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54頁目.ロウィとロヴィアと歯車と……

***



 ここはロヴィアの心の世界。

 海のように広く深く、それでいて岩のように硬い何かで満たされた空間。

 ロヴィアはロウィの魂の保管場所を探して、自分の心の中を縦横無尽に泳ぎ回っていた。



「(まさか、ロウィと混ざったおかげで身体の構造どころか心の構造まで変わってるとは思わなかったわ……。あの子の魂がどこにあるのか完全に見失った……!)」



 ロヴィアは岩のような形をした()()の流れを目で追いつつ、心のさらに奥深くへと潜っていく。



「(魔法とか使えれば簡単なんだけど、心の中で使えるわけもなく……。はぁ……全く……。あの子はどこまで奥に引きこもってることやら……)」



***



 それからしばらく奥へ泳ぎ続けていると、ガキンガキン、と一定間隔で鉄同士がぶつかる音が響き渡った。

 ロヴィアにとってその音は、かつて慣れ親しんだ金属音だった。



「(この音……もしかしなくても歯車の音!? 一体、どこから聞こえて……)」



 ロヴィアが周りを見回すと、音が下から聞こえてくるのが分かった。

 そして下をじっと見つめると、そこにはロヴィアがノーリスに来た頃のロウィの工房があった。

 ロヴィアは急いで移動してそこに降り立ち、ゆっくりと工房の鉄扉の前へ歩いていく。



「(間違いなくここ……よね。まあ、あの子の魂の引きこもる場所としては当然の造形だけど……)」



 ロヴィアは意味のない深呼吸をして、閉まった鉄扉に手を掛ける。

 ロウィに会いたい想いが増えるたび、その重い扉は少しずつ、時間をかけて開いていった。



***



 扉の中は真っ白な世界の中で2つの歯車がただ回り続けている、空虚な世界だった。

 足を踏み入れた瞬間、ロヴィアの姿は獣人だった頃の姿へと変化した。

 そして、歩みを進めると、その世界の中心に、上を見上げるロウィの姿があった。

 ロヴィアはその瞬間、懐かしい感情に貫かれた。



「あ……あぁっ……!」



 ロヴィアに気づいたロウィはロヴィアの方へと静かに駆け寄り、泣き崩れるロヴィアの頭を優しく撫でた。

 ロヴィアはロウィを抱きしめながら泣き続ける。



「ロウィ……ロウィ……!」


「ロヴィア……ゴメン……。アタイ、死んじゃった……」


「うん……。だけど、私が生き返らせたからあなたはここにいるの。余計なお世話だったら、謝らなきゃいけないのは私の方になるけど……」


「余計なお世話なんてそんなこと…………って、え? アタイ、生き返ったの? ここって死後の世界とかじゃなくて?」


「だったら、私がどうしてここにいると思ってるの?」


「実はもう100年くらい経ってて、ロヴィアも寿命で死んだのかなーとか思ったりして……」


「勝手に殺さないでくれるかしら!?」



 涙目のまま、ロヴィアはロウィを抱きしめたままロウィの背中をバシバシと叩く。



「あはは、ゴメンゴメン……。でも、本当にアタイ生き返ってるの? ここ、どこからどう見ても現実じゃないけど……」


「ここは私とあなたの心の世界。夢の中って言えば分かりやすいかしらね」


「なるほど……? それで、どうしてアタイは生き返って、ロヴィアと再会できてるんだ?」


「私は元々その話をしに来たのよ。教えてあげるわ……」



 ロヴィアはロウィにこれまでの出来事や現在のノーリスのこと、そしてノエルたちのことについても話した。

 ロウィは真剣に聞いていたものの、数々の驚きや様々な感情に巻かれて、途中から混乱していた。

 ロヴィアは話の最後にこう言った。



「ゴメンなさい……。自分のために蘇らせるなんて、あなたの気持ちを全部無視した身勝手な行動よね……」


「どうしてそれでロヴィアが謝るんだ? 元はと言えば、アタイが死んじゃったのが悪いと思うんだけど」


「だって生き返ったってことは、もう一度死ぬ苦しみを味わうってことなのよ? 私の身勝手で二度も苦しませることになるなんて、謝っても許されるべきことではないわ……」


「あぁ、確かに……。もう一度死ぬのは嫌だな……」


「やっぱり、それなら──」


「でも、次にアタイが死ぬ時はロヴィアも一緒ってことだろ?」


「えっ……?」



 ロヴィアは驚き、考え、1つの答えに気づいた。



「確かに……。この身体が死んだら、ロウィも私も死ぬということになるわね」


「だったら死ぬのは怖くないよ! ロヴィアも一緒にいるし!」


「し、死ぬのが怖くないわけないでしょう! 私がいたとしても苦しいことには変わりないのよ!?」


「苦しかったとしても、ロヴィアがいてくれるなら我慢できるよ。それに、これがロヴィアの選択なんだから、ロヴィアが引き下がっちゃったら全部が水の泡になっちゃうだろ」


「で、でも……」


「言わせてもらうけど、もちろん復讐なんてアタイ自身は望んじゃいないよ。でもね、ロヴィア。アタイはロヴィアを悲しませてしまった罪がある。それだけはどう償っても償いきれないんだよ……」


「そんな……そんなこと言われたら、これまで私は何のために頑張って来たっていうのよ! 私とあなたの2人の罪滅ぼしをするためですって……? それじゃ何の意味もないじゃない!!」


「ロヴィア!!」



 ロウィの声で、ロヴィアは我に返る。

 ロウィはロヴィアを強く抱きしめて言った。



「どうしてそんなに自分を責めるんだ……? これ以上ロヴィアが傷つく必要なんてないのに……」


「私が……私が間違ってるなんて、最初から分かってた……。生き返らせることも、復讐することも、あなたの名前を借りることも……」


「うん……」



 ロヴィアは目に涙を浮かべ、声を押し殺しながら話を続ける。



「だけど、それでも私はロウィともう一度話がしたかった……。声が聴きたかった……。そのために自分にも誰にも嘘をついて、気づけば私は私を殺してしまってた……」


「大丈夫。アタイが本当のロヴィアを知ってるから」


「あなたと出会わなければ良かったなんて思った日もあった……。苦しかった、辛かった、だけど1人じゃないからって頑張れた。本当はこの苦しみを誰かに言いたかったのに、ずっと我慢してた……」


「大丈夫。今日からはアタイが一緒にいてあげられるから」


「生命は一度限りの大事なものだから生命の在り方だけは絶対に変えちゃいけない、生命の冒涜だ、なんて言って、ただノエルたちの力になれる自信がなかっただけなのに……」


「大丈夫。ロヴィアならできるって、アタイは分かってるから!」



 その瞬間、この空間にあった2つの歯車の回転が次第に速度を上げ始める。

 そしてその空間の真っ白な壁や天井が開かれ、白い世界は夜となり、上には満天の星空が広がっていた。

 ロウィはロヴィアから手を離し、言った。



「いいか。まだロヴィアの人生は続いてる。そこにアタイが入る余地はないよ」


「でも、みんなに会いたくないの? あなたの復活を待ってるのよ?」


「そりゃ会いたいよ。だけどさ、()()アタイが出てくる番じゃないと思うんだ」


「そう……。ならいつかその日が来るまで、この身体は借りるわね」


「ま、まあ……美味しいものが食べれるって言うなら、出てきてやっても良いけど……」


「あら……。ふふっ、それじゃ、意外とその日が来るのは早いかもしれないわね?」


「なっ!? あ、アタイは食べ物で釣れるほど安い女じゃないんだから──」



***



 一方その頃。

 ノエルたちは気を失ったロヴィアを見てハラハラしていた。

 成功したのか、ロヴィアは無事なのか、なぜあぐらをかいたまま姿勢が崩れないのか、などを()()()()眺めていた。

 すると突然、ロヴィアの身体がビクッとし、彼女は目を覚ました。

 ノエルたちは唾を飲み、様子を伺う。

 そして、ノエルは恐る恐る尋ねた。



「もしかして……ロウィ……か?」


「……ゴメンなさい!! ロヴィアです!」



 その瞬間、ロヴィアは頭を深々と下げ、ノエルたちに謝罪したのだった。



「まさか蘇生に失敗したのか!?」


「いや、それが実は……」


「まさか説得に失敗したんですの!?」


「いや、それも違くて……」


「ちょっと、2人とも! ロヴィアさんが答えられてないから、質問はあと回し!」


「「は、はーい……」」



 ロヴィアは苦笑いしながら溜息をつき、心の中で起きたことをノエルたちに穏やかな表情で話し始めるのだった……。

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