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86頁目.ノエルと違いと呼び出しと……

***

前回の話の後にプロローグを読んでいない方は、先にそちらを読むことをオススメします。

***

 『原初の魔女・ファーリの物語』について話し始めて数十分後。

 ノエルは自分の知っている『原初の魔女・ファーリの物語』を語り終えて顔を上げた。

 すると、マリンとエストが頭を傾げているのが目に入る。



「やっぱり……お前たちが知っているものとは違ったか?」


「えぇ……。わたくしの知っているものですと、ファーリは最後に自害した……と」


「アチキは自分の呪いで死んだって聞いてたっス。他にも色々違いはあったっスけど、アチキ的にはノエルの話の方が好みっスねぇ」


「ま、アタシの方の物語の結末は事実だからね。彼女は確実に討伐されて死んだ。それはこの目で見たアタシが保証するよ」


「この目で見たって……ノエル様、原初の大厄災を見たことあるんですか?」



 ノエルは天井の灯りを見上げて思い出す素振りを見せる。



「あぁ、まだ小さい頃の話だがね。クロネさんがその時の討伐隊にいて、幼かったアタシはヴァスカルの家で父親と帰りを待っていたんだ」


「年齢を鑑みると、クロネさんやわたくしたちのおばあさまはファーリの玄孫(やしゃご)……つまりは孫の孫くらいの世代ですものねぇ。それほど魔力がある世代の魔女であれば、討伐隊にいてもおかしくない話ですわ」


「ヴァスカルにいたってことは、ただ遠くから大厄災を見ていたってだけっスよね? でも、ファーリが死んだのはメモラだったはずっス。どうしてヴァスカルにいたはずのノエルがメモラに……?」


「確かに大厄災となったファーリはメモラを中心に暴れ始めたが、本当は各地を飛び回ったあと、メモラで討伐されたのさ」


「……何と言いますか、嫌な予感がしてきましたわね? 今、その説明は不要だったはずなのに、わざわざ言ったということはまさか……」


「大厄災が近づいてきていると聞いたアタシは、興味半分でファーリの近くに行ってみたんだ。そしたら……迎撃用の風魔法に巻き込まれて、ファーリを追いかける討伐隊の馬車の上に乗ってしまったのさ……」



 驚くサフィアとエストの隣で、マリンが頭を抑える。



「あなた……本当にとんでもない人生を送っていますわね……」


「アタシだってあれはまだ夢だと思っているよ……。ちなみにそれからすぐ、それに偶然乗っていたクロネさんに無事助けてもらったんだ。そして、そのまま各地を巡ったアタシたちはメモラに辿り着き、目の前で彼女が討伐されるのを見ていたってわけさ」


「本当によく無事だったっスねぇ……。その頃アチキもメモラにいたっスから、大厄災になったファーリを見たことあるっスけど、当時は何が起きたか全く分からなかった覚えがあるっス」


「ところで、ファーリってどんな姿だったんです? 肉眼で見たノエル様ならより詳細に分かるでしょうし、興味があります」


「彼女は……言うなれば、魔物同然の姿だった。あのイエティ3体分くらいの大きさの、羽根の生えた黒い化け物が呪いを撒き散らしながら空中を浮いていたよ」


「うわぁ……。しかもそれが呪いを振りまいていたなんて、やっぱり原初の大厄災は歴史に残るくらい恐ろしい出来事だったんですね……」



 これまでの呪い騒ぎを思い出し、4人は大厄災の脅威を改めて実感するのだった。

 すると、ノエルはこんなことを言った。



「そういえば、それがきっかけで旅に出ることにしたんだっけ」


「え? どういうことですか?」


「ヴァスカルで育ったアタシは、外の国にあまり行ったことがなかったんだ。だけど、ファーリ討伐の旅で見た世界は広かった。凄かった。それで、修行するなら外の国に行きたいって思ったのさ」


「なるほど、興味本位で大厄災を見に行っただけのことはありますわね。それで恐怖よりも好奇心が勝つあたり、あなたらしいですわ」


「そうっスねぇ……。ただ、それがきっかけでアチキたちが出会えたと考えると、ファーリにもある意味で感謝すべきかもしれないっスね」


「そう思うと感慨深いところもありますね……。って、そうだ。物語の違う点について話し合うんじゃなかったですっけ」



 あぁ、そういえば。と、3人は話を軌道修正したのだった。



「ノエルが知っていた物語は『ファーリと精霊さん』『ファーリと旅人』『ファーリと子供たち』『ファーリの最期』の全4章構成でしたわね。それはどの地域のものもほぼ同じですわ」


「ただ、さっきみたいな結末とか、ファーリが精霊が見えなくなったのが病気のせいだとかそうじゃないとか、そういうところに違いがあったっスね」


「エストの知っている物語だと、精霊が見えなくなった理由は何だったんだ?」


「若魔女としての力がなくなって、精霊を目視できるくらいの魔力がなくなったから……って聞いてるっス。こっちの方が魔導士の本質を突いているとは思うんスけど」


「まあ、病気になったのも若魔女としての魔力がなくなったからだろうし、それもあり得るだろうね。物語を伝えた人によって病気の有無の認知に多少の違いがあるのは当然か」


「大きな違いはあまりなさそうですわね。大厄災の脅威を伝える目的の本であれば、見た目や呪いの影響についてより深く言及している程度ですし。まあ、被害は死者があまり出なかったこともあって、自然に及ぼされたものばかりでしたが……」



 そう言って、マリンは外を見る。

 すると、次第に金属がぶつかる音が聞こえてきた。



「この金属音を聞くのも久しぶりだねぇ」


「じゃあ、そろそろ降りる準備をしましょうか。着いたらすぐ乗り換えの列車も到着するそうなので、早めに行動するに越したことはないですから!」


「おー、やっぱりサフィアちゃんはしっかり者っスねぇ。何度も言ってるっスけど、本当にノエルの弟子なのか疑いたくなるくらいにはできた子っス」


「あぁ、自慢の弟子さ。育てたのはアタシじゃないから、褒めるなら本人かこの子たちの親に言ってあげな」


「あたしはお母さまやお父さま、おばあさまにお姉ちゃん、それとノエル様の生き方を見て成長しましたから。ノエル様も胸を張っていいんですよ!」


「サフィー……」



 ノエルはそう言ってサフィアの頭を撫で回す。

 サフィアは嬉しそうに笑っていた。

 そして間もなく、列車はノーリスに着いた。

 4人はてきぱきと乗り換えをし、列車はヴァスカルへと向かうのだった。



***



 それから数時間後、ノエルたちはヴァスカルの駅に到着した。



「……魔導士の国っていう割には、普通っスねぇ」


「なんだ。来たことなかったのか?」


「いや、来たことはあるっスよ。ただ、毎度思ってることを口にしただけっス」


「まあ、現役の魔導士がいるのはほとんどアカデミー付近だけで、住民のほとんどが魔導士をやめているからね。でも、ヴァスカル城に行けば魔導士の国だって納得できると思うぞ」


「ですわね。クロネさんもそこにいるでしょうし、さっさと行きましょうか」


「はーい!」



 サフィアの元気のいい掛け声と共に、ノエルたちはヴァスカル王都の城へと向かうのであった。



***



 クロネの部屋の前にて。



「おっ、空いてるな。入るぞー」


「お、お邪魔するっスー……」



 扉を開けると、そこにはクロネともう1人、別の人影があった。

 ノエルは驚く。



「……ルフール? どうしてあんたがこんな所に?」


「おお、ノエルじゃないか! クロネの言う通りだったな!」


「ワシの未来視を少しでも疑ってた件、覚えておくからな?」


「すまんすまん! ワタシが悪かった!」



 エストはルフールに指を差して、サフィアに尋ねる。



「この女性、どこの誰っスか?」


「あたしも会うのは初めてですけど、名前からしてノエル様の師匠さんかと……」


「あんな方でしたのね。見るからに面白い方って感じがしますわ……」


「ノエル様が言うには空間魔法の使い手らしいので、エストさん色々と聞けるんじゃないですか?」


「おっ、それは好都合っスね!」


「都合がいい……いや、良すぎる気が……。まあいい。ところで、アタシの質問に答えて欲しいんだが?」



 ルフールはノエルたちに向き直って答えた。



「あぁ、ワタシはクロネに呼ばれたんだよ。ちょうど、お前たちが来る()()のためにね」


「今日のためって……。アタシたちと何か関係でも?」


「先に言っておくが、蘇生魔法には関係ないぞ。それと、ルフールに連絡したのは確かにワシじゃが、そもそも呼び出したのはヴァスカル王じゃからな」


「ヴァスカル王? って、もしかしてアタシたちにも呼び出しがかかってるのか? 聞いてないが……」


「お前たちの到着に合わせてもらったんじゃよ。ワシの未来視のおかげでちゃんと()()()()来てくれたみたいじゃし、良かった良かった……」


「8人……って、やけに馴染み深い数字ですわね?」



 ノエルたち4人はそういえばと首を傾げる。

 そしてサフィアがあることに気づいた。



「これまでノエル様が引き入れた魔女の人数が6人……それにノエル様とクロネさんを加えると8人……?」


「あっ……それだ!」


「その通りじゃ。本当はそれに加えてもう1人呼んだんじゃが、あいにく代理の人間しか来なくての」


「ん? ってことは、ルカとかロヴィアとかも来てるのか?」


「あぁ、今は客室におるはずじゃ」


「なるほど……。それで、わたくしたちが呼ばれた理由とは……?」



 すると、クロネは1枚の書類をノエルたちに見せた。

 ノエルたちはそれを覗き込む。



「えーと……『()()()()()のお知らせ』……? 大魔女って何だ……?」


「ヴァスカル王からワタシたち8人……と来ていないもう1人に与えられる称号らしい。何の意味があるのかはワタシもよく知らないが、それについては直々に王から説明があるんだとさ」


「目的が見えませんが、何か意図があるのは確かですわね……」


「って、あれ? あたしも大魔女って呼ばれていいの? 現在進行形で修行中の未熟な魔女だけど……」


「ちゃんと全員、大魔女の称号を与えられる理由があるから呼ばれとるんじゃ。このワシがただの未熟な魔女を呼ぶはずもなかろうて」


「アタシたちは勝手に来ただけだけどな……。まあいい。アタシたちにも目的があってここに来たんだ。その称号の授与式はいつあるんだい?」



 クロネは書類の下を指差す。

 そこには、明日の日付が書かれていた。



「……いくらなんでも唐突過ぎやしないか?」


「これに参加しないと禁書庫に入れてあげぬからの」


否応(いやおう)なしに参加させられるんですのね……」


「アチキは全然急ぎじゃないっスから、全く問題ないっスよ」


「あっはは! 弱みを掴まれてやんの! ノエルもやっぱりクロネには敵わないんだなぁ!」


「ルフールお前、他人事だと思って……。あとで覚えとけよ?」



 そんなこんなでルフールが笑い転げる中、ノエルたちはクロネに案内されて部屋を出た。

 そして客室に荷物を置き、4人は城の中にいるというルカやロヴィアに会いに行くことにしたのであった。

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