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55頁目.ノエルと宴会と目の色と……

 ロヴィアはノエルたちに意識の中での出来事を話した。

 ロウィの魂の蘇生に成功したこと、一旦ロウィは出てこないこと、そして──。



「えぇっ!? 復讐をやめる!?」



 ノエルたちと作業員たちは一斉に驚いた。

 ロヴィアは上の耳を抑えつつ、皆を制する。



「ええ。だって、別にそんなこと私も望んでなかったもの」


「数分前まで復讐する気満々だったのに、ロウィとどんな話をしたんだ……?」


「まあまあ、気にしない。あぁ、もちろんあの国王を許すつもりは一生ないわよ。でも……今はロウィが過ごしていたこの場所を守る方が大事だもの」


「あ、姐さん……」


「ほ、ほら、あんたたちは仕事に戻って! 仕事が終わったら豪勢で美味しいご飯用意してロウィを呼び出すわよ!」



 その瞬間、作業員たちの顔が一気に明るくなる。

 そして全員が応えた。



「はいっ! 承知しやした、姐さん!!」



 作業員たちは駆け足で持ち場に戻り、それを見送ったロヴィアは息をついてノエルたちの方を向いた。



「ってことで……以上がロウィと再会した結果よ。何か質問は?」


「いいや、アタシはないよ。蘇生に成功したという事実こそがアタシには必要だっただけだしね」


「あたしもないわ!」


「でしたら、わたくしから1つだけ。もしロウィさんと入れ替わっていたら、どのようになっていたんですの? 『すぐ分かるはず』と仰っていましたが」



 ノエルとサフィアは「そういえば」とロヴィアの方を見る。

 ロヴィアは答えた。



「あぁ、それね。目の色が変わるのよ」


「そんなもん、すぐに分かるか!」


「ただ色が変わるだけだったら私もそんなこと言わないわよ。色が変わる瞬間に額の宝石が光るの」


「まぁ、それなら多少は……って、どうして変わったらどうなるかが分かる? そんなこと、誰も知るはずないよな……?」


「それがこの宝石に込めた保管場所の魔法の一部だからよ。とはいえ、試したわけじゃないからその通りになる保証はないんだけど……」


「なるほどな。じゃあ……その検証も含めて、今夜は宴会だ〜!!」



***



 その日の夜、ノエルたち3人とロヴィア、作業員ほぼ全員の計30人は、住宅街にある酒場を貸し切って宴会を始めた。

 ジョッキにはお酒が入れられ、乾杯前だというのに酒場の中は盛り上がっていた。

 ノエルたちはロヴィアの正面の席に座り、ロウィを呼び出すべく豪勢な料理を注文して机の上に並べていた。



「う、うわぁ……。流石にロウィでもこの量は食べきれないんじゃないかしら……」


「アタシたちも食べるからそこは問題ないだろう。もし()()()()()が食べきれる自信がないっていうなら、ロウィを止めてやるから」


「そうしてくれるとありがたいわ……」


「了解した。とはいえ、せっかくご馳走になるんだ。アタシたちは遠慮しなくても良いよな……?」


「ええ、これは協力料の一部だから。ちゃんと味わって食べなさいよ?」


「はいはい、遠慮なく食べるとするよ。それじゃ、さっさとロウィを呼び出してくれ。色々と待ちきれないからな!」



 ロヴィアは頷き、作業員たちの騒ぎを制止してこう言った。



「それじゃ、私はしばらく引っ込むけど、これだけは言っておくわね」



 しん、と静まる中、ロヴィアはジュースの入ったグラスを持ってその場に立ち、叫んだ。



「私たちの頑張りと、ロウィとの再会と、この豪華な食事たちに…………乾杯っ!!」


「「「「「かんぱーーーい!!」」」」」



 ジュースを口に流し込み、グラスを机に置いた瞬間、ロヴィアは椅子に倒れ込んで気を失った。

 そして間もなく、ロヴィアの額の宝石が光り始め、その目が開かれた。

 その瞳の色は、先ほどまでの紫色ではなく、透き通った黄緑色に変化しているのであった。

 その少女は周りを見回し、正面に座るノエルたちの顔を見比べて納得がいったように頷き、最終的に眼下に広がる料理たちに全て目を奪われた。



「こ、これっ、全部食べても良いの!?」


「あ、あぁ……。ロヴィアから『食べ過ぎないように』って言付けをもらってるが、そこにあるものは何でも食べて良いぞ」


「やったぁ! いただきまーす!!」


「あ、待て、まだ確認したいことが──」


「んー、美味しいっ!!」



 その少女はノエルの制止を聞かず、目の前の食事を夢中で食べ始めた。

 そしてその瞬間、作業員たちは大歓喜の嵐を巻き起こしたのであった。

 作業員のリーダーはその少女の元に駆け寄り、泣きながら話しかける。



「姐さん! 姐さんなんですね!!」


「今は食べてる最中だから、話はあとにして! 美味しいものは美味しいうちに! アタイの食事を邪魔するってんなら容赦しないよ!」


「ま、間違いねえ! そんなこと言うのは姐さんだけだ!!」


「いやいや、どんな確信の仕方だよ……。ただ……アタシも腹が減ってくる、いい食べっぷりだな……」


「ほら、あんたたちも食べて食べて! 料理が美味しくなくなっちゃうよ!」


「そ、そうだな! いただきます!」



 そうしてノエルたちは満足するまでご馳走を食べ、一方でロウィは結局ロヴィアの言いつけを守らずに食べ過ぎてしまったのだった。



***



 それからしばらくして、ノエルたちは満足そうにしているロウィに話しかけた。



「自己紹介がまだだったよな。アタシはノエル。ロヴィアと同じ魔女さ」


「あたしはサフィア! ノエル様の一番弟子よ!」


「わたくしはマリン。サフィーの姉ですわ」


「ノエルにサフィアにマリン……よし、覚えた! あんたたちがロヴィアを手伝ってくれたんだってね。ロヴィアから聞いたよ」


「ロウィ……なんだよな? すまんが、アタシたちとしてはまだ確信が持ててなくて……」


「んー……アタイがアタイだって証拠か……。この通り身体がロヴィアと混ざってるから、黒子の位置とかは参考にならないだろうし……うーん……」



 ロウィは考えた末に、こんな提案をしてきた。



「そうだ。逆にアタイがロヴィアじゃないって証拠を見せれば良いんだよね? だったら簡単だよ。アタイに向かって魔法を撃てば良いのさ!」


「は……はぁ!? お前に向かって攻撃しろってことか!? そんなことでどうやって確認なんて……」


「アタイがロヴィアならこの身体を守るために魔法を防ぐはず。もしそうじゃなければアタイの身体が傷つくだけだよ」


「そ、そんなこと──」


「そんなこと私がさせるわけないでしょうが!!」



 突然、その少女は椅子から立ち上がって叫んだ。

 ノエルが否定しようとした瞬間、ロウィの額が光り輝き、その瞳の色が紫に戻っていたのだった。

 ノエルは驚き、恐る恐る尋ねる。



「も、もしかしてロヴィアか……?」


「もしかしなくてもその通りよ! あんたたち、ロウィになんてことさせようとしてるの!」


「いやいや、今のはロウィの提案だったし、受け入れた覚えもないぞ!」


「あー、そういえばそうだったかしら……。ちゃんと叱っておくわ……。っていうか……うぅ……。やっぱり食べ過ぎで少し気分悪いわね……」


「急に叫ぶものですからびっくりしましたわ……。まさか、あなた方の記憶の共有方法が同時観測だったとは……」


「あぁ……それも説明しておくべきだったわね。私の魂はロウィと同じものを見て同じものを聴いて同じものを感じているの。ロウィが動いている間に何かあったら守るための監視機構と言うべきかしら」



 ロヴィアは座り直し、話を続けた。



「とにかく、これで分かったでしょう? さっきのは間違いなくロウィだし、今の私はロヴィアなの。そもそも感じる魔力が違うんじゃないかしら?」


「あっ、確かにさっきは魔力をほとんど感じなかったのに、今は感じる! どういうこと!?」


「これも宝石の魔法の一部よ、サフィアちゃん。ロウィが出ている間、ここに私の血液に流れる魔力を封印しているの。ロウィに魔法の主導権まで与えるわけにはいかないでしょう?」


「なるほど〜。ロヴィアさんって、本当に凄い魔女なんだ……」


「あぁ、アタシの見立ては間違ってなかったね。これで堂々と勧誘できるってもんだよ」


「そういえばそういう話だったわね。いいわ、もう一度だけ話を聞いてあげる。その代わり、断られたとしてもそれ以上は諦めなさい」


「もちろんさ。失敗した時点でこれ以上固執する理由はないからね。それじゃ……」



 ノエルたちは机に手をつき、頭を下げて言った。



「その魔法の実力を見込んで頼む……! アタシたちの蘇生魔法作りに協力してくれ!」


「仕方ないわね……。いいわよ」


「…………えっ!? えーと、そいつは協力してくれる……ってことで合ってるよな?」


「何を疑り深く聞いてるの。協力するって意味以外にないでしょう?」


「や……やった……やったぞ!! ありがとな、ロヴィア!!」


「こちらこそ礼を言わなきゃね。ロウィと再会できたのはあなたたちのおかげよ。3人とも、ありがとう」



 こうしてノエルとロヴィアは握手を交わし、ロヴィアが蘇生魔法作りに協力することとなったのであった。

 ロヴィアは手を離し、ノエルに言った。



「だけど、これだけは言っておくわよ。今回は私の秘術があったからロウィの魂を蘇生できたけど、話を聞く限りだとあんたの息子は蘇生できないからね?」


「分かってるよ。だけど、魂を蘇生させるために必要なものを知ることができた。あぁ、それと、お前の秘術があれば結界を貼れない物体に結界を貼れるようになるんだろ? それだけでもかなりの利益を得られたと言えるさ」


「ちゃんと分かってるみたいね。ただあんまり秘術をアテにしないようにね? 私だって自在に使えるわけじゃないんだから」


「もちろんだとも。使える技術の選択肢を増やせたことに感謝だよ。ということはこれで……」


「はいっ! あたし、お姉ちゃん、ノエル様の師匠、クロネさん、ルカさん、そしてロヴィアさんが6人目の協力者です! クロネさんは例外ですけど」


「つまり、アタシを含めて7人か……。あと属性として足りないとすれば『光』と『運命』……。って、うん……?」



 ノエルは何かに気づき、その瞬間叫んだ。



「……運命魔法の使い手なんてどうやって探せっていうんだよ!」


「え……? そんなの、これまでのように国を回って探すしかありませんよね……?」


「クロネさんとルフールという特殊属性の魔法を使える人が身近に居たからすっかり忘れていたけど、特殊属性を扱える魔導士は指折りなんだよ……」


「私も知らないわね……。そもそも魔導士の知り合いなんてあんたたちが初めてだし」


「わたくし、知ってますわよ?」


「だよなぁ……知ってるわけないよな…………って、え?」


「知ってますわよ。運命魔法の使い手」



 その瞬間、ノエルはマリンの首根っこを掴み、揺さぶりながら言った。



「そーうーいーうーこーとーはー、早く言え〜!!」


「い、言うにしても彼女の居場所が()西()()()だったので、行く時でいいかなと思いましてぇ〜!」


「ノエル様! お姉ちゃんが死んじゃいます!」



 ノエルはパッと手を離し、マリンに尋ねる。



「北西の国っていうと、火山の国・プリングだよな? 確かトカゲの獣人の領地の」


「ええ、正確にはサラマンダーの獣人ですわ。王都が火山の麓にあるので、生身で行くのは危険なのですけれど……」


「お前たちの指輪があれば平気ってことじゃないのか?」


「いえ、それはその通りなのですけれど……。詳しい話は明日、列車の中でしますわ」


「分かった。それじゃ明日、鉄道でプリングへ出発だ!」


「了解しました!」



 一部始終を見ていたロヴィアは唖然としていた。

 そして落ち着いたのか、ノエルたちに言った。



「あぁ、そうか。あんたたち、もう行っちゃうのね」


「ちゃんと呼ぶ時には手紙を出すか、直々に話をつけに来るよ」


「ええ、それまで首を長くして待ってるわね。あぁ、明日は見送れそうにないから、ここでさよならってことになるかしら」


「そうか……。本当に世話になったな。一瞬だったが、ロウィにもよろしく伝えておいてくれ」


「分かったわ。こちらこそお世話になりました。あんたたちに会えて本当に良かった……」



 ノエルとロヴィアは再び握手を交わした。



「ロウィさんともうちょっとお話ししたかったけど、残念。また今度お話ししたいわ!」


「ええ、きっとロウィも喜ぶと思うわ。またね、サフィアちゃん」



 ロヴィアはサフィアを抱きしめ、少ししてその手を離した。



「このような場所でお別れというのも風情がありませんけど……。仕方ありませんわね。また会える日を楽しみにしていますわ」


「あはは……あなたとももう少しお話ししたかったわ。気が合いそうな気がするもの。またね」



 マリンはロヴィアと握手を交わした。



「それじゃ……ありがとな。次会う時は蘇生魔法を作る時だ。それまで秘術も使いこなせるようになってろよ?」


「保証しかねるわね。ただ、あんたたちの期待に応える働きができるようには努力するわよ」


「そうか。期待してるぞ! またな!」


「さよなら!」


「さようなら、ですわ!」



 こうして、ノエルたちのノーリス探索は幕を閉じたのだった。



***



 その後、ノーリスの国王は様々な不祥事の隠蔽が発覚し、国民たちによってその座を落とされることとなったのだった。

 また、ロヴィアはロウィが世話になっていたという住宅街の家々を回るようになり、そこで振る舞われた料理をロウィが食べて満足する、というかつての生活が戻った。

 ロウィはその後、食事の時以外にも出るようになり、たまに工房の作業員たちを困らせることになるのだが、これはまた別のお話……。

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