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81頁目.ノエルと仕事と変わる運命と……

 ノエルたち3人は先ほどまで巨大な呪いの塊だった残骸を、ただ呆然と見つめていた。



「……どうやら、決着が着いたみたいだねぇ」


「まさか、本当に一瞬で終わるとは思いませんでしたわ……」


「あ、そうだ。ノエル様、眩しくありませんでした?」


「2倍の原初魔法なんて凄まじい威力だろうし、眩しいに決まってるさ。幸い、お前たちの詠唱に合わせて目を瞑っていたからひとまずは無事だけどね。とりあえず……喜んだらどうだい?」


「あ、そうでした! やったぁ! 呪いの塊を浄化しきった!!」


「良く頑張りましたわ、サフィー。まあ、わたくしもそれなりに頑張ったとは思いますが、今日一番頑張ったのはサフィーですものね。お疲れ様ですわ!」



 マリンはサフィアをぎゅっと抱きしめた。

 サフィアは嬉しそうに笑って、抱きしめ返す。

 すると、イエティたちがぞろぞろと集まって、サフィアたちの正面にあった門へと戻っていった。



「あ、帰っちゃった。お礼言いたかったのに」


「礼なんて言わなくても、食わせた魔力が十分な礼だろうさ。でもサフィーの気持ちの問題だってんなら、門を閉める時にでも言ってみればどうだい?」


「忘れてました。開いた門は自分で閉じなきゃいけないんでしたね」


「鍵は持ってるかい?」


「もちろんです! この通り、ちゃんと持ってますよー!」



 そう言って、サフィアは閉じた門の中心にある鍵穴に鍵を差し込んで、門に手を当てながら言った。



「ありがとう、また何かあったら力を貸してね。じゃあ、またね!」



 サフィアが手を捻ると、かちゃん、という音と同時に門が消えていく。

 そして門があった場所には、ただの魔導書の切れ端だけが残っていたのだった。



「……じゃあ、あとは災司(ファリス)が現れるのを待つだけで……って、わわっ!」



 魔導書の切れ端を取ろうとした瞬間、サフィアは膝から崩れ落ちて倒れてしまった。

 ノエルとマリンは驚いて、急いでサフィアに駆け寄る。



「だ、大丈夫ですの!? まさか、怪我をしたとか!?」


「大……丈夫だけど……。力が……入らない……」


「なるほど、魔力切れか。ビックリした……。恐らく、ネーベの力の反動が強かったんだろう。しばらくそこで休んでな。あとはアタシがどうにかするから」


「あ、りがとうございます……」



 ノエルはサフィアをマリンに任せ、振り返って辺りを見回す。



「これだけ巨大な呪いを祓ったんだ。ネーベが言っていた、呪いを強めたっていう災司(ファリス)が何もしてこないとは思えない」


「よく分からない連中ですから、呪いを失ったと同時に興味を失った可能性もありますけれど……って、あら?」


「ん? どうかしたか……? お、エスト?」


「えっ、エストさん? どうしてこんなところに?」



 ノエルたちは、エストたちがいるコテージの方からエストが走ってくるのが見えた。

 しかし、見る限りエストは一人きりで、近くにクリスの姿はない。



「ノエル〜! 大丈夫だったっスか!?」


「あ、あぁ……この通り無事だが……。お前こそどうした? どうしてこんなところにいる?」


「どうしてって、めちゃくちゃ強い光が見えて何かと思って来たんじゃないっスか。おぉ〜、こりゃ見事にぶっ壊れてるっスねぇ……」


「姉様? クリスさんはどうしたんですの?」


「あぁ、クリスはちゃんと寝かせてあるっス。魔法で防護をかけてるっスから危険はないはずっスよ! って、サフィーちゃんは大丈夫っスか?」


「……あ、あぁ。しばらく休んでいれば問題ないだろう。だが……マリンにおぶってもらってでもコテージに戻らせるべきか? クリスのことも心配だしな……」



 すると、エストはこんな提案をした。



「そうっスねぇ……。じゃあサフィーちゃんとマリンだけでも送っていくっス! ノエルは仕事があるんスよね?」


「……あぁ。一応、道は覚えているから問題ないよ。マリンはそれで大丈夫かい?」


「ええ……そうですわね。指輪で寒さを感じないとはいえ、サフィーをこんな寒いところに放っておくのは心苦しいですもの。そうしましょう」


「分かった。サフィーのことは任せたよ。アタシはアタシの仕事をするから」


「了解っス! それじゃ、行くっスよ〜」



 そう言ったエストが進行方向へと振り向いた、その瞬間だった。

 ノエルの手元から呪縛鎖(カースド・チェイン)が飛び出し、一瞬でエストに巻きついた。



「な……何をするっスか……?」


「その話し方を今すぐやめな。お前は一体誰だ?」


「誰って……エストっスよ?」


「全く……。そんな粗末な模倣で、よくそんなことを言えますわね?」



 マリンもサフィアを守るように立って、指元に発動した火の弾をエストの眉間に向けている。



「はぁ……。まさか、私の魔法がこうもあっさり見破られるとはな!」



 ノエルの呪縛鎖(カースド・チェイン)を内側から破るように、エストの身体が弾け飛んだ。

 すると、その中から黒いローブに包まれた女が姿を現したのだった。



「なるほど、土魔法で別人の姿の殻を被って姿を変えていたのか。口調や記憶まで模倣できるなんて、よくできた魔法じゃないか。まあ、所詮は模倣に過ぎないみたいだが!」



 ノエルは再び呪縛鎖(カースド・チェイン)を発射するが、それを土魔法の壁で防がれる。



「チッ、流石に2度目は無理か……。まさか、災司(ファリス)にちゃんとした魔女がいたとはね。まあ、ありえない話ではなかったが」


「あぁ、私だってまさかこの『模倣する土塊(ミミック・クラッド)』を見破る魔女がいるなんて思わなかったぞ。どうして分かった?」


「お前はクリスを置いて、わざわざこんなところまで来たと言った。そんなことをエストがするはずないんだよ。あいつは確かに傍若無人な奴だが、病人を一人きりにしておくなんて、そんな酷い真似をできるような人間じゃない」


「それに、姉様は防護の土魔法なんて使えませんわよ。特殊属性を扱う魔導士は、初級の基本魔法すらまともに扱えませんもの。わたくしの魔導書にはそんな魔法書いていませんでしたしね」


「あぁ、そういうこと……。ま、そこまでバレてちゃ仕方ない。呪いの消失を確認するついでにお前らを仕留めようかと思ってたけど、今回は逃げるとするかね!」



 黒ローブの魔女は崖に向かって走っていく。

 ノエルは手を伸ばして追いかけ、叫んだ。



「おい、待て! エストたちをどうした! 模倣の魔法が模倣した本人にバレることを、お前が警戒していないわけないだろう!」


「あぁ、あいつらはそろそろ死ぬ頃だろうさ! 雪崩に巻き込まれてな!」


「いえ、そんなはずはありませんわ! 姉様の占いによると、今日は雪崩なんて起きないはず! 嘘を言うのはやめなさい!」


「さて、あいつらは運命に抗えるかな!」


「あっ、待てっ!!」



 魔女は崖から飛び降り、ノエルたちが見下ろした頃には吹雪の中に消えていたのであった。



「くそっ、あいつだけは絶対に逃したくなかったのに……!」


「まさか崖から飛び降りるなんて……。土魔法で無事ではあるんでしょうけれど、厄介なことになりましたわね……」


「ノエル様……。とりあえず、あたしの魔力はある程度回復したので……早く、エストさんたちのところに……」


「無理はするな。エストの占いは絶対なんだろう? なら、あいつの言っていることは嘘に決まって──」



 その時だった。

 ゴゴゴゴ、と地面が揺れ始める。

 そして、呪いの塊が削っていた山肌が崩れ始め、山全体を覆っていた雪が一斉に動き始めた。



「おいおい……こいつはまずいぞ!! マリン! サフィーを抱えろ!」


「で、ですが、逃げ場所なんてありませんわよ!?」


「う……ううん、違う! よく見て! あの雪……こっちじゃなくて、エストさんたちのいるコテージの方に向かってる!」


「なんだって!?」


「姉様……! クリスさん……!」



***



 その少し前。

 エストは横になって休んでいるクリスに、自分が使っている運命魔法について説明していた。



「へぇ……。運命を知る魔法と、運命を変える魔法か……」


「まあ、運命を変えちゃったらその反動が後々アチキに返ってきちゃうんスけどね。だからアチキ自身、あんまり運命を変えるような真似はしたくないんス。疲れるし」


「最後のが一番の理由みたいにも聞こえるけど……」


「ところで身体の調子はどうっスか? そろそろ魔力は回復してる頃と思うっスけど」


「そうだな……。魔力は問題ないけど、横になっても呪いの痛みが全然取れない。無理をすれば一応動けそうだけど……」


「ああぁ、動かなくていいっスよ! 無理は禁物っス!」



 立とうとするクリスを止めようとしたその瞬間、地響きが鳴った。



「な、何事っスか!?」


「この音……地震か!? ってことは……マズい、雪崩が来るぞ!」


「そ、そんなはずはないっス! 占いでは雪崩が起きる予報なんてなかったっス!」


「だけど、ここって呪いの塊があった場所の反対側だろ! 斜面の角度を考えたら、雪崩が来る可能性が高い!」


「そんな……まさか……! アチキの占いが外れるなんてそんな……。って、ああっ!!」


「どうしたんだ!」



 エストは思い出したかのように答える。



「今日の占い、少し先から全く運命が見えなくなってたんス。もしかしたら、それが今のこの状況のことだったのかも……!」


「あの呪いの塊が壊せるか壊せないか、それすらも占えてなかったってわけか。もしかしたら、呪いの塊を壊したことで運命が変わったとか……」


「なるほど……。ファーリの呪いは定まった運命すら覆す力を持っているってことっスか……。いいっスよ、受けて立つっス!」


「お、おい! 何をするつもりだ!?」


「ここに雪崩が来るって運命を()()()っス! アチキがどうなろうともクリス君だけは守らないと、ネーベちゃんに申し訳が立たないっスから!」


「おい、やめろ! そんなことをしたらお前は……!」



 エストは振り向いて、笑ってこう言った。



「運命を変えるなんて、アチキにしかできないことっスから……!」


「っ……!」


「自分にしかできないことを、命をかけてやり遂げることができるなんて本望っスよ! まあ、ノエルたちに別れを告げられなかったのは残念っスけど……。せめてクリス君とだけでもお別れしとかないとっスね!」


「やめろ……! そんなこと言うなよ……!」


「さよならっス、クリス君! もし生きてまた会えたら、奇跡だと思ってくれっス!」



 すると、雪崩がコテージの方に近づいてきている音が鳴り響いた。

 エストは、クリスの前に立って魔導書を開き、仁王立ちで詠唱を始めた。



「運命を変えて、クリス君を守ってみせるっス!」


「やめてくれ……! やめてくれよ!!」


「『運命の再履行グラン・エル・リフォーチュン』!」



 エストは(にこ)やかに、それでいて少し迷いのある表情でそう唱えたのであった。

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