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50頁目.ノエルとペンダントとカケラと……

 ロヴィアは話を終え、ノエルたちは改めて彼女の姿を見て戦慄した。

 彼女の悲惨な経験と、それによるこの国に対する静かな怒りが彼女の今を形作っているのだと分かったからである。

 ノエルはロヴィアに尋ねる。



「お前は……お前たちはロウィが死んでからずっと、一体どんな気持ちでこの工房を動かしていたんだ……? この国を支える仕事なんて、復讐とは真反対のことじゃないか」


「別に復讐したいからって、他人の生活をどうこうしようとは思ってないわ。そんなの、連中と同じことしてるようなものじゃない」


「なるほど……。でもじゃあどうやって復讐とやらをするつもりなんだ?」


「とりあえず、ロウィの魂を集めきらないことには何も話せないわ。どれくらい時間がかかるか分かんないし、あんたたちを信頼してないわけでもないけど、何かあったら全部水の泡なんだから」



 マリンは少し驚きながら目線を落として言った。



「1年半も探し続けて見つからないものなのですわね……。そもそも魂のカケラとは何なのです?」


「ああ、その説明はしてなかったわね。良いわ、この話を聞かせた時点であんたたちにはカケラ探し手伝ってもらうつもりだったし、教えてあげる」


「ま、元からそんなつもりで来てるからね。もちろん全てが終わったら……分かってるな?」


「はいはい、そういうのは終わってから言いなさい。とりあえず魂のカケラの話に移るわよ」


「はいはーい! それが終わったらあたしの質問も聞いてくれる?」


「ええ、もちろんよ、サフィアちゃん。それじゃ、先に魂のカケラってのが何なのかちゃんと見せてあげるわ」



 そう言って、ロヴィアはカバンから橙色の宝石がついたペンダントを取り出した。

 その宝石は淡く光っているが、ところどころ内部に黒いカケラのようなものが浮かんでいる。



「これがあの子の魂の器……を宝石に映して視覚化したものよ。この黒いところが足りないカケラの部分ね」


「これだけ集めるのに1年半か……。って、ほとんど集まってるじゃないか」


「数あれば良いってものじゃないんだから。あの子の記憶を辿る必要があるから、残った部分を探すのが凄く大変なのよ」


「ロウィさんの記憶……? それがカケラと何か関係するんですの?」


「魂っていうのは、その人の人生と心を1つにまとめたものなの。だから散らばった魂のカケラはその人の記憶に残っている場所に飛んでいくのよ」


「なるほど。つまり、ロウィの思い出の場所を辿ればカケラが手に入るってことか。あ、でもカケラはお前にしか見えないんだったな?」


「ええ。でもカケラの近くに行けばこの宝石が点滅するから、これさえあればあんたたちでも分かるはずよ」



 そう言ってロヴィアはノエルにペンダントを手渡した。



「とはいえ、アタシたちはロウィの素性を一切知らないからなぁ。思い出を辿るにしても、生まれの国とかが違ったらどうしようもないぞ?」


「それは安心して。ロウィはこの国の生まれだし、この国からは一度も出たことないらしいから。この国のどこかに残りのカケラがあるのは間違いないわ」


「失礼ですが……ロウィさんに親族の方とかはいらっしゃいますの?」


「ロウィの母親はロウィを産んですぐに亡くなって、父親はここの工房をロウィを養いつつ切り盛りしてたらしいわね。だけどその父親も無理が祟って、彼女が10歳の時に病気で亡くなったらしいの。祖父母がいるって話も聞いたことないわ」


「その後を継いでロウィが工房長になったってわけか。ってことは、作業員の連中はずっとロウィの成長を見守ってきてたんだな……」


「ええ、だからロウィに工房にいて欲しくなかったんでしょうね。あいつらは本当に良い奴らよ……」



 マリンはペンダントを手に取って眺めながら、ロヴィアに尋ねる。



「これってカケラからどれくらいの距離で光るんですの?」


「それが困ったことに、かなり近い距離じゃないと光らないのよね……。今は光ってないけど、それでもこの部屋の中にあってもおかしくないくらいには感度が悪いわ」


「というかそもそもこの宝石、お前の持ってる魂の器の投影なんだから、お前自身がカケラの近くに行かないと光らないんじゃないのか?」


「それは安心して。ちゃんと魔力で繋がってる以上、その宝石も魂の器の影響を受けてるから別々で反応してくれるわ。ただその代わり、光った時にカケラが私の近くなのかあんたたちの近くなのかを判別する必要はあるけど」


「なるほど、それなら安心だ。このペンダントはアタシが責任を持って預かっておくよ」



 そう言ってノエルはマリンの手からペンダントを取り、それをカバンの中に入れた。



「じゃあ、捜索はこの後から始めるとして……。サフィアちゃんの質問に答えてあげないとね」


「はい、質問です! ロウィさんが亡くなったことを隠す必要があったのに、どうして国はそのロウィさんの名前をロヴィアさんが使うことを認めたの?」


「そうか、そこも話してなかったわね。簡単な話よ。国民たちの()()()()()()()()()()()()()()()()からこの名前を登録できたの」


「そうか……。そういえば上のことなんて誰も気にしないって言ってたな……」


「まあ工房名になってたから、住民の中にもロウィの名前を知ってる人はいたけどね。でも彼女が死んだことまでは誰も知らないし、この国の人たちにとって赤の他人の名前なんてものは記憶に残す意味がないものだから」


「便利なものに頼り過ぎて自分本位になった人間の末路というところですか……。酷い話ですわね……」



 部屋の空気が段々と重くなっていく。

 しかし、そんな中でもサフィアはロヴィアへの質問を続けた。



「それで、どうしてロウィさんの名前を名乗ろうと思ったの? 別にロヴィアさんの名前のままでも良かったんじゃ……」


「それはもっと簡単な話ね。彼女という存在を名前だけでも残して、アイツから忘れさせないためよ。それに、作業員のみんなだけがロウィを理解してやれていたから、ロウィの帰る場所だけはそのままにしておきたかったの」


「だから今の話し方を崩してまで、ロウィの口調を真似てたのか」


「ま、どちらで話そうとも彼らがロウィのことを忘れるわけないんだけどね。この歯車街の連中は下層の連中ほど発明品に頼ろうとしないからか、自分よりも他人を優先してくれるもの」


「そこは単純に、あいつらの人柄ってやつじゃないのか? この国の全員が全員、他人に無関心ってわけじゃないだろう?」


「分かってるわよ。だけど、この国の人たちのほとんどが自分たち以外への興味を失っているのは本当の話だから、こういう理由をつけるしかこの国への理解が追いつかないの」



 そう言ってロヴィアは椅子から立ち上がり、ノエルたちに尋ねる。



「さあ、質問は以上かしら? もう無いって言うなら、早くカケラを探しに行くわよ!」


「質問はないが、どこを探せば良いのかという問題は残ってるぞ?」


「ちゃんと調べた所を書いた地図があるから、その残った部分を探索すれば見つかると思うわ」


「それを早く言ってくれよ。あ、カケラが近くにあるって分かったらお前を呼べばいいんだよな?」


「ええ、私がカケラに触れれば回収できるわ。あとは……そうだ。残りの割合を見るに、カケラはあと3つよ」


「あと少しが見つかってないってことですのね。これは骨が折れる作業になりそうですわねぇ……」


「とりあえず、やってみないことにはロヴィアの苦労も分からないだろうよ。それじゃ、アタシたちも準備しようか」



 そうしてノエルたちも荷物を持って席から立ち、それを確認したロヴィアは玄関の扉を開いた。



***



 それから1時間程でノエルたちは目的の場所に着いた。

 そこは、ロヴィアの工房から最も遠い住宅街の一角だった。

 ノエルは息を切らしながらロヴィアに聞く。



「そもそも……こんな所にロウィが来たと本当に思ってるのか……?」


「あのねぇ、これでもウチの工房はこの国全域の蒸気パイプの管理もしてる大きな工房なのよ? だったら、ロウィが父親の仕事について来てた可能性だってあるでしょう?」


「それなら納得行くんだが、まさかパイプが通ってる家を一軒一軒探すのか……?」


「もちろん。あんたたちはそのための人手よ。そのペンダントで探すためだけに3人も雇うわけないじゃない」


「道理でうまい話だと思ってたんだ! もうアタシがペンダント担当するからな!」



 ノエルは自分のカバンを取られまいと抱き抱えながら、マリンたちに背を向ける。



「あぁ! ノエル様、ズルいです!」


「責任を持って預かっておく、ってそういう意味でしたのね……。卑怯極まりないですわ……」


「あら可哀想なサフィアちゃん……。こーんなに可愛い弟子がいるのに、その子に面倒な仕事を任せるカッコ悪い魔女がいるなんてねぇ……?」


「うっ……。確かにサフィーに仕事を押し付けるのは違うな……。分かったよ、ペンダントはサフィーに任せるよ」



 そう言って、ノエルはサフィアにペンダントを渡した。

 そして1つ大きな溜息をついた。



「ええ、任されましたけど、渡した瞬間に溜息つかないで下さい! ちょっと悪いことした気分になっちゃうじゃないですか!」


「面倒なものは面倒だからしょうがないじゃないか。ま、やることにはやるけどさ」


「話はついたみたいね。それじゃ、私はあっち担当するから、あんたたちは手分けして訪ねてきて。ロウィの名前に聞き覚えがある人を見つけたり、サフィアちゃんのペンダントが光ったら大声で呼んでちょうだい。この自慢の耳でこの辺のどこにいても聞き取れるから」


「了解した。任せてくれ」


「よし、任せたわよ!」



 そう言って、ロヴィアは指を指した方向に駆けていった。



「じゃあサフィーは……マリンについて行ってくれ。こいつ、何をしでかすか分からないからな」


「あなたにだけは言われたくありませんわよ! でもまあ、サフィーがいいと言うのであれば構いませんが」


「え? もちろんノエル様の指示だから、お姉ちゃんについて行くよ?」


「じゃあ了承ってことで。それじゃ、手分けしてロウィのことを聞いて回るとするか!」



 こうして、ノエルたちはロウィの記憶を辿るべく、住民たちにロウィのことを知っているか聞いて回るのだった。

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