取り付けられたそれは、よく見るタイプの金属製のドアだ。

 半開きになっており、間から光が漏れている。


「うっわ。すげぇ」


 他に変化がないか、と周りを見回してみる。

 なんと、折り畳みベッド近くの地面に、サンダルが現れていた。

 目を離していてる間に現れたらしい。

 一体どういう仕組みなのだろうか。

 とりあえず手元のスマホに目を落としてみる。


「スリッパをはいて、部屋の中に入ってみてください。っと。へぇ。あ、これが次のステップなのね」


 文面を読み進めると、どうやらあのドアの中には生活スペースがあるらしい。

 一通り生活に必要なものはそろっているのだとか。

 また、ダンジョンマスターにとって、非常に重要なものも置いてあるのだそうだ。


「行ってみますかねぇ。っていうか、ヤダね独り身が長いと。独り言がおおくなっちゃってさ」


 ぶつくさ言いながらサンダルを履き、歩いて行ってドアを開ける。

 まったく躊躇などはない。

 ある程度の歳になると、そういった警戒心などが薄れていく、というのが、壮志郎の持論である。


「まあ、窓はないわね」


 部屋の中は、四畳一間のアパートといった風情だった。

 玄関から入るとフローリングになっており、流し台とコンロがセットになったキッチンがある。

 それなりの広さがある押し入れもあり、風呂とトイレが分かれていた。

 ちなみに、トイレはシャワー機能が付いていて、これは大いに助かる。

 家具はほぼなく、あるのは冷蔵庫が一つだけ。

 確認すると、中身は空っぽであった。

 ただ、家具はないのだが、部屋のど真ん中にひときわ異彩を放つものが置かれている。


「なんだこれ」


 それは、大きな樽だった。

 木と金属パーツでくみ上げられた、「タル」と言われたら思い浮かべるようなわざとらしいほどわかりやすい樽である。

 中は、発光している緑色っぽい半透明の液体で満たされていた。


「これが、ダンジョン力ね。ちから、じゃなくて、りょく、って読むのか。おじさん世代にはちからの方がアレなんだけどなぁ」


 この変な色の液体は、ダンジョン力というらしい。

 不思議なエネルギー体であるダンジョン力は、ダンジョンを作る様々なものに必要なのだそうだ。

 ダンジョンを広げるのにも、モンスターなどを作るのにも、必要なのだとか。


「なんだね。ポイントとかじゃなくて、物理なのね。しかも液体」


 こういった場合、創作などでは「ダンジョンポイント」などというものが使われるのが一般的だ。

 まさかの物理、しかも液体で来るとは。

 少なくとも、壮志郎は思ってもいなかった。


「まあ、人間生きてるといろんなことが起きるよね」


 ある程度の歳になると、人間は少々のことでは動じなくなる。

 壮志郎の持論の一つだ。


「さてと、じゃあ、続きを読みましょうかね。と、言いたいところだけど。参ったなぁ」


 スマホに書かれた説明文の続きを読もうとした壮志郎だったが、ここで問題が起きた。

 文章が読めなくなってしまったのだ。

 別に、表示されなくなったとか、スマホ側の問題ではない。


「やっばい。もぉー、ずーっと画面見てたから目がメチャクチャかすんじゃって、ぜんっぜん文字が読めない。歳だなぁー、コレ」


 眉間をもみほぐし、しばらく休むことにする。

 樽の横に座っていたのだが、フローリングが固くて尻が痛くなってきた。

 思い立って、ドアから外に出て、ベッドの上にあった毛布を持ってくる。

 半分に折り畳み、カーペット代わりにすることにした。

 ベッドをそのまま持ってくることも考えたが、金属製のものをフローリングの上にそのまま置くと、傷になりそうだったのでやめて置く。

 何か下に敷くものがあれば、運び込むのもいいかもしれないのだが、残念ながら今は見当たらなかった。

 しばらくすると疲れも取れてきたので、再びスマホの説明文を読むことにする。

 ただ、やはり完全に疲労は抜けきっていないので、所々目は滑ってしまう。

 どうにも、内容がうまく頭に入ってこないのだ。

 それでもどうにか、ある程度のところは理解することができた。


「つまり、業務をサポートしてくれるモンスターを、とりあえず作れ、と」


 まだ説明などはあるようなのだが、とりあえずモンスターは作れるようになっているらしい。

 あるいはもう説明はすべて終わっているのだが、壮志郎がすべて理解できていないだけかもしれないのだが。

 まあ、とにかく。

 スマホの文章を読む限り、腹心となるモンスターを作る事を推奨されているようだ。

 壮志郎は、指示されたらその通りに動くタイプの人間であった。

 なんだかよく分からなかったが、とりあえず書いてある通りにモンスターを作ることにする。


「まぁ、書いてあるしね。作れってね」


 これがもっと若い頃だったら、何かしら反抗してみたりしたかもしれない。

 だが、今の壮志郎にそういった種類の反骨精神は皆無だった。

 指示を出されたら、それを実行すればいいや、という心境である。


「ええと、あ、このスマホで作るのね。ゲームみたいだな。スマホのゲームやったことないけど。持ってないから」


 とりあえず、指示の通りにタップしていくと、「モンスター制作画面」なるものに切り替わった。

 まずは、種族や性別などを決める。

 種族にはそれぞれ「必要ダンジョン力」が設定されていて、優秀な種族であればあるほど要求量は多くなっていく。

 続いて、スキルやステータスなどを修正。

 選択した種族に元々ついていないスキルを選ぶことができ、ステータスもある程度弄ることができるのだが。

 当然、追加すればするだけ、「必要ダンジョン力」が増える。

 マイナス効果があるスキルを付けることも可能で、その場合は「必要ダンジョン力」が減るのだそうだ。

 そういった設定をしたのち、ある程度の容姿の変更等を行うことができる。

 終わったら名前を入力。

 ダンジョン力を注ぎ込んだら、モンスターが現れる。

 の、だそうだ。


「なんか、ゲームのキャラクリみたいな感じだなぁ。いや、そういう風に作ってるのかね? こっちに寄せてきてくれてるの有り難いなぁ」


 古のオタクである壮志郎は、様々な種類のゲームなども楽しんできていた。

 こういったキャラクタークリエイトをする系統のものも、多く嗜んできている。

 そして、あれこれとパラメーターを弄りまわす系統のゲームは、壮志郎の好むところでもあった。


「へぇー、いろんな種族がいるのね。吸血鬼、ゴブリン、オーク、ケンタウロス? スライム。はぁー。定番は押さえてるな」


 実にいろいろな種族がいて、一長一短あるようだった。

 自分の腹心のモンスターを作る、ということらしいので、できるなら頭がよさそうなものがいいだろう。

 正味な話、壮志郎は自分の頭に自信がなかった。

 もし優秀なのであれば、いい会社の重役か社長にでもなって、嫁さんと子供に囲まれた幸せな人生を送っていただろう。

 しかしながら、実際のところは独り身のしがないヒラリーマンだ。

 一応中間管理職ではあったが、いわゆる年功序列。

 年齢が年齢だったから就くことができた立場でしかない。


「でも、強い方がいいのよねぇ。守ってもらわないといけないし」


 自慢ではないが、壮志郎は腕っぷしに自信がなかった。

 歩くのが好きなので、いわゆる中年太りこそしていないが、取り立てて筋肉質なわけでもない。

 ダンジョンマスターというのがどんな仕事をするのか具体的にはよくわからないが、危険に巻き込まれることもあるだろう。

 そうなった時に、助けてもらえるぐらい強い方がいい。


「頭が良くて強い。求めすぎじゃない?」


 我ながら無茶ぶりな気がする。

 とはいえ、やらなければならない仕事がある以上、自分にない才能は他に求めるしかないのだ。

 そんな風に考える壮志郎だったが、なかなか難しいようだった。

 なかなか、そう都合のいい種族が見つからないのである。

 アッチを立てればコッチが立たず、コッチを立てればアッチが立たない。

 能力が高いモンスターは幾らかいるのだが、ピーキーで極端な性能なのだ。


「これ、逆に平均的な性能の種族を弄ったほうが早いのかなぁ。ん? なにこのスキル」


 スキル一覧の中に、気になるものを見つけた。

 タップして、詳細を見てみる。


「ダンジョン知識」ダンジョンを運営するにあたって、必要な知識を一通り有する。(※補佐をさせる場合、取得推奨)


 今の壮志郎にうってつけだ。

 目がしょぼしょぼしてスマホの画面が読めなくても、口頭で教えてもらえば問題ない。

 なんなら、代わりにスマホを操作してもらって、文章を代読してもらえばいいのだ。


「そうだよ、なんですぐ思いつかないかね。となると人型がいいのか。ええっと、あっ! これよくない?」


 ちなみに、やたらと独り言が多いのは、独り身ゆえの癖である。

 壮志郎が見つけたのは、「自動人形」という種族であった。

 動く人形、ゴーレムや魔法生物といったタイプの種族であり、基本形となる「素体」という種類のものは、スキル次第で様々なことができるらしい。

 外見は、黒曜石でできた衝撃試験用ダミー人形、といった感じだ。

 まあ、見た目はかなり自由が利くのだそうで、設定でかなり弄ることができるらしいのだが。


「へぁー。ていうか、魔法もあるんだ、この世界。へー。あ、その辺の常識とかも自分にないもんなぁ。そうだ、そういうのに関する知識系スキルもあるっぽいし、取得してもらっちゃおう」


 分からなきゃ自分で調べろ。

 というのは、インターネットや図書館などにいつでも触れられる場所での常識である。

 知識がないのなら、知識がある人間に聞くか、雇って説明してもらう。

 恐らく、この場所ではその方が確実で早いやり方だと思われた。

 スマホに出る文章を読む、という選択肢もなくはないが、人には向き不向きがある。

 壮志郎の老眼に片足を突っ込んでいる目は、それに耐えられないのだ。

 ある程度の年齢になったら、思わぬことが肉体酷使につながる。

 壮志郎の持論の一つだ。


「アレもいれて、コレも入れて。あ、格闘技術だって。コレも入れよう。ん? 自動人形は怪我をした場合パーツの交換などが必要? じゃあ、自己再生とかいうスキル突っ込んどくか。これで治るでしょう」


 壮志郎はゲームなどをするとき、極力消費アイテムなどを使わない主義であった。

 回復薬や薬草などすら使わずやりくりするタイプだったのだ。

 パーツの交換など、余計な出費がかさみそうなことなど極力したくない。


「学習能力。ほうほう、自動人形種は基本的に、訓練などによる筋力増強などは望めない。また、自己学習能力などもけっして高いとは言えない。なるほど。その系統のスキルも乗っけようかね」


 せっかくなら、どんどん強く、賢くなっていってほしい。

 その方が、ダンジョンの制作運営の助けになる。

 何より、壮志郎は育成ゲームとかも好きだった。

 折角の腹心なら、ガンガン育成していきたい。

 ちなみに、自分が成長するとか、そういった発想はほぼなかった。

 年齢的に考えて、壮志郎は成長より、老化を意識しなければならないのだ。


「なんか楽しくなってきたな、これ」


 興が乗ってきた壮志郎は、あれやこれやとステータスを弄くりまわした。

 周りに、時間が分かるものが無かったのも悪かったのかもしれない。

 気が付けば、かなり長い時間が経っていた。

 こういう作業をしているとき、壮志郎を必ず襲うものがある。


「やっばい。めちゃくちゃ眠い」


 眠気だ。

 昔は徹夜仕事などもしたものだが、最近はすぐに眠くなってきてしまう。

 これでもっと歳をとると、今度は眠る事すらできなくなってくらしい。

 寝るのにも体力がいるのだとか何とか。

 実に恐ろしい話である。


「はぁ。もう、今日はこの辺にしといて、一回寝ようかなぁ。こういう大事なことは時間かけても問題ないだろうし」


 腹心を作るとなれば、重要な仕事である。

 特に急かすような文章は書いてなかったし、しっかりと時間をかけてもいいはずだ。

 ということは、一回睡眠を挟んだっていいはずである。

 しっかりとした仕事には、しっかりとした休養が必要なのだ。


「あのベッドで寝るかなぁ。でも部屋の中に運び込むのアレだし。外で寝るか。いや、でもなぁ。それもなんか、惨めな気持ちになるっていうか。んー」


 悩んでいる間にも、どんどん眠気が押し寄せてくる。

 そのうち、座ったまますーっと眠りの中に入りそうになってしまう。

 目を閉じて、そのまま眠りに落ちてしまいそうになる。

 ガクッと体が傾き、壮志郎はハッと目を開いた。


「あっぶなっ! 一瞬寝てたね、今。こっわい、スマホ握りしめたままとか、シャレにならないわ。誤操作とかしたらシャレにならないって!」


 その時だ。

 壮志郎の背後で、「ゴトン」というやたら重たい音がした。

 びっくりして勢いよく振り返る、と同時に、首から嫌な音がする。

 急に動かしたのが祟ったのだろう、結構な痛みが走った。


「いったいっ! 痛い痛い痛い! そしてなに! 何の音!? ゴトンって! 重そうな音何!?」


 そこにあったのは、ガラス瓶のような物体だった。

 かなりの大きさがあり、人一人が余裕で入りそうなサイズである。


「なにコレ! いや、大体読めて来たぞ、この流れ」


 壮志郎は、恐る恐る握っていたスマホの画面を見やった。

 予想通りというか、なんというか。

 画面上には、「設定完了」の文字があった。


「どういうこと? え、モンスターじゃないじゃない、コレ。ガラス瓶じゃん」


 慌てて画面を読んでいくと、事情がだんだん飲み込めてきた。

 まず、モンスターの設定は既に完了してしまっていて、変更は出来ない。

 このガラス瓶は、ダンジョン力を使用する際に現れるもの。

 ダンジョンコアを操作してダンジョン力を消費するような行動を決定すると、瓶が現れる。

 その瓶にダンジョン力を指定の量注ぎ込むと、設定した現象が起きるのだそうだ。

 今の場合は、この巨大ガラス瓶にダンジョン力を注ぎ込むと、モンスターが出現する、ということらしい。


「やっぱりなぁー。急に後ろで音がする系はダンジョンがらみなんだよなぁー。っていうか、ダンジョンコアって何。このスマホ? このスマホ、ダンジョンコアだったの? マジか。そうか。えっ、っていうかどうやってダンジョン力注ぎ込むの?」


 スマホ、改めダンジョンコアの画面に表示された文章を、さらに読んでいく。

 探していくと、ダンジョン力の注ぎ込み方に関する注意が書かれていた。


 ダンジョン力を注ぐ際は、樽の横にある「ひしゃく」をお使いください。

 また、ダンジョン力は皮膚に触れるとかぶれますので、手などにつかないようにしてください。


「すんごい物理じゃん。えっ、ていうかダンジョン力って自分で入れるの? 勝手に消費されるんじゃなくて? すっげぇな。え、マジで?」


 色々と突っ込みたいところが満載だった。

 だが、今の壮志郎には、それよりもやらなければならないことがある。


「とりあえず、寝よう」


 疲れているとき、睡眠不足の時などになにをやっても、碌なことにはならない。

 それなら、まずしっかり体を休める方が重要である。

 とくに、歳をとってきたら、なおさら。

 壮志郎の持論の一つである。

 まあ、この場合、いささか現実逃避も含まれているのだが。

 とにかく。

 壮志郎は外に置いてあるベッドで、ひと眠りすることにしたのであった。

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[良い点] 広告が(σ゜∀゜)σエエナ!! [気になる点] おじいちゃん( ´灬` )ノ [一言] └('ω')┘フォォォ!!
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