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73頁目.ノエルと吹雪と自然の魔力と……

 次の日の早朝。

 防寒の魔法をかけたローブを毛布の上からかけて、ぐっすりと寝ていたノエルは、突然の冷たさに目が覚めた。

 身体を起こして周りを見渡すと、正面に見える窓が開いており、そこから吹雪が入って雪が足に当たったのだと分かった。



「う、冷たっ……。鍵はかけていたはずだが、見たところ2人が起きてた様子もないし……。まさか泥棒!?」


「ん……んあ? どろぼー……れしゅってぇ……?」


「あ、すまない。起こしてしまったか、マリン。お前、あそこの窓開けてないよな?」


「ふぁぁ……。このわたくしが、女性3人が寝ている部屋の窓を開けたままにするとでも? って、どうして窓が開いているんですの!?」


「だから聞いたんじゃないか。とりあえず全員、荷物を確認して欲しい。サフィーには悪いが、叩き起こしてくれ」


「仕方ないですわね……。ほら、サフィー、朝ですわよー」



 マリンがサフィアを起こしている間にノエルは窓を閉め、鍵を厳重にかけるついでに土魔法で窓を強化した。



「アタシの荷物は……って、ベッドの下に置いてあったっけ。あぁ、あったあった」


「んん……。もう朝ぁ……?」


「すまないね、サフィー。これが終わったらまた寝てくれて大丈夫だから」


「……何かあったんですかぁ? って、何ですかこの雪!?」


「知らぬ間に窓が開いてたんだよ。泥棒でも入ったのかもしれないから、荷物を確認して欲しい」


「わ、分かりました! えーと、あたしの荷物……あたしの荷物……。あった!」



 そうして3人は荷物の中を何度も確認し、10分ほどでひと段落がついた。



「アタシの荷物は無事だ。何もなくなってない」


「あたしも大丈夫でした」


「わたくしも大丈夫でしたわ。この様子ですと、泥棒というわけではなさそうですわね」


「窓を外から開けるなら、窓を割らないと無理だもんね。やっぱり誰かが開けっぱなしにしてたか、鍵が壊れてたとかなんじゃないの?」


「アタシも吹雪の風圧で窓が開いたのかもと思ったが、鍵は全然壊れてなんかいなかった。そして、誰も窓を開けていたわけでもないとなると……」


「残る可能性としてあるのは、魔法で外から開けた……ということになりますわね。何も盗まれていないので、やはり泥棒ではないようですが」



 部屋に入った雪が次第に部屋の温もりで溶け始め、床の木目に吸い込まれていく。

 マリンは部屋にあったタオルでそれを拭き取り、そのままタオルを洗い場に置いた。

 サフィアはその間に窓の前まで行き、目を瞑って集中する。



「あっ……本当だ! 窓のところに土と……水の魔力……?」


「あ、土の魔力はさっきアタシがかけた強化の魔法の残滓だ。ってことは水魔法で開けたってことだな。全く、魔導士が外から……しかもこんな時間に一体何の目的でこんなことを……」


「魔力以外の手がかりがない以上、考えるだけ無駄かもしれませんわね……。とりあえず、宿を出る際に宿の主人さんに伝えておきましょうか」


「頼んだ。さて、もう2時間くらい寝るとするかぁ……」


「ええ、2人ともおやすみなさいな。姉様の言い方ですと昼前までにこの吹雪も一度は収まると思いますし、わたくしが起きて見ておきますわ」


「お姉ちゃん、よろしくぅ……」



 ノエルとサフィアはベッドに倒れ込み、すやすやと寝息を立て始める。

 マリンは2人に毛布をかけ、長い伸びをして洗面台へと向かった。



***



 それから2時間後、ノエルはマリンの呼ぶ声で目覚めた。

 耳を澄ますと、風の唸りが弱まり始めている。



「起きましたわね。見ての通り、そろそろ吹雪が止みそうですわ」


「あぁ、見張ってくれてありがとう。他に異変はあったかい?」


「あったら即刻起こしていますわ。さ、朝食を買ってきましたので、ちゃちゃっと準備を終わらせて姉様のところに行きますわよ」


「はーい!」


「おぉ、サフィーは先に起きてたのか」


「はい、お腹が空いちゃって……。なので、お姉ちゃんと先に食べちゃいました」



 ノエルがテーブルの方を見ると、サンドイッチが乗った皿と水の入ったコップが1人分だけ置いてあるのが分かる。

 溜息をついて、ノエルは言った。



「それじゃあ仕方ないか。アタシもさっさと食べるかねぇ」



 手を洗って、サンドイッチと水を胃に放り込み、ノエルたちは10分もせずに準備を完了させたのだった。



***



 間もなく吹雪が止み、ノエルたちは宿をチェックアウトしてエストの家へと向かった。

 家の前に行くと玄関の扉が開いており、中からエストが手招きをしていた。

 ノエルたちは家の中に入って、ソファに座るのだった。



「さてさて、今日はどんな話を聞かせてくれるんスか? 他の魔女の話っスか? それとも、全く関係ない世間話っスか?」


「いや、残念だが今日はお前の話を聞きに来たんだ。プリングに残した伝言によると、何か修行をしているそうじゃないか」


「あぁ、それっスか。実はうまくいかなくて困ってるんスよねぇ……」


「おっ、それなら丁度いい。アタシたちはお前の修行を手伝いにきたんだ。良ければ協力させてくれないか?」


「おぉ! それはありがたいっス! 人手が欲しくてしょうがなかったんスよ!」



 ノエルの差し出した手を、エストは握り締めてぶんぶんと振った。

 それを横目に、マリンとサフィアは小声で話していた。



「あまりに上手くいき過ぎじゃない? とんとん拍子にもほどがあるっていうか……」


「そうですわね……。何か裏があると思って協力しておきましょうか」


「うん、そうだね。もしかしたらそこに昨日の失敗する未来ってやつの手がかりが隠されてるかもだし!」



 2人は頷き合い、ニコニコして言った。



「わたくしももちろん協力させていただきますわ! 姉様の力になれるのなら、頑張るしかありませんもの!」


「あ、あたしも! 何をするかは知らないけど、力になれるかもだし!」


「2人ともありがとうっス」


「それで……お前は一体何をしてるんだ? アタシたちは何に協力すればいい?」


「結論だけ先に言うと混乱させてしまうと思うんで、修行をしようと思ったきっかけから話してもいいっスか?」


「混乱……? ま、まあいい。きっかけからで構わないよ」



 エストは足を組んで、しみじみと話し始めた。



***



 特殊属性の魔法の1つ『運命魔法』の使い手として、アチキは色んな場所で修行とか人助けをしてきたっス。

 でも、ノエルや他の魔女たちと出会って、一緒に魔法について分かち合ううちに、アチキは特殊属性の魔法が基本属性の魔法と決定的に違うことに気づいたんス。


 普通、魔法は魔導士の体内の魔力と、空気中にある自然の魔力の2つを使って魔法を発動するっスよね?

 だけど実はそれ、()()()()()()()だったんス。

 逆に言うなら、特殊属性には自然の魔力が存在しなくて、体内の魔力でしか魔法を発動できないみたいなんスよ。


 それに気づいたアチキは、本当に特殊魔法の魔力が存在しないのか、調べなきゃならないと思ったんス。

 そうして、特殊属性の自然の魔力を探すべく修行を始め、プリングとかこの国にやってきたってわけっス。



***



「色々と知らない事ばかりで既に混乱しかけてはいるが……。なるほど、修行ってのは特殊属性の自然の魔力を見つけることだったんだな」


「でも、それってあたしたちが探すのに協力したとしても、見つかるか分からなくないですか? 特殊属性の自然の魔力なんて感じたことないし……」


「いやいや、ここからが本題っスよ。今のはあくまできっかけの部分っスから」


「そういえば確かに、どうしてプリングやこの国……ヘルフスに来たのか不明でしたわね?」


「それについて話すっス」



***



 アチキは特殊魔法の魔力を探すために、どうすればいいか調べまくったっス。

 そしたら、原初の魔女・ファーリに行き着いたんス。

 彼女は自然にある魔力を見る力を持っていて、魔力とお喋りしてたとか言われているんスよ。

 つまり、彼女の力をどうにかして手に入れれば、特殊魔法の魔力を見つけることも夢じゃないと思ったんス!

 そのために、アチキは大厄災の中心地だった北の国・メモラに近い2つの国、北西の国・プリングと北東の国・ヘルフスに来たんス。


 全ては、大厄災の呪いの残滓を手に入れるために!



***



「待て待て待て! 呪いの残滓探しのためにこの国に来たってのか!?」


「そう言ったじゃないっスか。何か変なところでもあったっスか?」


「い、いや……変ということじゃないんだが……。そ、そうだ、ちょっと3人で相談させてくれ」


「なら、今のうちにお茶を淹れてくるっス」



 エストが台所に行った瞬間、ノエルたちはエストに聞こえないくらいの声で話し始めた。



「これ……。まさかとは思うが、アンノウンと災司(ファリス)に関係する話じゃないよな……?」


「ね、姉様に限って、あんな非人道的な連中と関わっているとは思えませんが……」


「豊穣の国・フェブラでノエル様が出会った、サティーヌさんみたいな例もありますし、呪いの残滓って言葉に敏感になり過ぎじゃないですか?」


「まあ、呪いの残滓あげるから協力しろとか言われて、あいつが協力するとは思えないのは確かだ。それに、絶対に当たる占いもあるわけだし、連中も迂闊には近かないだろう」


「ですわね。なので、ここは大人しく呪いの残滓探しに協力しましょうか。最悪の場合はこれまで同様、指輪の力で祓いますから」


「よろしく頼んだよ」



 話し終わると同時に、エストが紅茶が入ったカップを運んで戻ってきた。



「もう話し合いはいいんスか? 盗み聞きとか趣味じゃないんで、耳塞いでおくっスよ?」


「いや、もう十分だ。アタシたちもその呪いの残滓探しに協力させてもらうよ」


「おお! それはありがたいっス!」


「それと、呪いの残滓に触れても魔力が見えるようになるとは限らないぞ。アタシたちも旅の途中で呪いの残滓に関わった連中を見てきたが、今のところ1人しか魔力が見えてる奴を知らない」


「えっ、魔力が見える人と知り合いなんスか!? それなら余計に期待が持てるってもんス!」



 エストは目をキラキラさせてノエルを見つめている。

 ノエルはそれを差し置いて話を続けた。



「あと、呪いの残滓は本当に強力な呪いの塊だ。危険だと感じた時点で、光魔法で浄化させてもらうからな」


「それは仕方ないっスけど……。残念なところでもあるっスねぇ……」


「まあ、特殊魔法の魔力が存在するかってのは、アタシとしても気になる話だ。ファーリの伝承の秘密が明らかになる可能性もあるし、ひょっとしたら蘇生魔法に応用できるかもしれないからねぇ」


「アチキはそれに協力するつもりはないっスけど、利害の一致ってやつっスね!」


「それで……今のところ、どれだけ調べてどれだけ手がかりがあるんだ?」


「6年間、プリング全体に結界を張るついでに探索したんスけど、全く見つからなかったっス。それで1年前にここに来て、とりあえず王都周辺の探索は終わらせたんスけど、手がかりなんてどこにも転がってなかったっス」



 そう言って、エストは紅茶を飲んで足を組み直した。

 サフィアは尋ねた。



「もしかして、プリング中にお姉ちゃんの指輪の結界を張ったのって、国中を探索するため?」


「そうっスね。もちろん自分たちが過ごしやすい環境を作るためっていうのもあったっスけど、それはついでっス」


「やっぱり自分の利益優先だったか……。まあ、結果としては人助けしちゃいるけど」


「わたくしも、そんな目的だったとは知りませんでしたわ。ちょっと上手いこと利用された気分ですわねぇ……」


「それについてはすまないと思ってるっス。でも、無関係の人間を巻き込むわけにはいかなかったっスから……」


「では、今は無関係ではないということでしょうし、今回は遠慮なく協力させていただきますわね!」



 そう言って、マリンは紅茶を一気に飲み干し、立ち上がった。



「さあさあ、探索を始めましょう!」


「あー、それなんスけど……」



 エストは苦笑いをして窓の方を指差す。

 マリンは指が差された方へ振り向き、固まった。

 ノエルとサフィアも外を見て、苦い表情を見せる。



「この国、困ったことに吹雪が強くて、探索できる日が滅多にないんスよねぇ……」


「なっ、なんということですの〜!?」



 マリンの叫喚は吹雪の風の音で掻き消え、他の3人は溜息をついて小さく笑い合うのであった。

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