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8頁目.ノエルと旅芸人とトランプ勝負と……

 ここは央の国、機械仕掛けの国・ノーリス。

 そこは大陸一、最先端の科学技術が発達している。

 そしてノーリスへやってくる2つの人影があった。



「なんてやかましい……」


「し、ししょー……み、耳がぁ……」



 1人は黒いローブに白いフードを被った黒髪の魔女、ノエル。

 もう1人は白いワンピースを着た蒼髪の魔女見習い、サフィア。

 2人はノーリスに着くなり、凄まじい機械音の音圧に潰されていた。



「何度来ても慣れないな……。また歯車の量、増えたんじゃないか?」


「こんなうるさい中で捜索なんてできますかねー!?」


「国の中に入れば邪魔な機械音は小さくなる! 早く行くぞ!」


「なるほど、分かりました! ししょー!」



 ノーリスという国は三層構造になっている。


 一番上は歯車街。

 地下空間を稼働させるための装置がいくつも並んでいる。

 国の外から来た人は、このたくさんの歯車の音に気圧されるのである。


 防音天井を挟んで中層は貿易街。

 ここが地上1階で、鉄道で他国及び他大陸と貿易が成されている。

 歯車の音が程よく聞こえ、常に活気で溢れている。


 最下層は地下街。

 住人は基本的にここに住んでおり、上層の騒音に悩まされることも特になく生活している。

 とはいえ電気で全自動……というほどのものではなく、電灯や蒸気機関のおかげで、ノーリスの人々は少し便利な生活を送っている。



 ノエルたちはもちろん、魔女を探しにここまで来たのであった。



***



 地下へと続く昇降機に乗りながらノエルは呟く。



「やはり魔女がいるとするなら地下街だろうね。機械に頼ってる魔女なんてアテにはならないと思うが……」


「それでもししょーの大切な人のためですから!」


「おーおー、サフィーは良い子だねぇ……。これでここの魔女がロクでもないやつだったらアタシが喝を入れてやる!」


「はいっ、その意気です!」



 昇降機は地下街で止まり、ノエルたちは魔女探しを始めるのであった。



「さて、どこから探したものか……」


「ししょー、人が一番集まりそうなところはどうでしょうか? それなら情報も集めやすいと思うのですが!」


「なるほど。流石はアタシの弟子。じゃあ繁華街目指して……ん?」



 ノエルは背後から駆け寄ってくる気配に気がつく。

 そしてサフィアを背中に隠すようにして振り向いた。



「誰だ!」


「おっと、気が付かれたか〜。結構うまく尾けてたと思うんだけど……」



 ノエルたちの目の前には1人の少女が立っていた。

 見たところ20歳くらいだろうか。

 ピンク色のロングヘアで胸元とへそが見える派手な服を着ている。

 左の目元にはハートの模様が付いており、スカートの柄と相まって道化師を思わせる見た目である。



「あんたは何者だい。アタシたちに何の用だ」


「ゴメンゴメン、そんなに警戒しないで! ただの旅芸人ですよ、ほらっ」



 その旅芸人はどこからかトランプを取り出し、その中から一枚を取り出して破いた。

 そしてそれを手に握り、再び手を開くとカードが元どおりになっているのであった。



「わぁぁ〜〜っ!! それ、どうやってるの!? 見たことない魔法ね!?」



 ノエルの後ろからサフィアがぴょこっと顔を出して、目をキラキラさせる。



「なら、この一番上のカードをめくって、柄を覚えておいてね? 私は見てないから」



 サフィアはトランプをめくり、柄を見た後裏返しにして彼女に渡した。



「ええ、ちゃんと覚えたわ!」


「じゃあ、シャッフルして……それじゃこの中から一枚好きに引いて?」


「あれ!? さっきと同じ柄だわ! どうなってるの!?」



 ノエルは驚いてるサフィアを再び後ろへ隠す。



「はい、そこまでだ。別に手品を見せてお金をせびろうってわけでもないんだろう? 何が目的だ」


「まあ確かにお金を取る気はなかったけど、そこまで警戒されてるなんてね〜? あなた、その子の母親?」


「いいや、この子はアタシの弟子だよ」


「そう! この人はあたしの偉大なおししょーさまなのよ! さいきょーの魔女なんだから!」



 サフィアは腕を組んで小さく胸を張る。

 ノエルは少し照れくさそうにしながらも警戒をやめない。



「そうかそうか、それなら良かった。ゴメンなさい、最近この辺で連続的に子供の誘拐事件が起きてるから怪しんじゃって」



 それを聞いたノエルは警戒を解いた。



「ほう……なるほどね。それなら安心しな。アタシたちはただの旅行客だ。こちらもすまないね、警戒しちゃって」


「いいのいいの、こんな見た目で近づかれて警戒しないわけないもの! あ、申し遅れたわね。私、ルージェンヌって言うの。さっきも言った通り旅芸人よ」


「魔女のノエルだ。こっちは同じくサフィア。アタシたちは人を探して旅をしてる」



 するとサフィアはノエルの後ろから出てくるなりルージェンヌに駆け寄る。



「ねぇ! さっきのはどういう魔法なの!? 教えてちょうだい!」


「あ、え、えぇと……」



 ルージェンヌはたじろぐ。



「サフィー、あれは魔法じゃない。手品っていうインチキだ」


「てじな??」


「んなっ!? インチキとは何よ!」


「インチキはインチキだろう! 手品なんて魔法を真似た、ただのイカサマじゃないか!」


「い、言い返せない………けど! そんなこと言うのは私と勝負をして勝ってからにしなさい!」


「ほう、自信があるようだねぇ? いいだろう。何をして勝負をつけるんだ?」


「『ババ抜き』よ!」


「ババ抜き……あぁ、ジョーカーを残しちゃいけないっていうトランプ遊びか。でも2人じゃ勝負にならないだろう?」


「それならお嬢ちゃんも一緒にやって、()()()()()()()()()()()()()にすればいいかな? 2対1だよ」


「やったぁ! あたしも遊ぶ遊ぶ〜!」


「だがそれじゃお前がフェアじゃないだろう?」


「いいのいいの、負ける気しないから!」


「いい度胸じゃないか……。その勝負、受けて立つ!!」



 こうしてババ抜き勝負が始まるのであった。



***



 ババ抜きに使うトランプはノエルが念入りに調べ、普通のものであることを確認してある。

 また、魔法でルージェンヌの不審な動きを常に察知できるようにした。

 イカサマは即負け、である。



「それじゃ、アタシがカードを配るよ。配るときにイカサマされちゃ、困るからね」


「おやおや、用心深いことで……。どうぞ〜」



 ノエルがカードを配り、全員の持ち札が決定した。



「(おっ、こりゃツイてる。初手でジョーカーとは。あとは生き残ればアタシの勝ちだ!)」


「それじゃあ、私がサフィアちゃんのカードを引いて、次はサフィアちゃん、その次にノエルさんっていう流れで行こうかな」


「(よし、この流れなら勝てるぞ……!)」



 それから10分後。



「待て待て、どうして勝てる可能性の方が明らかに高いこの試合で、アタシたちが負けなきゃならないんだ!」



 ノエルたちはルージェンヌにボロ負けしたのであった。



「イカサマもなかったはずだ……ならどうして負けた……」


「それはヒ・ミ・ツ! まあとにかく私が勝ったってことで前言を撤回してくれるかな?」


「も、もう一戦して勝ったらにしてくれ……! 次は絶対勝てる!!」


「あたしももう一回やりたい〜!」


「しょうがないなぁ……ならもう一戦だけだよ?」



 さらにそれから10分後。



「なぜまた負けた!? 途中までかなり有利だったのに!!」


「はい、前言撤回してね〜?」


「くっ……あ、あと一戦、あと一戦だ!!」



 ルージェンヌは立ち上がり、食い下がるノエルを見下ろして言った。



「はぁ……()()()()()()()()()()()()?? 見苦しいよ? お弟子ちゃんの目の前なのに」


「……ししょー?」



 サフィアはノエルの顔を心配そうに覗き込んでいる。



「うぐっ……わ、分かったよ。手品はインチキなんかじゃなくて人の技術の結晶だ! これでいいな?」


「よろしい。それじゃ、私はこの辺で……」


「おねーちゃんまたねー!」



 そうしてルージェンヌはどこかへ去って行った。



「はぁ……変な奴に絡まれたもんだ……。気づけばもう夕方か……」


「ししょー、今日は楽しかったです!」


「そうかそうか、それは良かった……。帰りにトランプでも買ってくか……」



 サフィアはそれを聞いた瞬間喜び、ぴょんと跳ねる。



「はいっ、夜にでも遊びましょう!」



 こうしてノエルとサフィアはノーリスでの1日目を終えることとなった。

今回出てきたキャラクター、ルージェンヌはゆらる(@Zillah_LA)さんからお借りしました。

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