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2日目...4

 攻め手側に動揺が走ったのは明らかだった。通信の不調に感づき、ヘッドセットを押さえて仲間同士で顔を見合わせている。


 同様にこちらも通信できない状態だが、目的がシンプルであるため迷いはない。3人が一丸となって突進する。


 ニコルが走りながらオーバーハンドでグレネードを投げた。それがトタンで出来た小屋の壁に寄り添っていた〝00022〟の連中の目の前で爆発する。


 ライフはごっそりと、半分以上減ってグリーンからオレンジに。それでも致命傷にはなっていない。


 散開していた他の敵のうち、亮司たちの出現に気付いた人間がまばらに応戦する。先頭を走っていた亮司は退く場面ではないことを直感で理解する。頭を低くしてさらに足を速める。


 敵の光弾が頭をかする。腰に当たる。亮司は自分のライフから目を背けた。いま他にできることはない。そんなものを心配する時ではない。


 グレネードを食らっておたおた逃げ出す2人の背中に向けて銃を乱射する。背後から、同じ目標へ向けて撃ち込まれる光弾。仲間が付いて来ていることに安心感を覚える。


 敵と入れ替わるようにトタンの小屋に張り付く。遅れて到着するニコルとクラッチ。角から顔を出して執拗に逃げる相手を狙う。減っていく残弾のカウント。じわじわと削れていた敵のライフが、亮司の放った無数の弾丸の1発を背中に食らって赤く点灯する。


 ライフの無くなった男が痙攣する。足がぐにゃりと曲がって走っていた勢いのままアスファルトの上を滑る。


 隣を走っていた仲間の姿が消えて、今にも悲鳴を上げそうな表情で振り返った男の横っ面に、亮司の放ったものではない弾が命中。横転して血の筋を残すほどアスファルトの上を派手に転がり、動かなくなる。


「さて、あっちはどんな感じかな?」


 ニコルが工場の様子を窺う。黒人の男は事前の連絡もなしに通信が遮断された今の状況に的確に対応していた。こちらの突撃に合わせて完璧なタイミングで顔を出したのちに銃撃している。


 クラッチが言った。「様子見していた他の連中も動き出しそうだ」


 日差しを手で防いでクラッチの目線を追うと、少し離れた場所、丘の下から顔を出した男が見えた。新たなチーム番号──駐車用の縁石の裏に伏せ、弾除けを兼ねた銃座としてそこに自分の武器を乗せる。


「もたもたしてると泥沼になりそうだぞ」

 ニコルがあっさり言った。「工場の中に入って、貰うもの貰って、即脱出。まだこっちにはあんまり注意が向いてないから今ならいけるよ。あ、なんで分かるか聞こうと思った? 何となく分かるんだよね。私の世界はそうなってるの」


 理解を放棄して亮司が掌を相手に向けた。確かに、まだ敵の足並みは完全には揃い切ってないように感じられる。


「リョージくんめちゃ足が速いから最初に突っ込んで。そのあとはクラッチ、私の順。ここで今日の分の弾を使い切るつもりでいいよ。はい、GO!」


 ニコルが手を叩いて急かす。確かにいまは1秒でも惜しい──亮司はナビゲーターに言われたグレネードの投擲方法を思い返し、画面右下に表示された円筒形の画像に手を伸ばした。それを、車体に汚れの目立つピックアップの陰に隠れた連中に向けて思い切り投げつける。


 亮司が投げた方は狙いを外して2台分は左を通過していったが、隣でクラッチが投げたものは一直線に車まで飛んで激しい爆発を起こす。


 思わず横目で見る。にやりと笑っているクラッチ──ゴーグルの下で片目をつむっているのが容易に想像できる。「大学でベースボールをやってたのさ」


 工場に向けて走る。途中で、自分が殺した赤毛の無精ひげの男に目が吸い寄せられた。


『後にしてください』視界を共有しているナビゲーターが言った。

「分かってる」

『分かってる人間は、そういうことを言わないしやらないんですよ』


 シャッターの裏から顔を出した黒人と視線が繋がる。亮司は走りながら武器を抱えて銃口を明後日の方向へ向け、敵意が無いことを伝える。


 祈りは通じた。黒人は亮司を狙おうとする敵に向けて頭を押さえるように弾をばら撒く。


 30m弱の距離を走り切ってゴール。亮司はすぐに黒人とは反対側のシャッター扉の陰に隠れ、クラッチに向けて手招きをする。


「おいおい、まさか子供まで参加してるとはな」示し合わせたように残る2人がやってくるための援護を手伝いながら黒人が言った。

「来年成人だよ」

「おっ、そりゃ立派な大人だな。悪い悪い。で、こっから先はどーすんの?」

「持てるだけ持ったらすぐ逃げる。見えてる以外にもまだそこそこ居そうだ」

「それじゃあそこまでご一緒させてもらうとすっかな」

「水と食い物は?」


 黒人の男が背後のチェストに親指を向けた。初日、起きてすぐ部屋にあったものと外見は同じだったが、大きさは3倍以上はありそうだった。


 話しているうちにクラッチが汗をかきながら、セーラー服のスカートをはためかせてニコルが工場内へ。


「やあこんにちは! もう話はついた?」ニコルが息を弾ませて言った。

 亮司は頷いた。「ああ」


 各人が交代で動く邪魔にならない程度に持てるだけ持つ。食料はシリアルだけではなく、レトルトのシチューやパックに入ったライスまであった。こんな状況だというのに思わず腹が減る。亮司はジャージの前を閉じて上着の裾をズボンの中に入れ、襟元から詰めるだけ腹の部分に詰め込んだ。


「よし、逃げるぞ」

「あー、ちょっと待って……あった。やっぱり」


 タンクの並んだ工場内をうろついていたニコルが、うつ伏せに倒れた黒髪の男を見下ろして言った。探していたのは──死体。黒人男が言った。


「そいつが一番乗りだったね。で、俺が後ろから襲ったわけ」


 ニコルは男に近寄ってひっくり返し、ゴーグルを外す。琥珀色の瞳──喜色を浮かべる。


 亮司は頭を抱えた。「お前、こんなときに──」

「大丈夫だって、まだ外の人たちどうしようかすごく悩んでるし。こっちに敵意が向いてないのが丸わかり。1分。1分で終わらせるから」


 食器ナイフを眼孔に差し込んで目を浮かせて乱雑にハサミを入れる。亮司はタンクを殴って見張りに戻った。


「おいおい……見た目だけじゃなくて行動までクレイジーだな。なあ、あれってなんかの儀式なのか? ブゥードゥー? サタニズム?」黒人男が呆れたように言った。

「俺が知るかよ、くそ」亮司が頭を振る。

「さすがにこういうのは予想してなかった。なあリョージ、もしかすると、俺はちょっとばかり早まったのか?」なんとか嫌悪を押し隠そうとしているが、隠しきれていないクラッチ。

「チームを抜けるならここを乗り切ってからにしてくれ」


 確かにニコルの言う通り、いますぐ敵が殺到するようなことはなかった。亮司は半分あきらめて工場の中を見回す。お決まりのようにここにも無数のカメラが。タンク、配管、メーター、それらを操作するための機械──何らかの化学工場。


 ラベルに書かれてあった見覚えのある化学式に亮司が思わず呟いた。「PVC関連か?」


 スタート地点はホテルのなりそこないといった雰囲気で、ここはリゾート地の成れの果てなのかとも思ったが、それにしてはこの工場が近場にあるのは印象がちぐはぐな気がする。この島がゲームの舞台になるまでに何らかの変遷があったことが窺える。


「リョージくん物知りー」ブルーの瞳が入っていたケースに新たにタイガーアイを入れてご満悦のニコルが収穫を見せびらかせるようにして戻ってきた。「大学では化学専攻なの?」

「いや、俺はスポーツ科学を──おい、俺は大学に通ってるなんて言った覚えはないぞ、まさか……」

 ニコルはグレネードをお手玉しながら頷いた。「うん。買ったの。だって折角だし、好きな人のことは知りたいじゃない? よし、それじゃー脱出しよっか」


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