閑話
私は末っ子だったこともあり、あまり家族に相手にされなかった。けれど母が好むように着飾ると途端に注目された。だから可愛いくなるのが好きだったし、可愛いことに価値があるのだと思った。
私の家は侯爵家でとても裕福だったし、兄たちはとても優秀で王家からの覚えもよかった。けれど私はそのなかにあっても凡庸で、誰に言われたかは覚えていないが、顔だけが取り柄だった。
努力をしなかった訳では無い。幼い頃から誰かに認められたくて精一杯色々なことに挑戦した。けれどどれも遠く兄達には及ばず、ただお兄様はもっと優秀だったと陰口を叩かれるだけだった。
お兄様と比べられれば比べられるだけ、私は可愛くなること綺麗になることに夢中になっていった。努力すればその分可愛くなれたし、母はとても喜んだ。
可愛さが私の中心になったある日、私は彼女に出会った。
一目見た瞬間、心が奪われた。こんなに可愛いものがあるのかと神に感謝し、自分は遠く及ばないと自分自身を呪った。
生まれたての子鹿のように最初は震えていたが、それでも彼女の可憐さが損なうことは無かった。
目が離せず、しばらく巣立った小鳥を親鳥がみつめるように見ていたが、転んだのでつい手を差し伸べてしまった。すると、ありがとうと小鳥の囀りのような可愛らしい声でお礼を述べてくれた。
つい、調子に乗って色々話してしまったが、彼女は優しく微笑み、緊張が解け柔らかくなった表情は可憐さを増していく。それが嬉しくてもっと話したい、もっと彼女を見ていたいという思いが込み上げてくる。
彼女と仲良くなりたい。
けれど私は彼女に名乗ることはしなかった。名乗ることは出来なかった。彼女に名乗る資格なんて私にはなかった。
だから彼女を花に例えたように自分のことも花に例え、花の名で呼び合うことにした。せめて架空の友としてそばに居られるように。
そして私はお茶会の後、すぐに従者に彼女について調べさせ、手紙を送った。
フリージアの花を添えて。