91頁目.ノエルと絆とハッタリと……
「……で、どうして私たちはこんなところにいるのかしら?」
4人は、ノエルが先導となって魔導士学園の校舎前に来ていた。
ロヴィアが周りを見渡すと子供たちが走り回っており、それは災司の予告があったとは思えないほど平和な光景だった。
「どうしてって、聞き込みのためさ」
「ここにいる子たち全員に聞いて回るっての!? 確かに、ヴァスカル中の人に聞いて回るよりかは幾分かマシだろうけど……」
「いいや、生徒たちはあくまで協力者だ。もちろん多少の聞き込みはするけどね」
「協力者……?」
すると、校舎の中から元気な声が響いてきた。
「ノエル先生〜〜!!」
「おっ、来た来た」
「あら、この声は……」
「ジュン君!」
校舎の中から出てきたのは、ジュンを筆頭としたアカデミーの生徒たちだった。
その数、目算でも100人を超えており、ノエルたちの周りを取り囲むのであった。
「久しぶりだな、ジュン」
「ライジュ先生から呼び出されて何事かと思ったら、ノエル先生だったなんて! あ、ちゃんと言われた通り、クラスメイトとその知り合いの生徒、ほぼ全員連れてきたぞ。何するんだ?」
「よし、十分に揃っているみたいだね。早速だが、頼みがあるんだ」
「先生の頼みなら何でも聞くよ! あ、違うか……」
ジュンは首を振って言い直した。
「大魔女・ノエル先生の頼みなら、何でも聞きます!」
「そうか……! もうアタシたちのこと、みんな知ってるんだな……」
「新聞で大陸中の人が知ってると思う……ます! だって、大魔女って大陸屈指の実力を誇る魔女なんだろ? そんなの注目しないわけねえ……です!」
「じゃあ、話は早い。お前たちに大魔女・ノエルから仕事を与えよう。今日から3日以内に、自分の周りの人に不審な人を見かけなかったか聞いて欲しいんだ。それ以前に見かけたっていう目撃情報でも構わない。頼まれてくれるかい?」
「分かりました! よーし、みんな不審者の目撃情報を集めるぞ〜!」
掛け声と共に、ジュンたちは解散するのだった。
「これでいいか?」
「あぁ、十分だ。ありがとう、ジュン」
「まさかこんな形で先生と再会できるなんて思ってなかったよ。あ、そうだ。大魔女の任命おめでとう! いや、4人とも大魔女なんだっけ」
「私とは初めましてね。私はロヴィア。獣人と魔女のハーフで、2つの人格を持つ大魔女よ。あと、ノーリスにある魔導工房の工房長もしてるわ」
「二重人格で獣人と魔女のハーフで工房長で……秘術ってのも使えるんだっけか。めちゃくちゃ強そう! オレ、この人に弟子入りしようかなぁ……」
ロヴィアは手を払いながらこう言った。
「残念だけど、工房の仕事で忙しいから弟子なんてお断りよ。まあ、工房の人手ならいつでも大募集中だけど」
「げ、働き詰めなんて魔導士から遠ざかるばっかりじゃん……。やめとこっと……」
「ま、お祝いの言葉も貰ったし、アタシたちも聞き込みに行こうとするかねぇ。あ、そうだ、ジュン。何かあったらクロネさんに伝えてくれ。アタシたちは基本的に3日後にしかここに来ないから」
「分かった。何で不審者を探してるか知らないけど、終わったら何があったか教えてくれよ!」
「きっと、また新聞にでも載るさ。アタシたちが、悪い連中をとっ捕まえた、ってね!」
「楽しみにしてるよ! じゃ、オレも行ってくる!」
そう言って、ジュンは校舎の中へと駆けていった。
それを見守った4人は、ヴァスカル王都の街中に聞き込みへと向かったのであった。
***
一方、ルフールを筆頭とする魔法研究部隊は、クロネの部屋でくつろぎながら話をしていた。
「はぁ……。どうすればヴァスカル中の人間を殺せるかのう……」
「お前が言うと、もはや殺す側のセリフだな。言葉に年の功が乗ってて、このワタシでも少しゾッとしたぞ……」
「そういえばその見た目で80超えてるんだったっスねぇ。いやはや、時魔法って凄い魔法っス」
「師匠は昔から言葉に重みがあるので、週一の朝礼で学園長の言葉を聞いて泣く生徒がいたくらいです。かく言うボクもその1人だったわけですが……」
「ほれ、お前たちも何か提案せんか。ヴァスカルの民をどうすれば全て葬れるのか、ワシの頭では非常に大掛かりな術式しか思い浮かばんのじゃ」
「うーん、並大抵の魔導士が100人いても2000人を超える人間を殺せるとは思えないっスけど……。やっぱりハッタリじゃないんスか?」
ルフールは立ち上がって、エストを睨んだ。
「ハッタリじゃなかった場合、お前は責任を取れるのか? 無理なんだったら、人の命を軽視しないことだ」
「もちろん命を軽視するつもりはないし、話し合いをやめるとかそういうつもりで言ったわけでもないっスよ。ただ、連中ならハッタリを言って、別の目的のために動いていてもおかしくないなと思っただけっス」
「それは……確かに。ボクたちに余計なことを考えさせて、もっと大掛かりな術式を準備している可能性も考慮すべきでしょうか」
「その辺りはノエルたちに任せて良いじゃろう。ワシたちはとにかく魔法の研究に勤しむのが与えられた役割じゃからな」
「とりあえずワタシが話のとっかかりを作ろうか」
「おお、助かるっス」
ルフールは顎に左手を当て、少し考えて言った。
「そうだな……。少ない人数で人の命を屠れるとすれば、闇魔法か特殊魔法のどれかだと考えるのが無難か」
「闇魔法でその規模だと、自分も仲間も巻き込まれる覚悟って感じっスね……。もしそれが特殊魔法ならもっと予想がつかない魔法で……って、あれ? そういや偶然にも特殊魔法使いが3人揃ってるっスね?」
「ノエルさんたちのことです。偶然ではないでしょう」
「ルカの言う通りじゃろうな。特殊魔法は未知の領域の魔法じゃ。その未知の領域を扱う魔女が3人もおれば、もっと未知の領域から連中を炙り出せるやも知れんのう」
「ただ……時魔法の未来視も、運命魔法の占いも封じられている、か。うーん、空間魔法にはそういった外側からアプローチする方法がないからなぁ……。内側から守るとかならできるんだけども……」
それを聞いた瞬間、ルカはハッとして言った。
「もしかして、ですけれど……。それができるのであれば、外的な魔法から人々を守れるのではありませんか? わざわざ攻撃の方を暴かなくても、守りに徹すれば……」
「なるほど……。それは妙案かもしれんぞ。連中も人質を取れなくなれば、きっと諦めるはずじゃからな」
「待て待て! ワタシの魔力がどれだけあっても、ヴァスカル中の国民2000人超に魔法なんてかけられないぞ!?」
「おっ、じゃあ逆に言えば、十分に魔力があればできるってことっスよね?」
「そ、それはそうだが……。そうだ、あとは魔法を作るための時間も足りないぞ?」
「逆に言えば、十分に時間があればできるってことじゃな?」
「……おいおい、お前たち。一体何を考えている……?」
クロネとエストは悪い顔をしながら笑っている。
そして2人は言った。
「魔力なら、あんたが書いた魔導書をアチキが複製しまくれば万事解決っス!」
「時間なら、お前の時間だけ倍速にしたり、魔力の回復の速度を上げたりすれば、どんなに時間が足りなくても問題なしじゃ!」
「ボ、ボクは完成した魔法の強化や、魔法を風に乗せて国中に配ることができます!」
ルフールは仰天して目をカッと開いている。
「おお、おぉ……! お前たち、容赦なくワタシをこき使う気満々じゃないか!? 大魔女の絆ってものを少しは考慮して……」
「考慮した結果、ルフールさんを強化するのがアチキたちの仕事っス。魔力の消費量とか時間を担保してあげてるんスから、感謝して欲しいっス」
「ボクはちゃんと、ルフールさんが壊れないように昼夜見張っておきますので……」
「時間を作るなぞ、ワシの考案した魔法の中でも原初魔法に匹敵するくらいのものなんじゃからな? それを見れるってだけでも、お前としては大魔女の絆様様ってやつじゃろ?」
「本当にお前らなぁ……! あとで覚えておけよ……!!」
こうして、ルフールたち(?)も魔法作りに着手するのであった。
***
こうして2日が経過し、災司の侵攻まであと2日となった。
そんな中、ノエルたちはそれぞれの進捗の報告のために円卓に集まっていた。
「じゃあ、集まったし始めるか。早速だが、アタシたちから報告させてもらおう」
「はい。あたしたちはアカデミーの生徒たち総勢100人余りと一緒に、ヴァスカル中に聞き込みをしました。その結果、ある不審な人物の目撃情報が多数集まりました。これがそいつの特徴をまとめた資料です」
「ええと……黒いローブを頭まで被った、小柄の女……。身体中に包帯を巻いており、顔は見えない。それが不審な点として上がったんじゃな」
「あたしたちも目撃情報のあった近辺……ヴァスカルの駅付近に行ってみましたけど、見つかったのは土魔法の痕跡のみ。あとはどこに隠れたのかも分かりませんでした」
「女の災司……土魔法……って、もしかして……。ノエルたちが雪山で出会ったっていう、アチキのニセモノじゃないっスか!?」
「まあ、確定情報としては不十分だが、似たような見た目をしていたのは確かだ。ただ、こいつ1人でヴァスカル中の人間を人質に取れるとは思えない」
ノエルたちは納得したように口を噤む。
すると、ルカが手を挙げてこう言った。
「確か、その災司は土魔法で人間を模倣する、と言っていましたよね? それは親しい仲でもない限り見破れないほどの精密さである、とも」
「そうだな。あれは姿形だけじゃなくて、記憶も模倣できる魔法だった。何を媒介にしてそんなことをできるのかは分からないが……。ロヴィアはどう思う?」
「うーん、ゴーレム専門だから詳しくは分からないけど、人間の記憶までも模倣する魔法となると……。まあ、媒介にするとしたらやっぱり、髪の毛とか人間の体の一部を取り込めるものかしらね」
「髪の毛程度でいいのであれば、かなり危険だな。あいつ1人の犯行なのだとすれば、誰かとすり替わって行動している可能性も大いにあり得るってわけだ」
「それは怖いっスねぇ……。まあ、アチキたちはクロネさんがいるから大丈夫だとは思うっスけど……」
「とにかく、問題は足取りが掴めない以上は何も起こせないってことだ。もしあいつ1人があくまで尖兵で、当日になって急に仲間がやってくるって可能性だって大いにあり得る。まあ、この辺りは追って調査するよ」
ノエルはそう話を締めて、ルフールに発言を譲った。
「こっちはワタシの空間魔法でヴァスカル中の人を守るための魔導書を、絶賛制作中だ。今日中には終わると思うが、そろそろ体力の限界だ……」
「じゃったら時間の流れをもっと早くして、体力と魔力をもっと早く回復させてやるぞ。ワシの魔力はこんなもんじゃないからのう!」
「うん……アタシが考えていた以上に酷な役回りをさせてしまっているみたいだねぇ……。クロネさん、エスト、ルカ、ちゃんとルフールを休ませてやれよ?」
「大丈夫です。ボクがちゃんと体調管理をしていますから。あぁ、そういえば追加で報告することが……エストさんからあるんでしたっけ」
エストは椅子の背もたれから背中を離し、円卓に手を当てて言った。
「そうっス。防御の魔法を作ってもらっている間は暇だったんで、色々とクロネさんと話してたんスよ。特殊魔法がどうとか、ファーリがどうとか」
「なるほど。何か良い知見は得られたかい?」
「そりゃもう。精霊と特殊魔法が関係しているって話はクロネさんも納得してくれて、運命魔法の活用法とか色々と考えてくれたんスよ。本当に大助かりっス! ちなみにルフールさんも話には参加してたんで、実質特殊魔法会議だったっス」
「へえ、それは良かった。それで報告ってことは、何か今回の件に役立つような新しい魔法でもできたのかい?」
「今から見せてあげるっスよ……。アチキとクロネさん。時魔法と運命魔法、2つの力を合わせた複合魔法……。その名も!」
エストとクロネが呪文を唱えたかと思うと、2人は手を広げる。
すると突然、円卓の上に白い光で描かれたヴァスカルの地図が現れたのだった。
「「特級魔法、『多重結界・時運命の鏡』!!」」




