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62頁目.ノエルと間合いと二回戦と……

 二回戦前の休憩時間中。

 ノエルとサフィアは、ホロウの装甲について休憩中のマリンに詰め寄っていた。



「おい、流石にあれを許可するのはマズいだろ! オクトーどころか誰も勝てないんじゃないのか!?」


「そうだよ! どうしてあんなのを許可したの、お姉ちゃん!」


「2人とも落ち着いてくださいな。強さに限度があるというのも分かりますが、ちゃんと彼には手加減させてますのよ?」


「そんなの見てるだけじゃ判断できないだろ。ただの口約束で手加減なんて…………あっ!」


「も、もしかして『魂の盟約』!?」



 2人は閃いた表情をするが、マリンは首を振った。



「魂の盟約はあくまで約束をした()()()約束を強制的に守らせるものですわ。機械の方がどう暴れようと、盟約には関係ありませんわよ」


「え? なら、本当に口約束しただけなのか……?」


「それも違いますわ。そんなの魔女のやり方として全く合理的じゃありませんもの」


「じゃあどうやって手加減させてるの?」


「簡単な話ですわ。実はわたくしがあの機械に()()をかけていますの。ある一定以上の力を加えると燃料に火を付ける魔法を、ね」


「う、うわぁ……。手加減しないと自爆してしまうってわけか。危険で残酷な縛りだな……」



 マリンは机に置いてあった水を飲み干し、言った。



「というかそもそもの話、残った方々ならホロウさんの装甲を破壊することなんて朝飯前ですわよ」


「え? でもホロウさんの次に期待されてたセレッソさん、一発で伸されてたよ?」


「あの方だってちゃんと戦えば装甲を壊せていましたわ。実際のところ盾が壊れただけで、鉄球の衝撃はセレッソさん本人に通っていませんもの」


「鉄球で飛ばされて、壁に激突した衝撃の方で気絶しただけってことか。つまりあの獣人は立ち回りを間違えて負けた、と?」


「そういうことですわね。そこまで圧倒的な戦力差があったら大会として全く面白くありませんもの。予選を勝ち抜いている時点で、どの方も引けを取らない実力者であることは確かですわ」


「なるほど、それを聞いて納得したよ。アタシたちが知らないところでちゃんと仕事をしてたってわけだ。おかげでこの大会はきちんと正当性のあるものだと確信できた」


「それは何よりですわ」



 マリンは嬉しそうに笑った。

 そしてその瞬間、再開を告げる銅鑼が鳴った。



「それでは、行ってきますわね」


「実況、楽しみにしてるぞ」


「行ってらっしゃい!」



 マリンが司会台に戻ると同時に、銅鑼の音が鳴り止んだ。



***



「さて、白熱した試合を見せてくれた一回戦。そこで勝ち上がった4名の方と、二回戦の対戦表を確認いたしましょう!」



 その声と同時に、休憩時間中に回収されていた垂れ幕が再び現れた。

 垂れ幕には新しく2段目に名前が追加されている。



「確認できましたでしょうか。それでは二回戦・第一試合と参りましょう。まずは、第一試合にて30分もの死闘を繰り広げた、大海を制する男の中の男、ラウディ出身ヴォルク!」



 観客は沸き、ヴォルクが大剣を担いでその声援に応えながら入場してきた。



「そして、一方こちらは一瞬で勝負を決めた当闘技場の支配人代理にして体術の鬼、セプタ出身オクトー!」



 観客はさらに沸き、オクトーが()()()()手を振りながら入場してきた。

 マリンは頭を抱えつつ、司会を続ける。



「さあ、彼らの賞品獲得は確実なものとなっております。ですが、彼らが狙うは優勝のみ。さぞ白熱した試合となることでしょう。では、参りますわ!」



 マリンが左手を上に掲げると、ヴォルクは大剣を構え、オクトーも拳を構える。



「二回戦・第一試合! 戦闘開始(ファイッ)!!」



 その掛け声と同時にヴォルクは大剣を振りかざして突進し、凄まじい速さでそれを振り下ろした。

 その瞬間、オクトーはその大剣を側面から殴り、その反動で横へ回避したのであった。

 それを見ていたノエルは呟く。



「この勝負、間合いを好きなだけ変えられるオクトーの方が有利なはずなんだが、正直なところ何とも言えなくなってきたな……」


「どういうことですか?」


「あのヴォルクとかいう男、かなり瞬発的に動けるよう鍛えている。オクトーに距離を詰められても、体術に切り替えてやりあえるくらいの実力はあるだろうね」


「なるほど、油断は禁物ってことですね……」



 オクトーは大剣を持ち直そうとしているヴォルクの隙をついて、横腹に拳を当てようとする。

 しかし、それに気づいたヴォルクは瞬間的に腕でそれを庇い、大剣と共に後ろへと飛ばされた。

 姿勢を立て直したヴォルクは痛そうにしている様子もなく、平気な顔で大剣を構えている。



「おおーっと、ヴォルク選手! オクトー選手の強烈な一撃を防ぎ、体勢を立て直したー!」



 マリンの実況と共にヴォルクへの声援が上がり、会場全体の興奮が高まっている。

 ノエルたちもいつの間にかオクトーではなくヴォルクを応援していたことに気がついた。

 そして2人ともハッとして、オクトーに声援を送るのであった。



***



 一方その頃、オクトーは大剣の間合いを読みつつ思考を巡らせていた。



「(攻撃後の隙を突くというのは流石に読まれますね……。ですが、あの大剣相手だと正面でも空中でも反撃を受けてしまう。となると……)」



 オクトーは構えたままじりじりと距離を詰め、大剣の間合いに入る。

 その瞬間、ヴォルクは掛け声と共に大剣を振り、再びオクトーに斬りかかった。



「(まずはあの厄介な武器を封じる!)」



 ヴォルクが大剣を振り下ろした瞬間、オクトーは後ろへ飛んで下がり、その反動で大剣の(むね)(刃がついていない方)に目掛けて空中かかと落としをした。

 すると、大剣の重さとオクトーのかかと落としの威力が合わさり、大剣の先が地面に刺さってしまったのだった。



「(よしっ、あとはこいつを抜こうとするところに連撃を──)」


「ふんぬっ!」


「なっ……!?」



 オクトーが距離を詰めようとしたその時、ヴォルクは大剣の(つか)(手に持つところ)に同じようにかかと落としをした。

 そして大剣は地面から抜け、空中で3回転してヴォルクの手元に戻ってきたのであった。



「甘いな。こいつをそう簡単に封じられてたまるかよ」


「やりますね……。流石、30分もの大立ち回りをするだけのことはある」


「お前こそ、すばしっこくて手強い手強い。楽しい戦いができるってもんだ! がっはっは!」


「でも、次はそうはいきません……よっと!」



 オクトーは一気に距離を詰め、右手の拳を後ろに溜める。

 ヴォルクはすかさず大剣をまっすぐ構えて、反撃の構えを取った。

 しかしその瞬間、オクトーは姿勢を低くしてさらに距離を詰め、そのままヴォルクの足を内側から蹴飛ばした。

 ヴォルクは片足を取られたが、持ち前の体幹でどうにか転ばずに持ち直そうとする。

 その隙をオクトーは見逃さなかった。



***



「ん……?」


「どうかしましたか、ノエル様?」


「いや……。今一瞬、オクトーの腕が光ったような……」


「んー。お日様の下っていうのもありますけど、あたしは気付きませんでした」


「まさかあいつ……」



 オクトーは一気に加速し、もう片方の足を蹴り飛ばしてヴォルクを転ばせた。

 そしてヴォルクの胴体を空中から殴り落としたのであった。



「こりゃ、決まったな」



 ヴォルクは背中を地面に打ちつけられた衝撃からか、気を失っている。

 オクトーはヴォルクの手から離れた大剣を取り、上に掲げ、咆哮した。



「ヴォルク選手、立ち上がりません! よって勝者、オクトー! 皆さま、彼に大きな声援と拍手をお送りくださいな!」



 観客たちは歓喜し、オクトーに声援を送っている。

 それと同時に、気絶するヴォルクにも声援が送られているのであった。



「さあ、次の試合の準備ができるまでしばらくお待ちください! 次は二回戦・第二試合ですわ!」



***



 ノエルは先ほど見た光景と試合を振り返っていた。



「腕が光った瞬間、あいつの速さが尋常じゃないくらい速くなっていた。あれはもしかすると、腕輪みたいな魔具の一種なのかもしれないな」


「腕輪型の魔具ですか。でも加速するような魔法ってありましたっけ?」


「いいや、あれは恐らく加速ではなく自分以外の時間を遅くする時魔法だ。流石に回数制限とか時間制限とかはあるんだろうけどね」


「なるほど、時魔法の魔具というのも珍しいですね?」


「おや、珍しくはないよ。ただとても高値で売られているからアタシたちと縁がないだけさ。使える魔導士が少ないからこそ、特殊魔法を使える魔導士は魔具職人たちから引っ張りだこなんだとか」


「そんなお高い貴重な魔具を使うなんて、オクトーさん……。太っ腹ですね!」



 ノエルはサフィアの言葉に苦笑いしながら、退場するオクトーを見つめるのだった。

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