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92頁目.ノエルと策と頭文字と……

 ノエルたちはクロネとエストが展開した光の地図を見上げつつ、驚いた顔をしている。

 白い光はやがて様々な色に点滅し始め、その立体的な地図は時を刻むように少しずつ動き始めるのであった。

 すると、誰が尋ねるよりも早く、エストが解説を始めた。



「この『多重結界・時運命(ときさだめ)の鏡』は、今回使い物にならなかったアチキたちの未来予知を、全く違う形で見せることに成功した素晴らしい魔法っス」


「全く違う方法での未来予知……。確かにこの地図、色んな光の粒が時間と共に動いているけど……。あ、もしかしてこれ、未来のヴァスカルの地図ですか?」


「サフィアの言う通りじゃ。まあ、厳密に言うと決定した未来ではなく、今のヴァスカルの民たちの基本的な行動を元にした()()()()()()、じゃがな」


「なるほどな。だが、まだそれだけだと時魔法の未来視とほぼ同じじゃないかい? そいつを可視化しただけってんなら、エストの運命魔法の力は必要ないはずだろう?」


「無論、この魔法はこれだけではない。では、2つ目を見せようかの」



 クロネの合図と共に、エストは呪文を唱えて光の地図に触れた。

 その瞬間、光の粒が弾け飛び、しばらくしてそれは文字となって再構築されるのであった。



「こいつは一体……」


「運命の収束率を図に表してみたっス。これまでの時魔法では分からなかったどの運命になりやすいのかっていう統計を、アチキの運命魔法で補強することによってより正確に運命を予測できるようになったんスよ」


「じゃからといって、確定した未来を知れる運命魔法の下位互換ではないからの。今のワシの未来視は連中の魔法によって、どれが一番ありうるかという選択肢を無数に提示されている状態なんじゃ。いつもなら少ない内から想定して行動できていたが、今度はそうはいかん」


「なるほど、それで選択肢を絞れる魔法で未来を予知する魔法ってわけか。じゃあ、占いではモヤがかかって見えなかったって災司(ファリス)の情報も、これでバッチリ判別──」


「は、できないっス。あくまでヴァスカルに住む国民たちがしてきた基本行動を元に地図にしてるだけなんで、あとから来るであろう災司(ファリス)たちの行動までは正確に反映できないんスよ」


「うん……? じゃあこの魔法、一体何のために作ったんだ?」



 すると、待ってましたと言わんばかりにすぐさまクロネが答えた。



「ふっふっふ……。災司(ファリス)の行動をわざわざこいつで直接予測する必要はないんじゃよ……」


「どういうことですの、姉様?」


「簡単な話っスよ。時運命(ときさだめ)の鏡が基本的なヴァスカルの人の動きを示すものなのであれば、その逆を利用すればいいんス」



 皆が頭を捻っていると、サフィアが自信なさげにこう呟いた。



「その逆……。つまり、基本的な動き()()()()()()を見つければいい……?」


「じゃないもの……。あぁ、そうか! この地図に写っているものと違う点を現実で見つけることができれば、それが災司(ファリス)に繋がる可能性があるってことになる!」


「そういうことっス! それに加えて、ノエルたちの集めてきた情報があるんで、連中が潜伏しているおおよその場所をこうやって入力すれば……」



 エストが再び呪文を唱えて地図に触れると、一部の光の粒が赤く光り始める。

 それは、ノエルたちが報告した災司(ファリス)の目撃情報の点と同じ場所に輝いていた。



「あっ、人の流れが少し変わったわね。これまでより目撃地点付近の人通りが少なくなってるし……。これが現状のヴァスカルに一番近い状態ということになるのかしら? 確かに、聞き込みの時に私たちが見たのと同じくらいの人通りだわ」


「恐らく、ほぼそれに近いものじゃろうな。じゃが、もっと精密なものにするために情報がもっと欲しい。じゃから、もっと聞き込みをしてもっと情報を集めてもっと正確な予測を立てたいところじゃが……」


「つまり、アタシたちが頑張らなくちゃいけないってわけだ。これがあれば、聞き込みをするだけで敵の位置を割り出せるかもしれない!」


「ようやく、わたくしたちの腕の見せ所ってわけですわね!」



 意気込むノエルたち災司(ファリス)探索部隊だったが、マリンはハッとしてノエルに尋ねる。



「ところで……これがなかったらどうするつもりだったんですの? 以前、『策がある』とか言っていたような気がしますが……。まさか、アカデミーの生徒たちに協力してもらうことが策だった、なんてことはありませんわよね……?」


「そんなわけがあるか。あれも作戦のひとつだ。ちゃんと策……というか手は打ってある。だが、いざという時のために取っておきたくてね」


「それならいいのですが……。でも、別にわたくしたちには話しても問題ありませんわよね?」


「あのなぁ、こういうのはとっておきだからこそ輝くってもんなんだぞ? とにかく、アタシたちは聞き込み続行だ。クロネさん、それでいいな?」


「うむ、問題ない。じゃが、この時運命(ときさだめ)の鏡で示された1日の人の流れはしっかり覚えておくんじゃぞ。時運命(ときさだめ)の鏡と現実を比較した時の明確な違いが分からねば、聞き込みをしても意味がないからの」


「もちろんだ。アタシたちの役割は情報収集と、時運命(ときさだめ)の鏡との間違い探し。そして、連中の尻尾を掴んで潰すことだ!」



 そう言って、ノエルは握った拳をじっと見つめるのであった。

 すると、クロネが言った。



「そうじゃった。明日またアカデミーに行くんじゃろ? その時はワシも行くからの」


「何か用事でもあるのか?」


「学園長なんじゃから、用事がないわけはなかろうて。なに、ワシもワシでちょっとばかし準備を進めねばならんからの」


「へー……。ま、当日突然付いてきても驚くなってことだよな? 分かったよ」



 そんなことをノエルが言うと、見計ったかのようにルフールは円卓の席を立つ。

 そして、部屋の外へと足を向けて言った。



「よーし、話はついたよな? ワタシはお先に失礼するよ。さっさと魔法を完成させて、時運命(ときさだめ)の鏡を研究したいからさ」


「そういえば、アチキたちの魔法研究を横目に作業してたっスもんねぇ。終わったらいくらでも見せてあげるっスよ。クロネさんの力が必要なんで、いつでもとは行かないと思うっスけど」


「んー、それだと不便だからなぁ。魔導書にでも書いておいてくれれば勝手に使っておくぞ?」


「2人でどうやって魔導書にまとめろって言うんスか。まだ発動ができるだけで、魔導書に書き留められるほどは研究できてないんスから。まあ、一応時間の許す限りは試してみるっス」


「研究が終わった時の楽しみにしておくさ。じゃ、お先〜」



 そう言って、ルフールは部屋から出て行った。

 それから、ひとりひとりと円卓を離れ、それぞれの部屋に戻るのであった。



***



 その次の日の明朝。

 城の中に大きな声が響き渡った。



「できた〜!! 完っ璧だぞ!」



 ルフールは、紙に書いた魔法陣を眺めながらそう叫んでいたのだった。

 今の声で目を覚ましたのか、先ほどまでぐっすりと眠っていたクロネとエストが重いまぶたを持ち上げて、ルフールの隣でキョロキョロしている。

 すると、本を読んでいたルカがルフールの元に歩いて来て魔法陣を覗き込む。



「おぉ……。なるほど、こういう仕組みで展開すれば良かったのですね! 流石はノエルさんの師匠、と言ったところでしょうか」


「やめてくれ、今は同じ大魔女だろう? 結界の研究ならワタシが一番の権威なんだから、師匠とかそういうのは関係ないさ」


「自分で言ってちゃ意味ないっスよぉ……。ふあぁ……。あ、魔法できたんスか?」


「あぁ、見事に完成したよ。えーと……名前どうしよっか」


「ワシらに聞かれてものぉ……。お前が作ったんじゃし、カッコいい名前でも付けてあげたらどうじゃ? 見た限り、階級は特級の空間魔法じゃろうて」


「うーん……防御壁(プロテクション)……違うな……。無敵の鎧アンライバル・アーマー……これもしっくり来ない……」



 ルフールはひたすら頭を傾げ、うんうんと唸る。

 そして、しばらくして彼女は3人を見回す。



「クロネ……ルカ……エスト……ルフール……。頭文字を取るとク・ル・エ・ル……か」


「クルーエル……残酷とか無慈悲という意味の言葉ですね。魔法文字の中でも特に攻撃系の魔法でよく使われるものだとか」


「クロネ、その言葉は呪文に組み込むとどういう効果があるんだ? 攻撃系は最近使ってないもんでね」


「そのままルカに聞けば良かろうに……。まぁ、答えてやろう。クルーエルは魔法を一時的に暴走させ、その威力を爆発させる効果を持つ言葉じゃな。同時に魔力を全て使い切ることにはなるが、弱い魔導士でも必殺の一撃となりうる呪文じゃ」


「なるほどなるほど……。よし、決めた!」


「……おい、待て。4人の名前の頭文字から付けた魔法の名前なぞ、ワシは嫌じゃからな!?」



 クロネの静止も聞かず、ルフールは羽根ペンで魔法陣に文字を書き記す。

 そして、ルフールはペン立てに羽根ペンを戻して立ち上がり、魔法陣を見せつけながらこう言った。



「聞くがいいさ! この魔法の名前は『防護結界・狂える聖盾クルーエル・ブレイカー』!! 4人の大魔女が作った、最高傑作の空間魔法だ!」



 ルカとエストは拍手をしながらルフールを見上げ、クロネは頭を抱えている。



「おいおい、まさか恥ずかしいのか?」


「そうではないわ! ただ、こんな勢いで付けた魔法の名前が後世に残るとなると……」


「あー……確かにそれはちょっと嫌かもしれないっスねぇ……。ま、誰もこの名前の由来なんて調べたりしないっスよ、きっと!」


「そもそも、ボクたち以外誰も由来を知らないんですから、誰も知るはずもありません!」


「えー……。ワタシはこの名前好きなんだがなぁ……」


「付けた本人なんじゃから当たり前じゃろうが!」



 こうして、ルフールは結界の魔法を完成させ、時運命(ときさだめ)の鏡を舐めまわすように研究した。

 そして昼を過ぎて、4人はクロネの用事のついでにノエルたちと合流することにしたのであった。

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