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85頁目.ノエルと費用と回顧と……

 それから数週間が経過した。

 マリンはクリスの呪いの治療を完遂し、ノエルたちはクリスの一件を国王に報告しに行った。

 報酬を聞かれた時、クリスは『あの呪いの塊があった付近に、自分の魔法工房を作って欲しい』と国王に頼んだのだった。

 その申し出は快諾され、クリスは喜んで国王とノエルたちに礼を言い、ノエルたちはクリスと別れを告げたのであった。


 それから間もなく、ノエルたち3人とエストはヴァスカルへと向かうことにした。

 北東の国・ヘルフスと南西の国・ヴァスカルは、央の国・ノーリスを隔てた位置関係にあるため、話し合いの結果、鉄道で移動することとなった。



***



 ヘルフスの駅舎にて。



「切符はしっかり持ちまして?」


「あぁ、アタシはちゃんとカバンに入れてるよ。この通り」


「あたしももちろん……うん、持ってる!」


「アチキの分まで出してもらって、本当に申し訳ないっスねぇ……。いつか返すっス……」


「急な出費とはいえ、まさか鉄道の運賃分すら貯金できていないとはねぇ……。いいよ、世話になった分の家賃だと思ってくれ」


「ありがたい話っス……。アチキみたいな研究者は国からの補助金で生きてるっスから、研究費用で生活がカツカツなんスよ……」



 エストはわざとらしく、しわがれた声でそう言った。

 ノエルたちは苦笑いしながら改札を抜け、鉄道に乗ったのだった。

 そして個室に入り、席に座ったノエルたちは話を始めた。



「で、どういう順番で訪問しようかねぇ」


「クロネさんのところに行くのが先決でしょうか。わたくしたちの目的は禁書庫に入ることですし、『ファーリの遺産』についても聞かなくてはなりませんからね」


「時魔法が使えるクロネさんなら特殊魔法についても詳しいだろうし、ネーベみたいな精霊についても聞けるかも!」


「うへぇ……。ノエルの母親がそんな重要人物ってのが、今でもまだ受け入れきれてないっスよ……」


「無理もないさ。アタシだってその事実を知ったのはこの歳になってからだし、まだ夢かと思っているくらいには信じきれていないからね……」


「怒涛の1年でしたものねぇ……。今年だけでルカさん、ロウィ・ロヴィアさん、エストさん、3人もの魔女を蘇生魔法の研究に引き入れたわけですし……」



 ノエルは指を折って、これまで引き入れた人数を数える。



「アタシ、サフィー、マリン、ルフール、ルカ、ロヴィア、エスト……それで、クロネさんが最後の1人とか言っていたから合計すると……8人も揃ったのか?」


「以前、あとは光魔法と運命魔法だけ足りないと話していましたし、あとは光魔法ということになりますかね?」


「マリンとサフィーが光属性の原初魔法を持っているのと、ある程度の光魔法の魔導書を揃えているっていうのがあって、資料は足りていると思うんだがねぇ……」


「それでしたら、わたくしに少しアテがありますので、今度資料をまとめて別で聞いてきますわ」


「おや、アタシも是非会いたいもんだがねぇ。それに、魔法作りをする際にいてくれる方が助かるし──」



 その瞬間、サフィアはハッとしてノエルの発言を遮った。



「だ、大丈夫ですよ! お姉ちゃんに任せて、ノエル様は他の方々と研究を進めてください!」


「そ、そうか……? 急に必死になって驚いたが……。まあ、いいか」



 ノエルの正面に座っていたエストは、隣に座っていたサフィアにひそひそ声で尋ねた。



「(これ、どういうことっスか?)」


「(お姉ちゃんが言ってるのはノエル様のお姉さんのソワレさんのことなんですけど、実はノエル様には色々と内緒にしてることがあるんです……)」


「(姉なのに隠すことなんてあるんスか?)」


「(もう魔女を引退して結婚して孫までいるので、過去の魔女としての姉の像を崩したくないらしくて……。一応偽名でノエル様とも面識はあるんですけど、まだその真実は明かしていないんですよ)」


「(なるほど……。そりゃ、確かに邪魔するわけにはいかないっスね……)」



 何か話しているなとは思いつつ、ノエルはこれまでの旅を回顧していた。

 そして、しみじみと呟いた。



「もう……アタシを除いても7人も優秀な魔女が揃ったんだねぇ……」


「7人は『も』と付けるほどの人数ですの?」


「あぁ、7人()、だ。旅を始めた当初の目標は20人くらいだったけど、旅をするうちに非現実的な人数だと思い知ったよ」


「そもそも魔導士の祖であるファーリ自体、生まれたのが180年ほど前のことですもの。ファーリが3つ子を産んだのが30歳くらいの頃だとして、単純計算で増えていったとしても、生きた魔導士は4000人程度しかいませんわ」


「若魔女とか、あたしたちみたいな2人姉妹がいることも考えると、もっと少ないのかも。あと、魔導士を引退している人たちもいるし」


「だとしても、魔女は1500人くらいいると思っていたんだが……。まあ、こうやって優秀な人材が揃ってくれただけでもありがたい話さ」



 そう言って、ノエルは3人を見回した。



「ま、だとしてもまだ蘇生魔法の研究は始まっていないんだ。完成するために今の人数で足りるのか、そもそも完成するかも分からない長い長い魔法制作になるだろうねぇ」


「時間がかかろうと、きっと完成するってのはアチキが保証するっスけど、人数までは占ってなかったっスねぇ」


「あー、占わなくていいぞ。それはただのズルだからね。それに、占い通りに行動するとか、お前の掌の上で転がされている感があるからちょっと癪だし」


「運命を変えるとか言ってる人間が運命を信じちゃ、元も子もないっスもんねぇ。そもそも、アチキも人の楽しみを取るような占いはしない主義っスから、心配はいらないっスよ」



 エストはそう呟いて外を眺める。

 ノエルたちも外に目をやると、雪景色が次第に遠くなり、広い平原が目の前に現れた。



「ここからが長いんだよなぁ……」


「でしたら、また昔話でもしましょうか」


「はい! あたし、魔女狩り中のノエル様の話を聞きたいです!」


「んー、あんまり中身のない話だけどねぇ? あの8年間はただ、現メモラ国王のところで働いていただけだし……」


「まさかあなたが()()()ということですの!? 全く想像もつきませんが……」


「おい、何を想像した。メイドなんてやってないからな? アタシは知恵を買われて、あいつのところで書類仕事をしていただけだ」



 そう言った瞬間、3人は納得したように頷いた。



「って、え? まさかそれで終わりですの?」


「隠れて魔法の修行とか、魔女狩りの追っ手からの熾烈な逃亡劇とか、そういったのを聞けると思ったんスけど?」


「そりゃ隠れて修行もしてたし、魔女狩りの時に人を殺したこともあって指名手配されてた時期もあったさ。だけど全部、現国王が匿ってくれてからは穏やかになったからね。魔法も個室で研究させてくれたし」


「そういう話でもいいんです! 今の時点でも聞きたいって思える話ばかりですから!」


「なるほどねぇ……。でも、この話はヴァスカルに着いてからにしようか。クロネさんにもまだ話せていない部分があるし、ちょうどいいだろう?」


「でしたら、何の話をしましょうか?」



 4人がうーん、と悩んでいると、エストはハッとしてこう言った。



「『原初の魔女・ファーリの物語』とかどうっスか? あれって一貫した流れはあれど、色々と人によって解釈とか表現が違うって聞いたことあるんス。それぞれの話を共有するのも面白いんじゃないスか?」


「あたしはノエル様に聞いたお話しか知らないので見学になりますけど、聞いたのもかなり前なのでうろ覚えなんですよね……」


「なるほど、ファーリの遺産についても話していたし、ちょうどいいんじゃないか? アタシはクロネさんから聞いた物語と、現国王から聞いた物語を話せるぞ」


「わたくしはおばあさまから聞いていますし、図書館で様々な国や地域の物語も読んでいますから、色々と話せますわよ」


「だったら決まりっス! 『ファーリの物語』について理解を深めていく時間にするっスよ〜!」


「「「おー!!」」」



 こうしてノエルたちは和気藹々(わきあいあい)と、自分たちの知っている『原初の魔女・ファーリの物語』について語り始めることになったのであった。

***

この次の話の前に、もう一度プロローグを読んでおくことをオススメします。

***

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