46頁目.ノエルと気分転換と黒猫と……
昼食を食べ終え、ノエルたちはそのままレストランで話し始めた。
「さて、色々と新しい情報と共に新しい謎も舞い込んできたわけだが……」
「どれから解決していきましょうか?」
「まずはやはり、サヴァン出身というところから洗っていくのが無難ですわね。種族が違えば話も変わってきますから」
「だが住民名簿には種族を書く欄は無かったし、本人に『あなたは人間ですか?』なんて聞くわけにもいかないし、解決する方法がどうにもなぁ……」
「今からサヴァンに行ってみる……ほどのお金と時間はないですね……」
「行ったとしてもロウィ……いや、ロヴィアのことを知ってる人がどこにいるかも分からないだろうから、無謀の策だろう。それに、そこまでして調べるつもりもないからね」
3人はそのまま唸りながら悩み込む。
しばらくして、サフィアがノエルに提案する。
「ロウィさんがサヴァン出身の普通の人間だったと仮定して、そのまま次の謎に行ってはどうでしょう?」
「そうすると年齢不詳の謎ですぐ引っかかってしまうからなぁ。謎が謎のまま進んでしまいそうだ」
「では逆に、ロウィさんが元は獣人だったと仮定して話を進めてみてはいかがですの?」
「獣人が人間になったってことか? そんな馬鹿げた話がどこにあるってんだい?」
「だからその部分はあくまで仮定ですわよ。何があったかはさておいて、元が獣人だったとしたら年齢不詳の謎はどうなります?」
「まあ……獣人なら寿命が長いという点でアタシらと同じだから、年齢不詳にする理由は分からなくもないが……。うーん、どうにも核心に至れないな……」
ノエルたちはさらに頭を捻る。
しかしそれからどれだけ考えても悩みは一向に解決しないのであった。
それを見計らったのか、サフィアが立ち上がって言った。
「よし! これ以上考えても意味がない! だったら今日の探索はもう終わりにして遊びましょう!」
「お、おお? さっきまで好きなだけ食べたってのにまだ満足してないのかい?」
「いえ、あたしは十分満足してます! でも2人とも最近あんまり休めてないんじゃない?」
「そう言われてみると……そうですわね……」
「確かに頭を休ませた方が良い解決策が浮かぶかもしれないが……」
サフィアはノエルの手を掴んで言った。
「ノエル様、早く謎を解かなきゃという気持ちは分かりますけど、これはあたしなりの心配なんです。だってノエル様、疲れれば疲れるほど無茶するんですから」
「し、心配されるほど疲れて見えるか……?」
「見えてる見えてないの問題じゃありません。最近頭を使わなかった日がありましたか?」
「……確かに全くなかったな」
「だからこその気分転換です! 嫌とは言わせませんからね! お姉ちゃんも!」
「別に嫌だと言うつもりはありませんでしたが、あなたそもそも言わせる気がありませんわね〜!?」
こうしてノエルとマリンはサフィアに強引に連れられて、貿易街へと赴くのであった。
***
「さあ着いた!」
3人は貿易街の一角にある商店街……の裏手にある、大きな魔具専門店の目の前に来ていた。
サフィアは楽しそうに店のドアを開こうと手を伸ばすが、ノエルがそれを止めて言った。
「待て、サフィー。さては単純にお前がここに来たかっただけだな?」
「いえいえ? 3人で入るようなお店が、ここと隣の魔導書店しかなかっただけですよー?」
「た、確かにそうだな……」
「あら、呆気なく論破されましたわね?」
「くっ……。アタシがもう少し他のことに興味を持っていれば……!」
「まあまあ。お買い物も十分な気晴らしですよ? 好きなものを買って眺めるのも良いものですから!」
サフィアはそのまま扉を開け、3人は魔具専門店に入った。
「ほう……流石は貿易街だな。品揃えが桁違いだし、何より物がいい!」
「楽しんで頂けて何よりです! じゃああたしはあっち見てきます!」
「やっぱりサフィー自身が来たかっただけなんじゃないか? ま、ここまで来て何も買わないわけにもいかないか」
「あなたも結構ノリノリじゃありませんの」
「なんだよ、そういうお前だってもう何か握ってるじゃないか」
「わたくしは元から買い物する気満々でしたもの。あ、店員さん? これはどうやって使うものなのでしょう?」
「あ、おいマリン……」
マリンとサフィアはそれぞれ買い物に夢中になり、ノエルは1人取り残されてしまった。
ノエルは1つ溜息をついて、それから店の中をゆっくり見て回ることにした。
「とは言っても見たことないものが多すぎて、どれから手をつけるべきか迷うんだよなぁ……」
そんなことを言いつつ、間もなくノエルは青い液体が入った小瓶を見つけた。
「これは……えーと、『獣人化の薬』?」
小瓶にはこんなことが書いてあった。
『これを飲むと30分だけ獣人に変身することができます。どの獣人になるかは飲んでのお楽しみ!』
「はぁ? 闇魔法で獣人になった幻覚を見せるだけじゃないのか? はぁ、なんだこの危険なおもちゃみたいな魔具……」
そう言って、ノエルは小瓶を置いた。
しかし、しばらくしてまた戻ってきて、その小瓶を買い物カゴの中にいれたのだった。
「単純に効果が気になっただけだ。幻覚を見せるだけなのであれば、ただの危険な薬だからな。最悪流通を止めた方が良い可能性だってある」
と、ノエルは帰った後にこぼした。
こうして3人は色々と買い物を楽しんだ後、夕食をとって宿に戻るのであった。
***
次の日の朝。
ノエルは早速、薬の効果を確かめるべくマリンとサフィアを叩き起こした。
そして宿の裏にある人通りの少ない小路に移動した後、ノエルはその薬を飲み干した。
「よくそんな怪しげな薬を買おうと思いましたわね……」
「もし本当に幻覚を見せる薬で、暴れようとしたらあたしが全力で止めますから!」
「ああ、頼んだよ。そろそろ効果がッ……!」
突然、ノエルの身体の周りに黒い煙が現れ、ノエルを包み込んだ。
その中でノエルが苦しみながらうめき声をあげている。
「やっぱり危ない薬じゃありませんの! サフィー、薬が身体に回る前に吐かせますわよ!」
「待って、お姉ちゃん! 何か様子が……」
その瞬間、うめき声が止まり、黒い煙が晴れていく。
そして2人は煙の中から現れたノエルの姿を見て、一瞬固まった。
「え……?」
「ぷっ…………」
「おい、マリン。お前今笑ったな?」
「い、いえいえ……笑ったりなんてしてませんわよ? 調子はいかがです? ぷふっ……」
「すこぶる快調だよ。見た目以外はな!」
黒い毛に覆われた上についた耳。
もふもふの毛なみと、長い尻尾。
鋭い目つきに、人のものではない鼻と口。
ノエルは本当に獣人になっていたのであった。
「ふふっ、ふふふ……。あなた、今自分がどんな姿か分かっていますの?」
「明らかに操作できる部位が増えてる時点で獣人に本当になれたってのは分かる。だが何の獣人なのかまでは分からんが、とにかくお前の笑う顔がムカつく!」
「ノエル様、鏡をどうぞ……」
「ああ、ありが……とう……」
しばらく黙り込んだ後、ノエルは叫んだ。
「何でよりにもよって黒猫なんだー!?」
「かっ、可愛いじゃありませんの。猫ちゃん?」
「変な呼び方で呼ぶな! この爪でひっかかれたいのか!」
「で、でもまあ、本当に獣人になれる薬だって分かったのでいいじゃありませんか。ねえ、ノエル様?」
「そう言いながら尻尾を触るなー! 何か変な気分になる!」
興味津々に触ってくる2人を振りほどき、ノエルは息をあげている。
「それ本当に全部ノエルが操作しているんですのね……。耳とかよく聞こえたりしません?」
「ん? そう言われてみると色んな音がいつもより聞こえてくるような……。それに嗅覚も変な感じだな……」
「すごーい! 本当に猫と同じような機能を持ってるんですね! 獣人ってすごいなぁ……」
「その状態で魔法は使えますの? 身体が同じなら使えるとは思いますけど」
「じゃあ……『黒弾』!」
その瞬間、ノエルの指から黒い弾が発射され、マリンの額に直撃した。
「痛ったあ!? 何をしますの!?」
「この姿を笑った罰だ。まあ問題なく魔法は使えるな」
「なるほど……。でもやっぱり獣人は動物の顔そのままですし、ロウィさんは人間ということになりますねぇ」
「いや、恐らくあいつは獣人だ。この薬のおかげで確信したよ」
「え? どういうことですの? あの方はどこからどう見ても人間の姿をして……」
「獣人化の薬があるんだぞ? 逆に『人化の薬』があってもおかしくないんじゃないか?」
「「あっ……」」
ノエルは話を続ける。
「この薬は恐らく変身させる闇魔法の類だろう。誰かの髪の毛があれば、一時的にその人物にそっくりそのまま変身できる魔法ってのを、昔に本で読んだ」
「それって種族すらも超えられるんですか?」
「本で読んだ限りでは無理らしいが、何しろこれは魔法だ。もしかしたら種族を超えられる魔法が作られたのかもしれないな」
「それで、人化の薬ですか……。確かに獣人化とほとんど同じ条件とは言えますわね」
「もし本当にロウィが獣人で、人化する方法を持っているのであれば、年齢不詳の件もサヴァン出身であることも理解できる!」
サフィアはそれを聞いて拍手を送っている。
「ただ次の問題があるとすれば、どうして魔法が使えるのかですわね」
「魔導士の血を引いていなければ魔法は使えない。つまりあいつの親族が魔導士だってことだよな……」
「または、獣人にも魔法と同じような力を使える人がいるという可能性もありますわね」
「あぁ、それ昨日図書館の本で読んだぞ。確か『秘術』とか呼ばれる力だ。だがそれが魔法と同じ力だとしても、こっちの大陸に伝わった時点で『魔法』に書き換わらないか?」
「確かに……。ということは、やはり獣人と魔導士の混血ということで説明をつけるしかありませんわね。思ったよりも単純な結論でしたが」
「じゃあ次の問題を……うぐっ……」
ノエルが突然倒れ込み、再び黒い煙に包まれた。
マリンたちは心配そうに眺めながら、煙が消えるのを待つのだった。
「ふぅ……思ったより効果時間短かったな。不良品だったか?」
「あー、よかった。このままずっと猫の姿だったらどうなってたことやら。あたしが」
「お前の方かよ! もっと心配してくれても良いと思うんだが……」
「まあまあ、とりあえず朝食をとりましょう? 今日の話は、その後ですわ……」
マリンは視線を落としてうな垂れる。
「そう言って急に残念そうな顔するな! ずっと耳とか尻尾とかジロジロ見られる側の気持ちになってみろ!」
「あ、ちなみにあの薬、いくらしたんですの?」
「ん? 確か……4000Gくらいだったな」
「思ったより高い薬ですわね!? 本当になぜそれを買おうと思ったのやら……」
「だから単純な興味だって……。あ、別に獣人になりたくて買ったわけじゃないからな!?」
「はいはい、そういうことにしておきますわー」
「おい、話を聞けー!」
それから、ノエルたちは朝食を食べた後、買った魔具の見せ合いをするのであった。




